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電話を切る時

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電話を切る時 03/12/13

  電話のコードを不要とする技術力を誇っていても、窃盗を撲滅する技術は未だ開発されていないから公衆電話の受話器は本体と繋がれたままである。しかしこれも遠くない将来つまり我々が生きている間には受話器の存在が消滅した公衆電話が出現する事と思う。ハンズフリーの電話として、イヤホンマイクではなく集音マイクを仕込んだ型の電話が存在する以上、本体に集音マイクとスピーカーを備えた受話器のない公衆電話は既に開発可能であろう。

  この場合、聞かれたくない話をする為には密室箱が必要になるので全体としてかえって費用が高くなる惧れもある。周囲の人に聞かれたくない場合を想定して切り替えボタンを押せば付属のイヤホンを通す仕組みを作ればこれは極々初期の電話あるいは無線機の気分にもなる。やがてそれでは不便だからとイヤホンにマイクを付けて結局現在の形に戻る可能性もある。また「受話器がないと落ち着かない」とする意見も当然出てくる。どこまでも続く壁よりも、そこに電柱があれば落ち着いて放つことが出来るのと同様受話器はまだまだ必要なのだろう。

  コードレスホン・携帯電話の登場により、指先の僅かな力で通話の終了が可能になった。これで電話の切り方を心得ない育ち悪き者の「がりがり」という切断音を聞くことが稀になった。「コード付き電話・受話器切り方の心得」は今後益々廃れゆく方向にあるだろう。すると公衆電話に慣れていない者が使う際にほぼ確実に耳障りな音を立てて電話を切ることが増えることも大いに考えられる。偶然公衆電話で掛ける所に立ち会った際に「切る時にはフックを指で落とすこと」を伝えてゆかねばならない時代がやってくるのだ。

  それはそれとして、電話を切る時に、指先の僅かな力で静かにあっさり切れてしまうことは、不快感の減少という恩恵が伴ったわけだ。しかし「怒りに震えて受話器を叩き付けて切る」という憤怒の発散作用も失われた。色々ややこしい話になって「もう終わりだ!」「二度と掛けてくるな!」と怒鳴りつけて切る際に、フックを落とせば切れる旧式の電話ならばそこに受話器を叩き付ける事で相手に怒りを伝え、同時にその衝撃が多少の精神安定を齎し、やがて電話そのものが相手に思えてくると「そんなに乱暴に切る事もなかったか」「あっちが原因だが、なんとなく悪かったかな」と暫し逡巡の時を迎える。これは叩き付ける行為があってこそなのであって、携帯電話で最後通告を突きつけた後、指先で「ふつ」と切った時は怒鳴り付けた際の昂ぶりがそのまま持続しているので怒りのやり場がない。つまりフックとは、「怒りのやり場」であったのだ。昂ぶったまま手の中の電話を握り潰したくなる感情はやがて椅子に向かったり床に向かったりするのだが、これでも完全な発散はなされず、従って相手に対しての反省意識は育たない。手の中に指先二つ三つで掛けることの出来る電話があるからその怒りは関係ない第三者に対して愚痴という形の迷惑電話となる。そしてこの愚痴電話で少し反省色も育つ場合があるわけだが、愚痴を終えて電話を切り、反省が育った頃には自ら流した愚痴が様々な情報を加えて周辺の知人友人に駆け巡っていて、また相手方のそれも同様駆け巡っていて、当人同士既に反省して素直になっている頃に「あいつはあんなこと言ってた」という情報が掛かって来て、ついには修復の不可能な溝が完成する。

  「がっちゃん」と切ることで、ある程度取り戻せていた筈の落ち着きが失われた結果、「手軽に繋がって手軽に切れる」という電話の現象を人間関係にも齎しているように思える。
 
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