バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

番外編:舞台裏の楽屋裏

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kyogokurowa

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彼はひたすらに生きたいと願っていた。

生がチリのように容易く蹴散らされ。

死が当たり前のように繰り返される戦場の中で。

人の側に付こうが魔の側に付こうが、彼が真に救われることはなかった。

彼らにとって、男の存在は人材か駒でしかなかったから。

誰も『リック』という個の存在にはさほど興味を抱かなかったから。

そんな彼に彼女は手を差し伸べた。

彼を幸せにしたいと願い尽くした。

だから彼は、彼女を、μを護りたいと強く願った。


彼はいつも安心を求めていた。

強者だと思っていた男に付き従っていたのも。

その彼が敗北を喫した途端に見限ったのも。

己が死の淵にまで追い込まれれば報復よりも組織への出戻りを優先したのも。

全ては己が安心して気楽に生きる為だった。

そんな彼に彼女は手を差し伸べた。

彼を幸せにしたいと彼の好きな甘いものや気楽に生きる為のご褒美を溢れるほどに与え続けた。

だから彼は、この幸せを護りたいと強く願った。




グッ、グッ、と掌を握り、開け、握り、開け。
リックは機械と化した己の両の掌の力の入り具合を確かめる。

「どお?どこか変なところとかない?」
「うん、問題ない。ありがとうμ」

リックがにこやかにほほ笑むと、μはほっと息を吐き、余すことない安心を示す。

「ほ、ほんとーに変わっちまってるんだなあおまえ」

動く機械人形に興味を惹かれたのか、セッコはリックのまわりをちょろちょろと動きまわり感心したかのように時折立ち止まりジッと見つめたり。
とにかくセッコは落ち着きのない様子でリックを観察していた。

「きみもなってみるかい?」
「んー...いや...いいや。スゲーとは思うけどよお、そんな身体が硬くなっちまったら俺の『オアシス』で泳げなくなっちまう、からさぁ」

一転、興味を失ったかのようにあからさまに態度が切り替わり、しかしすぐにグリンとμへと向き直る。

「そんなことよりも!μ、ごほーび、くれるよなあ!?」
「うんうん。ちゃんと忘れてないよ?今回のご褒美は...じゃーん!」

μが両掌をセッコへと掲げる。その両の五指の隙間に一つずつ、計8個の正方形の角砂糖が挟まれていた。
これがご褒美なのか?とリックは内心で思いつつチラ、とセッコを見やると

「ええ~~~~!やあああだああああ!もっと、もおおおおおっとぉ!!」

彼は子供のようにごねていた。
成人男性がこんな有様でごねるのは見苦しいにもほどがあるが、しかし、ご褒美が角砂糖なのは如何なものだろうとは思わずにはいられない。
そんな彼の訴えにμは、しかし余裕の笑みを保っている。

「慌てない慌てない♪セッコ、よく見てみて」

μに従い、セッコは掌の角砂糖を目を凝らして見る。

「えと、赤いのとか茶色いのとか、あるぜえ」
「ふふん、実はね...なんと、ひとつひとつ味が違うんだよ!どれもセッコの好きな味だから安心してね!」
「うおっ、おっおっ、おおあっ」

セッコは先ほどとはうって代わり、顔に喜色を浮かばせ角砂糖を殊更に欲し始める。
そんなにテンションが上がるものか?と思いながら眺めるリックを他所に、μは角砂糖の投擲の姿勢に入る。

「いっくよー、それっ!」

μの右手から放たれた四つの角砂糖がそれなりの速度をもって放たれる。
セッコは己に迫るソレにも一切の動揺もせず、驚異的な反射神経で顔を動かしその全てを口に含み収める。
その間にも放たれた左手の四つの角砂糖が様々な角度に放られる。

そのうち二つ、計6個の角砂糖が口内に収まるも、残り二つはあらぬ方向へと飛んでいく。
さすがにこれは地に落ちるか―――否。

「ププッ」

セッコの口内から放たれた二つの角砂糖がそれぞれの方向の角砂糖へと放たれ、四つの角砂糖が弾き合い僅かに滞空時間が延びる。
その隙にセッコは跳びあがり、落下と共に角砂糖を全て含み着地する。

「ガリガリガリガリガリ」
「よくできました、エライエライ♪」
「ウヘ、ウヘヘヘヘ」

全てをキャッチしたセッコをμは笑顔で頭を撫で、セッコは口内に広がる色とりどりの甘さとμの労いを満面の笑みで堪能する。

そんな二人を見ながら、普通に食べさせればいいんじゃないか、だとかそもそもご褒美がそんなものでいいのか、と思うリックだが、しかし幸せそうな二人を見ていればそんなことはどうでもよくなった。
幸せとは千差万別だ。
それを掴むために争い他者を傷つけるものだが、μは各々の願いを尊重し幸せにしてくれる。
だからこうして性格もなにもかもが違う者同士でもμのためなら、と共に協力し合うことができる。
やはり自分の選択は間違いじゃない。僕の幸せはここにある。
リックは改めてそう確信するのだった。




彼は愛した者を壊してきた。

怒りではなく、憎悪でもなく。

己の感情が高ぶり愛を示すために力を振るい破壊をもたらした。

だが行き過ぎた暴走はいずれ鎮圧される。それは彼も例外ではなかった。

幽閉された牢獄で彼は思った。

あいつのように強大な力が欲しい。

そうすれば、もっと、もっと彼女への破壊(あい)を示せるだろう―――と。


骸骨は巨大なソファに腰を掛け、だらりと足を延ばし、天井を仰いでいた。
その周囲にはμやアイドルらしきものを破壊(あい)した残骸が散らばっている。

「気分はどうかしら?」

部屋に踏み入るなり尋ねてきたテミスに、骸骨はぐらりと顔を傾かせテミスへと視線を向ける。

「あぁ...悪くねェ。あいつもこれだけの力があるならそりゃあれだけイキがるわなぁ」
「それはよかったわ。けど彼になり切るにはあと一歩だったわね」
「あー...ちょっと我慢できなかったからよぉ、つい、な」

彼が思い返すのは先の戦いの一幕。
麦野に蹴りを入れている最中、つい、あの骸骨ならば絶対言わない一言を漏らしてしまった。

(足りねえなあ、こんなんじゃまだまだあいつには届かねえ)

男の脳裏に過るのは、楽士・梔子と共に己を容易く鎮圧してきたあの透明骸骨。
男は彼の力に憧れた。彼のように振舞いたいが為に姿を借りてその力を欲した。
全ては愛する彼女の為に。彼女を全力で愛するために。

「まあ、だいたいコツは掴めてきたからよぉ。ここから先は期待してていいぜテミス」

骸骨は己の顔を掌で覆い隠し、その透明な仮面を消し去ると、左右を刈り上げた黒髪と耳に空けられたピアスが露わになる。
浮かび上がった男と視線が合うと、テミスは妖艶な笑みを浮かべて労いの言葉をかけた。

「ええ。これからもあなたの活躍を楽しみにしてるわよ―――田所興起さん」

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