バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

逃走(インポッシブル)

最終更新:

kyogokurowa

- view
メンバー限定 登録/ログイン
「お邪魔するわよ。」
不安定ながらも同盟を組むことになった三人は、手ごろな空き家で休憩を取ることにした。
霊夢の空を飛べる程度の能力なら歩かなくても済むし、夜通し歩いても疲れることのなかったシドーも休憩などは必要ない。
だが、マリアだけはそういうわけにはいかなかった。


3人は応接間らしき場所へ行き、大きなテーブルを囲っている椅子に腰かける。

「あの……すいません。わざわざ私を気遣っていただいて……。」
「わざわざって……あなたこそわざわざ謝る必要ないわよ。」
「でも、早くムーンブルク城へ行かないとシドーさんに迷惑がかかります。」
「あのねえ、そのムーンブルク城へ行ってもシドーの友達に会えるかどうかは分からないのよ?
本当に申し訳ないと思うなら、反論なんかせずに少しでも早く体力を回復させればいいじゃない。」


申し訳なさそうにするマリアに対し、霊夢は呆れるしかなかった。
自分がやったことは感謝こそされても、謝罪されるいわれはない。

逆にマリアは、わざわざ自分のために休憩の場所と時間を設けてくれたことに申し訳の無さしかなかった。
疲れているのは本当だが、自分の疲労など優先されることではない。
彼女にとっての必要なことは常に後回しにされるべきである。
誰からも好かれようとする良い子であろうとしたマリア・キャンベルにとって、それは当然のことだった。


それを見ていたシドーは、複雑な想いを抱いていた。
てんで意味のないことで謝ったり意味のない励ましをしたり。
それはまるでビルドと共に見てきた人間達みたいだった。

マリアも休むのなら謝罪などせずにさっさと休めばいいし、霊夢も霊夢で邪魔ならさっさと置いていけばいい。
それを分からない自分は、やはりビルドや他の人とは違うのだという嫌悪感がよぎった。
しかし、この場から逃げ出したくなるほどの嫌悪感だけではなく、ビルドとかつていた時のような安心感もあった。
こうして3人で座っていると、思い出したのは監獄島から帰ってきた時のパーティーだった。


――――これから先、オレに何かあったら…。オマエがぶんなぐってオレの目をさまさせてくれ。


あの思い出は、彼にとってはもう遠いものになってしまった。
ムーンブルク島での、苛烈な戦争の渦によって泡沫に消えてしまった。


〇〇


「……あの、クッキーを作りましょうか?」
それからしばらく経って、マリアが一つ提案をした。
この空き家の中には応接間のみならず、台所もありご丁寧に電気とガスまで使える。
どうにもじっとしていられず、家の中をウロウロしていたシドーが、部屋の中のスイッチを押した時に分かったことだ。
電気を付けると迂闊に危険人物を呼びよせてしまう可能性があるからすぐに消したが、魔力も枯れ木も無いのに火がつけられることに喜んだマリアは、得意のお菓子を作ろうとした。

「良いじゃない。楽しみね。」

台所を見ると、卵や小麦粉に砂糖、どういうわけかハッカやコーヒーパウダーまであった。
エプロンは無いのが残念だが、早速料理に取り掛かろうとする。

「待て。」
シドーがそこへ声をかけてきた。

「どうしましたか?」
「これも使え。」

シドーはザックの中から、葉っぱを何枚か取り出し、マリアに渡した。
「これは?」
見た目の限りでは、クッキーの材料には合いそうも無かった・


「オレの友……何でもない。聞いた話じゃ、クッキーを作る時、この葉を使うとウマくなるらしい。」
「シドー様の物なのに、良いんですか?」
「元々オレ一人では使えない物だ。」

ビルドが作っていたクッキーのことを思い出し、マリアにくすりの葉を何枚か渡した。
物作りが出来ないシドーは料理も出来ないし、食べること自体を必要としない。
だが、かつての仲間ビルドがクッキーを作っていた際に、彼がこの葉をレンガキッチンに入れていたのを思い出した。


マリアは割った卵をボールに2つ入れ、そこに砂糖と小麦粉、コーヒーパウダー、最後に千切ったくすりの葉を入れて溶いていく。
具材が合わさってくると、フライパンの上に垂らし、こんがりと焼いていく。
次第に辺りに良い匂いが漂ってきた。


「うん、中々美味しいじゃない。」
「霊夢様、つまみ食いしてはだめですよ。」
そう言いながらも自分が作ったものを美味しいと言ってもらえたマリアは嬉しそうだった。


やがてクッキーが皿に並ぶ。

「オレは物を食べなくても大丈夫だ。オマエら2人だけで食ってろ。」
「あのねえ、食べなくても生きていけるんじゃなくて、食べないと失礼でしょ?」
「いえ……そんなことは……。」

シドーは作った人でもない霊夢に無理矢理食べさせられるという奇妙な体験をしながら、不思議な気持ちを覚えていた。
そもそもマリアがクッキーを作ると言った時点で、ものづくりなど見たくも無いと言ってこの場から出るつもりだったが、不思議とそうする気にはならなかった。
こうしていると、やはりあのおかしな味のケーキが出たパーティーにそっくりだと考えてしまう。
少なくとも初めてマリアと出会った時のような、破壊衝動は鳴りを潜めた。


しかし、落ち着いているのもつかの間。
新たな平穏を破る放送が、空き家の中にも響く。



「マリア、知り合いが呼ばれたのね?」
放送が終わると、霊夢がマリアに声をかけた。
「そうですが、私のことは気にしないでください。霊夢様やシドー様は大丈夫ですか?」
確かに友人で会ったキース・クラエスの死が知らされたのは、悲しいことだ。
だが、それを心配されるべきではないと、マリアは思い込んだ。
自分はまだ五体満足なのに、心配されるべきではない。


「そうですが、って肯定しておきながら何で私の心配するのよ。」
「差し出がましいようですが、霊夢様の知り合いは呼ばれなかったのですか?」
「呼ばれたけど、悲しいかどうかは別ね。少し見回りしてくる。あなた達も出発の準備をしておきなさい。」

あっけらかんと答えると、霊夢は外へ出て行く。

無理しないでと言うべきか、冷たいと詰るべきか、どう言うべきか分からず、彼女が出て行くのを眺めるだけだった。
だが、それどころでは無いことも、彼女が出て行ってからすぐに分かった。


「うあああああああああああ!!」
「シドー様!?」
邪悪な気配が強まって行く。
シドーの知り合いは先の放送では呼ばれなかった。
だが、その後に流された「コスモ・ダンサー」がシドーの心にあった破壊の意志を駆り立てたのだ。

「オマエに……気にしてもらうほどでも……ない…。」
μが流した曲は、ビルドやルルが弾いていたピアノの曲や、ペロの歌などとは全く異なっていた。
心を楽しくさせるどころか、苛立ちが募るばかりだった。


「そうだ、霊夢様なら……。シドー様、少し待っていてください!」
「オレも……行く……。」
最初にシドーを止めた霊夢を呼んで来ようとする。



「あの馬鹿共……何勝手に死んでるのよ。」
空き家から出て空を飛び、誰もいない所に着地すると、1つのため息と共に呟く。
その先で2人の同郷の死を憂えていた。

(どうしてくれるのよ……私の平穏を返しなさいよ……)
霊夢は彼女らとの付き合いこそはあれど、特別な想いを抱いたことは無かった。
だが、彼女は閑散とした神社を、彼女らがいる幻想郷を何より大事に思っていた。
無事に殺し合いが終わり、幻想郷に帰れても、これまでと同じ平穏は戻ってこない。
その事実だけがどうしようもなく霊夢をやるせなくさせた。
やるせなくさせただけで、涙は出なかった。


意気消沈すれど悲しむことは無く、同郷の者では無く、自分の平穏の喪失を憂う自分が少しだけ嫌になった。


「ハァ~イ、巫女のお姉さん元気ィ!?」
野太い声が、霊夢の後ろで響いた。
「!!」
振り向きざまに刀を抜いて、逆袈裟に一閃。
その一撃は、残念なことに王を傷付ける場所にまで届かなかった。

「お~怖い怖い。とりあえず、そのポン刀しまってくれない?
俺様は敵でもないし、殺し合いに乗ろうとしてもいないぜ?」
霊夢の目に映ったのは、尖った耳とドレッドヘアーが特徴的な男性だった。
空から見まわした時、この辺りに参加者はいなかったはずなのに、どういうことだと疑問に思う。

「何の用よ。」
「可愛い顔なんだからさ~、そう怖い顔したらダメだぜ?」

霊夢の質問を男ははぐらかす。
その雰囲気は、どう考えても正義の味方には思えなかった。

「だから何の用かって聞いてるのよ!!」
「お姉さんが落ち込んでいるから、王さんが親身になってカウンセラーしてやろうと思ってただけよ。」
「おあいにく様。私はあなたのような甲斐性も無い男に相手をしてもらいたくはないわよ。」


霊夢はふわりと空を飛び、屋根に上って王を振り切ろうとする。
人間ならば空を飛ぶ程度の能力にはどうにも出来ない。
そのはずだった。


「ハァイ」
マリア達の下に戻ろうとする霊夢の目の前に、王は現れた。
霊夢も空間を無視して瞬間移動する能力の持ち主は、八雲紫という前例がある以上は初見という訳ではない。
だが、この男が出来るのは予想できなかった。


「そう邪険にしないでよ。俺様と一緒に組んで、あのテミスって女に、死んじゃったお友達を生き返らせてもらうように、願いをかなえてもらおうぜ?」
「たとえ優勝するにしても、アナタとだけはお断りね。」
「ぬお?」


王の頭を踏んでさらに高く飛び上がる。
相手は瞬間移動は出来るが、空を飛ぶことは出来ないはず。
なので空に来ることは出来ても不利になると考えた。


「弱いのに聞かん坊なキミには、少しお仕置きしちゃいまーす。」
空中にも関わらず、王は虚空の王(ベルゼブブ)で飛んでくる。

(空中戦なら上等!!)
相手の命知らずな所には驚くが、旋回して躱そうとする。
しかし、もう一つ虚空の王(ベルゼブブ)に能力があることは、これまた霊夢にも予想していなかった。

「!!」
霊夢の白い小指と薬指が、綺麗な断面を残して無くなっていた。
「ぎいいいぃぃぃぃいい!!」
遅れてすさまじい激痛が片手に走り、勢いよく2本の指から鮮血が噴き出す。
痛みのあまり地面に刀を落としてしまった。


これが、王のどんなものでも削り取る能力(シギル)である。
慌てて道路に落とした刀を取りに行く。


「巫女さんの指2本、頂きましたァ~!!優しい俺様の言うことを聞かなかったお仕置きでぇ~す。これで言うことを聞く気になったァ?」

ようやく地面に降りて刀を拾ったところで、王が目の前に立っていた。
楽し気に霊夢の二本の指を舐めまわしていた。

「外道が……!!」
「でも安心して欲しいな。巫女さんが1人殺せば、1本ずつ指を返してあげまーす!
2人殺すぐらいワケ無いよねぇ?」
こうは言っているが、王は彼女の指を治療する能力など持ってないし、返すつもりさえなかった。

テイクアンドテイク。
脅しと恐怖で成り立つ交渉。
それが王の先導するクラン、『エイス』のやり口だ。


「ははは……そんなちんけな脅しに乗っかるほど、私は安くないわよ。
本気で私に言うこと聞かせたいなら指と言わず、心臓を奪い取ってみれば?」
「言うねえ~。お兄さんキミみたいな強い女の子、好きだよ?」
「あら残念、私は大嫌いだけどね。」


(どうする?)
王の挑発をあしらいながらも、冷静に考え、不利な状況から脱却しようとする。
自分の指を切り落とした敵の能力が分からない以上、迂闊な逃走も抵抗も死につながる。
日輪刀を負傷していない方の手に持ち替え、再び空に舞い上がる。


「また空飛ぶ能力か、ワンパターンなんだよ!!」
霊夢が飛んだタイミングを見計らい、その目の前に現れようとする。

「ぬお!?」
しかし、瞬間移動の先は、全く違う場所だった。
「ワンパターンって、あなたも人のこと言えないわね。」
霊夢も王が目の前に飛んでくると予想し、飛ぶ軌道をフォークボールのように変えたのだった。

体勢を整え、瞬間移動をもう一度するも、またもその先には霊夢はいなかった。

「ちょこまかちょこまか、ハエみてえにウゼエんだよ!!」
だが、戦いの主導権はなおも王が握っている。
中々攻撃を当てることこそは出来ない王だが、反撃されることは無い。
このまま追い続けていれば、いつかは斬り裂くことが出来る。


あくまで、反撃するチャンスは「霊夢に」は無かっただけだが。

「うおおおおおおおお!!」
雄たけびを上げて、大剣を担いだシドーが王に斬撃を加えようとする。

「あっぶねえ!!」
瞬間移動で地上へ逃げる。
王にとって全くもって予想外の乱入だったが、危機は脱した。
あの紫の服の変な髪型のガキが来た瞬間、今度こそ切り刻むと意気込む。


「うわ!!」
しかし、反撃をすることは出来ず、瞬間移動でまたも逃げる。
空を切った一撃は、代わりにアスファルトの道路や街路樹を斬り裂いた。
シドーの攻撃が早すぎて、空間移動から必ずワンテンポ要する斬り裂き攻撃まで時間がないのだ。

「ちょ……ストップ!!ストップ!!」
「ガアアアア!!」

猛スピードで迫りくるシドーがカミソリのような一撃を振るう。
黒い大剣の一振りは、告死鳥の羽ばたきのように軽く、それでいて確実に命を刈り取っていく。
その速さは、とてもではないが身体と同じぐらいの大きさの剣で成しえることとは思えない。
その鋭さは、手を動かすどころか、瞬きする暇も与えない。


(クソッ、動きを先読みしても逃げるのが限界とか、どういう運動神経だよ!!)
今度は一転して王が逃げ続ける番になった。
どうにか致命傷は避けているが、小さな切り傷が次第に増えて行く。
是が非でもあの悍ましい剣をへし折りたいところだが、どうにもそのチャンスが巡ってこない。


告死鳥の羽ばたきが、花でも折るかのように、街灯を叩き切った。
「ぬおおお!?」
斬撃そのものだけではなく、斬撃による二次災害まで気を配らねばならないため、王としては躱すだけで命がけである。


(何で……刈る立場のはずの俺様が、こんなガキに逃げなきゃいけねえ!?)
この状況は、王にとって何より腹立たしかった。
線路上で戦った2人なら、まだ超人的な能力と超人的な生命力を持っていたから、逃げねばならないのも分かる。
だが、今度の相手は、能力1つもっていない只のガギ一人だ。
こんな相手に良いように追い詰められている事実が、我慢できなかった。

〇〇〇


「霊夢様……酷い怪我を……止血します。」
「もう……来るのが遅いわよ。」

シドーと王が戦っている間、マリアが光の魔法で、霊夢の出血部分を治療していた。
指は治らないが、痛みや血を止めることは可能だ。


「ともあれ、何とかなりそうで良かったわね。」
傍で見る限り、空間を無視した移動方法に手こずってはいるが、シドーが王を完全に押している。
後はシドーが倒すか、王が逃げるかを待てば良いと、霊夢も思い込んでいた。

「霊夢様はあの男に襲われたんですよね?」
「え?そうだけど……」
突然マリアに、当たり前のような質問をされ、霊夢は戸惑いつつも答える。


「私には、怪物があの人を襲っているようにしか見えません。」
そう言うマリアの瞳は、王にではなく、シドーに怯えているようだった。
「…………。」

言われてみて霊夢も気づく。
王を捌くのに苦心していたため、シドーのことを考える余裕が無かったが、先程王に突撃する際に目が合った時の彼は普通じゃなかった。
理由は分からなかったが、初めて出会った時と同じ、はたまたそれ以上に嫌なものを感じる目つきだった。
そう考えると、あの二人をこのままにしておくと、勝っても負けても嫌なことになる予感がしてきた。


「行きましょう、霊夢様。シドー様が勝てば、きっと良くないことが起きます。」
マリアは王のことを知らないし、王がどのような人物か聞いてもいない。
それゆえ、彼女は王のことを知らなさ過ぎた。
仮に悪だとしても、彼女の親友カタリナ・クラエスが闇の力の持ち主、シリウス・ディークを改心させたように、殺さずとも殺人を止めさせることは出来ると信じ込んでいた。


〇〇〇〇

シドーが横一文字に、王目掛けて剣を薙いだ。
それを咄嗟に王はシギルで背後に回り込む。
(コイツ……それで体力切れも起こさねえのかよ!!)

「うおおおおおおお!!!」
背後へ回り込まれても、敵の気配を感知し、真っ先にその場所へと剣を振るう。
だが、その一撃はまたも虚空の王により凌がれた。
破壊神の一撃により犠牲になるのは、地面や塀などの無機物だけだ。


(コイツの攻撃は単純だ……だから反撃は出来なくても、手はある!!)
身体中に小さな傷を作りながらも、必死で王は打開策を練っていた。


「ガキのくせに、舐めんじゃねえええええ!!!」
逃げていたのが一転、王はシドーのような雄たけびを上げて、突進してくる。
フェイントに一瞬戸惑うも、願っても見ない幸運と判断し、王の心臓目掛けて大剣を突き出す。

「これで、終わりだ!!!」
シドーの言う通り、その刺突は命を終わらせた。
衣服を、皮膚を、筋肉を、胸骨を、心臓を、脊椎を破る。
そして、鮮血が迸り、けたたましい悲鳴が聞こえた。






シドーの一撃は、マリア・キャンベルを完全に終わらせた。





【マリア・キャンベル@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 死亡】




「シドー、様?」


桃色のドレスも、絹のように白い肌も、金髪も全て赤に染まった少女は、自分がどうなったか信じられなかった。
ただ、焦点の合わない瞳で、その瞳より青くなった顔で、自分を殺した者の名前を呼ぶ。

「なん……で!?」
一体何が起こったのか分からず、ただ少女の虚ろな表情を、同じくらい虚ろな瞳で見つめる。
元々赤一色で染まった視界が光を失い、真っ黒になっていく。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇





ここではないどこかで、佇む5匹の骸骨の魔物。
いつの間にかシドーにはそれだけしか映っていなかった。
これもあの男の能力なのか?


――――シドー様。これらはあなたに捧げる供物です。


どこからともなく聞こえる声と共に、魔物達は襲い掛かって来る。

「やめろ」
そう言いながら、骸骨を砕く。
砕かれたはずの骸骨は、いつの間にか死んだ人間の姿になる。
ポンペ、ドルトン、ヒース、アネッサ、ミト。
大切な仲間との冒険で出会った人間達だ。


――――破壊神として、存分にお力を発揮なさってください。


今度は新しい骸骨の魔物が襲い掛かって来る。
「やめてくれ!!」
叫びながら、大剣を振り回す。
今度の骸骨は、よりシドーと親密だった人間の姿になった。


共に冒険をしたビルド
その帰りをいつも待ってくれたルル
そして、この世界で止めようとしてくれた、霊夢。


――――さあ、目覚めの時です。


邪悪な神官は、笑みを潜めて現れた。


「ふざけるな!!こんな幻を見せて、何をしようってんだ!!」
力に任せ、怒りに任せ。
ハーゴンを力一杯斬り裂く。
邪悪な神官の亡霊は消えて行く。
幻だった世界は晴れて行く。


――――果たして、あなたが殺した人間はすべて私の見せた幻でしょうか?


世界が明るくなり、太陽の光が差し込む。
「よかっ……た……。」
今まで自分が殺した人間は全て幻だったのだと、柄にもなく安堵する。
幻が晴れたからと言って、出迎えてくれるのはより過酷で悍ましい現実だけだというのに。



その先に見えたのは、真っ赤に染まった自分と、大きな穴から鮮血と臓器、それに排泄物を垂らし、見る影もなくなった少女だった。



「はははははははは!!ねえどんな気持ち?自分で女の子殺しちゃって今どんな気持ち!?」

高笑いする王、固まったまま動かない霊夢。
先程王は虚空の王の最終手段、狙った相手との入れ替えで、咄嗟に近づいてきたマリアと入れ替わった。
そして、結果は目論見通りだった。
そう、「結果は」目論見通りだった。
それからのことは、上手く行くわけではない。
せめて、マリアを殺して唖然とした反応を見ずに、すぐにシドーも殺せばまだ勝てたかもしれないが、あくまで仮定の話でしかない。


「はは……」
急に笑いが止まる。
第六感が逃げろと告げる。
それほど、シドーから迸る闇のオーラは凄まじいものだった。
忘れてはならない。
彼は悪も善も全てを破壊する、破壊神の一部だ。
悪に拘り続けた彼では、どう足掻いても足元にも及ばない。
王はハーゴン教団のことを、ましてや破壊神シドーのことなど知る由もない。
逆に、その力を全く知らない王さえ、殺されると判断するほど、シドーから湧き出る力は計り知れないものだった。


恐ろしかった。
恐怖のあまり、涙を流しながら、虚空の王を用いて逃げ出した。
最早怒りやプライドなどはどうでも良かった。
逃げる、王はただひたすらに逃げる。
破壊神から逃げ出すために。

王にとっての平穏とは、殺し、奪い、又殺す。
普通の人間が言う平穏とは全く異なっているが、それでも彼にとっては狩り続ける肉食獣のような日々が平穏だった。
しかし、その平穏は脆くも崩れ去った。


しかし彼は聞いたことは無いだろうか。
大魔王、もとい破壊神から逃げられないと。


急に足が止まる。
否、動かせなくなる。
両脚を切り落とされたからだ。
やむなく虚空の王で、勝てぬ戦いをすることになる。
否、出来なかった。
敵を切り刻む前に、両手を切り落とされたからだ。


孤独な王は、最後に恐怖に満ちた表情を浮かべて死んだか?
答えは否である。
四肢を切り落とし終わると、失血死する前に顔を滅多切りにし、どんな顔を浮かべているかも分からない有様になったからだ。



【王@ダーウィンズゲーム 死亡】



――――それでいいのです、シドー様
「違う……オレは、マリアの仇を取っただけだ……。」
自分がしたことを否定する。


――――仇を討つだけなら、そこまでする必要はありません。
ぐちゃぐちゃの死体になった王から転がった瞳が、シドーを見つめている。



「あ“あ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!!」
慟哭。
それは殺意への否定か、それとも肯定か。


――――彼女を殺したのは、あの男がいたからではありません。あなたが破壊神だからです。
――――他の誰でもない。マリア・キャンベルを殺したのは、あなたですよ!!



「ちょっと、これ、どういう……。」
追い付いた霊夢がすべて言葉を話し終える前に、先程とは比べ物にならない速さで逃げ出した。
王との戦いによる疲労もある中、霊夢には到底追い付けない。


シドーは別に拒絶をするつもりでは無かった。
だが、霊夢までも殺してしまうという恐怖感から、彼女から逃げ出した。
全身を2人分の血で真っ赤に染まった全身を、洗うこともせず。
ただ邪神官、ハーゴンの干渉を振り払うことだけを必死になりながら。
ただ、ただその足を前へと動かした。



【E-7/市街地/1日目/朝】

【博麗霊夢@東方Project】
[状態]:左手の指二本欠損 疲労(中)
[服装]:巫女服
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、高坂麗奈のトランペット@響け! ユーフォニアム、セルティ・ストゥルルソンのヘルメット@デュラララ! マリアが作ったクッキー@現地調達
[思考]
基本:この『異変』を止める
1:とりあえずシドーを追いかける
2:シドーがまた暴れるようなら、とっちめる
3:マリアや幻想郷の仲間の死による喪失感
[備考]
緋想天辺りからの参戦です
※シドー、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。



【D-7/市街地/1日目/朝】


【シドー@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
[状態]:健康、顔面打撲(小)、破壊衝動(大) 血まみれ
[服装]:いつもの服
[装備]:響健介の大剣@Caligula Overdose
[道具]:基本支給品、くすりの葉×5@ドラゴンクエストビルダーズ2 ランダム支給品1
[思考・行動]
基本方針:テミスとμとかいうのをぶっ倒す
1:今は逃げる、どこでもいい。
2:自分でもよくわからない衝動にムシャクシャするが、とにかく自制する
3:ビルドと再会したら、その時は……。
[備考]
※参戦時期はムーンブルク島終了後、からっぽ島に帰った後です。
※霊夢、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。
※破壊衝動をどうにか抑制している状況です。


【ハーゴン@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
[状態]:幽体(シドーに憑依) 満足
[思考・行動]
基本方針:シドーを「破壊神」として覚醒させ、生還させる
1:暫くは様子見
2:然るべきときにシドーを「破壊」の道へと誘う
[備考]
※幽体となっており、シドーに取り憑いていますが、実体化はできません。
※シドーにどれ程の干渉ができるかについては、後続の書き手様にお任せします。

【支給品紹介】
くすりの葉@ドラゴンクエストビルダーズ2
からっぽ島やモンゾーラ島で、くすり葉の茂みからとれる葉。
傷を治す成分が含まれており、そのまま食べても意味がないが、薬草を作れる。
また、小麦やその他の野菜と混ぜることで、状態異常に強くなれるクッキーを作れる。


マリアのクッキー@現地調達
マリア・キャンベルの得意なお菓子。プレーン、コーヒー味、バニラ味がある。
うちコーヒー味はくすりの葉と混ぜて作ったため睡眠状態を無効化できる「目覚めのクッキー」と同じ効力を示す可能性がある


前話 次話
『xxxx/xx/xx』 投下順 新(ひびけ!!)ユーフォニアム ~コンプリケイション~

前話 キャラクター 次話
不安定な神様 博麗霊夢 再会
不安定な神様 マリア・キャンベル GAME OVER
不安定な神様 シドー 触らぬ神に祟りなし
緊急!バトルロワイアル特別番組『エイスチャンネル』後編 GAME OVER
ウィキ募集バナー