◇
狂う、来るう、繰るう。
焦げた匂いと灰色の煙が立ち込める大地に、復讐に心を燃やす道化師が、まるで曲芸をするが如く奇怪な動きをして、せせら笑う。
焦げた匂いと灰色の煙が立ち込める大地に、復讐に心を燃やす道化師が、まるで曲芸をするが如く奇怪な動きをして、せせら笑う。
「にょほほほほほほほほほほほっ、さぁさぁ! どうしたでおじゃるか、あかり殿ッ! 早くその得物でマロを撃つでおじゃる! さもなくば、その身すなわち灰に帰すでおじゃるよ!」
「っ……!」
「っ……!」
ヤマトの采配士マロロは何の意味もなく踊り狂っているのではない。
これはマロロの得意とする呪法。
両手を合わせて中指人差し指を立て、腰を前後にペコペコと振るい掛け声を上げると、地面から巨大な炎の柱が吹き上げる。
その勢いのままくるりくるりと身体を回転させて、少女へ向けて、両掌を向けると、炎の渦が少女の身を飲みこまんと噴出される。
その勢いのままくるりくるりと身体を回転させて、少女へ向けて、両掌を向けると、炎の渦が少女の身を飲みこまんと噴出される。
栗色の髪の少女――間宮あかりは、これら波状に押し寄せる灼熱の連撃を辛うじて躱していく。
立ち込める熱気と緊張――それに回避に伴う運動により、あかりの制服は汗に濡れており、所々に黒く焦げた跡が目立っている。
立ち込める熱気と緊張――それに回避に伴う運動により、あかりの制服は汗に濡れており、所々に黒く焦げた跡が目立っている。
「にょほほほほほほほほほほっ~、燃えろっ! 燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろっーーー! オシュトルに与するものはみな燃えてしまえええええええ!!!」
狂気を孕んだ叫び声を上げ、獰猛な笑みを浮かべるマロロとは対照的に、回避に精一杯のあかりの表情は暗く、焦燥に満ちている。
武偵として手足を狙撃しての無力化をシミュレーションしてはいるものの、マロロの怒涛の攻めはあかりに銃の照準を定める余裕を与えない。
この苦しい状況で 加減 (・・)をしての無力化は極めて厳しいだろう。
この苦しい状況で 加減 (・・)をしての無力化は極めて厳しいだろう。
「にょっほ!」
呪術師の攻撃は執拗に続く。
寄声と同時に放たれた炎の大流を紙一重で躱すあかり。
完全には避けきれず、ツインテールの一部が焼け落ちる。
寄声と同時に放たれた炎の大流を紙一重で躱すあかり。
完全には避けきれず、ツインテールの一部が焼け落ちる。
(このままじゃ……!)
一方的に嬲られているこの窮地――。
打つ手はもうないのか?
打つ手はもうないのか?
否――活路はある。
間宮秘伝の殺人術、 十弩 (トウド)。
標的を見ずに対象の額・右目・左目・のど・心臓の各急所を2発ずつ射抜く術。
全身を鎧に覆われたヒイラギイチロウや鋼のような肉体のヴライに通用するかは定かではなかったが、今対峙しているマロロについて弾丸から身を護るような術は備わっていないように見受けられる。
十弩 (トウド)を解禁すれば、この場を切り抜けることはできるだろう。
標的を見ずに対象の額・右目・左目・のど・心臓の各急所を2発ずつ射抜く術。
全身を鎧に覆われたヒイラギイチロウや鋼のような肉体のヴライに通用するかは定かではなかったが、今対峙しているマロロについて弾丸から身を護るような術は備わっていないように見受けられる。
十弩 (トウド)を解禁すれば、この場を切り抜けることはできるだろう。
しかし、それは相手を殺めると同時に、武偵としての“間宮あかり”をも殺すことになる。
だから、あかりはこの術は使えないーー使おうとしない。
だから、あかりはこの術は使えないーー使おうとしない。
―――君の生半可な覚悟と弱さが味方の足を引っ張り、窮地に晒したのだ。
ふと、脳裏に響くのは先程対峙したヒイラギの声。
それは、先の戦闘における後悔と自責の念によるものか。
それは、先の戦闘における後悔と自責の念によるものか。
―――殺す覚悟もない人間が私の前に立ち塞がるなッ!
それはまるで呪いのように、あかりの心を蝕んでいく。
その言の葉は裏を返せば、このようにも聴こえる。
先の過ちを繰り返さないためにも、現状を打破するためにも、殺人の術、 十弩 (トウド)を使えとーー。
結局のところ、先のように出し惜しみをしては護りたいものを護りきれず、あまつさえ自分すらも追い込んでしまう--呪いのように突き付けられた言葉に誘われるように、銃を握る小さな手に力が込められ、あかりの中にある 制御装置 (ブレーキ)を外さんとする。
その言の葉は裏を返せば、このようにも聴こえる。
先の過ちを繰り返さないためにも、現状を打破するためにも、殺人の術、 十弩 (トウド)を使えとーー。
結局のところ、先のように出し惜しみをしては護りたいものを護りきれず、あまつさえ自分すらも追い込んでしまう--呪いのように突き付けられた言葉に誘われるように、銃を握る小さな手に力が込められ、あかりの中にある 制御装置 (ブレーキ)を外さんとする。
(―――っ!!!)
だが、寸前で頭をぶるぶると横に振り、思いとどまった。
(――違う! 私は……武偵としてーーー。アリア先輩の 姉妹 (アミカ)として戦ってーー護るんだ! アンジュさんも、皆も、私自身もーー!)
しかし、そんなあかりの決意を嘲笑うかのように、刻々と状況は悪化していく。
マロロと交戦を始めてから十分ほどが経過したころーー気付けば、あかりの周囲は炎に包まれていた。
前後左右――あかりの視覚には全て炎の壁がそびえ立ち、あかりは炎に囲まれた円の中に取り残される。
前後左右――あかりの視覚には全て炎の壁がそびえ立ち、あかりは炎に囲まれた円の中に取り残される。
「にょほほほほほほほっ、あかり殿っ! 袋の鼠とはまさにこの事でおじゃるな!」
「くっ……!!」
「くっ……!!」
もはや絶対絶命――。
炎の壁の向こうから悪意に満ちた言の葉が聴こえ、あかりは歯軋りする。
炎の壁の向こうから悪意に満ちた言の葉が聴こえ、あかりは歯軋りする。
「これで終いでおじゃる、あかり殿ッ! 悪逆の徒に与した愚行…… 地獄 (ディネボクシリ)で後悔するでおじゃるッーーー!!!」
一際甲高い声が上がると、ふと頭上より熱量を感じ、あかりは宙を見上げる。
これもマロロの呪法によるものだろうか。
そこには巨大な火の球があり、まるで隕石のように、あかりの小さな身体を押し潰さんと降りかかる。
これもマロロの呪法によるものだろうか。
そこには巨大な火の球があり、まるで隕石のように、あかりの小さな身体を押し潰さんと降りかかる。
「にょほほほほほっ、見ておるか、ハク殿ッ! 憎きオシュトルに繋がる者をマロが葬り去ったでおじゃるよ!」
自身が発現させた火球が少女のいる地に迫ったその瞬間、マロロは勝利を確信。
夜天に向けて狂喜の声を上げた。
夜天に向けて狂喜の声を上げた。
その刹那――。
「にょほっ!!?」
突風のようなものがマロロの側を横切った。
マロロの右肩を掠めたその勢いは強烈--采配士は悲鳴とともに、身体をふらつかせ地に尻餅をつく。
マロロの右肩を掠めたその勢いは強烈--采配士は悲鳴とともに、身体をふらつかせ地に尻餅をつく。
何が起こった?――と脳が分析をする前に、背後より気配を察知。
すぐさま立ち上がり振り返ると、炎に照らされたあかりの姿がそこにはあった。
すぐさま立ち上がり振り返ると、炎に照らされたあかりの姿がそこにはあった。
「な、何故…どうやって……?」
「……。」
「……。」
まるで亡霊に遭遇したかのように、目を見開き、狼狽するマロロ。
相対するあかりはただ無言のまま。
腰を据え、右手を前へと突き出し爪を立てた五本指とともに上向ける。
左手は顔の前へと添えて、こちらも爪を立てる。
普段の穏やかなものから豹変――マロロを鋭く睨みつけるアメジスト色の眼光はまさに猛禽類のそれであった。
腰を据え、右手を前へと突き出し爪を立てた五本指とともに上向ける。
左手は顔の前へと添えて、こちらも爪を立てる。
普段の穏やかなものから豹変――マロロを鋭く睨みつけるアメジスト色の眼光はまさに猛禽類のそれであった。
猛禽類――その表現はまさに言い得て妙。
あかりはまさに喰らうべき獲物を定めた鷹になりつつある。
あかりはまさに喰らうべき獲物を定めた鷹になりつつある。
この構えの正体は、間宮家の長子にだけ伝授される奥義、 鷹捲 (たかまくり)――。
千本の矢をスリ抜け、一触れで死を打ち込み、死体に傷が残らない技。
夾竹桃は、毒の類のものとしてその技術を追い求めているがーーその実、ジャイロ効果によって増幅・集約した体内のパルスを利用した振動破壊の技である。
千本の矢をスリ抜け、一触れで死を打ち込み、死体に傷が残らない技。
夾竹桃は、毒の類のものとしてその技術を追い求めているがーーその実、ジャイロ効果によって増幅・集約した体内のパルスを利用した振動破壊の技である。
あかりは先の窮地に際して、この 鷹捲 (たかまくり)を発動――体内から発生させた振動破壊の術で立ちはだかる猛火を掻き消しつつ、炎の海を潜り抜けたのである。
そして、そのまま今度は対峙するマロロに向けて、その矛先を向けている。
そして、そのまま今度は対峙するマロロに向けて、その矛先を向けている。
( 鷹捲 (たかまくり)が成功する確率は三分の一……。だけど――もう一度成功させてみせる!)
勿論全力で打ち込むつもりはない、この場での戦闘継続が困難になる程度まで出力は抑える。
銃は既に必要なく懐に収めてある。
銃は既に必要なく懐に収めてある。
「何をするつもりか分からぬが、もう一度燃えるでおじゃるううう!!!」
黙りこくったあかりに業を煮やしたマロロが雄叫びを上げ、またしても奇怪なポーズを取った。
あかりは、ここまでの交戦により、大袈裟に振舞うマロロのそれが呪法を繰り出さんとするためのものであることを理解していた。
あかりは、ここまでの交戦により、大袈裟に振舞うマロロのそれが呪法を繰り出さんとするためのものであることを理解していた。
(――今ッ!!!)
それを合図とし、あかりはマロロへ向けて一直線に駆け出す。
マロロの両掌から炎の花が咲く頃には、既に肉薄――。
両手首を前へと突き出そうとするがマロロに迫るが……。
マロロの両掌から炎の花が咲く頃には、既に肉薄――。
両手首を前へと突き出そうとするがマロロに迫るが……。
(……っ!!)
結局のところ特に何も起こらずーーあかりは、マロロが放った炎を猛スピードで掻い潜り、その脇を通り過ぎる形となってしまった。
「はて……今のは、何だったのでおじゃるか…?」
(光らなかった……。今度は失敗……。)
(光らなかった……。今度は失敗……。)
あかりは地につく足にブレーキをかけて、反対方向に転じる。
どうにも腑に落ちない様子で自身を見据えるマロロに向けて、再度同じ構えをとり、
どうにも腑に落ちない様子で自身を見据えるマロロに向けて、再度同じ構えをとり、
(でも――もう一度ッ!!)
再度突貫――!
マロロもこれを迎え討たんと、今度は呪術を早めに繰り出さんと一際振り幅が少ないポーズを取らんとする。
マロロもこれを迎え討たんと、今度は呪術を早めに繰り出さんと一際振り幅が少ないポーズを取らんとする。
両雄、再びぶつからんと肉薄したその刹那――!
ドゴンッ!と
膨大な破壊音が二人の鼓膜に鳴り響き、直後に幾つかの建物の破片が周囲に撒き散らされた。
膨大な破壊音が二人の鼓膜に鳴り響き、直後に幾つかの建物の破片が周囲に撒き散らされた。
「「――ッ!!?」」
ほぼ同時に動きを止めた両雄。
二人の瞳に映るは、魔法学園校舎にポッカリと空いた広大な穴より現れる巨大な人影。
二人の瞳に映るは、魔法学園校舎にポッカリと空いた広大な穴より現れる巨大な人影。
煉獄の炎によって照らし出されるその鍛え抜かれた身体と、顔の一部を覆う白の仮面。
見るものを強く威圧し、畏怖の念すら覚えさせる圧倒的な存在感。
あかりにとってはつい先程ぶりにはなるが、今後の生涯において一生記憶に刻み続けられることになるであろう、その漢の名は――。
見るものを強く威圧し、畏怖の念すら覚えさせる圧倒的な存在感。
あかりにとってはつい先程ぶりにはなるが、今後の生涯において一生記憶に刻み続けられることになるであろう、その漢の名は――。
「ヴ、ヴライ……」
マロロは額に汗を浮かべ、声を震わせながらその名を呟いた。
当のヴライはというと、炎に塗れた周囲を一瞥した後に、ギロリと鋭い視線をマロロへと向ける。
当のヴライはというと、炎に塗れた周囲を一瞥した後に、ギロリと鋭い視線をマロロへと向ける。
「小蠅如きが、実に小賢しい真似をしてくれたな……」
紅く突き刺すような眼光に、マロロは思わず後退る。
ヴライという一人の漢から発せられる圧倒的な覇気により、マロロは完全に萎縮してしまっていた。
そんなマロロには興味はないと言わんばかりに、ヴライはその視線を、傍で固まるあかりへと移す。
瞬間、ビクリと全身を震わせるあかり。
ヴライという一人の漢から発せられる圧倒的な覇気により、マロロは完全に萎縮してしまっていた。
そんなマロロには興味はないと言わんばかりに、ヴライはその視線を、傍で固まるあかりへと移す。
瞬間、ビクリと全身を震わせるあかり。
―――殺される。
元を辿ればアンジュへの加勢を目指していたため、再びこの漢と対峙することは想定していた。
しかし、いざ蓋を開けてみて対面してみると、足が竦んでしまう。
間宮の術という武芸を身につけている身だからこそ、本能的に圧倒的な戦力差を察知しているのかもしれない。
目の前の漢に掛かれば、自分の生命を握り潰すなど造作もないものだ、と。
極限の緊張と恐怖により、あかりもまた生きた心地を感じなかった。
しかし、いざ蓋を開けてみて対面してみると、足が竦んでしまう。
間宮の術という武芸を身につけている身だからこそ、本能的に圧倒的な戦力差を察知しているのかもしれない。
目の前の漢に掛かれば、自分の生命を握り潰すなど造作もないものだ、と。
極限の緊張と恐怖により、あかりもまた生きた心地を感じなかった。
「……。」
しかし、臆するあかりとは対照的に――彼女を見下ろす 武士 (もののふ)は沈黙し、何かを仕掛けることはなかった。
やがて。
暫しの静寂を経て。
まともな思考を取り戻したたあかりは、自身を見据えるヴライの肩に何かがぶら下がっていることにようやく気付く。
呼応して、ヴライは肩に担いでいた“それ”をゆっくりと地面へと置く。
あかりは視線を落とし、“それ”を凝視する。
呼応して、ヴライは肩に担いでいた“それ”をゆっくりと地面へと置く。
あかりは視線を落とし、“それ”を凝視する。
「っ……!?」
そして、“それ”の正体を悟ると、あかりは大きく目を見開く。
何を隠そう、“それ”の正体は――。
「ア、アンジュさんっ…」
物言わなくなった、勇ましき皇女の亡骸であったのだから。
◇
「これは……畑か……?」
「――畑ね」
「――畑ね」
マロロの策に従い、学園の彼方此方に火を放っていた、琵琶坂永至と十六夜咲夜の二人は、
学園の敷地内に畑のような地点を発見した。
此処はカタリナ・クラエスが学園生活の傍ら――花壇と称して土を耕し、野菜の栽培を行ってきた場所ではあるのだが、そんなことを二人は知る由もない。
学園の敷地内に畑のような地点を発見した。
此処はカタリナ・クラエスが学園生活の傍ら――花壇と称して土を耕し、野菜の栽培を行ってきた場所ではあるのだが、そんなことを二人は知る由もない。
「まぁ…これ程大きな学舎だ。農業専攻の学科があるのも不思議ではないか」
「あら? ここも燃やすつもりなの?」
「あら? ここも燃やすつもりなの?」
様々な作物が実っている畑を前に、カタルシスエフェクトを発現させる琵琶坂。
その黒い鞭には既に炎が纏わりついている。
咲夜は腕を組んだまま、そんな様子を静かに観察している。
その黒い鞭には既に炎が纏わりついている。
咲夜は腕を組んだまま、そんな様子を静かに観察している。
「ああ……農作物の類は存外火の通りが良いからな……。 学園中を火の海にしたいのであれば、捨て置けない」
「そう…随分と仕事熱心なことね、感心するわ」
「……。」
「そう…随分と仕事熱心なことね、感心するわ」
「……。」
皮肉めいた発言に、思わず舌打ちしそうになった琵琶坂だが、どうにか堪えて鞭を振るい――燃やす、燃やす、燃やす。
ひたすら燃やす。
ひたすら燃やす。
作り手が汗水垂らし時間をかけて耕した畑は、そんな事情も知らぬ第三者の手に掛かり、無情にも炎に染まっていく。
琵琶坂は入念に鞭を振るい、火を拡げている。
一見マロロからの仕事を丹念にこなしているようにも見えなくもないが――これは謂わば時間稼ぎ。
一見マロロからの仕事を丹念にこなしているようにも見えなくもないが――これは謂わば時間稼ぎ。
琵琶坂は依頼を達成した後に用済みとして処理される前に、どうにかこの忌まわしい従属関係を断ちたいと、時間稼ぎを行い、機会を窺っているのであった。
機械を窺っているのであるが―――。
(クソッ!!! まるで隙を見出せない!!!)
チラリと横目で咲夜の様子を確認するが、咲夜は相も変わらず、冷たい表情を張りつけたまま、琵琶坂の一挙手一投足に刃物のような視線を投げかけていた。
ふるっている鞭の矛先を咲夜に向ければ、その場で開戦となりえるが、咲夜が琵琶坂に対して隙を見せていない手前、初撃が不意打ちとはなりえない。
ふるっている鞭の矛先を咲夜に向ければ、その場で開戦となりえるが、咲夜が琵琶坂に対して隙を見せていない手前、初撃が不意打ちとはなりえない。
そう――琵琶坂が企てる叛乱において、この初撃の不意打ちは極めて重要である。
先の交戦にて、一瞬で琵琶坂の身体に複数のナイフを生やした謎の能力――咲夜がいう「小細工」のタネが割れていない以上は、まともにやり合うのは得策ではない。
だからこそ、咲夜が謎の能力を行使する前に不意打ちを成功させ、一気に制圧する――という勝利への道筋を描いてはいるのだが、そのためには、咲夜の意識を他に向けさせる必要がある。
だからこそ、咲夜が謎の能力を行使する前に不意打ちを成功させ、一気に制圧する――という勝利への道筋を描いてはいるのだが、そのためには、咲夜の意識を他に向けさせる必要がある。
(畜生ッ!!! 何故だッ!? 何故この俺が、こんなクソメイド如きに頭を抱えなければならないんだぁ…!!!)
と、琵琶坂が改めて現状に激しい怒りを覚えたその瞬間――。
ボコッ!!!
「なっ!!?」
急に足元から突き上げるような何かによって、彼はひっくり返るように転倒した。
「貴方達、何をやっているの!!?」
間髪入れずに琵琶坂の耳に第三者の甲高い声が入り、そちらに視線を向けると――。
(女――? それにあれは…あの時の鳥か!?)
琵琶坂が先程対峙した怪鳥と、それに跨る少女と中年男性の姿があった。
◇
「貴方達、何をやっているの!!?」
カタリナ・クラエスは怒りに震えていた。
眼前には二人の男女。
片やメイド服を着込む佇む麗女――特にこれといった感情を表情には顕さず、鋭利な刃物のような視線を此方へと向けている。
片や学生を着た知的な外見の男性――カタリナが創出した土埃の魔法によって転倒した彼は、尻餅をつきながら茫然と此方を見上げている。
片やメイド服を着込む佇む麗女――特にこれといった感情を表情には顕さず、鋭利な刃物のような視線を此方へと向けている。
片や学生を着た知的な外見の男性――カタリナが創出した土埃の魔法によって転倒した彼は、尻餅をつきながら茫然と此方を見上げている。
その二人の背景では、丹精込めて耕した畑が焼け野原となっている。
(わ、私の農園がぁ……!!!)
瀕死の重症を負ったヒイラギとともに、ココポに搭乗して学園からの脱出を目指していた頃、遠目で自分がよく知る畑の方角から黒い煙が噴き上げていた。
胸騒ぎがしたため、気になって立ち寄ってみたところ、嫌な予感は的中―――。
カタリナ農園はものの見事に炎に包まれていた。
胸騒ぎがしたため、気になって立ち寄ってみたところ、嫌な予感は的中―――。
カタリナ農園はものの見事に炎に包まれていた。
すぐさま、下手人と思わしき男を、足元に発動させた土埃によって、転倒させて
今へと至るわけだが―――。
今へと至るわけだが―――。
「何をやっているか…ですって? 見ての通り、学園内に焼き払っているだけだけど…?」
「な、何でそんなことをするのよ!?」
「な、何でそんなことをするのよ!?」
眼光鋭いメイドが睨みを効かせ威圧してくると、カタリナは一瞬怯みかけるも、負けじと睨み返し、問いを投げかける。
地面に転がっている男は様子を見ているのか、沈黙中。
カタリナの後ろでココポに搭乗しているヒイラギは、意識を保つのがやっとの状態のようで、こちらも黙ったまま観察に徹している。
地面に転がっている男は様子を見ているのか、沈黙中。
カタリナの後ろでココポに搭乗しているヒイラギは、意識を保つのがやっとの状態のようで、こちらも黙ったまま観察に徹している。
「――さぁ? 私たちは単に依頼を受けてやっているわけだし、依頼した当人に聞いてみては如何かしら? まあ、尤もーー」
「っ!?」
「っ!?」
懐に両手を忍ばせるメイドに、カタリナとココポは思わず身構える。
絹のように白いその両手に取り出されたのは複数の小型ナイフであった。
絹のように白いその両手に取り出されたのは複数の小型ナイフであった。
「貴方達がこの場から生き残ることができたらーーの話だけどッ!」
瞬間、メイドは高らかに跳躍。
ぼけーっと見上げてくるカタリナ達目掛けて、左手に束ねるナイフを一気に投擲。
ぼけーっと見上げてくるカタリナ達目掛けて、左手に束ねるナイフを一気に投擲。
「ココココココッッッーーーー!!!」
カタリナ達を乗せるココポはけたたましい鳴き声を上げて、咄嗟に反応する。
巨体に似合わぬ俊敏な動きで後方へと退避――メイドの放ったナイフは地面へと突き刺さる。
ほっとしたのも束の間、一連の動きを読んでいたのか、退避先にもーー今度は右手に束ねていたナイフが飛来する。
巨体に似合わぬ俊敏な動きで後方へと退避――メイドの放ったナイフは地面へと突き刺さる。
ほっとしたのも束の間、一連の動きを読んでいたのか、退避先にもーー今度は右手に束ねていたナイフが飛来する。
再度、迫りくる銀色の波――。
これを払い落とさんと、ココポはぐるりと身体を回転させ遠心力と共に、右の翼を大振りに振るう。
これを払い落とさんと、ココポはぐるりと身体を回転させ遠心力と共に、右の翼を大振りに振るう。
「ココォッ!!!」
「きゃあっ!?」
「っ!?」
「きゃあっ!?」
「っ!?」
この一連の粗い動きに、カタリナは必死にココポの背中にしがみ付き耐えるが、意識が朦朧としているヒイラギには踏ん張る力は残されておらず、その身は地面へと投げ出されてしまう。
そしてメイドが投影したナイフの内、何本かは叩き落とされたが、何本かは勢い殺せず、その翼へと突き刺さってしまい、ココポは顔を顰めた。
そしてメイドが投影したナイフの内、何本かは叩き落とされたが、何本かは勢い殺せず、その翼へと突き刺さってしまい、ココポは顔を顰めた。
「おじさんっ! ココポっ! 大丈夫っ!?」
「ホロロロロロ……!」
「……。」
「ホロロロロロ……!」
「……。」
ココポは問題ないと言わんばかりのドヤ顔をカタリナに向ける。
此方は問題ないようだが、地面に倒れ伏せるヒイラギからは反応がない。
意識が飛んでしまったのだろうかーー俯いたまま、その表情を伺うことはしれない。
此方は問題ないようだが、地面に倒れ伏せるヒイラギからは反応がない。
意識が飛んでしまったのだろうかーー俯いたまま、その表情を伺うことはしれない。
◇
(どうやら厄介なのはあの鳥だけのようね……)
眼前の光景を目の当たりにし、銀髪のメイドこと十六夜咲夜は次に投擲するナイフを取り出しつつ、敵戦力を分析していた。
地面に倒れている男は、見た通りのまま、瀕死の深傷を負っている。
どのような経緯であの状態となったか情報は得たいところではあるが、今は無視して問題ないだろう。
どのような経緯であの状態となったか情報は得たいところではあるが、今は無視して問題ないだろう。
巨鳥に跨っている少女は、着飾る服装から察するに、高貴な身分の出自であることは伺える。
この鳥の操舵手か何かと疑ってはみたが、先の攻撃への反応を見る限り、激しい鳥の動きについて行けず、一方的に振り回されているようにも見て取れた。
一つ気になるのは、彼女が駆けつけ際に手をかざしたのを合図に、琵琶坂永至の足元の土が不自然に盛り上がり、結果として彼を転倒させたことだが――それを加味した上でも、脅威になるとは思えない。
今はそういった類の術を行使する可能性があることだけ気に留めておこう。
この鳥の操舵手か何かと疑ってはみたが、先の攻撃への反応を見る限り、激しい鳥の動きについて行けず、一方的に振り回されているようにも見て取れた。
一つ気になるのは、彼女が駆けつけ際に手をかざしたのを合図に、琵琶坂永至の足元の土が不自然に盛り上がり、結果として彼を転倒させたことだが――それを加味した上でも、脅威になるとは思えない。
今はそういった類の術を行使する可能性があることだけ気に留めておこう。
やはり、問題は鳥だ。
巨大な図体からは想像できぬ機動性とナイフへの反応速度は驚異的だ。先の対応から察するに、相応の知性も備えており、対人戦闘の経験も豊富であると判断できる。
この場を制するにも、まずはあの鳥を無力化することを第一目標とした方が良いだろう。
巨大な図体からは想像できぬ機動性とナイフへの反応速度は驚異的だ。先の対応から察するに、相応の知性も備えており、対人戦闘の経験も豊富であると判断できる。
この場を制するにも、まずはあの鳥を無力化することを第一目標とした方が良いだろう。
(ならば……速攻で仕留めるッ!)
咲夜は能力を発動させ――その瞬間、時は停止する。
停止された時空を行き交うことが出来るのは、咲夜、ただ一人―――鳥も、鳥に跨る少女も、地に倒れ伏せる男も、琵琶坂永至も微動だにしなくなる。
停止された時空を行き交うことが出来るのは、咲夜、ただ一人―――鳥も、鳥に跨る少女も、地に倒れ伏せる男も、琵琶坂永至も微動だにしなくなる。
時の流れから独立した空間の中で唯一無二の存在となった咲夜は、目下最大の脅威である鳥を排除すべく動く。
まずは正面――鳥の顔面に突き刺すべくナイフの束を投擲。
続けて右側面、背後、左側面と反時計回りに疾走し、これまたナイフの束を投擲。
投擲されたナイフは何れも、鳥にとっては至近距離の空中にて停止している状態となっている。
続けて右側面、背後、左側面と反時計回りに疾走し、これまたナイフの束を投擲。
投擲されたナイフは何れも、鳥にとっては至近距離の空中にて停止している状態となっている。
(くっ…やはり、この辺りが限界かしら……)
時間を止めてから体感で10秒ほどが経過した頃、咲夜はふわりと身体から力が急速に抜けていく感覚を覚えた。
先の琵琶坂永至との交戦においても、同様のことが起きたが、本来咲夜が発動させる時間停止能力はこんな短時間で効力を失うものではない。
有効時間は咲夜の意思次第で自在にコントロールできるはずであるが、このゲームにおいては、どう引き延ばしても10秒ほどで打ち切りとなってしまう。
おまけに、一度能力を駆使してしまうと、暫くは時間を操る能力に関しては脱力状態のままとなり、再発動ができなくなってしまうのも確認済みだ。
先の琵琶坂永至との交戦においても、同様のことが起きたが、本来咲夜が発動させる時間停止能力はこんな短時間で効力を失うものではない。
有効時間は咲夜の意思次第で自在にコントロールできるはずであるが、このゲームにおいては、どう引き延ばしても10秒ほどで打ち切りとなってしまう。
おまけに、一度能力を駆使してしまうと、暫くは時間を操る能力に関しては脱力状態のままとなり、再発動ができなくなってしまうのも確認済みだ。
「(このゲーム会場に 能力 (ちから)を弱める装置があるのかしら……。何れにせよ本当に厄介だわ)」
そして、時は動き出す
フィールド上の万物が活動を再開するその瞬間―――巨鳥を囲うように空間で停止していた無数の刃もまた投擲された目標に向かい動き出す。
「コココォッ!?」
鳥からしてみれば、突如として全方位にナイフが出現したことになるだろう。
回避は間に合わないと判断したか、乗り手である少女を庇うように翼を大きく縦へと拡げて、身を屈める。
咄嗟に防御姿勢を取った巨鳥へと、ナイフは一切の容赦なくーー無慈悲に襲い掛かる。
回避は間に合わないと判断したか、乗り手である少女を庇うように翼を大きく縦へと拡げて、身を屈める。
咄嗟に防御姿勢を取った巨鳥へと、ナイフは一切の容赦なくーー無慈悲に襲い掛かる。
「コココォオおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「きゃああああああっーー!」
「きゃああああああっーー!」
この場合、「メッタ刺し」という表現が近しいかもしれない。
少女と鳥の大きな悲鳴が木霊し、鳥の大きな身体から鮮血と羽毛が飛び散り、無数のナイフが生えた。
少女と鳥の大きな悲鳴が木霊し、鳥の大きな身体から鮮血と羽毛が飛び散り、無数のナイフが生えた。
「コォォ……」
「ココポっ!? あなた私を守って……」
「ココポっ!? あなた私を守って……」
鳥の機転のおかげか、鳥に搭乗していた少女にはナイフが突き刺さることはなかった。
少女は慌てて飛び降りて、あちらこちらにナイフが突き刺さり、痛みに悶える鳥へと寄り添っている。
少女は慌てて飛び降りて、あちらこちらにナイフが突き刺さり、痛みに悶える鳥へと寄り添っている。
(仕留めきれなかった……。けれどっーー!)
致命傷を負わせた今ならば、能力を発動せずとも葬るのは容易い――。
咲夜は、追い討ちのためのナイフを手に取り、哀れな生贄達に向けて地を駆けた。
咲夜は、追い討ちのためのナイフを手に取り、哀れな生贄達に向けて地を駆けた。
だが―――。
「っ!?」
ビュンッ!!!と、
風を裂く音が鳴り響くより前に、
背後より迫る殺意を本能的に察知した咲夜はその場で横転。
咲夜が先程まで踏んでいた土は弾き飛び、火が灯る。
背後より迫る殺意を本能的に察知した咲夜はその場で横転。
咲夜が先程まで踏んでいた土は弾き飛び、火が灯る。
突如の急襲を寸前で躱して、事なきを得た咲夜。
チィッという舌打ちがした方向へと視線を向ける。
チィッという舌打ちがした方向へと視線を向ける。
「随分と心変わりが早いのね、琵琶坂永至……」
「おやおや…勘違いしているようだから断っておくけど、少なくとも、僕は君に心を許したことは一度もないよ」
「おやおや…勘違いしているようだから断っておくけど、少なくとも、僕は君に心を許したことは一度もないよ」
先程まで地に尻餅をついて、事態を傍観していた琵琶坂永至は、明確な敵意とともに咲夜に炎を帯びた鞭を向けていた。
「あらそう…奇遇ね。正直私も貴方と手を組むのは気が乗らなかったの……」
「それは好都合だ。であれば、心置きなく君達と袂を分かつことができるよ」
「それは好都合だ。であれば、心置きなく君達と袂を分かつことができるよ」
琵琶坂が自身のことを快く思っていないのは、勘付いてはいたが、まさかこんなにも早々に牙を向けてくるのは想定はしていなかった。
あれだけ実力差を見せつけたのにまだ逆らうのかという呆れ半分、よりにもよってこの状況で…という苛立ち半分で、咲夜は顔を顰める。
あれだけ実力差を見せつけたのにまだ逆らうのかという呆れ半分、よりにもよってこの状況で…という苛立ち半分で、咲夜は顔を顰める。
「さぁて――そこの君達っ!」
琵琶坂の呼び掛けに、ビクリと少女と鳥が反応を示す。
「聞いての通りだ! 『敵の敵は味方』というだろう? そこの鳥君とはいざこざはあったが……今までのことは水に流して手を組まないかい?」
「えーっと……ココポと何があったかは知らないけど、あなたは学園に火をつけて――」
「えーっと……ココポと何があったかは知らないけど、あなたは学園に火をつけて――」
琵琶坂が発した「いざこざ」とやらに、当の鳥は覚えがないのか首を傾げているが、その瞳には怯えの色を浮かべていた。
一方の少女の方はというと、思いもよらに提案に当惑した様子である。
一方の少女の方はというと、思いもよらに提案に当惑した様子である。
「放火の件については僕も本意ではなかった。殺し合いに乗ったそこのメイドに脅されていたんだ…」
「貴方…よくも抜け抜けとそんな事言えるわね……」
「貴方…よくも抜け抜けとそんな事言えるわね……」
如何にも申し訳なさそうな表情で釈明する琵琶坂に、咲夜は呆れとともに毒づくが、当人はそれを遮るように少女に畳み掛ける。
「どうだい? 見たところ、そちらもピンチのようだし、こちらもそこのメイドの彼女の支配から解放されたい…。お互いの利害は一致していると思うが如何かな?」
「――ココポ…いける?」
「――ココポ…いける?」
琵琶坂の誘いを受けて、少女は鳥の眼をジッと見つめて問い掛ける。
満身創痍の鳥は、「ホロロッ!」と力強く応え、闘争心を剥き出しにして、咲夜に向き合った。
その様子を見てほくそ笑むのは琵琶坂、対照的に顔を顰めるのは咲夜。
満身創痍の鳥は、「ホロロッ!」と力強く応え、闘争心を剥き出しにして、咲夜に向き合った。
その様子を見てほくそ笑むのは琵琶坂、対照的に顔を顰めるのは咲夜。
(本当に小賢しい男――。)
咲夜は琵琶坂永至という男を、過小評価していたのかもしれない。
薄々と叛逆の意思は感じ取ってはいたものの、まさかこんな早々に牙を剥いてくるとは想定していなかった。
少女達がズタボロにされ、咲夜の脅威を認識した状況からの共闘の申し入れは、あまりにもタイミングは良すぎる。
少女達が駆けつけてからの一連の流れを計算した上で、こうして彼女達を仲間に引き入れたというのであれば、その知性と交渉術、狡猾さは脅威に値する。
薄々と叛逆の意思は感じ取ってはいたものの、まさかこんな早々に牙を剥いてくるとは想定していなかった。
少女達がズタボロにされ、咲夜の脅威を認識した状況からの共闘の申し入れは、あまりにもタイミングは良すぎる。
少女達が駆けつけてからの一連の流れを計算した上で、こうして彼女達を仲間に引き入れたというのであれば、その知性と交渉術、狡猾さは脅威に値する。
「琵琶坂永至、やっぱり貴方が一番邪魔ね、始末するわッ!」
「やってみろよ、ゴラァああああああッ!!!」
「やってみろよ、ゴラァああああああッ!!!」
駆け出す咲夜に、炎の鞭がうねりをあげて襲い掛かる。
十六夜咲夜と琵琶坂永至――二人の男女による二度目の戦闘の火蓋が切って落とされた。
◇
魔法学園本校舎前。
あちらこちらに点在する炎がパチパチと何かを燃やす音と共に、少女のすすり泣く声が悲しく木霊する。
あちらこちらに点在する炎がパチパチと何かを燃やす音と共に、少女のすすり泣く声が悲しく木霊する。
「アンジュさん……あ、あぁ…うわあぁぁぁ…」
間宮あかりは少女の亡骸に縋り、泣いている。
あの勇ましかった少女の全身は激しく損傷しており、触れても暖かさを感じることはない。
確固たる意志を宿した両眼も固く閉じられており未来永劫開かれことはない。
あの勇ましかった少女の全身は激しく損傷しており、触れても暖かさを感じることはない。
確固たる意志を宿した両眼も固く閉じられており未来永劫開かれことはない。
耐えがたい悲しみと悔恨に暮れるあかりを取り巻く男が二人いる。
一人は、ヤマト八柱将ヴライ。
アンジュを討ち取った張本人ではあるが、今は沈黙を保ち、悲しみに暮れるあかりを見据えている。
そして、もう一人は――。
アンジュを討ち取った張本人ではあるが、今は沈黙を保ち、悲しみに暮れるあかりを見据えている。
そして、もう一人は――。
「にょほ……」
白塗りの男、マロロはこの悲惨な光景を目の当たりにして、その口角を吊り上げる。
「にょほほほほほっ! これは傑作でおじゃるよ! 愚かなる偽皇女が無様に死に絶えているでおじゃるッ! これで忌まわしきオシュトルの旗印と大義名分は無くなったも同然でおじゃるッ!」
傍らにその気になれば自信を一瞬で抹消できる脅威がいることも忘れたのか、
興奮気味に甲高い声を上げて、ゲラゲラと笑う。
興奮気味に甲高い声を上げて、ゲラゲラと笑う。
「それにしても愚かな小娘でおじゃる。奸賊オシュトルの甘言に乗せられて、奴の操り人形に成り下がった挙句、畏れ多くも皇女殿下を見様見真似たものの――」
「――やめて……」
「――やめて……」
アンジュの亡骸に指をさして、貶しはじめるマロロ。
あかりは涙に濡れた真っ赤な顔を上げてマロロを睨み付ける。
しかし、そんなあかりの嘆願などお構いなしに、マロロは追い打ちをかけるがごとく、言葉を紡いでいく。
あかりは涙に濡れた真っ赤な顔を上げてマロロを睨み付ける。
しかし、そんなあかりの嘆願などお構いなしに、マロロは追い打ちをかけるがごとく、言葉を紡いでいく。
「所詮は贋作。本物の皇女殿下が兼ね備える気品も、覇気も、 皇 (オウロ)たる資質もない出来損ないの偽物でおじゃる。 地獄 (ディネボクシリ)で己が愚行を永遠に悔いるがいいッ!」
「黙っ――」
「黙れィッ!!!」
「「っ!!?」」
「黙っ――」
「黙れィッ!!!」
「「っ!!?」」
天地を反転させるかのような怒声が響き、マロロとあかりはビクリと肩を震わせる。
発声したのは、それまで静観に徹していたヴライであった。
発声したのは、それまで静観に徹していたヴライであった。
「彼の者は、先の帝の血を受け継ぐ正当なる後継者――紛うことなき“本物”であった。これを愚弄することは偉大なる先の帝を愚弄することと知れいッ!!!」
溢れんばかりの殺意と闘気とともに一喝するヴライ。
マロロは蛇に睨まれた蛙のように凝固し――あわわ、とたじろぐ。
ヴライは鋭く睨みをきかせたまま告げる。
マロロは蛇に睨まれた蛙のように凝固し――あわわ、とたじろぐ。
ヴライは鋭く睨みをきかせたまま告げる。
「十秒くれよう…その間に失せよ」
さもなくば…とヴライが鬼のような形相を浮かべ全身に煉獄の炎を纏いだす。
「ぐっ…!!!」
そこからのマロロの判断は早かった。
一瞬何か言いたげな表情を浮かべるが、すぐさまあかりとヴライに背を向けて、
転倒してしまうのではないかという勢いのまま、夜の闇へと足早に去っていった。
一瞬何か言いたげな表情を浮かべるが、すぐさまあかりとヴライに背を向けて、
転倒してしまうのではないかという勢いのまま、夜の闇へと足早に去っていった。
取り残されたのはヴライとあかり。
あかりは、アンジュの骸に縋り付いたまま緊張した面持ちでヴライを見上げている。
あかりは、アンジュの骸に縋り付いたまま緊張した面持ちでヴライを見上げている。
「 汝 (うぬ)に命ずる――この者を弔え。」
「えっ…?」
「えっ…?」
予想だにしなかったヴライの発言に、あかりは言葉を失った。
そんなあかりの反応などお構いなしに、ヴライは言葉を続ける。
そんなあかりの反応などお構いなしに、ヴライは言葉を続ける。
「我に敗れはしたものの、この者は聖上が所有していた正統な後継者…。ぞんざいに扱うことは許さぬ。丁重に埋葬せよ」
あかりは呆気にとられたままだ。
問答無用で襲撃を仕掛け、アンジュを手ずから仕留めた漢が、まさか彼女の鎮魂を託すなど、誰が予想できようか。
ヴライをよく知るヤマトのヒトですら、この光景を見たら、夢か何かと目を疑うことになるだろう。
問答無用で襲撃を仕掛け、アンジュを手ずから仕留めた漢が、まさか彼女の鎮魂を託すなど、誰が予想できようか。
ヴライをよく知るヤマトのヒトですら、この光景を見たら、夢か何かと目を疑うことになるだろう。
「それとも、 汝 (うぬ)は、よもや弔いなど出来ぬとは言うまいな?」
中々反応を示さないあかりに、ヴライは怒気を含んだ問いを投げかける。
瞬間--ハッとしたあかりは首を小さく横に振った。
その反応を見るや、ヴライもまたあかりに背を向け、場を去ろうとする。
瞬間--ハッとしたあかりは首を小さく横に振った。
その反応を見るや、ヴライもまたあかりに背を向け、場を去ろうとする。
「一つだけ聞かせてください……」
あかりの呼び掛けに、ヴライはピタリと足を止める。
「何で…何で、貴方はこんな殺し合いに乗っているんですか?」
「愚問――早々にヤマトに帰還し帝位に就くためよ。帝亡き今、ヤマトを統べきは力あるもの……。それ即ち我かオシュトルこそが相応しい。尤も…奴とはこの地で雌雄を決するがな」
「愚問――早々にヤマトに帰還し帝位に就くためよ。帝亡き今、ヤマトを統べきは力あるもの……。それ即ち我かオシュトルこそが相応しい。尤も…奴とはこの地で雌雄を決するがな」
背を向けたまま、語るヴライ。
あかりからはその表情を窺うことはしれない。
あかりからはその表情を窺うことはしれない。
「元いた場所に還りたいのは皆同じです! 殺し合いになんか乗らずに脱出を目指すという道も――」
「故に他の者と手を結べ、と……? 否ッ!断じて否ッ! 何故 (なにゆえ)、力あるものが、力なきものに耳を傾けなければなるまい? あのテミスなる 女子 (おなご)が気に食わぬことは認めよう。 しかし、この地で行われるは強者が弱者を喰らう闘争――それ即ち世の理そのもの……。 我はただ理に従い、突き進むのみだ」
「でもそれは――」
「つまらぬ問答はここまでだ、小娘。我は征く――次に出会う時あれば、かような言葉を交わす間もなく、 汝 (うぬ)を葬るが故、心に留めておけ……。」
「故に他の者と手を結べ、と……? 否ッ!断じて否ッ! 何故 (なにゆえ)、力あるものが、力なきものに耳を傾けなければなるまい? あのテミスなる 女子 (おなご)が気に食わぬことは認めよう。 しかし、この地で行われるは強者が弱者を喰らう闘争――それ即ち世の理そのもの……。 我はただ理に従い、突き進むのみだ」
「でもそれは――」
「つまらぬ問答はここまでだ、小娘。我は征く――次に出会う時あれば、かような言葉を交わす間もなく、 汝 (うぬ)を葬るが故、心に留めておけ……。」
一方的に問答は打ち切られ、今度こそヴライは彼方の方へと姿を消していく。
あかりは、アンジュの亡骸を抱きながら、ただその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
あかりは、アンジュの亡骸を抱きながら、ただその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
◇
一連のアンジュとの戦闘は、冷徹なるヴライの心にさざ波を生じさせた。
何もできない小娘と侮っていた皇女アンジュは、まだ荒削りな部分はあるものの、先の帝の後継者たるに相応しい風格と覇気を兼ね備えていた。
言うなれば未完の大器――あのまま成長を遂げれば、先の帝に並ぶほどの大君になっていたかもしれない。
言うなれば未完の大器――あのまま成長を遂げれば、先の帝に並ぶほどの大君になっていたかもしれない。
ヴライは先の帝を力あるものとして敬愛して、絶対の忠誠を誓っていた。
故に、その帝が寵愛した正統なる後継者の亡骸を、野に放したたままにすることは、帝に忠誠を誓った身としては看過できなかった。
だからこそ、校舎出発後に、偶然出会った皇女の仲間にその埋葬を託すことにした。
故に、その帝が寵愛した正統なる後継者の亡骸を、野に放したたままにすることは、帝に忠誠を誓った身としては看過できなかった。
だからこそ、校舎出発後に、偶然出会った皇女の仲間にその埋葬を託すことにした。
あの場には、デコポンポの腰巾着の采配師もいた。
彼の者については、あの場で葬るのも造作なかったが、そには戦闘の余波で皇女の亡骸に更なる損傷が生じる恐れがあったため、警告と共に捨て置いた。
彼の者については、あの場で葬るのも造作なかったが、そには戦闘の余波で皇女の亡骸に更なる損傷が生じる恐れがあったため、警告と共に捨て置いた。
しかし、一時的に皇女アンジュの仲間と采配師を見逃したところで、ヤマト八柱将ヴライの殺し合いにおける方針は変わらない。
目につくもの全てを殺して、殺して、殺して、殺しつくして、ヤマトへと帰還する。
先の帝が愛した國だからこそ、圧倒的な力を持つ者が支配し、護っていかねばならないのだから。
目につくもの全てを殺して、殺して、殺して、殺しつくして、ヤマトへと帰還する。
先の帝が愛した國だからこそ、圧倒的な力を持つ者が支配し、護っていかねばならないのだから。
故にヴライは征くーー次なる戦場と、会場の何処かにいるであろう宿敵を求めて。
【B-3/???/一日目/早朝】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
1:次の戦場へと赴き、参加者を蹂躙する
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です
※どこに向かうかは次の書き手様にお任せします
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
1:次の戦場へと赴き、参加者を蹂躙する
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です
※どこに向かうかは次の書き手様にお任せします
◇
風を裂く音――。
風を斬る音――。
白銀のナイフと漆黒の鞭が交錯し、大地に火の粉が撒き散らかされる。
風を斬る音――。
白銀のナイフと漆黒の鞭が交錯し、大地に火の粉が撒き散らかされる。
「このぉッ、クソアマがぁっ! 死ねぇえええええええええええッーー!!!」
怒声とともに振るわれる琵琶坂の鞭。
カタルシスエフェクトによって発現されたその凶器は、他者を見下し、己が目的のために使い捨てる 魔王 (サイコパス)に相応しい得物といえる。
カタルシスエフェクトによって発現されたその凶器は、他者を見下し、己が目的のために使い捨てる 魔王 (サイコパス)に相応しい得物といえる。
「……。」
これまで溜まりに溜まった感情を爆発させる琵琶坂に対して、咲夜はあくまでも冷静に鞭撃を前後左右へと巧みに躱しつつ、都度ナイフを投擲し反撃を試みる。
――が、反撃を読んでいた琵琶坂は、その悉くを鞭で撃墜させる。
――が、反撃を読んでいた琵琶坂は、その悉くを鞭で撃墜させる。
ここまでの両者の攻防だけを判断すると、先の東棟での交戦と同じ様相を呈している、と言っても問題ないだろう。
だがーー。
「鳥ぃいいいいいいいいいいいいいいいいッッッーーーーー!!!」
「ホロロロォッーー!」
「なっ!?」
「ホロロロォッーー!」
「なっ!?」
咲夜が鞭撃を回避して、後方へと跳躍し着地するタイミングで、琵琶坂の掛け声に呼応したココポが全速力で突撃--満身創痍のその巨体で咲夜を吹き飛ばす。
「ガハッ……!」
まるで車に跳ねられたような衝撃を受けて、咲夜の小さな身体は地面をバウンドする。
空中でくるりと身を翻し、何とか態勢を立て直し着地するも、咲夜に安息の時は来ない。
空中でくるりと身を翻し、何とか態勢を立て直し着地するも、咲夜に安息の時は来ない。
「ふはははははははははははッ!! さぁて出来の悪いメイドにお仕置きしようじゃないかッ!」
琵琶坂が繰り出す嵐のような鞭撃が、咲夜に襲い掛かる。
咲夜は咄嗟に回避を試みるが、間に合わずーー。
咲夜は咄嗟に回避を試みるが、間に合わずーー。
「ぐっ……」
蒼と白を基調とした慎ましいメイド服が裂かれ、肉が抉られる。
炎を帯びた鞭撃は、咲夜の絹のような白い肌に裂傷とともに火傷を残していく。
身体を削り取られる激痛と肉が焦げる匂いに、咲夜は顔を顰めて、後方へと大きく跳躍――琵琶坂の攻撃圏外へと離れる。
炎を帯びた鞭撃は、咲夜の絹のような白い肌に裂傷とともに火傷を残していく。
身体を削り取られる激痛と肉が焦げる匂いに、咲夜は顔を顰めて、後方へと大きく跳躍――琵琶坂の攻撃圏外へと離れる。
「そっちに行ったぞォッ! 鳥ぃいいいいいいいいッーーー!!!」
琵琶坂の掛け声を合図として、ココポは咲夜に猪突猛進。
その巨体を以て、再度咲夜にぶちかまさんとするが、咲夜は間一髪サイドステップで回避し事なきを得る。
その瞬間に琵琶坂は「クソ鳥がぁッ!」とココポに対して暴言を吐きつつ、次は俺の番だとばかりに咲夜の元へと駆けていく。
その巨体を以て、再度咲夜にぶちかまさんとするが、咲夜は間一髪サイドステップで回避し事なきを得る。
その瞬間に琵琶坂は「クソ鳥がぁッ!」とココポに対して暴言を吐きつつ、次は俺の番だとばかりに咲夜の元へと駆けていく。
一見咲夜が窮地に陥っているように見えるが、咲夜自身はそう思っていない。
むしろその逆で、勝機を見出していた。
なぜならば――。
むしろその逆で、勝機を見出していた。
なぜならば――。
(今ならば“使える“ッ!!!)
時間経過とともに、脱力状態となっていた能力の感覚が戻っているからである。
まずは能力を行使し、迫りくる琵琶坂を確実に仕留めて、後はココポを始末すれば良い。
急造ペアにも関わらず、意外と息のあった連携で咲夜を苦しめてはいたが、片方さえ葬ることが出来れば、残る片方を葬るのは咲夜の実力をもってすれば容易い。
まずは能力を行使し、迫りくる琵琶坂を確実に仕留めて、後はココポを始末すれば良い。
急造ペアにも関わらず、意外と息のあった連携で咲夜を苦しめてはいたが、片方さえ葬ることが出来れば、残る片方を葬るのは咲夜の実力をもってすれば容易い。
--と、このように、咲夜はこの状況を打破する道筋を見立てていた。
そして、それを実行すべく複数のナイフを袋から取り出し、能力を発動させようとする。
そして、それを実行すべく複数のナイフを袋から取り出し、能力を発動させようとする。
――が。
「――ッ!」
足元に違和感を感じ、咲夜は視線を落とすと、
いつの間にか自身の脚に植物の蔦のようなものが纏わり付いていることに気付く。
いつの間にか自身の脚に植物の蔦のようなものが纏わり付いていることに気付く。
「お、おじさん……!」
これまで蚊帳の外であったカタリナの声が唐突に耳に入り、咲夜は視線をそちらの方へと向けると、先程まで地に伏していたヒイラギが咲夜に向けて手をかざしているのを目にした。
「勘違いするな…私は君たちを手助けしているわけではない……。私が優勝するために、弊害となるであろう参加者を一人、確実に潰すためにやっているだけだ……!」
(この植物はあの男の仕業……? また面倒な……!)
咲夜は、絡みつく植物に短刀を突きつけ、伐採する。
足元に気を取られる咲夜に目掛けて、次なる攻撃が波のように襲い掛かる。
足元に気を取られる咲夜に目掛けて、次なる攻撃が波のように襲い掛かる。
「おらぁッ! とっとと死ねぇッー!!」
「ホロロロッーーー!!!」
「ホロロロッーーー!!!」
頭蓋に迫り来る魔王の鞭――。
真横からは巨鳥が猛進――。
足元には動きを封じようと蠢く幾重の蔦――。
真横からは巨鳥が猛進――。
足元には動きを封じようと蠢く幾重の蔦――。
(流石に多勢に無勢ね……)
瞬間--咲夜は能力を発動し、時は停止する。
独りだけの無音の世界で咲夜は地を蹴り上げ、窮地を脱する。
独りだけの無音の世界で咲夜は地を蹴り上げ、窮地を脱する。
(停められるのは10秒が関の山……。この場でまず最初に始末すべきは……)
白銀に輝く凶器の束を手にして、駆け抜ける先は、植物を操ると目される中年男性の元。
未だに能力の概要が把握できない、不確定要素は真っ先に排除すべきだ、と咲夜は思考して、ヒイラギイチロウの額、喉元、心臓に向けて複数のナイフを投擲した。
未だに能力の概要が把握できない、不確定要素は真っ先に排除すべきだ、と咲夜は思考して、ヒイラギイチロウの額、喉元、心臓に向けて複数のナイフを投擲した。
(時間が戻るまで――3、2、1……)
懐中時計を見やり、カウントする咲夜。
カウントを終えると時は動きだし――
カウントを終えると時は動きだし――
「――がぁ……!?」
「おじさんっ!?」
「おじさんっ!?」
ヒイラギイロチウは幾つものナイフを生やして、仰向けに倒れた。
カタリナは慌ててヒイラギの元へと駆け寄る。
カタリナは慌ててヒイラギの元へと駆け寄る。
「まずは一人……そして--」
咲夜はそんな二人の様子を冷やかに見下ろして、懐からもう一本のナイフを取り出し、
「もう一人ッ!」
確実に殺せるであろう無力な少女へと、その刃を突き立てた。
無慈悲に振り下ろされる凶刃。
「へっ?」と呆然と見上げるカタリナに、それを避ける術はない。
「へっ?」と呆然と見上げるカタリナに、それを避ける術はない。
「―――さ“せ”ぬ“よ”ッ!」
「なっ……!?」
「なっ……!?」
振り下ろされたナイフは植物に覆われた腕によって、進行を妨げられた。
驚愕する咲夜の瞳に映るその腕の主は、ヒイラギイロチウ。
顔面を血に染め上げて鬼気迫るその形相は、まさに赤鬼のそれ。
驚愕する咲夜の瞳に映るその腕の主は、ヒイラギイロチウ。
顔面を血に染め上げて鬼気迫るその形相は、まさに赤鬼のそれ。
(この男は、既に致死量のダメージを負ったはず……立てるはずが――)
そこからヒイラギはさらに一歩踏み込み、混乱する咲夜目掛けて、植物で覆われたその拳を振るう。
(まずいッ! 避け―――)
咲夜は、急ぎ回避せんと後退しようとするが、間に合わず。
「……ガハッ!」
胸部に渾身の拳をまともに受けてしまい、その衝撃で地に転がる。
圧迫された肺が激しく酸素を求めるゼェゼェと、呼吸を乱す咲夜。
よろよろと立ち上がる彼女に追い討ちをかけんと迫るは、琵琶坂とココポ。
圧迫された肺が激しく酸素を求めるゼェゼェと、呼吸を乱す咲夜。
よろよろと立ち上がる彼女に追い討ちをかけんと迫るは、琵琶坂とココポ。
(私とした事が……とんだ醜態だわ……)
これ以上の戦闘は分が悪い――そう判断した咲夜は、くるりと背を向け、
戦場からの離脱を開始する。
戦場からの離脱を開始する。
「待てや、ゴラァあ“あ”あ“ああああああッーーー!!!」
遠ざかっていくその背中に琵琶坂がドスの利いた口調で罵詈雑言を浴びせて、これを追い掛けるが――咲夜の俊足には及ばない。
しかし、咲夜はズキズキと痛む身体に鞭を打ち続け――瞬く間に戦場から姿を消したのであった。
しかし、咲夜はズキズキと痛む身体に鞭を打ち続け――瞬く間に戦場から姿を消したのであった。
◇
正体不明の 異能 (シギル)を使うメイドは去った。
もはや身体の感覚はない。
もはや身体の感覚はない。
異能 (シギル)を使って心臓を無理矢理動かしてみたが、このあたりが限界か……。
そう悟ると、視界が反転――気がつくと視界には明け方の空が広がっていた。
「お、おじさん…大丈夫……?」
視界に入ってきたのは、この地で出会ったカタリナ・クラエスという少女。
仰向けに倒れた私を心配して駆け寄ってきたようだ。
仰向けに倒れた私を心配して駆け寄ってきたようだ。
本当に不思議な少女だ――自分を殺そうとした敵をここまで気遣うなんて……。
しかし、なぜ私は、身を挺して敵である彼女を護ってしまったのだろうか……。
鞭を扱う男とメイドの戦闘に介入したのも、何故だろうか……。
鞭を扱う男とメイドの戦闘に介入したのも、何故だろうか……。
脅威を確実に排除するため、などともっともらしい言い訳をしてみたが、この戦場にいる他者は全てが敵。
本当に優勝を目指すのであれば、あの場は決着がつくまで静観し、漁夫の利を狙う方が最善の選択だったのに違いない。
本当に優勝を目指すのであれば、あの場は決着がつくまで静観し、漁夫の利を狙う方が最善の選択だったのに違いない。
それなのに、なぜ理外の選択をしてしまったのだろうか……。
そうか――結局のところ、私は、私自身が気付かぬところでこの少女に魅入られていたのだな。
そして、彼女が目指す「バッドエンドの回避」というものに惹かれてしまったのかもしれない。
そして、彼女が目指す「バッドエンドの回避」というものに惹かれてしまったのかもしれない。
だからこそ――彼女を助け、護ってしまったのだろう。
「■■■■!■■■■!■■■■■■!■■■■!」
少女は何かを呼びかけているが、もはや何も聞こえない。
(願わくば――鈴音が、君のような愉快な学友と、共に過ごす姿を見てみたかったものだ……)
そう思いながら、私は深い眠気に身を任せるようにして目を閉じた。
【ヒイラギイチロウ@ダーウィンズゲーム 死亡】
◇
一連の闘争が終焉した魔法学園――その西側に位置する門。
本校舎を含む中心地は未だにメラメラと橙色の炎が彩っているが、此の地は炎に染まることなく閑散としている。
本校舎を含む中心地は未だにメラメラと橙色の炎が彩っているが、此の地は炎に染まることなく閑散としている。
「あら……生きてたのね、采配士さん」
「……。」
「……。」
門前で邂逅する二人の人影。
メイド服を黒い焦げ目と裂傷で飾られた十六夜咲夜は、門前で項垂れたように座り込むマロロへと声をかける。
事前に指定された待ち合わせ場所にたどり着いた二人だが、双方の状況から察しするに万事上手くいったとはいえないであろう。
メイド服を黒い焦げ目と裂傷で飾られた十六夜咲夜は、門前で項垂れたように座り込むマロロへと声をかける。
事前に指定された待ち合わせ場所にたどり着いた二人だが、双方の状況から察しするに万事上手くいったとはいえないであろう。
「全く…酷い目に遭ったのだけど……。 貴方が仲間に誘ったあの琵琶坂という男、早速裏切ってきたわ。 だから私は、あの男を勧誘するのには最初から反対したのよ……」
「……。」
「……。」
苛立ちを露わにして不平をぶつける咲夜であったが、反応はない。
マロロはただ項垂れたまま、物々と何かを呟いていた。
マロロはただ項垂れたまま、物々と何かを呟いていた。
「――ちょっと聞いているのかしら? マロロさん?」
「――違うでおじゃる……。あれは偽物の皇女殿下であって、オシュトルの傀儡……。 本物の皇女殿下は今も帝都におわすでおじゃる……。 マロは何も間違っていないでおじゃる……」
「マロロさんっ!」
「――違うでおじゃる……。あれは偽物の皇女殿下であって、オシュトルの傀儡……。 本物の皇女殿下は今も帝都におわすでおじゃる……。 マロは何も間違っていないでおじゃる……」
「マロロさんっ!」
咲夜が語気を強めて呼びかけると、マロロはハッと我に返ったように目を丸くし、咲夜を見上げた。
「にょほ、にょほほほほほ~。そうでおじゃるか……。 あの琵琶坂なる男――少しは利用できると踏んでいたが、マロの見込み違いでおじゃったか……。 それは咲夜殿には迷惑を掛けてしまったでおじゃるなぁ。 面目ないでおじゃる」
「貴方、本当に反省しているの? この貸しは高くつくわよ……」
「当然この埋め合わせは必ず行うでおじゃるよ、咲夜殿。 マロ達は義勇の士…ヤマトの正統なる後継者たる皇女殿下の名の元に、約束を反故することはないでおじゃるよ」
「貴方、本当に反省しているの? この貸しは高くつくわよ……」
「当然この埋め合わせは必ず行うでおじゃるよ、咲夜殿。 マロ達は義勇の士…ヤマトの正統なる後継者たる皇女殿下の名の元に、約束を反故することはないでおじゃるよ」
マロロが紡いだその言葉は、表面上は咲夜に向けてのものであったが、その実――疑念と戸惑いを打ち消すべく、自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。
咲夜は、そんなマロロの心情などを理解することもなく、「あら、そう」と不機嫌気味に聞き流した。
咲夜は、そんなマロロの心情などを理解することもなく、「あら、そう」と不機嫌気味に聞き流した。
「さてと……咲夜殿、もはや此の地に長居は無用でおじゃる。早々に立ち去りましょうぞ」
「――あら、もう火を放つのは宜しくて?」
「事情が変わったでおじゃる……。今この近辺には『怪物』がうろついているでおじゃる。否、『怪物』というよりは『災害』に近いものでおじゃるがーーともかく、あれとまともにぶつかるのは愚の骨頂。 我々は、彼の者が他の参加者を喰らいつくすまで、精々被害を受けぬよう避難をするのが賢明でおじゃる」
「――あら、もう火を放つのは宜しくて?」
「事情が変わったでおじゃる……。今この近辺には『怪物』がうろついているでおじゃる。否、『怪物』というよりは『災害』に近いものでおじゃるがーーともかく、あれとまともにぶつかるのは愚の骨頂。 我々は、彼の者が他の参加者を喰らいつくすまで、精々被害を受けぬよう避難をするのが賢明でおじゃる」
マロロの云う「災害」とは、他ならぬヤマト最強の 武士 (もののふ)ヴライである。
彼の将の気まぐれで命は繋いだものの、再会し戦闘になれば、如何に咲夜と連携を行ったとしても敵う相手とは思えない。
したがって、マロロは咲夜にこの場からの撤退を進言した。
彼の将の気まぐれで命は繋いだものの、再会し戦闘になれば、如何に咲夜と連携を行ったとしても敵う相手とは思えない。
したがって、マロロは咲夜にこの場からの撤退を進言した。
咲夜はと言うと、口下に手を添えて、少しだけ考える素振りを見せて、再度マロロにその鋭い視線を突きつけた。
「――まあ、いいわ。 その『災害』とやらについては後で詳しく説明して貰いたいところだけど…こちらとしても休息を取りたい訳だし、ひとまず、ここは貴方の提案に乗るとしましょう」
「流石は咲夜殿……。判断が早いのは助かるでおじゃる」
「おだててくれるのは嬉しいけど、次は『結果』で示してくれるかしら?」
「にょほほほほほ~、これは手厳しいでおじゃるな」
「流石は咲夜殿……。判断が早いのは助かるでおじゃる」
「おだててくれるのは嬉しいけど、次は『結果』で示してくれるかしら?」
「にょほほほほほ~、これは手厳しいでおじゃるな」
軽口を挟むマロロを無視して、咲夜は門を抜け、マロロも後を追う。
帰還を目指す従者と、復讐に燃える采配士は次なる戦場へと旅立つ。
しかし、マロロは気付いていない
否、気付こうとしていない。
否、気付こうとしていない。
先の間宮あかり、ヴライ、アンジュの亡骸との邂逅が、自身の冷徹な心にさざ波を生じさせているということに。
この動揺が、マロロの行く末にどのような影響を与えるのかは、今は誰にも分からない。
【B-3/魔法学園西門付近/一日目/早朝】
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(中)、全身火傷及び切り傷(小)、胸部打撲(中)、腹部打撲(中)
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(1/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:近場の施設へ移動し休憩。傷を癒したい。
1:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
2:博麗の巫女は今後のことを考えて無力化する
3:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(中)、全身火傷及び切り傷(小)、胸部打撲(中)、腹部打撲(中)
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(1/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:近場の施設へ移動し休憩。傷を癒したい。
1:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
2:博麗の巫女は今後のことを考えて無力化する
3:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
【マロロ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:オシュトルへの強い憎悪
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品3つ
[思考]
基本:オシュトルとその仲間たちは殺す
1:ミカヅチ殿とは合流したい
2:ヴライには最大限の警戒を
3:十六夜咲夜はいい具合に利用させてもらう。まあ最低限約束(博麗の巫女の無力化の手伝い)には付き合う
4:あの姫殿下が本物……?そんなことはあり得ないでおじゃる
5:間宮あかりとその一行を警戒
[備考]
※少なくともオシュトルと敵対した後からの参戦です
[状態]:オシュトルへの強い憎悪
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品3つ
[思考]
基本:オシュトルとその仲間たちは殺す
1:ミカヅチ殿とは合流したい
2:ヴライには最大限の警戒を
3:十六夜咲夜はいい具合に利用させてもらう。まあ最低限約束(博麗の巫女の無力化の手伝い)には付き合う
4:あの姫殿下が本物……?そんなことはあり得ないでおじゃる
5:間宮あかりとその一行を警戒
[備考]
※少なくともオシュトルと敵対した後からの参戦です
◇
行く宛もなく、どれ程歩いたのだろうか。
冷たくなったアンジュさんを背負いながら、私は火の海の中を彷徨っていた。
思い返せば、後悔しかない。
ヒイラギイチロウさんと戦ったときも――。
ヴライという人と対面したときも――。
マロロさんと戦ったときも――。
ヴライという人と対面したときも――。
マロロさんと戦ったときも――。
私が「武禎」であり続けることに拘らず、別の選択をしていれば――。
アンジュさんの死という最悪の結末を避けれたのではなかったのか、と。
アンジュさんの死という最悪の結末を避けれたのではなかったのか、と。
「――あかりちゃん……?」
気が付けば炎に塗れた森は脱していた。
目の前にはカタリナさんとココポ、見知らぬ男の人が立っていた。
目の前にはカタリナさんとココポ、見知らぬ男の人が立っていた。
カタリナさんは、私が背負っているアンジュさんが物言わなくなっていることを察して、口許を両手で覆っていた。
私は掠れた声で一言呟いた。
「ごめんなさい」と。
◇
早朝の市街地に鳴り響くエンジン音。
一台のワゴン車が、ゆっくりと塗装された道路を走っている。
正面から見ると普通のワゴン車にも見えるが、側部ドア部分は後からとってつけたような美少女キャラが描かれている。世間でいうところの「痛車」というものに該当するだろう。
一台のワゴン車が、ゆっくりと塗装された道路を走っている。
正面から見ると普通のワゴン車にも見えるが、側部ドア部分は後からとってつけたような美少女キャラが描かれている。世間でいうところの「痛車」というものに該当するだろう。
このワゴン車は本来ヒイラギイチロウに支給されたものであったが、その当人は既にゲームから脱落しており、その亡骸は後部座席に座らされており、醒めることのない永遠の眠りについている。
そしてその隣には、獣耳を生やした猛き皇女の亡骸が座している。
そしてその隣には、獣耳を生やした猛き皇女の亡骸が座している。
(チッ…! 仕方ないとはいえ、重々しい空気だ……。)
ワゴン車を運転する琵琶坂永至は、悲痛な空気が漂う車内の状況に、心の中で悪態をつく。
助手席に搭乗するカタリナ・クラエスは泣くだけ泣いて、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっており、その後ろの座席では間宮あかりが膝を抱えて俯いており、まるで生気を失ったように微動だにしない。
助手席に搭乗するカタリナ・クラエスは泣くだけ泣いて、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっており、その後ろの座席では間宮あかりが膝を抱えて俯いており、まるで生気を失ったように微動だにしない。
二人の少女は学園での一連の出来事に相当堪えているようで、合流後にまともな会話は行えていない。
ちなみにカタリナと一緒にいた怪鳥ココポは流石にワゴン車に乗せるには大きすぎるため、今はカタリナ支給品袋の中で眠りについている。
ちなみにカタリナと一緒にいた怪鳥ココポは流石にワゴン車に乗せるには大きすぎるため、今はカタリナ支給品袋の中で眠りについている。
今は後部座席に眠る二人の亡骸を埋葬するため、適切な場所を探すべく、学園から離れ南下をしている。
「僕も脅されていたとはいえ、悪女たちに手を貸してしまった立場だから、偉そうに言えた義理ではないけどーーー」
車中に漂う重苦しい空気に耐え切れず、琵琶坂は口を開く。
カタリナとあかりは、黙り込んだまま視線を琵琶坂へと向ける。
カタリナとあかりは、黙り込んだまま視線を琵琶坂へと向ける。
「彼女たちの死に、君たちが責任を負う必要はない。君たちは彼女たちによって生かされたんだ……。だから彼女たちの分も精一杯生きていかないといけない。それが残された僕たちが彼女たちの献身に報いるためのせめてものだと思う……。」
カタリナは鼻水を啜る音ともに「はい…」と言って、あかりは無言のまま頷いた。
所詮は気休めの言葉―――彼女たちの心に届いたか、まではわからない。
所詮は気休めの言葉―――彼女たちの心に届いたか、まではわからない。
(精々立ち直ってくれよ、カタリナ・クラエスに間宮あかり……。お前たちには俺が勝ち残るための糧となってもらうからな……)
琵琶坂は、折角手に入れた手駒二つ--自分が生き残るためにどのように有効活用すべきかを画策する。
その思考はこれまでの人生で、行ってきたことと変わらない。
散々使い倒した挙句、用済みになれば、ボロ雑巾のように捨ててしまえばよいだけの話だ。
その思考はこれまでの人生で、行ってきたことと変わらない。
散々使い倒した挙句、用済みになれば、ボロ雑巾のように捨ててしまえばよいだけの話だ。
――と、ここで琵琶坂は同伴者へのこれからの対応についての思考を打ち切り、次に十六夜咲夜について考察を始める。
(あの忌々しいメイドを地獄に叩き落とすためには、まずはあの鬱陶しい 能力 (ちから)をどうにかしないとな……)
先程は取り逃す形となってしまったが、今後再開する機会があれば激突は必至。
咲夜を打ち負かすためには、彼女が時折戦闘中に披露した正体不明の能力――あれについて対策を講じる必要がある。
咲夜を打ち負かすためには、彼女が時折戦闘中に披露した正体不明の能力――あれについて対策を講じる必要がある。
琵琶坂、その能力が使用されたと思える瞬間を二回、その肉眼で捉えていた。
一度目は、彼女とココポの戦闘の最中。
二度目は、ヒイラギイチロウを仕留めた時である。
二度目は、ヒイラギイチロウを仕留めた時である。
どちらも一瞬にして、空中に大量のナイフが出現し、獲物に向かい放たれたように見て取れた。
着目すべきはそこだけではない。
能力を使用されたとする咲夜自身も、ナイフが出現したと同時に、瞬間移動を果たしていたのである。
着目すべきはそこだけではない。
能力を使用されたとする咲夜自身も、ナイフが出現したと同時に、瞬間移動を果たしていたのである。
(自分を含めた物質を転移させた……? 或いは、瞬間移動に近しい超速で動き回り、アレを成し遂げた――? ええいっ、クソッ! もう少し深く観察する必要があったな)
何にしろまだ判断材料は足りない。
幾つかの可能性は思い当たるが、逆に今は可能性レベルというところまでしか考察はできない、と言える。
幾つかの可能性は思い当たるが、逆に今は可能性レベルというところまでしか考察はできない、と言える。
しかし――。
(必ずお前の能力を丸裸にして、殺してやるからな、クソメイドッ…!!!)
メイドという、他者に媚び諂う身分の分際で、自分に多大な屈辱を与えた咲夜は決して許すことは出来ない。
琵琶坂は激しい憎悪を胸に、彼女の抹殺を誓うのであった。
琵琶坂は激しい憎悪を胸に、彼女の抹殺を誓うのであった。
【C-3/市街地・ワゴン車内/一日目/早朝】
【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:運転中、顔に傷、全身にダメージ(中~大)、疲労(中)、鎧塚みぞれと十六夜咲夜に対する強い憎悪、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷
[服装]:いつもの服装(傷だらけ)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、渡草のワゴン車@デュラララ!!
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい
0:不本意だが、アンジュとヒイラギの埋葬を手伝う(とっとと終わらせたい)
1:この頭の軽そうな女ども(あかり、カタリナ)をどう利用するか、考える。
2:鎧塚みぞれは絶対に殺してやる。そのために鎧塚みぞれの悪評をばら撒き、彼女を追い詰める
3:あのクソメイド(咲夜)も殺す。ただ殺すだけじゃ気が済まない。泣き叫ぶまで徹底的に痛めつけた上で殺してやる
4:クソメイドと一緒にいた白塗りの男(マロロ)も一応警戒
5:他の帰宅部や楽士に関しては保留
6:他に利用できそうなカモを探してそいつを利用する
7:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
8:どういう訳か、今は敵意がないようなので、鳥(ココポ)への対処については一旦保留
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です
【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:運転中、顔に傷、全身にダメージ(中~大)、疲労(中)、鎧塚みぞれと十六夜咲夜に対する強い憎悪、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷
[服装]:いつもの服装(傷だらけ)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、渡草のワゴン車@デュラララ!!
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい
0:不本意だが、アンジュとヒイラギの埋葬を手伝う(とっとと終わらせたい)
1:この頭の軽そうな女ども(あかり、カタリナ)をどう利用するか、考える。
2:鎧塚みぞれは絶対に殺してやる。そのために鎧塚みぞれの悪評をばら撒き、彼女を追い詰める
3:あのクソメイド(咲夜)も殺す。ただ殺すだけじゃ気が済まない。泣き叫ぶまで徹底的に痛めつけた上で殺してやる
4:クソメイドと一緒にいた白塗りの男(マロロ)も一応警戒
5:他の帰宅部や楽士に関しては保留
6:他に利用できそうなカモを探してそいつを利用する
7:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
8:どういう訳か、今は敵意がないようなので、鳥(ココポ)への対処については一旦保留
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:精神疲労(大)、全身火傷(小)
[服装]:いつもの武偵校制服
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:カタリナさん、琵琶坂さんと共にアンジュさんとヒイラギさんを埋葬する
1:私がもっと強ければ……
2:ヴライ、マロロを警戒。もう誰も死んでほしくない
3:アリア先輩、志乃ちゃん、高千穂さんを探す。夾竹桃は警戒
[備考]
アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
[状態]:精神疲労(大)、全身火傷(小)
[服装]:いつもの武偵校制服
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:カタリナさん、琵琶坂さんと共にアンジュさんとヒイラギさんを埋葬する
1:私がもっと強ければ……
2:ヴライ、マロロを警戒。もう誰も死んでほしくない
3:アリア先輩、志乃ちゃん、高千穂さんを探す。夾竹桃は警戒
[備考]
アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
【カタリナ・クラエス@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
[状態]:軽症(腹部)、左脚に裂傷(小)
[服装]:いつものドレス姿
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一色、まほうの玉×4@ドラゴンクエストビルダーズ2
、ココポ@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品2つ
[思考]
基本:さっさとこの殺し合いから脱出したい
0:あかりちゃん、琵琶坂さんと共にアンジュちゃんとヒイラギさんを埋葬する
1:アンジュちゃん……おじさん……。
2:琵琶坂さんは一見優しそうに見えるけど、メイドさんへの言葉遣いを聞く限りだと少し怖い
3:ヴライ、十六夜咲夜を警戒
4:マリア、ジオルド、キース、メアリが心配
[備考]
※試験直後からの参戦です
[状態]:軽症(腹部)、左脚に裂傷(小)
[服装]:いつものドレス姿
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一色、まほうの玉×4@ドラゴンクエストビルダーズ2
、ココポ@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品2つ
[思考]
基本:さっさとこの殺し合いから脱出したい
0:あかりちゃん、琵琶坂さんと共にアンジュちゃんとヒイラギさんを埋葬する
1:アンジュちゃん……おじさん……。
2:琵琶坂さんは一見優しそうに見えるけど、メイドさんへの言葉遣いを聞く限りだと少し怖い
3:ヴライ、十六夜咲夜を警戒
4:マリア、ジオルド、キース、メアリが心配
[備考]
※試験直後からの参戦です
【ココポ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:カタリナの支給品袋の中で休息中、ダメージ(大)、疲労(大)、全身火傷(大)、全身に複数の刺し傷
[思考]
基本: アンジュの命令に従いカタリナとあかりを守る
1:カタリナとあかりを守る
2:理由は不明だが、琵琶坂が怖い
[備考]
※ヒイラギによる洗脳は完全に解けました、ただし琵琶坂との戦闘を含む、洗脳中の記憶は欠落しています
※参戦時期は以降の書き手様にお任せします
[状態]:カタリナの支給品袋の中で休息中、ダメージ(大)、疲労(大)、全身火傷(大)、全身に複数の刺し傷
[思考]
基本: アンジュの命令に従いカタリナとあかりを守る
1:カタリナとあかりを守る
2:理由は不明だが、琵琶坂が怖い
[備考]
※ヒイラギによる洗脳は完全に解けました、ただし琵琶坂との戦闘を含む、洗脳中の記憶は欠落しています
※参戦時期は以降の書き手様にお任せします
前話 | 次話 | |
異文化交流会 | 投下順 | 撫子乱舞 -凛として咲く華の如く(後編)- |
前話 | キャラクター | 次話 |
炎獄の学園(下) | カタリナ・クラエス | 侵食する黒いモノ |
炎獄の学園(下) | 間宮あかり | 侵食する黒いモノ |
炎獄の学園(下) | ヒイラギイチロウ | GAME OVER |
炎獄の学園(下) | ヴライ | 限界バトル |
炎獄の学園(下) | マロロ | 混沌への導火線 |
炎獄の学園(下) | 十六夜咲夜 | 混沌への導火線 |
炎獄の学園(下) | 琵琶坂永至 | 侵食する黒いモノ |