バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

混沌への導火線

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kyogokurowa

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『それでは皆様、次は正午の放送でまたお会いしましょう、ご機嫌よう〜。』

底知れぬ悪意を孕んだ別れの挨拶で締めて、テミスによる放送は終わった。
そして、それに取って代わってμによるライブが始まる。

コスモダンサー。

オスティナートの楽士ウィキッドが抱える暴力性を顕現したかのような楽曲が、静寂に包まれた会場内に炸裂している。
まるで爆竹かのように、けたたましく響くμの歌声―――そんな騒々しい朝に、映画館を背景として、鎧塚みぞれ、オスカー・ドラゴニア、鈴仙・優曇華院・イナバは、三人揃って小難しい顔を浮かべていた。
μの歌が耳障りなのは確かであるが、彼らが顔を顰める原因の大半は、先程の放送の内容にあった。

「あすか先輩……」

先程の放送における死亡者発表。みぞれの知り合いの名前は二人呼ばれた。
一人は傘木希美。みぞれにとってはかけがえのない「大切な親友」。琵琶坂永至という人の形をした悪魔によって、彼女が命を散らしたところは目に焼き付いている。
しかし、改めて死亡者としてその名前が読み上げられると、もう彼女には会うことが出来ないということを思い知らされ、胸が張り裂けそうになる。
そして、もう一人は田中あすか。北宇治の吹奏楽部のOB兼元副部長。
希美の死と一緒に発表されているということから、彼女の死についても信憑性は高いと言える。
彼女とは特別親しいという間柄という訳ではなかったが、全国大会を目指し、苦楽を共にした「仲間」であったことは間違いない。だからこそ、彼女の死にみぞれは心を痛めた。

「そう、彼女達は逝ってしまったのね……」

魔法使いと白玉楼の庭師が死んだ。その事実に鈴仙は歯噛みする。
身内というほどではないが、同じ幻想郷の住人である。彼女達の死に思うところがないと言うと、それは嘘になる。
しかし、それ以上に、曲者である彼女達がこうも早々と退場したことに戦慄し、改めてこの殺し合いが如何に過酷なものであるかを実感したのであった。

「……。」

オスカーは特に言葉を発することはなかった。
エレノア・ヒュームの死亡については、複雑な心境を抱いた。
今や彼女は「聖寮」を裏切り、「災禍の顕主」一向と行動を共にする裏切り者だ。
しかし、彼女と同僚であった頃は、関係は良好であったし、彼女の誠実さと生真面目さは嫌いではなかった。
エレノアのことだ、きっと殺し合いには反対して、行動を起こしていたに違いない。
そんな彼女の死を。敵ながら悼むべきか、せざるべきか、葛藤していたのであった。

三者三様で思いを馳せる中、μのライブは終焉を迎える。

「これから、どうします……?」

暫しの重い沈黙を挟んで、口を開いたのは鈴仙であった。

「本来であれば、魔法学園での探索の後、東のルートで遊園地に向かう予定ではあったが――」

オスカーは顎を手に乗せ、自分の考えを整理するように語る。

「C-4エリアとB-5エリアが禁止エリアに指定された今、考えを改めるべきだな。
両エリアが封鎖されることで、両方に隣接するB-4エリアに参加者が集まる可能性がある。
殺し合いに乗っていない参加者が集まるだけであれば、それに越したことはない……。
しかし、同時に危険人物が集まる可能性も否めない。
無用な戦闘を避けるのであれば、別ルートを検討すべきだと、私は考える。」

「それなら…さっき放送で触れられていた渋谷駅に配置される電車を使うっていうのは……?」

みぞれからの提案に、オスカーは首を横に振る。

「私は『電車』というものを詳しく知らない。しかし、主催者や君の口振りからすると、大型の移動手段と理解している。であれば、その選択肢も却下だ。
先程の放送によって、渋谷駅周りと『電車』はより多くの参加者に注目されることになるだろう。つまり――」
「此処も多くの参加者が集まる分、危険人物と遭遇する可能性も高いってことですよね」

遮るような形で、鈴仙が結論を述べ、オスカーは首肯する。

「ああ、だから『電車』の利用は避ける。魔法学園での探索後は、速やかに南下し、『蝶屋敷』と『墓地』を経由しつつ、『北宇治高等学校』を目指したいと考えるが、如何だろうか?」
「まぁ、少し遠回りになるかもですが、それが妥当でしょうね。みぞれさんは、どうです?」
「私も異論はないです……」
「――決まりだな……」

方針は定まり、オスカー、鈴仙、みぞれの三人は魔法学園を目指し、暫し拠点としていた映画館を発った。

朝の陽射しが照らす路面を三人は歩んでいく。

如何せん、ここは殺し合いの場だ。道中の三人の表情は重い。
中でも、みぞれは特に沈んだ表情を浮かべている。
親友を目の前で殺され、先輩の名前も死亡者として読み上げられているので、無理はないかもしれない。しかし、原因はそれだけではない。

(……黄前さんと高坂さん……無事だと良いけど……)

みぞれは、部活の後輩である、久美子と麗奈の身を案じていた。
幸いなことに、二人の名前はまだ呼ばれていない。しかし、彼女達は、みぞれと同様に殺し合いとは無縁の世界の住人である。
みぞれは、成り行き上、自衛するための力を得ることができたが、そんな奇跡的な出来事はそう易々と起こることはありえない。
願わくば、一般人たる久美子達が、琵琶坂永至のような狡猾な人間や、ヴライのような災害に出会うことなく、あわよくば、オスカーや鈴仙のような善良な参加者に保護されていることを、みぞれは祈るばかりであった。




テミスによる第一回放送は、会場全体に例外なく響き渡った。
当然、その放送内容は、魔法学園を出て西へ移動していた十六夜咲夜とマロロの二人の耳にも入った。

「嘆かわしい……実に嘆かわしいでおじゃる」

μによる『コスモダンサー』のライブが会場内に鳴り響く中、マロロは阿修羅の如きその面相を歪める。

「――何が、『嘆かわしい』というのかしら、采配師さん?」

現在進行で耳をつんざくような大音量で披露されるμの歌声の中、マロロの隣に佇む咲夜は、怪訝な表情で彼の発言の意図を尋ねる。

「先の放送に嘘偽りがないということであれば、あの偽皇女を除き、逆賊オシュトルとそれに与する者どもは、未だに存命ということになるでおじゃる。ヤマトに仕える身として、これは実に嘆かわしいでおじゃる。ヤマトの安寧を害する俗物どもめ……!やはりマロが直々に天誅を下し、 地獄 (ディネボクシリ)へと叩き落すでおじゃる!」

怨恨を込めて息巻くマロロ―――復讐という狂気に憑りつかれたその姿を目の当たりにし、咲夜は一言「そう…」と適当に相槌を打っておく。
マロロの事情などは知ったことではないが、この狂気の矛先が自分に向かない間は、精々有効活用させてもらおうとしよう--そのように思考しつつ、咲夜は先の放送を振り返る。

(ゲーム開始から6時間が経過して脱落者は13名で、残りは62名……。ペースとしては順調といったところかしら……。)

この殺し合いに咲夜の知己と言える参加者は存在しない。唯一博麗の巫女が生きているかどうかは気になるところではあるが、基本的には脱落者と生存者の数に重点をおいて状況を分析する咲夜にとって、『誰』が死んだかなどはあまり重要な事柄ではなかった。

(――であれば、私達のように『乗った側』の人間も相応に多いはず……)

μによるライブは幕を閉じ、第一放送は終わり、騒々しい雑音が耳に入らなくなった。
そんな中、咲夜は、今後の自身の立ち振る舞いについて再考する。
第一放送という節目を迎えたとはいえ、ゲームはまだ序盤も序盤。ここからゲームが進行するにつれて、勝ち残った参加者による殺し合いは、より一層過酷で激しいものに昇華されていくことだろう、それこそ血みどろの闘争と称せるほどに。
一方で、咲夜は魔法学園での連戦により、手負いの状態だ。投擲するナイフも消耗している。本気で勝ち残りを狙うのであれば、参加者の間引きについては他の『乗った側』の人間に任せて、終盤に向けて力は温存した方が良いだろう。
勿論殺せるチャンスがあれば、それに越したことはないが、徒党を組む連中や難敵相手に無茶をすると、先の琵琶坂永至達と対峙した時のように、手痛い反撃を受ける可能性もある。

(采配士さんが言うには、魔法学園周辺にはヴライという危険人物がウロついているようだから、これから他の参加者と出会うことがあれば、そちらに誘導するのも手かしらね……。問題は―――。)

そのように今後の戦略を組み立てていく咲夜は、チラリと隣を一瞥する。
マロロは相変わらず仇敵への恨み言を、呪詛のように繰り返している。

(この男の復讐の対象が目の前に現れた時に、どう対処するべきか……かしら)

マロロの第一目標はオシュトルという男達一行の殺害。もし連中と鉢合わせすることがあれば、戦闘になることは必至だ。
その際に昨夜自身はどのように動くべきか―――貴重な同盟相手ではあるが、場合によっては切り捨てることも視野に入れた方が良いかもしれない。

そんなことを考えながら、咲夜はマロロと共に移動を再開するのであった。




片や、映画館を出発して魔法学園に向かうオスカー達一向。
片や、『災害』から逃れるため、魔法学園から西側へと移動していたマロロと咲夜。
二つの集団が遭遇したのは、第一放送が終わって一刻ほど経過した後だった。
当初は、思いもよらぬ鉢合わせに両陣営とも牽制し合うような形で対峙することとなったが、それはほんの一瞬のこと。

「っ!?誰かと思えば、あなたでしたか、紅魔館のメイド!」

相手方に見知った姿を認めた鈴仙は声を上げる。
思いもよらぬ鈴仙の反応に、ピンと張り詰めていた空気が少し揺らぎ、一同の視線は声掛けされた咲夜へと向けられる。
しかし、咲夜当人はというと、ピクリと眉を顰めて、訝しげに視線を鈴仙に向けているだけ。

「ふむ…このシャクコポル族の女性と知り合いでおじゃるか、咲夜殿?」
「はぁ?シャクコポル……?」

シャクコポル族とは、マロロが住む世界に存在するヒトの部族のこと。
兎のような耳が特徴のため、マロロは鈴仙のその容姿から、彼女をシャクコポル族と認識したのだが、咲夜はおろか鈴仙本人も、そんなことなど知る由もなく、首を傾けている。

「そのシャクコポル族のことはよく知らないけど、この子とは初対面のはずよ……あなた、誰かしら?」
「えっ?いやいや、私ですよ、私!永遠亭の鈴仙・優曇華院・イナバですよ!同じ幻想郷の住人の!知らない仲じゃないでしょうに……」

困惑しながらも鈴仙が問いかけると、今度は逆に「何を言っているんだコイツ」とでも言いたげに、より一層表情を険しくする。

「永遠亭……?鈴仙……イナバ……?」
「…………」

咲夜は、暫し首を傾げるも、記憶の中に該当する名前は浮かんでこないのか、「知らないわ」と短く答えるのであった。
全く会話の噛み合わない咲夜に、鈴仙は戸惑いを覚えるが、ハッとした表情を浮かべる。。
咲夜の不可解な反応について、とある可能性に行き着いたからだ。

「……察するに、君たち二人の時間軸がズレているというところか……」
「――そういうことのようですね……」

一連のやり取りを観察していたオスカーがそのように結論付け、鈴仙もまた肯定する。
例え知り合いであったとしても、呼び出された時期が異なる可能性については、放送前の考察で危惧をしていた。そして、十六夜咲夜との邂逅にて、その懸念が的中してしまったようだ。

「――時間軸がずれているとはどういうことでおじゃる?」

二人のやりとりを傍観していたマロロは、オスカーの発言に対して疑問を投げかける。

「……言葉通りの意味だ。鈴仙とそこの彼女…咲夜だったか?二人の元いた場所は同じだが、呼び出された時期が異なっているようだ」

そして、オスカーは自らが見立てた推測に基づき、かいつまんで説明し始める。
主催者は時間を超越する力を有している可能性があるということ。
鈴仙は少なくとも、咲夜と知り合った後の時間軸からこの殺し合いに呼び出されているということ。逆に咲夜は鈴仙と知り合う前の時間軸から呼び出されているということ。
故に二人の認識にズレが生じているということ。

「――とここまでが、私が見立てた仮説だが、如何だろうか?」

オスカーが一旦言葉を区切ると、咲夜を除く三人は納得顔を浮かべていた。
確かに先程までの会話の違和感の正体はこれだったのか、と各々合点がいった様子である。

「なるほど……この遊戯の黒幕は時の流れに干渉する力をも保有しているということでおじゃるな」

マロロも得心がいったようで、腕を組みつつ頷く。
一方の咲夜はといえば、取り敢えずオスカーの言葉に、理解は示し、今自分が置かれた状況も把握できたようにも見受けられるが、未だ気難しそうな表情を浮かべながら、何やら考え事をするような仕草を見せていた。傍から見れば無理もない。自分にとって初対面であるはずの相手が、自分とは知り合いの間柄だと一方的に主張する様子は、違和感しかないのだから。咲夜の心情を鑑みるにそれは致し方ないことではある。

「少し…スッキリしないところはあるけど、これ以上深掘りするのも不毛だし――話を変えましょう。あなた達はこの殺し合いには乗っていないと考えていいの?」

咲夜は思考を切り上げて話題変換を図ると、鈴仙とオスカーとみぞれの三人組を睨みつける。その冷たい眼光にみぞれはビクリと動じる。
返答次第では、この場を戦場に変える覚悟すら垣間見える―――そんな鋭利な視線ではあるが、オスカーと鈴仙は目を逸らすことなく、真っ直ぐに咲夜と向き合う。

「あぁ……私達は殺し合いには乗っていない……一等対魔士オスカー・ドラゴニアの名において誓おう!」

代表者たるオスカーの堂々たる宣誓を受けて、咲夜は、表情は固いままであるが、「そう…」と呟いて、三人に向けての警戒を緩める。

「こちらとしては、あなた達が殺し合いに乗るような愚かな連中でないなら、問題ないわ……。当然私たちもこの殺し合いには乗っていない……であれば、お互いの今後のため、少し情報交換をしたいのだけど、良いかしら?」

続けて発せられた、咲夜の提案。
それを受け、三人は顔を見合わせ互いに首肯すると、

「ああ、我々としても願ったり叶ったりだ……」

と承諾の意思を示す。

「マロロさんも、それで良いわよね?」

咲夜は確認するように振り返って尋ねる。それを受けたマロロは無言でコクりと首を縦に振る。
かくして、二つの参加者グループは軽い自己紹介を交えつつ、情報共有を開始する運びとなった。




「――つまり、君たちは魔法学園で、琵琶坂永至が率いる集団に襲撃され手傷を負い、此方に避難してきたという訳か」
「ええ……あの琵琶坂という男には、してやられたわ」

両グループはこの殺し合いにおいて、見聞きした情報を交換。
オスカー達は、実際にこの殺し合いで出会った危険人物として、映画館にて希美を殺害した琵琶坂のこと、そして言わずもがな三人を苦しめた仮面の漢ヴライのことを話した。
これに対して、咲夜が、殺し合いに乗って危険人物として提示したのは、琵琶坂永至とその一行のことであった。
咲夜の口から、琵琶坂の名前が告げられると、みぞれはピクリとその身体を反応させた。

「みぞれ……君はどう思う?」
「炎を操る能力と鞭……希美を殺したあの人で間違いないと思います……」
「まさか、あなた達も、あの卑劣漢の被害を受けていたとは、思いもよらなかったわ」
「……」

さしずめ琵琶坂永至被害者の会といったところで、互いに苦々しい表情を浮かべる。
特にみぞれは、拳を固く握り、わなわなと震えていた。

「そして、その琵琶坂と結託していたというのが、植物使いの男と、目つきの悪い貴族風の少女か……。前者には心当たりはないが、後者は恐らく―――」
「外見の特徴や服装からして、カタリナ・クラエスさんですよね。あの映画に映っていた……」

オスカーの言葉を遮るように、鈴仙は口を挟む。

「彼女のこと、知っているの?」
「ええ、まぁ……。二人はこれから映画館に行くんですよね?さっきまで私たちもあそこにいたのですが、不思議なことに、そこで上映されている映画に彼女が出てくるんですよね……」

鈴仙が語った奇天烈な内容に、咲夜は「お前は何を言っているんだ」と言わんばかりに、眉をひそめた。

「いやまぁ、そういう反応になるのも無理ないですけど、こればかりは、自分の目で確かめろとしか言いようがないです……」

鈴仙は困ったような笑みを浮かべて、咲夜に弁明する。

「まあ良いわ……、どちらにせよ、映画館に着いたらすぐに分かることだろうから……」

オスカー達との情報交換に一区切りついたと判断した咲夜は、マロロを一瞥した後、映画館に視線を向けた。

「それじゃあ、私たちはこれで失礼するわ。またいずれ、会えることを祈っているわ」
「ああ、道中気を付けて」
「お互いにね」

咲夜はオスカー達に軽く会釈すると、マロロを引き連れてその場を後にした。
その後ろ姿を、オスカー達は黙って見届けるのであった。




映画館に到着した咲夜は、魔法学園で負傷した傷に手当てをするべく、館内を調べた。
幸いなことに、スタッフルームと思わしき部屋にて、救急箱を発見した。
そして、そこから一通りの応急処置を済ませた咲夜は、劇場前のロビーの椅子に腰掛けるマロロの元へと戻る。
そんな彼女に対してマロロは開口一番、問いを投げかけた。

「咲夜殿、先程の連中は放っておいても良かったでおじゃるか?」

咲夜は眉を顰めて、マロロを睨みつける。

「今更になって、それを聞く?さっきの会合で、積極的に発言しなかった、あなたが?」
「それは咲夜殿の出方を伺っていたのでおじゃるよ。マロの目的は、オシュトルとその一味の討伐―――彼奴らが、オシュトルの情報を持ち合わせなかった時点で興味はなかったでおじゃるが…盟友たる咲夜殿が彼の者達と事を構えるということであれば、マロも手を貸すのはやぶさかではなかったでおじゃる」

「盟友」などと、心にもないような単語を使い、取り繕うマロロ。
そんな彼の態度に、咲夜は一瞬不快感を示すも、「まぁ良いわ…」と溜息をして、どうにか堪える。

「最初は、情報だけ引き出したら始末するつもりだったわよ。ただあの兎――時間のズレ?か何か分からないのけど、私のこと知っているようだったし……仮に、私の能力も彼女に知られているとなれば、彼女らと一戦交えるのは、骨が折れると考えたのよ」
「連中にヴライのことを伝えなかったのは意図的でおじゃったか?」
「正解。聞けば聞くほど危ない漢のようだし、それを伝えてしまうと、彼ら魔法学園方面には行かなくなるでしょ?私としては、彼らには、そのヴライか、琵琶坂一味と潰し合って貰いたいのよ」
「自ら手を下さず、最小限の労力で勝利をもぎ取る……兵法を弁えておじゃるな、流石は咲夜殿」

本気かどうかとも思えない賛辞に、咲夜は「はいはい」と軽く受け流しつもも、先の鈴仙達の会話をふと思い返す。
鈴仙達の情報が真実だとすると、この映画館では、参加者の一人であるカタリナ・クラエスが出演する映画が上映されているらしい。魔法学園での一連の交戦においては、無力な女という印象しかなく、脅威になるとは思えないが、休息がてら他の参加者の情報を得るのも悪くはないだろう―――。

そのように結論づけ、咲夜は同行者に映画の鑑賞を提案しようと口を開こうとするが、

「それにしても、咲夜殿、先程の会合の時から、マロはずっと気になっていたのでおじゃるが……」

その前にマロロから言葉を被せられてしまう。
「何かしら?」と首を傾げる咲夜に対して、マロロは心底不思議そうな表情を浮かべたまま、質問を投げかけた。

「そも『映画』とは何でおじゃるか……?」
「……。」

咲夜は、改めて同行者との文明の違いを悟り、嘆息するのであった。


【B-2/映画館/一日目/朝】
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(中)、全身火傷及び切り傷(処置済み)、胸部打撲(処置済み)、腹部打撲(処置済み)
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(1/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:暫くは此処(映画館)で休憩
1:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない
2:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
3:博麗の巫女は今後のことを考えて無力化する
4:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す
5:鈴仙達については暫く泳がせておき、琵琶坂達やヴライと潰し合ってもらう。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました


【マロロ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:オシュトルへの強い憎悪
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品3つ
[思考]
基本:オシュトルとその仲間たちは殺す
0:暫くは此処(映画館)で休息を取る。しかし、映画とは何ぞ……?
1:ミカヅチ殿とは合流したい
2:ヴライには最大限の警戒を
3:十六夜咲夜はいい具合に利用させてもらう。まあ最低限約束(博麗の巫女の無力化の手伝い)には付き合う
4:あの姫殿下が本物……?そんなことはあり得ないでおじゃる
5:間宮あかりとその一行を警戒
[備考]
※少なくともオシュトルと敵対した後からの参戦です
※オスカー達と情報交換を行いました
※鈴仙をシャクコポル族のヒトと認識しております




「ズバリ言うと、彼女達は殺し合いに乗っていますね」
「何っ!?」
「えっ……?」

咲夜達の後ろ姿が見えなくなった頃、鈴仙は二人に告白した。
驚きの声を上げるオスカーとみぞれ。
そんな二人に鈴仙は淡々と、語り始める。

「先程彼女が伝えてきた情報―――真実も少なからず含まれていますが、『殺し合いに乗っていない』というのは、真っ赤な嘘でした。本人はうまくやり過ごしたつもりかもしれませんが、私の目はごまかせません。」

そう言いつつ、鈴仙は得意げな表情を見せる。その様はさながら、犯人を言い当てた名探偵のように自信に満ち溢れているようにも見受けられた。

「君が前に言っていた『波長を操る程度の能力』で見抜いたという訳か……しかし、待ってくれ、鈴仙。君は何故、彼女が嘘をついていると見抜いた上で、敢えて見逃したのだ?」
「さっきオスカーさんが言ってたじゃないですか、無用な戦闘は回避したいって。
もしも、あの場で、『嘘吐くな、あなたは殺し合いに乗ってるでしょ』なんて言うもんなら、絶対修羅場になっていたでしょうに……。だから、敢えて彼女の嘘は指摘しなかったんですよ。幸いなことに、向こうも私達と交戦する意思はなかったようですし」

オスカーからの問いかけに、事もなげに答える鈴仙。
その説明に、オスカーも合点がいったようで、「確かに……」と腕を組みながら、静かに目を瞑る。
そんな中、みぞれが手を挙げて、質問を投げかける。

「あの……咲夜さんが、鈴仙さんと面識がないって言ってたのは……」
「あーどうやら、それは、本当のようです。彼女は間違いなく、私の知っている時間軸よりも、過去から来ています。それと、琵琶坂永至がカタリナ・クラエスらと結託して、徒党を組んでいるのも事実のようです」

再び琵琶坂の名前が、鈴仙の口から告げられると、みぞれはまたしてもピクリと反応する。
それを横目に、オスカーが口を挟む。

「ふむ…殺し合いに乗った側の人間に与しているという訳か……勿論、彼女が『転生された後』の方のカタリナ・クラエスで、悪漢に利用されているだけの可能性も否めないため、断定するのは早計だが…転生されていないカタリナ・クラエスであることを念頭に、警戒するに越したことはないな」

琵琶坂永至とカタリナ・クラエス―――伝聞で得た情報だけで鑑みると、個々の戦闘力については脅威にはなり得ない。しかし、何かと悪知恵働く二人が手を結び、『乗っていない側』の人間を巻き込んで、徒党を組んだということであれば、話は変わってくる。
例えば、琵琶坂永至が率先して、みぞれの悪評を参加者間に吹聴するようであれば、今後いらぬ火の粉が降りかかる可能性が憂慮される。

「もう一つ気になる点が…。彼女が提示してきた魔法学園で遭遇した参加者は三名―――琵琶坂永至、カタリナ・クラエス、植物使いの男。だけど、それ以外の参加者とも遭遇していて、敢えて情報を伏せていた節があります。そして、恐らく伏せられた人物は―――。」
「あの仮面の巨漢か……」

三人の脳裏に浮かぶ、仮面を纏う怪物の姿。
先程はみぞれの活躍もあって、どうにかあの 武士 (もののふ)を退けることが出来たが、その鬼神の如き強さは記憶に新しい。
その名は先の放送で呼ばれることはなかったため、今も尚、健在ということになる。

「はい…私達があの仮面の漢の話をした時、彼女らの『波長』に乱れが生じました。反応から察するに、既に知っていたものと考えられます。つまりは――」
「あの漢は、私達に撃退された後、魔法学園で暴れ回っていた、と……。そして、十六夜咲夜達はその情報を伏せていた―――狙いは、奴と私達を鉢合わせ、潰し合わせるため……といったところか」

咲夜の腹黒い策謀を読み解いていくオスカー。
その推論に、鈴仙は苦虫を潰したような表情で同意する。

「そう考えるのが自然だと思います。まったくもう!冷血なあのメイドが考えそうなことですよ」
「…いずれにせよ、彼女が我々の敵であることに変わりはない。今回は、荒事にはならなかったが、次に会う時は刃を交えることも覚悟した方が良いな……」

オスカーが、咲夜達が去っていった方向を見据えながら、苦々しげに呟くと、みぞれと鈴仙は緊張した面持ちで頷いた。
そして、次に直近の行動方針についてオスカーは改めて思考する。

(新たに得た情報を整理すると、魔法学園周辺にはまだヴライがいる可能性がある。であれば、このエリアに長らく止まらず、すぐに南下して蝶屋敷を目指すべきか?しかし、カタリナと琵琶坂永至の集団も付近にいるはず……今後の為には、こちらを処理した方が良いか?)

選択肢は二つ。
一つは、先程打ち出した通り、魔法学園内の探索。これは、琵琶坂永至及びカタリナ・クラエスの集団の捜索のためだ。今後の会場内での行動に支障をきたす可能性の芽は早いうちに摘んだ方がよい。しかし、これはヴライと再遭遇というリスクが伴う。
もう一つは、極力争いを避け、まずは『蝶屋敷』、次に『墓地』を経由して最速で目的地『北宇治高等学校』を目指す選択である。

オスカーは今この状況でどちらが最善なのかを思考し、結論を導きだした。
そして、その内容を仲間の少女達に告げる。

「二人とも、次の目的地のことだが―――」

このオスカーが下した判断が、果たして、三人にどのような顛末を与えるか、この時は誰も分からない。


【B-2東部/朝/一日目】

【鎧塚みぞれ@響け!ユーフォニアム】
[状態]:一部分が銀髪化
[服装]:制服姿
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、カーラーン金貨@テイルズオブベルセリア、ジークフリード@テイルズオブベルセリア
[思考]
基本:この殺し合い"のフィナーレを演奏する"を必ず止める
0:まずは今後の行動方針について、オスカーの提案を聞いてみる。
1:出来れば殺したくない
2:琵琶坂の事は―――
3:黄前さん、高坂さん、無事でいて……。
[備考]
※『リズと青い鳥』、新山先生の指導後からの参戦です
※魔力に目覚めました。氷の剣は自分の意志で構成又は消滅が可能です
※後遺症で髪の一部分が銀髪化しました
※『はめふら』世界とその登場人物に対する知識を得ました

【鈴仙・優曇華院・イナバ@東方Projectシリーズ】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品3つ
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない
0:まずは今後の方針について、オスカーの提案を聞いてみる。
1:『災禍の顕主』とその仲間たちは警戒
2:呼び出された時期による対立を懸念。
3:あの化け物(ヴライ)があれで素直に倒されたとは思えない
4:殺し合いに乗っている十六夜咲夜とマロロを警戒。今後交戦する可能性も視野。
[備考]
※紺珠伝以降からの参戦です
※『はめふら』世界とその登場人物に対する知識を得ました

【オスカー・ドラゴニア@テイルズオブベルセリア】
[状態]:一部骨折
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:殺し合いは必ず止める
0:このまま、魔法学園に行くか、それとも南下して蝶屋敷に向かうべきか、二人に告げる。
1:『災禍の顕主』とその仲間たちは最大限警戒。
2:カタリナ・クラエス……殺し合いに乗っている男と手を組んでいるということは『転生される前』なのか―――。
3:カタリナ・クラエスの関係者が殺し合いに乗る可能性も考慮
4:呼び出された時期の違いによる差異を懸念
5:もし災禍の顕主一味がリオネル島の頃から呼び出されたのなら、姉の事を問い詰めなければならない
6:殺し合いに乗っている十六夜咲夜とマロロを警戒。今後交戦する可能性も視野。
[備考]
※死亡後からの参戦です
※支給品のはかぶさの剣@ドラゴンクエストビルダーズ2は、ヴライとの戦闘で破壊されました。
※『はめふら』世界とその登場人物に対する知識を得ました
※オスカーが、次の目的地として進言する場所は次の書き手様に、お任せします。

前話 次話
とくべつになった少女 投下順 トラゴイディア-The beginning-(前編)

前話 キャラクター 次話
あの向こうの色を見る為に 鎧塚みぞれ 崩壊序曲
あの向こうの色を見る為に オスカー・ドラゴニア 崩壊序曲
あの向こうの色を見る為に 鈴仙・優曇華院・イナバ 崩壊序曲
炎獄の果てに マロロ 詐謀偽計
炎獄の果てに 十六夜咲夜 詐謀偽計
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