祭具殿の中は真っ暗で鷹野三四がもっている角灯(ランタン)の灯りで、そこが狭い前室だとわかった。
「真っ暗だね、転ばないように気をつけるんだよ」
「ご心配ありがとう、――じゃあ門番をよろしくね。ここ、閉めるわよ」
鷹野三四は嗤い乍ら(ながら)扉を閉めていく。
――やれやれ・・・、富竹の声が少しずつ遠ざかり
「真っ暗だね、転ばないように気をつけるんだよ」
「ご心配ありがとう、――じゃあ門番をよろしくね。ここ、閉めるわよ」
鷹野三四は嗤い乍ら(ながら)扉を閉めていく。
――やれやれ・・・、富竹の声が少しずつ遠ざかり
――扉は閉められた。
扉が閉ざされる事で辺りには闇と閉塞感が漂いだした。
鷹野三四がもつ角灯の光で世界が揺れる。
鷹野三四がもつ角灯の光で世界が揺れる。
前室の奥には古い乍らも頑丈そうな、厳かな装飾のされた、重そうな扉があった。
――奥にあるモノを封じ込める、最後の砦のようだ――
「ただの倉庫なのに前室があるなんて変わっているでしょう。
――1枚ずつ扉を出入りさせる事によって、中が外に見えないようにしているのよ」
鷹野三四が語る。
――奥にあるモノを封じ込める、最後の砦のようだ――
「ただの倉庫なのに前室があるなんて変わっているでしょう。
――1枚ずつ扉を出入りさせる事によって、中が外に見えないようにしているのよ」
鷹野三四が語る。
私は暗い壁ぞいにある切替(スイッチ)を見つけた。
――これは、何の気なしに入れてみると上に吊されている電球に灯が点り、世界は光に包まれた。
私の暗闇に慣れていた眸にはあまりに眩しかった。
――これは、何の気なしに入れてみると上に吊されている電球に灯が点り、世界は光に包まれた。
私の暗闇に慣れていた眸にはあまりに眩しかった。
すると鷹野三四は私の手に触れると、その上から切替を切った。
「関口さん、私たちは忍び込んでいるのよ、明るいのもいいけど――今は、ね――」
鷹野三四が私の耳元で囁いた。
「関口さん、私たちは忍び込んでいるのよ、明るいのもいいけど――今は、ね――」
鷹野三四が私の耳元で囁いた。
雪絵――妻以外の女性の手に触れたのはいつ以来だろう?――考える。
彼女の手は白く、冷たかった。
前室の奥には広い空間が広がっているようだった。
鷹野三四が角灯をかざすと、正面の一番奥には、仏像のようなご神体が立ち、
侵入者である私たちを見下ろしていた。
前室の奥には広い空間が広がっているようだった。
鷹野三四が角灯をかざすと、正面の一番奥には、仏像のようなご神体が立ち、
侵入者である私たちを見下ろしていた。
「あれが雛見沢の守り神、――オヤシロ様よ」
あれがオヤシロ様、雛見沢を外界の穢れから守り、祟りを起こしているという・・・。
「――想像していたより、たくさんの祭具が収められているようね。
――でも残念、どれもあまり手入れがされていないわ。
――状態が悪いのが悔やまれるわね」
――でも残念、どれもあまり手入れがされていないわ。
――状態が悪いのが悔やまれるわね」
壁や天井や棚に色々なものが並べられている。
どちらかと云うと、祭事的、芸術的な形のものはなく、大工や鍛冶屋の作業場のような、
そんな感じの木製や金属製のものがごろごろと並べられている。
美術品の様なものがあるのを想像していた私は拍子抜けしてしまった。
どちらかと云うと、祭事的、芸術的な形のものはなく、大工や鍛冶屋の作業場のような、
そんな感じの木製や金属製のものがごろごろと並べられている。
美術品の様なものがあるのを想像していた私は拍子抜けしてしまった。
「――あら、面白くないかしら」
鷹野三四が声をかけてきた。
「ええ、まあ、こういったものに興味がある人には楽しいのでしょうが・・・
僕にはよく価値が・・・」
鷹野三四は私の顔を覗き込むと、手帳の様な物を取り出すと。
「――それじゃあ、関口さんに昔話でも聞かせてあげようかしら。
この地方では一般的な昔話よ。みんなが知っているくらい」
彼女はそう云うと
「いーい?じゃあ―読むわよ」
母親が子供に聞かせるように語り始めた。
昔々、ある山奥の村にね、村があったの。その沼はね、底無しの深い―深い―沼でね。
地の底の、鬼の国に繋がっていたんですって、その沼は海よりも深いと云われて、
飲み込まれればそのまま黄泉の国まで沈んでいくと伝えられる、底なしの沼だったの。
鷹野三四が声をかけてきた。
「ええ、まあ、こういったものに興味がある人には楽しいのでしょうが・・・
僕にはよく価値が・・・」
鷹野三四は私の顔を覗き込むと、手帳の様な物を取り出すと。
「――それじゃあ、関口さんに昔話でも聞かせてあげようかしら。
この地方では一般的な昔話よ。みんなが知っているくらい」
彼女はそう云うと
「いーい?じゃあ―読むわよ」
母親が子供に聞かせるように語り始めた。
昔々、ある山奥の村にね、村があったの。その沼はね、底無しの深い―深い―沼でね。
地の底の、鬼の国に繋がっていたんですって、その沼は海よりも深いと云われて、
飲み込まれればそのまま黄泉の国まで沈んでいくと伝えられる、底なしの沼だったの。
その名を――鬼ヶ淵と云いました。
村人たちは鬼の国、つまり地獄のことね。――鬼の国と繋がるという沼を崇め乍ら過ごしてきたの。
でもね、ある日の事――
でもね、ある日の事――
――沼の底から鬼が次々と現れたの。
村人たちは――地獄が溢れたと、怯えたそうよ。
そうして鬼たちは村人たちに襲いかかった、村人たちは隠れて怯えているしかなかったの。
鬼たちは残虐非道に村人たちを迫害していたそうよ、でも村人たちが本当に諦めた、その時――
そうして鬼たちは村人たちに襲いかかった、村人たちは隠れて怯えているしかなかったの。
鬼たちは残虐非道に村人たちを迫害していたそうよ、でも村人たちが本当に諦めた、その時――
――神様が――『オヤシロ様』が降臨したの。
天から降臨したオヤシロ様の力は鬼たちとは比べ物にならなかった。
鬼たちは戦うまでもなく、その威光の前に平伏したのよ。
鬼たちは戦うまでもなく、その威光の前に平伏したのよ。
けどね、オヤシロ様が鬼たちに元の鬼の国に帰るように諭したけど、
鬼たちは涙ながらに訴えたそうよ。鬼の世界にも厳しい戒律があって、
彼らは鬼の国を追放された鬼たちだったんですって。
鬼たちは涙ながらに訴えたそうよ。鬼の世界にも厳しい戒律があって、
彼らは鬼の国を追放された鬼たちだったんですって。
鬼の国にも、もちろん人の世にも彼らの居場所は無かったの、
もちろん村を襲ったのは悪い事だけど彼らはそれを反省したの。
もちろん村を襲ったのは悪い事だけど彼らはそれを反省したの。
村人たちも話を聞く内にね、少しずつ気の毒になっていったわ。
それでね、村のみんなで話し合って、鬼たちと一緒に住む事を決めたの。
それでね、村のみんなで話し合って、鬼たちと一緒に住む事を決めたの。
鬼たちは村人が自分たちを受け入れてくれるという申し出に、
まず耳を疑い、次に感涙に咽びいたそうよ。
村人たちは鬼たちに生活の場を与え、
鬼たちは恩返しに自分たちの持つ様々な力や秘法を村人に授けたの。
まず耳を疑い、次に感涙に咽びいたそうよ。
村人たちは鬼たちに生活の場を与え、
鬼たちは恩返しに自分たちの持つ様々な力や秘法を村人に授けたの。
オヤシロ様はその微笑ましい交流をとても喜んでね、
鬼たちが村人と分け隔てなく暮らせるように人間の姿を与えたの。
そして自らも地上に留まり、末永く両者の交流を見守る事にしたそうよ。
「普通の御伽噺ならここで終わりなんだけどね。このお話は後世にだいぶ加筆されたみたいで、
まだまだ続く、ずいぶんと長い話になっているわ」
鷹野三四はそこで、目線で感想を求める。
「なかなか・・面白いですね、神と人と鬼が共存する話なんて聞いた事がないです」
私は彼女に声で答えた。
「ここからは、もっと面白くなるわよ、その後鬼と人との混血が進み、もう何も区別がなくなったの」
「鬼の存在は結局村にとけ込んで消えてしまった、という事ですか?」
「いいえ、鬼の存在は半分はちゃんと、残ったそうよ。
でも村人たちは鬼の持つ力が異端である事を充分に理解して、
ふもとの人々に崇められ乍らひっそりと暮らしていたの――でも、その残った鬼の血が重要なのよ」
鬼たちが村人と分け隔てなく暮らせるように人間の姿を与えたの。
そして自らも地上に留まり、末永く両者の交流を見守る事にしたそうよ。
「普通の御伽噺ならここで終わりなんだけどね。このお話は後世にだいぶ加筆されたみたいで、
まだまだ続く、ずいぶんと長い話になっているわ」
鷹野三四はそこで、目線で感想を求める。
「なかなか・・面白いですね、神と人と鬼が共存する話なんて聞いた事がないです」
私は彼女に声で答えた。
「ここからは、もっと面白くなるわよ、その後鬼と人との混血が進み、もう何も区別がなくなったの」
「鬼の存在は結局村にとけ込んで消えてしまった、という事ですか?」
「いいえ、鬼の存在は半分はちゃんと、残ったそうよ。
でも村人たちは鬼の持つ力が異端である事を充分に理解して、
ふもとの人々に崇められ乍らひっそりと暮らしていたの――でも、その残った鬼の血が重要なのよ」
鬼か―――ふと、友人が何時か(いつか)話していた話が浮かんだ。
「その鬼というのは、何か実際に起こった出来事が元になっているとか考えられませんか?
例令(たとえ)ば、有名なのでは漂流異人説とか」
「その鬼というのは、何か実際に起こった出来事が元になっているとか考えられませんか?
例令(たとえ)ば、有名なのでは漂流異人説とか」
古代の日本で近海で難破した西洋人をあまりの風貌のちがいに『鬼』と呼んでいたなんて話だ。
当時の日本では西洋人の存在などは知られていなかっただろう、
その体格や顔のつくり、肌の色から、赤鬼や青鬼などと、そう呼ばれていたという説だ――確か・・・
当時の日本では西洋人の存在などは知られていなかっただろう、
その体格や顔のつくり、肌の色から、赤鬼や青鬼などと、そう呼ばれていたという説だ――確か・・・
「遭難した異人たちが流れ着き、言葉も通じないで鬼と呼ばれ排斥を受け、山に逃げ込む、
彼らも生きるために山賊化して村々を襲撃して食料を奪ったとか・・・」
「確かに、実際に漂流異人説を唱える人はいるわ、でも実際にはどうだったのかは誰にもわからない
山賊化した異人たちか、本当に地の底からやって来た鬼たちだったのか――ね」
彼らも生きるために山賊化して村々を襲撃して食料を奪ったとか・・・」
「確かに、実際に漂流異人説を唱える人はいるわ、でも実際にはどうだったのかは誰にもわからない
山賊化した異人たちか、本当に地の底からやって来た鬼たちだったのか――ね」
鷹野三四は何故か少し嬉しそうに答えた――私は彼女に何故か親近感(好意?)を感じた。
「さて、いよいよ、ここから面白くなっていくの――」
鷹野三四は語り出した。
「さて、いよいよ、ここから面白くなっていくの――」
鷹野三四は語り出した。
「――村人たちに半分、鬼の血が流れているのは話したわね、実はその血なんだけど、
鬼は鬼でも『人食い鬼』の血なんだ、って云われているの。
その血は今でも村人たちに脈々と受け継がれていてね、――時折、目を覚ますらしいの」
彼女の言葉は、人と鬼の共存の美談を生々しく変えていく。
「鬼の血をひく者たちはね、周期的に『狩猟者』としての本能が目覚めて、
獲物を求めて人里に姿を現すの、そうしてその際に行われるのが『鬼隠し』なの」
彼女の声は、女性としては若干低く、優しく、響く。
「『鬼隠し』はね、人としての理性を失って文字通り鬼と化した村人たちが大挙して、
彼らが穢れた俗世と忌み嫌う村々に襲いかかって、まるで狩りをするように人を攫う(さらう)の」
彼女の唇は、妖艶に、淀むことなく動き続ける。
「しかもね、その『鬼隠し』はオヤシロ様も了承していたそうなの、
『鬼隠し』は無差別でなくて、神様が認めた生贄以外には誰もさらわなかったそうよ」
彼女の瞳は、角灯の光の中で静かに揺れる。
「そうして生贄を攫ってきた夜にはね――『綿流し』の儀式が開かれたというわ」
彼女の息は、壁にふんわりと形を創る。
鬼は鬼でも『人食い鬼』の血なんだ、って云われているの。
その血は今でも村人たちに脈々と受け継がれていてね、――時折、目を覚ますらしいの」
彼女の言葉は、人と鬼の共存の美談を生々しく変えていく。
「鬼の血をひく者たちはね、周期的に『狩猟者』としての本能が目覚めて、
獲物を求めて人里に姿を現すの、そうしてその際に行われるのが『鬼隠し』なの」
彼女の声は、女性としては若干低く、優しく、響く。
「『鬼隠し』はね、人としての理性を失って文字通り鬼と化した村人たちが大挙して、
彼らが穢れた俗世と忌み嫌う村々に襲いかかって、まるで狩りをするように人を攫う(さらう)の」
彼女の唇は、妖艶に、淀むことなく動き続ける。
「しかもね、その『鬼隠し』はオヤシロ様も了承していたそうなの、
『鬼隠し』は無差別でなくて、神様が認めた生贄以外には誰もさらわなかったそうよ」
彼女の瞳は、角灯の光の中で静かに揺れる。
「そうして生贄を攫ってきた夜にはね――『綿流し』の儀式が開かれたというわ」
彼女の息は、壁にふんわりと形を創る。
私は何かがこみ上げてくる気がした。
「た、確か今日のお祭りも『綿流し』って云うんじゃ―――」
「関口さん、ワタって云いません?――臓物(ぞうもつ)の事」
鷹野三四が聞いてくる。
「ワタ・・・そう云えば魚のワタとか・・・・『腸流し』・・・」
自分の声から連想されるものを、ここまでおぞましく感じた事はなかった。
「そう、関口さんが想像しているとおり、『わた』というのは腑(はらわた)の事なの――
今でこそ綿流しは毎年6月に行われる、少し早い夏祭りに過ぎないけど、昔は違った――
それは、祭囃子で賑わうものではなく、もっと違う身が凍るような、凄惨な宴だった――」
「た、確か今日のお祭りも『綿流し』って云うんじゃ―――」
「関口さん、ワタって云いません?――臓物(ぞうもつ)の事」
鷹野三四が聞いてくる。
「ワタ・・・そう云えば魚のワタとか・・・・『腸流し』・・・」
自分の声から連想されるものを、ここまでおぞましく感じた事はなかった。
「そう、関口さんが想像しているとおり、『わた』というのは腑(はらわた)の事なの――
今でこそ綿流しは毎年6月に行われる、少し早い夏祭りに過ぎないけど、昔は違った――
それは、祭囃子で賑わうものではなく、もっと違う身が凍るような、凄惨な宴だった――」
彼女はそう云うと、私の方へ1歩近づいた。
「今日行われた奉納演舞は見ましたか?」
鷹野三四が尋ねてくる。
「・・・少しだけ・・・さわりだけは・・」
「そう――じゃあ、あの奉納演舞が何を意味しているのかわかってくるでしょ?
古手梨花――少女が持っていた祭事用の鍬(くわ)――あれは田畑を耕す鍬ではなくて――
あの後、あの鍬で祭壇の蒲団からワタを取り出すの、そうしてそのワタを一人ずつ沢に流すの」
鷹野三四が尋ねてくる。
「・・・少しだけ・・・さわりだけは・・」
「そう――じゃあ、あの奉納演舞が何を意味しているのかわかってくるでしょ?
古手梨花――少女が持っていた祭事用の鍬(くわ)――あれは田畑を耕す鍬ではなくて――
あの後、あの鍬で祭壇の蒲団からワタを取り出すの、そうしてそのワタを一人ずつ沢に流すの」
彼女は頬笑むと、私の方へ1歩近づいた。
「これで、ここ祭具殿の中にどういうものがあるのか、わかってきたかしら?」
鷹野三四が問う。
鷹野三四が問う。
「人ってね、上手にやれば結構殺さずに済むものらしいの」
彼女は私の耳元で囁いた。
私は何かがこみ上げてくるのを感じた。
知らぬが仏と云う言葉がある。この世には知らない方がいい事もあるという意味だ。
さっきまで大工や鍛冶屋の作業場のように見えたこの祭具殿も一つの情報で色が変わった。
これは、この祭具たちは、日常生活で目にする物ではない。ある目的のために造られた物だ。
壁に立てかけられた明らかに人型と見える匤(はこ)、天井に吊されている鉄格子の様な檻、
中にはどうしても用途が理解できない怪しげな物もあった――自分が理解できない物は畏怖になる。
さっきまで大工や鍛冶屋の作業場のように見えたこの祭具殿も一つの情報で色が変わった。
これは、この祭具たちは、日常生活で目にする物ではない。ある目的のために造られた物だ。
壁に立てかけられた明らかに人型と見える匤(はこ)、天井に吊されている鉄格子の様な檻、
中にはどうしても用途が理解できない怪しげな物もあった――自分が理解できない物は畏怖になる。
鷹野三四は一つだけの灯りである角灯(ランタン)を持って、壁沿いに先導していく。
時折嬉しそうに解説を交えながら、嬉々としている。
時折嬉しそうに解説を交えながら、嬉々としている。
私は先ほど彼女に親近感を感じた理由が理解できた。
――彼女も狂っているのだ。
――彼女も狂っているのだ。
――さて、これで軽く1週できたかしら、彼女はそう云うと、私を向き。
「これで関口さんも何となく信じてもらえた?この雛見沢に伝えられる、恐ろしい儀式の数々が」
こうして実物を見せられては否定する事はできなかった。
「これで関口さんも何となく信じてもらえた?この雛見沢に伝えられる、恐ろしい儀式の数々が」
こうして実物を見せられては否定する事はできなかった。
――どん、どん
その時何処か遠くの板の間で子供が跳ねているような音がした。
けれども、彼女は気に留めなかった。
その時何処か遠くの板の間で子供が跳ねているような音がした。
けれども、彼女は気に留めなかった。
「で・でも、それは中世の魔女狩りのように大昔の出来事だと思いますが・・」
彼女は再び顔を寄せ、私の耳元に囁いた。
「関口さん、私はその風習が現代でも残っているんじゃないかと思っているの」
彼女は私の近くで嗤って、云った。
「でもね、これは絶対に内緒にしていてね、知られたら私、オヤシロ様の祟りにあうか――
生贄にされちゃうかもしれないから――そう云えば今夜、オヤシロ様の祟りがあるの――」
彼女は嬉しそうだった。
「関口さん、私はその風習が現代でも残っているんじゃないかと思っているの」
彼女は私の近くで嗤って、云った。
「でもね、これは絶対に内緒にしていてね、知られたら私、オヤシロ様の祟りにあうか――
生贄にされちゃうかもしれないから――そう云えば今夜、オヤシロ様の祟りがあるの――」
彼女は嬉しそうだった。
そして、彼女は手帳からある切り抜きを取り出し、私に見せた。
それは古い、新聞記事だった。
「これはね、実際にあったお話よ、明治の終わり頃にね。
鬼ヶ淵、もう気づいているだろうけどこれは雛見沢の旧名ね。
その鬼ヶ淵村でね、身元不明の惨殺死体が発見されたんですって。
当時の警察の資料がほとんど残ってないそうだから、
口伝(くでん)と記憶によるものだけどね。これが当時の新聞の切り抜きなの」
それは古い、新聞記事だった。
「これはね、実際にあったお話よ、明治の終わり頃にね。
鬼ヶ淵、もう気づいているだろうけどこれは雛見沢の旧名ね。
その鬼ヶ淵村でね、身元不明の惨殺死体が発見されたんですって。
当時の警察の資料がほとんど残ってないそうだから、
口伝(くでん)と記憶によるものだけどね。これが当時の新聞の切り抜きなの」
『―――カクモ無惨且ツ残虐非道ヲ尽クサレタ遺体ハ嘗テ無ク――鬼ノ仕業カ』
「どういう事かわかるかしら?」
「・・猟奇的な事件が明治に入っても起こっていたっていう事ですか?・・」
「そう――1説には明治は元より昭和の始め頃まで、その因習は残っていたとも云われてるわ」
「・・猟奇的な事件が明治に入っても起こっていたっていう事ですか?・・」
「そう――1説には明治は元より昭和の始め頃まで、その因習は残っていたとも云われてるわ」
――どん、どん
再び、何処か遠くの板の間で子供が跳ねているような音がした。
矢張り、彼女は気に留めなかった。
矢張り、彼女は気に留めなかった。
「で・・でも、め・明治だってそうとう昔の話ですよ・・・」
私の声は上擦っている。
私の声は上擦っている。
――ぎぃいいいいい
その時、いきなり扉が開き、富竹が顔を見せた。
私は何かがこみ上げてきた。
「あっはっは、驚かせちゃったかな?」
「あら、ジロウさんも見たくて我慢できなくなったかしら?」
「僕は遠慮させてもらうよ。――あははは――生来ね、こういうのは苦手なんだ」
男のくせに、とでも云いたいのか、鷹野三四は押し殺した声でお腹を抱えて笑った。
「あら、ジロウさんも見たくて我慢できなくなったかしら?」
「僕は遠慮させてもらうよ。――あははは――生来ね、こういうのは苦手なんだ」
男のくせに、とでも云いたいのか、鷹野三四は押し殺した声でお腹を抱えて笑った。
「それより、演舞と祭典(セレモニー)が終わって、みんな沢の方に降りていったよ。
後何分もしないでお祭りは終わっちゃう」
「あら、いけない、関口さんがあまりにも聞き上手だから、また話しすぎたわ。
ジロウさんは表で待っていてくれるかしら、私はちょっと写真を撮るわね。
本当はいくつか道具を持って帰りたいんだけど、流石(さすが)にそれは無理そうだから」
鷹野三四はそう云うとカメラを取り出し、写真を嬉しそうに撮り始めた。
後何分もしないでお祭りは終わっちゃう」
「あら、いけない、関口さんがあまりにも聞き上手だから、また話しすぎたわ。
ジロウさんは表で待っていてくれるかしら、私はちょっと写真を撮るわね。
本当はいくつか道具を持って帰りたいんだけど、流石(さすが)にそれは無理そうだから」
鷹野三四はそう云うとカメラを取り出し、写真を嬉しそうに撮り始めた。
私は鷹野三四を残して、祭具殿から出た。
「どうだい、面白かったかい?」
「・・・・・・・・」
「あっはっはっは!!」
富竹は私の顔を見て痛快に笑い転げた。
「・・・・・・・・」
「あっはっはっは!!」
富竹は私の顔を見て痛快に笑い転げた。
「鷹野さんは大人しく見ていたかな?ほら、彼女、子供っぽい所があるだろう?
宝の山を前に、さぞや興奮してたんじゃないかな。特に何か持ち出したり、触って壊したりし――」
「・・・・・・・・」
富竹は喋っていたが、私は何も答えられずに藪の方へ向かった。
宝の山を前に、さぞや興奮してたんじゃないかな。特に何か持ち出したり、触って壊したりし――」
「・・・・・・・・」
富竹は喋っていたが、私は何も答えられずに藪の方へ向かった。
そして――
私は―――――嘔吐した――――――
私は―――――嘔吐した――――――
【始末の支度 弐】
「実はな――
「実はな――
木場修太郎は四角い顔をさらに角張らして、話し始めた。
「赤坂――俺の後輩に、と云っても警察じゃなく公安なんだが、
赤坂ってのがいるんだ。それで、こないだその赤坂と飲む事があってな、
赤坂はこれでなかなか酒が強くてな、まあ、2軒、3軒とハシゴしてだな」
京極堂はむっつり、聞いている。
「それで、酒の肴で榎木津の話や、なんだ20ヶ月妊娠している妊婦だとか、
そう云った怪奇譚、不思議な話か、していたんだが、
そうしたら赤坂が自分も不思議な体験をした事があるって云いだしてな」
京極堂はぷっくり、聞いている。
「そんで赤坂が今から5年前に赤坂はある事件で、ある村に捜査にいったらしいんだが、
そこで不思議な少女にあったらしい、最初は普通の感じだったらしいが、
その少女が突然、神降ろしみたいな状態になってな」
京極堂はじっくり、聞いている。
「で、その少女が未来予知――予言か?、それをしたんだそうだ。
で、ちょうど同期の大石って奴が近くの警察にいたもんで聞いてみたんだよ。
で、そうしたら、どうやらその少女が5年前にした予知は当たっていたんだ」
京極堂はしっくり、聞いている。
赤坂ってのがいるんだ。それで、こないだその赤坂と飲む事があってな、
赤坂はこれでなかなか酒が強くてな、まあ、2軒、3軒とハシゴしてだな」
京極堂はむっつり、聞いている。
「それで、酒の肴で榎木津の話や、なんだ20ヶ月妊娠している妊婦だとか、
そう云った怪奇譚、不思議な話か、していたんだが、
そうしたら赤坂が自分も不思議な体験をした事があるって云いだしてな」
京極堂はぷっくり、聞いている。
「そんで赤坂が今から5年前に赤坂はある事件で、ある村に捜査にいったらしいんだが、
そこで不思議な少女にあったらしい、最初は普通の感じだったらしいが、
その少女が突然、神降ろしみたいな状態になってな」
京極堂はじっくり、聞いている。
「で、その少女が未来予知――予言か?、それをしたんだそうだ。
で、ちょうど同期の大石って奴が近くの警察にいたもんで聞いてみたんだよ。
で、そうしたら、どうやらその少女が5年前にした予知は当たっていたんだ」
京極堂はしっくり、聞いている。
「しかも、その予知って云うのが人が死ぬ――所謂(いわゆる)物騒な話なんだ。
ほら知ってるだろ、4年前に雛見沢ダムで起きたバラバラ殺人」
ほら知ってるだろ、4年前に雛見沢ダムで起きたバラバラ殺人」
京極堂は『雛見沢』と云う言葉に反応し、眉尻をつり上げた。
木場は残っていたお茶を飲み干すと、
「その少女ってのは、その村の神社の子供でな、
その村では、神様の生まれ変わりなんて云われていたそうだ、んで、今から5年前に月夜の晩に――」
「私ね―――後、何年かすると、殺されるの」
「その少女ってのは、その村の神社の子供でな、
その村では、神様の生まれ変わりなんて云われていたそうだ、んで、今から5年前に月夜の晩に――」
「私ね―――後、何年かすると、殺されるの」
「梨花ちゃんが・?・・どうして・・・」
「―――とても不愉快な事だけど。―――それも多分決まっている事なの」
「決まっているって、・・・誰がそれを決めるんだい?」
「それを私も知りたいの」
「―――ここは、人の命を何とも思わない連中でいっぱいです。
―――これを伝えても何も変わらないかも知れないけどでも、
―――死という月を映す水面を掻き消すためなら、小石を投じる事もあるかもしれない」
―――これを伝えても何も変わらないかも知れないけどでも、
―――死という月を映す水面を掻き消すためなら、小石を投じる事もあるかもしれない」
「――来年の今日、綿流しの日にダム現場の監督が殺されます」
「恐ろしい殺され方をした後、体中をバラバラに引き裂かれて捨てられてしまいます」
「バ・・・バラバラ殺人・・・・」
「その翌年の今日、――沙都子の両親が突き落とされて死にます」
「そして、さらに翌年の3年後の6月の今日。――私の両親が、殺されます。
そして、さらに翌年の4年後の6月の今日。沙都子の意地悪叔母が頭を割られて死にます。
そして、さらに翌年の5年後の6月の今日。――――――――あるいはその数日後か」
そして、さらに翌年の4年後の6月の今日。沙都子の意地悪叔母が頭を割られて死にます。
そして、さらに翌年の5年後の6月の今日。――――――――あるいはその数日後か」
「――――私が殺されます」
「全ての死が確定事項なら。―――――最後の死もまた決まっているのでしょうか?」
「―――――――――――死にたくない」