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連載 - 騎士と姫君-20

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「祟り神は笑う」


 学校町の西区、とある廃ビルに私はいる。
 どこからかいい匂いがただよってきて、いよいよ宴会開始は目前といったところか。
 外に目をやればもうほとんど真っ暗で、丁度窓からは月が昇ってくるのが見える。
 そういえばお月見って、今年はいつだっただろう。

「どうした、杯が空いておるぞ」

 「早く注がぬか」という声にはたと我に返れば、じとりとこちらを睨む艶やかな着物姿の女性。
 しまった、ぼうっとしてたら注ぐタイミングを逸してしまったらしい。
 慌てて目の前に差し出された杯に芳醇な香りの日本酒(かなりいいものじゃないだろうか、これ)を注げば、喉を鳴らして武者がそれを飲み干す。

「父上の酌の相手を務めておいて、心を泳がせるとは何事じゃ」
「す、すみません……」

 そう謝るものの、彼女はさも気に入らないといった様子でふんと鼻を鳴らす。う、うう。
 確かにそれは私がぼーっとしたせいではある。
 けど、この状況で少しばかり逃避するぐらいは見逃してほしい、なんて。

「くく、そう苛めてやるな滝夜叉」

 そう助け舟を出してくれるのは彼女――滝夜叉が「父上」と慕う凛々しい若武者。

「だから妾がいたすと申しましたのに」

 口を尖らせ、滝夜叉はまたじろりと私を睨みつける。
 いや、私だって親子の団らんをお邪魔したくはないんですけど。

 滝夜叉姫、平将門の子供たちの中で唯一その存在が後世に伝えられた存在。
 そしてその彼女が父上という相手、今まさに杯を傾ける彼こそが、平将門その人なのだというのだ。
 古典や日本史を少しでもかじった者ならば卒倒しかねない空間に、なぜ私みたいな人間が混じっているのか。
 事の発端は、少し前にさかのぼる。

*



「まさかどさま?」
「うー、そう! ごあいさつ行くのー!

 それはこのビルに着いたばかりの頃。
 ちらりと調理場に顔を出した後、私はそのまま少年に手を引かれて階段を登っていた。

「将門さまえらい人ー! だからおねーちゃんもごあいさつ!」

 そう語る少年の声はうきうきとしたもので、会えるのが嬉しくてたまらないという気持ちが溢れている。
 将門なる人物については先日も聞いてはいたが、そんな人物が今日の主催者だという事を聞いた時は心底驚いた。
 しかしそれだけ子供に好かれる人ならば、もしかするととても素晴らしい人なのかもしれない。
 ……生首の件は置いておいて、だ。

 階段を登った先にはすでに飾り付けがなされ、いかにもこの先に楽しい事が待っているという空気が溢れている。
 しかし少年はそれに目もくれず、ひたすら奥を目指し続ける。
 そうして目の前の古びたドア(もちろんこれも綺麗に飾り付けられている)を開けると、その前に広がっていたのは見事なパーティ会場であった。
 何人かによってテーブルのセッティングが進められているようで――

「うー! 将門さまー!」

 ててて、とついには駆け出す少年に引きずられ、ろくに周りも見れないままに私は前へと向き直る。
 その先にあるのはなぜか御簾が降ろされ、奥には畳が敷かれた空間。
 なんだか、そこだけ平安時代とかそんな感じの雅な雰囲気である。 

「おお、来たか」

 御簾に映る影がゆらりと動き、こちらを向く。その影から漏れ出でたのは低く響く男の声。
 ……気のせいか、その声自体が力を発しているようで、私は思わず足を止めてしまう。

「うーうー! ぼくごあいさつに来たー!」
「ふむ、よい心がけぞ」

 しかしそんな事など気にも留めず、少年は目を輝かせて御簾の奥の人物へと呼びかける。
 それに答える声もまた嬉々としたものではあるが、それを耳にするだけで否が応でも私の心はざわりとざわめく。
 一体、この奥にはどんな人物がいるのだろう?

「む、そこな女は?」
「うー、お姫さまのおねーちゃん!」
「へ?」

 少年の口から語られた言葉に、口から思わず気の抜けた声が漏れる。
 何故にお姫様、いやそれ以前にそれで通じてしまうのか?

「ほう、うぬがそうか」
「うー!」

 通じてしまった。え、いや。

「うー、一緒にごあいさつしにきたのー!」
「くくく、なるほど」

 こちらの戸惑いなどお構い無しに二人は話を進めてしまう。
 ……え、ええと、何か私も言った方がいいんだろうか。一応ご挨拶なんだし。
 そうして私が口を開こうとした矢先、御簾に映る影が再びゆらりと動いた。

「滝夜叉、あれがうぬが話していた女か」
「ええ、そうじゃ父上」

 どうやら一人きりかと思っていたら、もう一人そばに控えていたようである。
 あれ、あの声はもしかして滝夜叉?

「あれが坊やを連れて「ゆめのくに」の人形どもと渡り合った姫君じゃ。間違いない」
「ふうむ」

 双方とも何やら興味深げな声色だが、その内容は凄まじく誇張表現されてる気がしてならない。
 一体どんな評判が伝わっているのかと、だんだんと不安が重くのしかかってきたその時。

『――ちゃん、どこかしらー?』

 ふと聞こえてきたのは少年を呼ぶ父親の声。
 すると当然少年もぴくりと反応し、くるりと声の方へ振り向く。

『――ちゃん、ちょっとおいでー!』
「うー、パパなーにー?」

 父親の声に答えると、てててとわき目もふらず少年は一目散にパーティ会場を横切っていってしまった。
 そうして私は一人「将門様」とやらの前に取り残されてしまったわけで。

 …………き、気まずい。

「え、えーと……じゃあ私もそろそろお手伝いに」
「待て」

 この際早いところ退散してしまおうと一歩引きかけた瞬間、短くも鋭い一声が私の足を引き止めた。
 う、ど、どうしよう。とにかく何か答えなくては。

「な、何でしょう?」
「女、我に酌をせい」

 はい?
 ええと、何をしろと?

「くかか、そう面食らうな。手酌は飽いたからな」
「父上、それならば妾が」
「よいよい、お前の手を煩わせるまでもないわ」

 娘の申し出をも袖に振って、将門は私を手招こうとする。これって、実は凄い事なんじゃないだろうか。
 でもむしろ私なんかより自分の娘に注いでもらった方が、父親としては嬉しいと思えそうなものだけど……。

「どうした、何を恐れておる」
「いえ! そういうわけじゃないです!」

 思わず声が裏返る。び、びっくりした。
 怖いと言うよりはむしろ畏れ多い方が強いのだが……とにかくばくばくとうるさい心臓を何とかおさめようとしていると、くくく、としのび笑う声が微かに聞こえてくる。
 わ、笑われた……。

「何、捕って食おうとは言わん。ただ横に座って我の相手をするだけでよい」

 その声はとても楽しげで、初めに感じていた威圧感だとかはだいぶ薄れたような気がする。
 あるいは私の感覚が麻痺してしまったのかもしれないのだけれど。
 でもせっかく招待してもらって、しかもわざわざ頼まれているのだからお酌ぐらいするべきなのかもしれない。
 そう、そうだよね。うん、ここは腹を決めてしまおう。

「……わかりました、では失礼します」
「うむ」

 靴を脱いで畳に上がり、そっと御簾を掲げて奥へと足を踏み入れる。
 そこにいたのは、まさしく夢で見た顔の甲冑姿の若武者と、どこか険しい表情の滝夜叉。

「くかか、待ちかねたぞ」

 そう愉快そうに笑って杯を差し出す武者――彼こそが平将門。
 その姿はまさに絵巻物から抜け出して来た様な風貌で、思わずその姿にしげしげと見入ってしまう。

 後ろに流された長い髪は世の女性たちが羨みそうなほどにつやつやと黒く、その上何とも凛々しい顔立ちには十分に人目を惹きつける。
 そしてその身にまとう見事な甲冑は博物館などで見る色褪せたものではなく、色鮮やかな糸や革、漆などで飾られた絢爛たるもの。
 しかしそれ以上にこの若武者を『平将門』たらしめていたのが、その圧倒的な存在感である。
 カリスマ、あるいは霊気やオーラとも呼ばれる何かか、とにかく目に見えない何かが彼から発せられているのがひしひしと肌で感じられるのだ。

「ほれ、早う注がぬか。父上がお待ちじゃぞ」
「は、はい」 

 鋭い滝夜叉の言葉にはたと我に返り、すぐそばにあった徳利を手に取る。
 将門の隣に侍る滝夜叉と言えば美しい錦織の着物を纏い、これも将門に劣らぬ存在感で私を圧倒する。
 しかし彼女とは初対面ではなく、何度か顔を合わせ言葉を交わした仲のはずなのだが……今日はなぜか、滝夜叉の雰囲気がいつもと違う。

 振り返り様にちらりと伺ってみれば……なかば据わった目でこちらをにらみつける彼女がそこにいた。
 ……まさか、酌をさせてもらえなかったからって拗ねてるんじゃ。

「何をぼうっとしておるのじゃ、早うせい」
「す、すみません」
「くかか、まあそう縮こまるでない」

 片や不機嫌な滝夜叉、片や上機嫌な将門。
 そして将門の隣で私が徳利を持つという、何とも奇妙な図が出来上がっていたのだった。

*



 それから徳利が数本空くぐらいの時間(それでもたぶん30分程度じゃなかろうか)が流れたものの、この状態は未だ動いていなかった。
 それどころか悪化していると言ってもいいかもしれない。
 なんせあれから将門が私の≪夢の国≫での話を根掘り葉掘り聞きたがり、その様子を面白く思わなかった滝夜叉がさらにいじけてしまっていたのだ。

「まったく、父上は女子に甘すぎるのじゃ。妾という娘があろうものを」

 滝夜叉はやはりむすりとむつけたまま、それでも時折ちらちらと将門を上目遣いで見つめている。
 美人がそういう仕草をしてみせると、それだけですごく色っぽい。
 ただそれは父を見る、というより男を誘う女の目のような気がするのだが。
 しかし滝夜叉にしてみればそれはあまり大事な事ではないらしい。
 とにかく父の注意を惹きたくてたまらないのだろう。

 なので敬愛する「父上」の興味を引く私は、今この状況ではあまり好ましくない存在らしい。
 だからか、ちらりと視線を移す際のほんの一瞬に、私に突き刺さるような視線をくれる事も忘れない。
 うう。

「くかかかか! 安心せい、我の愛しい娘はお前だけだからのう!」

 将門さん、その発言は求める答えとちょっとずれているような気がします。
 でも肝心の滝夜叉はまんざらでもないらしく、何とも嬉しそうに頬を染めている。
 しかし相変わらず将門が酒にあおった隙にきっ!と私をにらみつける事も忘れない。
 うううう。

「確かに娘はお前一人よ」

 ぐいと差し出された将門の杯にまた徳利を傾ける。
 この人一体どれだけうわばみなんだろう……あ、しまった、この徳利はもうほとんどお酒が入っていない。
 そばに置かれていた徳利もいまやほとんどが空であり、もう残りは一本か二本か。
 とにかく一番遠い位置にある徳利を取ろうと、将門に背を向ける。
 早いところ用意しなければ、また滝夜叉ににらまれてしまう。

「だがな」

 徳利を掴もうと伸ばしかけた右手が、気が付けばがっしりとした手に掴まえられている。
 え、と振り返ろうとした次の瞬間、私の手から空の徳利が転がり落ちて。

「お前では我の妻にはなれぬだろう?」

 代わりに耳元に落とされたのは、私の胸をざわつかせるあの声だった。

 遠くから滝夜叉の焦った声が聞こえる。
 ああ、また怒らせてしまったんだろうか。いや、それ以前に私は何かやらかしたっけ?
 たっぷり一呼吸する間とはいえ、私の思考は完全に停止していた。

 初めに感じたのは私の肩と腰とを抱く手。それはやけにひやりとしていて、まるであの悪戯好きな少年のゴーストを抱きしめた時のよう。
 次に背中をすっぽりと覆う存在。
 ……背中? いや、それ以前に腰?
 そういえば私……今どこに座っているのだろう。
 でもそれを確かめたら非常にまずい事になりそうな気がする。
 そうして恐る恐る後ろを振り向けば、まさに目と鼻の先にあの凛々しいお顔があった。

「ちっ、父上!? お戯れが過ぎまするぞ!!」
「何じゃ滝夜叉、お前にはまだ早かったかのう?」

 そう答える将門の声はからかうような調子で、さらに私を引き寄せる。
 すると必然的に彼との距離も縮まるわけでってちょおおおおおおお!!?

「ほう、うぬは西方人か? あまり見ぬ顔つきだな」
「た、確かに父はそうですけどってあのいやその」

 近い。近すぎる。
 どれぐらい近いかって言うと、将門の黒い瞳に私が写り込んでるのがわかるぐらい近い。
 もちろん必死に将門の手から逃れようとするのだが、腰に回された腕はがっちりと私を捕らえて離そうとしない。
 それどころか顔を背けようとしたら空いた手で顎を掴まれてしまう始末。
 男性と付き合った経験がまったくない私にとってすれば、こんなに異性に近くまで踏み込まれた事なんてやはりほとんどないわけで……つまり刺激が強すぎた。
 心拍数が急上昇すると共に、顔が火を吹きそうなぐらいに熱くなるのが嫌でも感じられる。

「お前は我を恐れぬのだな」

 それは酷く楽しげな、それでいて虎が小鳥を殺さぬよう弄ぶような、ぞっとするけれどもどこか惹き込まれる笑み。
 ああ、虎が笑っている。
 お前は私のものにしてやるのだと、その力強い前脚で押さえつけて高らかに咆哮をあげている。

「我はそんな女が好きでな、どうだ――」

 その先の言葉は聞き取る事が出来なかった。
 なぜなら、将門の喉元に鈍く光る切っ先が突きつけられていたのだから。

「ほ、ホロウさん!?」
「…………………………………………」


 月を背に立っていたのは、剣を掲げた首無しの騎士。
 しかしその身に纏う空気はいつにも増して重く、怒気に満ちているのがぴりぴりと感じられる。
 で、でもそれ以前に、なんでホロウさんがここに?!

「くかかかかか! 貴様がこの女と契約した騎士か!!」

 一方急所に剣を突きつけられているというのに、将門は全く動じる事がない。
 それどころか豪快に高笑い(夢で聞いたものと全く一緒だった)をしてみせる程の余裕を見せ付けている。
 しかし対するホロウさんといえば、普段は戦闘中でも調節している撒き散らす恐怖を全開にしている辺り、余裕のなさが手に取るようにわかる。
 それもそうだ、今まで私がここまで他人に自分の身を近づけさせる事なんて、なかったのだから。

「己の契約者が取られた事がそんなに憎いか? ならばその憎しみのまま、我を貫くがいいわ!!」
「………………………………………………」

 その言葉に挑発されたのか、剣先がさらに将門の喉元へと食い込んでぷつりと赤い玉が浮かぶ。
 まずい、このままでは本当にホロウさんは将門を殺してしまう。

「待って……」

 喉から飛び出したのは微かな掠れ声。
 しかしその声は激昂している騎士には届かない、彼は剣を降ろそうとしない。
 そんな事を許してしまえば、もう取り返しがつかなくなってしまう。
 それだけはダメだ!

「待って、待ってくださいホロウさん!!」
「!」

 叩きつけるようにしてまで叫んで、ようやく騎士の注意がこちらへ向く。

「私は大丈夫ですから、剣を降ろしてください」
「…………………………………………………………………………」

 うーん、すごく嫌そうなのが伝わってくる。
 確かにこの状況じゃ、ホロウさんが剣をおさめるのは難しい。
 と言うか絶対無理だ。
 ならば少しでも妥協しそうな方を説得するしかないと、私は再度後ろへと首を傾ける。

「将門様、あなたもいい加減放してください。私が引き受けたのは酌の相手だけで、こういった事は望んでいません」

 相変わらず彼との距離は近いものの、なぜかホロウさんが現れてから激しい動揺は治まっていた。
 私が何とかしなければ、と思えたおかげかもしれない。
 とにかくそのままの勢いですぱりと言い切ってやれば、彼はなんとも可笑しげに口元を歪める。

「ほう、我の誘いを断ると?」

 ……前言撤回、やっぱり非常に心臓に悪い。
 ようやく落ち着いたはずの心拍数がまた上がり始めた気がする。

「ええ、こんな風に無理強いなさるようなお誘いはお断りです」

 何とか噛まずに言い切った。
 しかし再び始まったこの激しい動悸の原因は、この場を納めねばならないという緊張からか、この男の整った顔がそばにあるせいなのか、それとも最悪のパターンを恐れるからなのか、もうまったくわからない。
 それでも将門の瞳からだけは目を離さなかった。
 ひとたび離してしまえば、それはもううまくいかない気がしていたから。

「く……くかかかかかかかか!!!」

 しかし次の瞬間、突然笑い出した将門に拍子抜けし、思わずぽかんと彼の顔を見つめる。
 もしかしてアウトな答えだったんだろうか、ど、どうしよう。
 そうしてもはや命の危険を危ぶんでいたのだが、その時ふと腰に回されていた手が無くなっているのに気づいた。

「気に入った」
「え――」

 私にしか聞こえないであろう低い声。
 しかしその答えを聞こうと口を開きかけた刹那、私の身体は軽々と宙に投げ出されていた。

「う、うひゃあああああ!?」

 そのまま畳か壁に突っ込んでしまうかと思えば、がしりと逞しい腕が私を掴み、抱え込む。

「さあ、確かに返したぞ! くかかかかかかかか!!」

 完全に不意を打たれたが為に、いつも異常にばくばくと脈打つ胸を押さえてなんとか顔を上げる。
 すると目の前には、今日最高じゃないかというぐらいの笑い声をあげる将門の姿。
 という事は……隣に目を移せば、私を両腕で抱きとめた形のホロウさんがいた。
 どうやら剣を放り出して私をキャッチしたらしく、そこにはもう先程までの一触即発の空気は流れていない。
 これでなんとかうまくいったみたいだと彼の腕にすがり、私はようやく安堵の息を――。

『将門様!!』

 ――つく間もなかった。
 今度は焦った様子の青年の声と共にばたばたという何人もの足音が上がってくる。
 振り返れば、調理場に居た青年とスーツの女性を筆頭に何人もの首塚メンバーが駆け込んでるのが視界に飛び込んできた。
 まさか……。

「大丈夫っすか!? なんか、ただならない気配がしましたけど!」

 や、やっぱりホロウさんのせいか!
 普段はほとんど感じられないが、彼が戦闘に入った際周囲には恐れや不安を抱かせるオーラのようなものが撒き散らされる。
 それを感じると、当然範囲にいた人間は皆言い様のない不安感に襲われるというわけだが、どうやら階下にいた彼らがそれを拾ってしまったらしい。
 それに落ち着いてみれば、今の状況も非常にまずい事という事に改めて気が付いた。

 彼らが飛び込んで来た時にいたのは将門、滝夜叉、私、そしてホロウさん。
 セッティングしていたスタッフはいつの間にか姿を消しており、今の状況からすればおそらく彼らと面識がないホロウさんが真っ先に疑われてしまう。
 どうしよう、どうすればいい……?

「何、大した事はない」

 私がまごついていたその時、代わりに口を開いたのはなんと将門である。
 今度は滝夜叉に酌をさせ、再び杯を傾けているその様はただならないものが迫った後とはとても思えない。

「い、いや、でもそれにしたって尋常じゃなかったっすけど……」
「くかか、それもそこな女の余興ぞ」

 そう示されれば、彼らの視線が痛いほどに集まってくる。

「我が命じてやらせた事よ、お前たちが騒ぐ程ではない」
「……そうでしたの、それはお邪魔をいたしましたわぁ」

 そうスーツの女性が頭を下げれば、集まったメンバーがそれぞれれドアの向こうへと消えていく。
 そうして最後に静かに扉が閉められれば、再びしんとした静寂が戻ってきた。

「………………はあ」

 あ、危なかった。
 将門がとりなしてくれなければ、今頃ホロウさんと私は間違いなく総攻撃を掛けられていただろう。

「くく、これでよかろう?」

 杯を揺らし、将門が笑う。

「は、はい。その……ありがとうございました」

 不本意な気もするが、何にせよ助けられた事に変わりはない。
 そう頭を下げればちゃぷっと杯の酒が跳ねる音がして。

「くかかかかか!! うぬは本当に面白い奴だな!!!」

 また大笑いされた。
 この人の笑いどころは一体どこなんだろうと、しばらく私はそれで頭を悩ませる事になるのだった。




<Fin>



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