「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-45

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


ある魔術師の物語


*


♪LiVE / EViL (試験運用中)

*



── これは、誰にも語られることの無いはずの物語 ──

俺は平凡な人生を歩んできた
他人からは、誰からも真面目な人間と評される様な生き方だった
だが、勇気は無かった
良い事をするのにも、恥ずかしさが先に立つ
そんな平凡で気弱な男だ
高校、大学も地元
それなりの学力
それなりの体力
就職も親に勧められるままに、地元の市役所へ
なんの面白みもない男
与えられた仕事をこなすだけの日々

だが、ある日……気付いた
俺が生まれた町は、子供の行方不明・事故が多すぎる
最初は、何が起こっているのか判らなかった
そして唐突に
俺は魔法を使える様になった

俺を取り巻く世界は変わる
都市伝説の存在を知った今、子供達が行方不明になる理由が分かっていた
この都市には、人外の化け物──都市伝説──がいる
それからは戦いの日々
悪しき存在を滅ぼし、子供達を救った
都市伝説を狩りつくした翌年には、子供達が消える割合が全国と比べ差異のない値となる
この時、間違いなく……俺は、正義だった
それは今、冷静に考えても変わらない事実

*



しかし、いつの間にか俺は
敵──都市伝説──を探して歩く様になっていた
それが俺の役目だと信じていた
都市伝説は敵、悪しき存在
人間を守る為、俺は戦っている
疑う事など何一つなかった
次第にエスカレートする戦い、嗜虐性を増す俺

そして事件は起こった
起こるべくして起こった事件

ある喫茶店の善良な男を殺した
殺してしまった

俺は、混乱する
何故だ、何故こんなことになった……
都市伝説がいけない……ヤツらが存在するからこんな事が起こる
俺は都市伝説を憎んだ
これまで以上に憎悪を燃やした

都市伝説どもが俺を狙う
何度も死にかけた
きっと俺の存在が邪魔なのだろう
俺はいずれ都市伝説のすべてを滅ぼすからだ

そう思った……そう思っていた

*



そして山荘へ退避する
白痴の娘がいた
どうしようもなく愚かな娘だった
ある日、尿を飲まされる
洗面所へと走り、吐き出す
鏡を見た
ひどい顔をしていた
───他人からは、誰からも真面目な人間と評される
そんな面影は何処にも無い
魔法を使い、自分のステータスを確認する
絶句した
何故なら……俺は……都市伝説に脳を犯されていたのだから

── ゲーム脳 ──

ゲーム脳とは
ゲームを長時間やることにより、人間の脳の前頭前野という場所のはたらきが低下してしまった状態
物忘れが激しくなる、すぐ感情を爆発させる、無気力になる、などの悪い影響が起こると言われている

それが俺を蝕んでいた都市伝説だった

正義の名の下に都市伝説を狩る
これはゲームだった……俺にとって、本当にゲームだったのだ

いつの間にとり憑かれていたのだろうか、今となっては永遠に闇の中だ
だが、その時……ゲーム脳は消え始めていた
桃娘の力のせいだった
あの尿には不老長寿の効果、不治の病を治す効果があったからだ
何度も聖水を飲み、ゲーム脳は消え
俺は自分自身を取り戻す

しかし、時は既に遅かった
俺はもう、戻れないところまで来ていたのだから……

*



不幸は重なっていく

桃娘が倒れたのだ

もともと成人出来る様な食生活ではない
都市伝説によって生かされている状態だった
聖水──尿──は徐々に甘くなっていた
腎臓や血管はどうしようもない程に傷み、糖は尿に漏れ出していた
今にして思えば、網膜も傷んで視力もあまりなかったのだろう
あの桃の種を埋めた……あの場所から見える爽快な景色も
桃娘には見えていなかったと思うと、胸が苦しくなる

癒しの魔法をかける
だが、一向に回復はしない
俺の魔法ではこの病魔には勝てなかった

桃娘の都市伝説が消えかけていたのだ
そういう寿命を背負った都市伝説だったのかもしれない

このまま消えてしまえば……
都市伝説によって生かされている状態の桃娘は生きることが出来ない

だが、俺には何も出来なかった

そして、ある夜に桃娘は死んだ
あんなに元気だった桃娘が……

俺は悲しみを感じていた
こんなに感情が溢れたのは、いつ以来だろう

*



魔法──術式──を構築する

死んだものを生き返らせる魔法

詠唱する
徐々に命が戻っていく少女
だが、俺の体は魔法に耐えられない

あまりにも高度な術式
急いで創り上げた術式に、バグがあったのだ

皮膚が裂け、血が噴出す
それでも詠唱は止めない、止められるはずがない

眼を開く少女
意識が戻っていく

血まみれの俺を見て、口を開く

ぃたぃの……ぃたぃの……とんでれぇ

お前は何を言っているんだ
自分の置かれた状況が分からないのか
俺の傷のことなど後でいい
俺の為に泣くな
俺にはそんな価値は無い

ぃたぃの……ぃたぃの……とんでれぇ

お前は馬鹿なのか
嗚呼、そうだ……お前は白痴だったんだな
どうしようもなく愚かで……どうしようもなく純粋な娘だった

*



俺は詠唱を止める
この魔法では、この娘を助けられない
死ぬ直前に戻すだけの魔法では、この娘を助けられない
だから、俺は別の魔法を詠唱する

俺の組んだ術式の中で

最も短く、最も効果が弱く、最もダサい詠唱魔法

効果は肉体の再生……掌に収まる程度の傷を癒す術式

最も暖かい響きを持ち

最も優しい心から生まれた詠唱魔法

とんでれ

桃娘の口に合わせて呟く、何度も……何度も……
癒される傷
笑う桃娘
何を……俺は何をやっているんだ……
桃娘の遺体の前で俺は自失する

*



朝がやって来た……運命の朝だった

問いかける声
嗚呼、そうだな……俺が殺した様なものだ

少年と対峙する

だが、少年を殺すつもりなど最初からなかった
戦う意味などなかったが
手ごたえが無さ過ぎるのも、少年にとっては良く無いだろう
少年には、考えた上で……納得した上で殺して欲しかった
しかし、少年は俺を殺せない

仕方ない、俺はあの魔法を使う
少年の契約者を殺した魔法
上手く避けろよ……そして、仇を討て

だが、再び邪魔が入る
華奢な女
己を犠牲に他人を救う
馬鹿なことを考える人間がここにも居たか
ダメだ、少女を避けられない

斬り落とされる右腕
驚愕……そして、安堵
助けられた、また命を奪うところだった

しかし何故、俺は生きている
生きている価値など無いのに
どいつもこいつも、甘すぎる

*



これはゲームだ
ただし、主人公は俺ではない
主人公は少年、俺は悪い魔法使い
役割を演じる
だが、これは誰でもない俺自身が選んだ役割
俺は倒された
悪い魔法使いは倒された
ならば、世界は平和にならなくてはならない
物語の結末はいつだってハッピーエンドであるべきだ
俺が子供の頃に夢見た冒険の結末は、いつも幸福に包まれていた
世界が無理でも、少年は幸せを手に入れなければならない
これが、このゲームのルールだ

俺は魔法を詠唱する
バグを取り除いての詠唱
だが、この術式では足りない
もう魔力が足りない
人の命を操作するには出力が足りない
術式に新たな一文を加える
天より降りしは水……命の水……我が命の水……
俺の生命力を流し込む
桃娘からもらった長寿の力を全て注ぎ込む
今度は巧く組めた
疲れた
もう、休もう
アイツの遺体がある、あの場所で眠ろう

都市伝説が現実に存在するのだから、死後の世界もあるのかもしれない
だが、アイツは天国で……俺は地獄……
もう二度と会えはしない

*



俺は都市伝説が嫌いだ

都市伝説がなければ……
俺はこんなにも苦しまずに済んだはずだ
あの娘も自然に生きることが出来たはずだ
あの少年の大切な人の命を奪わずに済んだはずだ
多くの者達を傷つけずに済んだはずだ

都市伝説などこの世に必要ない

俺は都市伝説が嫌いだ

これは誰も知らない物語

語られるべきではない物語

語られた物語は都市伝説となるかもしれない

こんな物語を元に都市伝説を生んではいけない

だから、誰にも語らない

── これは、誰にも語られることの無いはずの物語 ──



*


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