夕日が、ゆっくりと沈んでいっている
幸い、今は校内や学校周辺では、都市伝説絡みの事件はない
たまっている仕事も無い
今日こそ、さっさと帰って寝るとしよう
白骨標本と変態には、見回りの警備員が見ている時には動かないように言っておく
自転車置場に向かい、自転車に乗り込もうとした所で…携帯が、着信を告げてきた
誰だ、と思いながら番号を確認し…着信拒否したくなる衝動にかられた
が、そうした方が後々面倒になると判断し、電話に対応する
幸い、今は校内や学校周辺では、都市伝説絡みの事件はない
たまっている仕事も無い
今日こそ、さっさと帰って寝るとしよう
白骨標本と変態には、見回りの警備員が見ている時には動かないように言っておく
自転車置場に向かい、自転車に乗り込もうとした所で…携帯が、着信を告げてきた
誰だ、と思いながら番号を確認し…着信拒否したくなる衝動にかられた
が、そうした方が後々面倒になると判断し、電話に対応する
『あ、兄さん?』
向こう側から、何とも嬉しそうな声が聞こえてきた
相変わらずの、能天気な声
実の弟ながら、鬱陶しい
相変わらずの、能天気な声
実の弟ながら、鬱陶しい
「…どうしたんだ」
『兄さん、今日は仕事、夜までかかる?』
「いや、今日はもう帰るが」
『そう?良かった。それじゃあ、僕、夕食作って待ってるからね』
『兄さん、今日は仕事、夜までかかる?』
「いや、今日はもう帰るが」
『そう?良かった。それじゃあ、僕、夕食作って待ってるからね』
家で待っている、とでも言うその様子に、眉をひそめる
…まさか、こいつ、「また」家に上がりこんでいるのか?
…まさか、こいつ、「また」家に上がりこんでいるのか?
「……鍵は変えたはずだが」
『うん。変わってた。でも、大家さんに身内ですって言ったら、鍵貸してくれたよ』
『うん。変わってた。でも、大家さんに身内ですって言ったら、鍵貸してくれたよ』
あの大家め
面倒な事を
小さく舌打ちした音が、向こうに届いたかどうか
とにかく、弟は楽しそうな声で続けてくる
面倒な事を
小さく舌打ちした音が、向こうに届いたかどうか
とにかく、弟は楽しそうな声で続けてくる
『兄さん、最近物騒だし、早く帰ってきてね?兄さんのボディガードは、学校の外に連れ出せないんでしょ?』
「…あいつらはボディガードじゃない」
「…あいつらはボディガードじゃない」
特に、変態の方は
あんなボディガードはいらん
死んでもいらん
まだ何か言ってきていたが、強引に電話を切る
…今度、アパートの大家には、あいつがやってきても鍵を貸さないようにしっかりと言っておかなければ
ため息をつきながら自転車に乗り込み、走り出す
……あの、弟は
自分の、実の弟
自分とは似ても似つかぬ性格の、あの馬鹿
どうしてこうも、自分に構ってくるのか
女の一人でも作って、そっちの相手でもしていればいいだろうに
さっさと兄離れしろ、馬鹿が
心の中で愚痴りつつ、自転車を走らせる
アパートまでは、学校からさほど遠い距離ではない
通勤時間が短くすむ、という理由で選んだアパートなのだから
………が
こう何度も不法侵入を繰り返されるようでは、とっとと引っ越した方がいいのかもしれない
真剣に、引越しを検討しようかと考え出した、その時
あんなボディガードはいらん
死んでもいらん
まだ何か言ってきていたが、強引に電話を切る
…今度、アパートの大家には、あいつがやってきても鍵を貸さないようにしっかりと言っておかなければ
ため息をつきながら自転車に乗り込み、走り出す
……あの、弟は
自分の、実の弟
自分とは似ても似つかぬ性格の、あの馬鹿
どうしてこうも、自分に構ってくるのか
女の一人でも作って、そっちの相手でもしていればいいだろうに
さっさと兄離れしろ、馬鹿が
心の中で愚痴りつつ、自転車を走らせる
アパートまでは、学校からさほど遠い距離ではない
通勤時間が短くすむ、という理由で選んだアパートなのだから
………が
こう何度も不法侵入を繰り返されるようでは、とっとと引っ越した方がいいのかもしれない
真剣に、引越しを検討しようかと考え出した、その時
「…………っ!?」
進行方向目の前に立つ、その影に
思わず…自転車を、止めた
止めてしまってから、後悔する
…しまった
とっとと、逃げるべきだった
アパートまで、あと少しという位置
急いで逃げれば、振り切れたかもしれないというのに
進行方向に立っていた影は、どうやら男らしかった
らしい、と言うのは…そいつの顔は、包帯で完全に覆われていて、顔で男女の判別ができないからだ
恐らく、男であろう…こちらの、当たってほしくない予感が、当たっていれば
包帯は、全身に巻かれているらしい
目があるべき場所は、一応空けられているが…しかし、そこに目玉は存在しない
ぽっかりと、闇のようにあいた穴があるだけだ
コートを着たその男は、変質者のように荒い息を吐き…こちらに、近づいてくる
思わず…自転車を、止めた
止めてしまってから、後悔する
…しまった
とっとと、逃げるべきだった
アパートまで、あと少しという位置
急いで逃げれば、振り切れたかもしれないというのに
進行方向に立っていた影は、どうやら男らしかった
らしい、と言うのは…そいつの顔は、包帯で完全に覆われていて、顔で男女の判別ができないからだ
恐らく、男であろう…こちらの、当たってほしくない予感が、当たっていれば
包帯は、全身に巻かれているらしい
目があるべき場所は、一応空けられているが…しかし、そこに目玉は存在しない
ぽっかりと、闇のようにあいた穴があるだけだ
コートを着たその男は、変質者のように荒い息を吐き…こちらに、近づいてくる
「…注射をしても、いいかい?」
あぁ、やはりか
何故、嫌な予感に限ってあたるものか
何故、嫌な予感に限ってあたるものか
「……注射男か」
人を襲うタイプの、厄介な都市伝説
普通、子供や女を狙うはずで、自分などターゲット外のはずなのだが
普通、子供や女を狙うはずで、自分などターゲット外のはずなのだが
注射男
夕暮れ時、帰宅している小学生に、そいつは声をかけてくる
夕暮れ時、帰宅している小学生に、そいつは声をかけてくる
「今、何時だい?」
もしくは
「注射をしてもいいかい?」
と
前者であれば、時間を確認しようとしたその瞬間、腕に注射を刺される
後者であれば、問答無用に注射を刺される
果たして、その注射器の中の液体の正体は何なのか?
それは、誰にもわからない
ただ、はっきりしているのは…その注射を刺された者は、目から、鼻から、口から血を流し
前者であれば、時間を確認しようとしたその瞬間、腕に注射を刺される
後者であれば、問答無用に注射を刺される
果たして、その注射器の中の液体の正体は何なのか?
それは、誰にもわからない
ただ、はっきりしているのは…その注射を刺された者は、目から、鼻から、口から血を流し
…死んでしまう、と言うことだけだ
「…ねぇ、注射をしても、いいかい?」
じりじりと、そいつは近づいてくる
ごそり
コートのポケットに手を突っ込み…注射器を、取り出してきた
じりじりと、こちらとの距離を狭めてくる
……まったく、こんな場所で……!
自分が契約している都市伝説の弱点の自覚を、否応梨に自覚する
人体模型、白骨標本
どちらも、しっかりとした実体をもっており、誰にでも目に見える都市伝説
ゆえに、常に連れ歩く訳にはいかないのだ
あんな連中連れ歩いていたら、正気を疑われる
ごそり
コートのポケットに手を突っ込み…注射器を、取り出してきた
じりじりと、こちらとの距離を狭めてくる
……まったく、こんな場所で……!
自分が契約している都市伝説の弱点の自覚を、否応梨に自覚する
人体模型、白骨標本
どちらも、しっかりとした実体をもっており、誰にでも目に見える都市伝説
ゆえに、常に連れ歩く訳にはいかないのだ
あんな連中連れ歩いていたら、正気を疑われる
「注射…しても、いいかい?」
「断る」
「断る」
とにかく、これだけは答えておく
拒絶したからと言って、見逃してくれるとは思えないが
拒絶したからと言って、見逃してくれるとは思えないが
「…駄目、かい?」
…にぃいいいいいい
注射男が、薄気味悪く……笑った
注射男が、薄気味悪く……笑った
「でも…私は、注射をしたいんだよねぇ……!」
ぎらり
夕日に照らされ、注射器が光る
夕日に照らされ、注射器が光る
さて…どうやって、この状況から逃げ出そうか?
思考を働かせ続けていた、その時
視界に…注射男の、後方に、見えてきた、そいつの姿に
げ、と別な意味で逃げ出したくなる
思考を働かせ続けていた、その時
視界に…注射男の、後方に、見えてきた、そいつの姿に
げ、と別な意味で逃げ出したくなる
「兄さん!」
あの野郎
家で待っているとかほざいていなかったか
何故、ここに来やがるか
必死に走ってきやがって
家で待っているとかほざいていなかったか
何故、ここに来やがるか
必死に走ってきやがって
…いや
今回、はそのお陰で助かるが
今回、はそのお陰で助かるが
弟が叫んだものだから、注射男は、くるり、そちらに向かって振り返った
だが、もう遅い
反応すらできないだろう
だが、もう遅い
反応すらできないだろう
弟は、ペットボトルを一本、手に持っていた
自販機でも買える大きさの……コーラの、ペットボトル
弟は走りながら…勢いよく、その蓋を、空けた
自販機でも買える大きさの……コーラの、ペットボトル
弟は走りながら…勢いよく、その蓋を、空けた
ごぽ
ごぽごぽごぽ、と
ペットボトルから、コーラが溢れ出す
そのコーラの液体は、物理法則を無視して、らせん状になりながら、注射男に向かって飛んでいく
ごぽごぽごぽ、と
ペットボトルから、コーラが溢れ出す
そのコーラの液体は、物理法則を無視して、らせん状になりながら、注射男に向かって飛んでいく
「っ!?」
その危険性を、ようやく察知したらしかった
注射男は迫り来るコーラから逃れようとするが、身体能力自体は普通の人間とさほど変わらないのだろう
逃れる事は、できない
注射男に向かっていくコーラは、そのまま勢いよく…注射男の口の中へと、注ぎ込まれていく
注射男は迫り来るコーラから逃れようとするが、身体能力自体は普通の人間とさほど変わらないのだろう
逃れる事は、できない
注射男に向かっていくコーラは、そのまま勢いよく…注射男の口の中へと、注ぎ込まれていく
「っがぱ!?」
ごぽごぽごぽごぽごぽごぽ
注射男が苦しげにうめくが、コーラはそのまま注ぎ込まれていく
じたばたともがく注射男
その、体が
びくり、大きく痙攣した
注射男が苦しげにうめくが、コーラはそのまま注ぎ込まれていく
じたばたともがく注射男
その、体が
びくり、大きく痙攣した
「……っが……!?」
…じゅうぅううう…と
注射男の体から、煙が立ち昇り始める
注射男の体から、煙が立ち昇り始める
その体が
内側から、ゆっくり…ゆっくりと、溶かされていっている
激痛に悲鳴をあげようにも、口にコーラを流し込まれ続けては、悲鳴もあげられまい
いっそ、さっさと殺してくれた方がマシレベルの激痛を、今、注射男は味わっているはずだ
内側から、ゆっくり…ゆっくりと、溶かされていっている
激痛に悲鳴をあげようにも、口にコーラを流し込まれ続けては、悲鳴もあげられまい
いっそ、さっさと殺してくれた方がマシレベルの激痛を、今、注射男は味わっているはずだ
「…苦しい?」
にこにこと
コーラのペットボトルを手に持ったまま、弟は注射男に笑いかけている
コーラのペットボトルを手に持ったまま、弟は注射男に笑いかけている
「僕の兄さんに襲いかかろうなんて千年早いよ。じっくり苦しんで死んでいってね」
…ごぽぽぽぽぽ、と
ペットボトルから溢れ出ているコーラは、なくなる事がない
そのまま、コーラは注射男の口に注がれ続けて…
注射男はもがき、苦しみながら、ゆっくりと融けていった
ペットボトルから溢れ出ているコーラは、なくなる事がない
そのまま、コーラは注射男の口に注がれ続けて…
注射男はもがき、苦しみながら、ゆっくりと融けていった
…注射男が、完全に解けたのを確認し
弟はにこにこと笑いながら、こちらに駆け寄ってくる
弟はにこにこと笑いながら、こちらに駆け寄ってくる
「兄さん、大丈夫?何もされてない?」
「…こいつに注射を刺されていたら、とっくに死んでいる」
「…こいつに注射を刺されていたら、とっくに死んでいる」
こちらの言葉に、良かった、と弟が笑う
…自分と、同じ顔
一卵性双生児の、双子の弟は、こうやって、こちらとは全く違う印象の笑顔を浮かべる
こちらと違って、人付き合いもうまいのだ、とっとと結婚して子供でも作っていろ、と思うのだが
…何故、ブラコンヤンデレになど育ってしまったのか
自分と同じ育てられ方をしたはずなのだが、何故こうなった
しかも、この弟まで、都市伝説と契約していると知った時は、自分の運命を呪いたくなった
…自分と、同じ顔
一卵性双生児の、双子の弟は、こうやって、こちらとは全く違う印象の笑顔を浮かべる
こちらと違って、人付き合いもうまいのだ、とっとと結婚して子供でも作っていろ、と思うのだが
…何故、ブラコンヤンデレになど育ってしまったのか
自分と同じ育てられ方をしたはずなのだが、何故こうなった
しかも、この弟まで、都市伝説と契約していると知った時は、自分の運命を呪いたくなった
「だって、契約すれば、兄さんを悪い都市伝説から護れるでしょう?」
と、当たり前のように言ってきた時は、とりあえずひっぱたいておいたが
弟が契約した、都市伝説
弟が契約した、都市伝説
『コーラを飲みすぎると骨が融ける』
進化した能力なのか、それともこいつと契約したせいなのか
このコーラは骨どころか、全てを溶かす凶器となる
弟が溶かしたいと思ったもの
その全てを溶かしてしまうのだ
凶悪極まりない能力
しかも、こちらと違って持ち運びも便利ときたか
なんてチートな野郎だ
このコーラは骨どころか、全てを溶かす凶器となる
弟が溶かしたいと思ったもの
その全てを溶かしてしまうのだ
凶悪極まりない能力
しかも、こちらと違って持ち運びも便利ときたか
なんてチートな野郎だ
「…とりあえず、溶かしすぎだ、馬鹿。どうするんだ、この状況」
「………あれ?」
「………あれ?」
じゅぅううううう
注射男を溶かしたコーラ
どうやら、注射男を溶かし尽くしても、まだ、余っていたようで
道路まで、溶かしていっている
流石に、道路の下を走る配水管まではいかないとは思うが
明らかに、溶かしすぎだ
不自然な穴が残る事は間違いない
注射男を溶かしたコーラ
どうやら、注射男を溶かし尽くしても、まだ、余っていたようで
道路まで、溶かしていっている
流石に、道路の下を走る配水管まではいかないとは思うが
明らかに、溶かしすぎだ
不自然な穴が残る事は間違いない
「まぁ、いいじゃない。兄さんが無事だったんだし」
確かに、自分が無事だったのはいいのだが
…こいつに何を言っても、暖簾に腕押しになりそうで、面倒くさい
小さくため息をつき、自転車を押し始める
…こいつに何を言っても、暖簾に腕押しになりそうで、面倒くさい
小さくため息をつき、自転車を押し始める
「…誰かに目撃される前に、とっとと帰るぞ」
「うん、兄さん」
「うん、兄さん」
弟は、素直に後ろをついて来る
…いっそ、自転車に乗っていって置いて行こうか、などとも考えたが
そうやって締め出して、アパートの扉を解かされてはたまらないので、我慢する
…いっそ、自転車に乗っていって置いて行こうか、などとも考えたが
そうやって締め出して、アパートの扉を解かされてはたまらないので、我慢する
「…お前、夕食作ってるとか言ってなかったか?まさか、コンロの火をつけっぱなしとかいう状態で来たんじゃないだろうな?」
「大丈夫、そんなベタなお約束はしてないよ。夕食のカレーはちゃんとできてるから、帰ったらあっためて食べようね」
「玄関の鍵はかけてきただろうな?」
「大丈夫だよ。兄さんの部屋に、不審者が上がりこんだら大変じゃないか」
「大丈夫、そんなベタなお約束はしてないよ。夕食のカレーはちゃんとできてるから、帰ったらあっためて食べようね」
「玄関の鍵はかけてきただろうな?」
「大丈夫だよ。兄さんの部屋に、不審者が上がりこんだら大変じゃないか」
むしろ、お前が不審者だ
その言葉を、喉元で押さえ込む
こんな奴でも、一応仮にも時として身内だ
決して、嫌っている訳ではない
鬱陶しいとは思うが
その言葉を、喉元で押さえ込む
こんな奴でも、一応仮にも時として身内だ
決して、嫌っている訳ではない
鬱陶しいとは思うが
多大に問題のある弟を後ろに引き連れながら
不良教師は深く、深く、ため息をつくのだった
不良教師は深く、深く、ため息をつくのだった
fin