「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 女装少年と愉快な都市伝説-21b

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Dさん宅にて~朝ご飯その他



「「「いただきます」」」
「えっと……いただきます」

 こっちは今、朝ごはんをご馳走になっている。
 女の子からの忠告(という名の脅し)や自分のアホさ加減に軽く涙目になっていると、中心となってご飯の用意をしていたチャラい感じの女の人(この人もなんか見たことあるような気がする)から「飯、一応用意したけど………食えるか?」と声をかけられ、ありがたくいただくことになったのだ。
 食卓に座ったまま右を向く。そこにはチャラい感じの女の人。
 雰囲気に覚えがあるし、絶対にどっかで見たことあると思うんだけど………おかしいなあ。
 左を向く。そこには、不機嫌そうな女の子。
 黒服さんとのセットで思い出したんだけれど、将門様の宴会で見かけたあの子だ。
 正面を向く。そこには、命の恩人の黒服さん。
 ちら、と目が合った瞬間さっきのことを思い出し、顔が一気に熱くなる。
 というか、この人はなんで平然としてるんだろう。まあ、それで助かってもいるんだけど………これが大人の余裕というやつか。
 そんなことを思ったと同時、突き刺さる敵意―――というかむしろ殺気―――を感じた。熱かった顔が冷める。怖い。
 ギギギ、と音がしそうなくらいぎこちない動きでまた左を向くとそこには、可愛らしい小さな身体に憤怒の仁王を背負ったかのような迫力をみなぎらせてこちらを睨んでくる女の子が。
 文字通り必死にぶんぶんぶんと首を振り、決して他意はないことを伝える。
 …………なんだか、最近出会った女の子には確実に脅されている気がする。姫さんしかり、××さんの妹ちゃんしかり。
 なんだなにがいけないんだ、と軽く涙ぐみながら考えこんでいると、

「―――ところでお前、一体どんな怪我してたんだ? 黒服の薬でもすぐには治らないって」

 そう訊いてきたのはチャラ女さん(便宜上そう呼ばせてもらうことにした)。
 気持ちはわかる。いきなり知らないやつが死にかけで押しかけたら、誰でもそういうことを訊きたくなる―――というか、訊くのが普通だろう。
 それにしても怪我、かあ。
 憶えてる限りでは、確か…………。

「えっと………全身を刃物で滅多刺しにされて、脇腹は肉が抉れてて……あとはあばら骨が八本だか九本と内臓がスプラッタ、左腕がスクラップになってたくらい、かな?」
「………私が見た限りでは、それに加えて全身に大火傷を負っていました」

 付け加えてくれたのは黒服さん。
 それを聞いて思う。
 本当にこっち、よく生きてたなあ………全くもって契約様々だ、と。
 ふと、女の子とチャラ女さんの様子を窺ってみると、

「「…………」」

 二人とも、軽く絶句していた。
 女の子が先に口を開く。

「………あなた、一体どんなのとやりあったら、そんなことになるのよ?」

 それを聞いて、こっちは説明していいものだろうか、と少し悩んだ。
 が、そもそも彼らをなんらかの形で巻き込んでしまう確率はあるんだし、それにこの黒服さんは『組織』に属しているようなので早めに伝えといた方がいいか、と結論づける。

「………少し、込み入ったところとかもあるので、ちょっと長くなるかもしれないんですけど……いいですか?」

 三人ともが頷いてくれたのを確認し、話し始めた。



「………そうですか。そんな、都市伝説の契約者が………」
「黒服の……『組織』の方でも知らなかったのか?」
「ええ。………そんな力を持った契約者なら、『組織』も捕捉はできるはずだと思うのですが」
「も、ってことは、『首塚』でも把握してなかったの?」
「……ああ。そんなやつ、聞いたこともなかった」

 深刻そうな表情で話し合っている三人。
 こっちが話したことは、こっちが知っている限りのあの男の情報。
 能力や見た目、性格、いずれこの街の都市伝説や契約者たちをまとめて喰らおうとしていることや―――こっちにとっては妹の仇であること、など。

「たぶん、なんらかの都市伝説―――大方、《神隠し》みたいなのだと思いますけど―――を使って気配を消してるんだと思います。相手の能力が能力なので、どれくらいの都市伝説の力を扱えるのかはわかりませんけど………」
「………なんというか、とんでもないチート野郎ね、そいつ。質の悪さなら《夢の国》以上だと思うわ……」

 顔をしかめ、そう呟く女の子。
 ……本当にその通りだと思う。相手の能力を取り込むとか、どこの魔人○ウかと言ってやりたい。それかアー○ードの旦那。
 まあそれは置いといて、お願いしたいことだけは確実に伝えておく。

「……あいつは"いずれまとめて相手してやる"って言ってたので、それまでは大丈夫だと思います。………"いずれ"がいつになるかはよくわからないですけど。とりあえず、仲間の人にそれを伝えておいてくれますか?」
「ああ、わかった。伝えとく」
「はい、わかりました………ですが、あなたはもしその時がきたら、どうするおつもりですか?」

 黒服さんが、そう訊いてきた。
 その表情からは、この黒服さんがこっちのことを心配してくれているのがわかる。
 ………この人は本当に優しい人なんだな、と思った。
 全身傷だらけのこっちの姿は、厄介の種にしか見えなかったはずだ。それなのにわざわざ治療をして、こうして心配してくれる。
 ―――こんな人に出会うことができたというその一点においては、あの男に少しは感謝すべきなのかもしれない。絶対にしないけど。
 ふとそんなことを考えたあと、黒服さんの問いに答えた。
 そのことへの答えは、昨日すでに出してある。

「それ、なんですけど。こっち一人ではやつには敵いませんでした。同居人たちといっしょでも、結果はそう変わらないと思います。………それでも、あいつを野放しにはできません。だから―――」

 ―――いっしょに戦ってください、と。
 頭を下げ、心の底から頼み込む。

「…………それは、相手が妹さんの仇、だから?」

 女の子が訊いてきた。
 一つ頷いて素直にそれもある、と認め、

「でも、それはいいんです。確かに妹のことはその通りで、あいつが憎くて憎くてたまりません―――できることならこの手で五体バラバラに引き裂いて、生きたまま食ってやりたいくらい。……でも、それはそれなんです」

 これは、自分の思っている通りのことを、そのまま出しているだけ。
 自分でもよくわからないし、支離滅裂気味で―――それでも、こうするのが一番伝わりやすいと思った。

「こっちがこの街に来て、まだ二ヶ月も経ってないですけど……それでも、いろんな人と会いました。友達になってくれた人もいます。あなたたちは命の恩人です。みんなみんな、こっち自身にとっては大切な人たちです。…………そしてあいつはその人たちを、文字通り食い物にしようとしている―――だから、戦います。戦って、殺します。…………もう、好きな人たちに死なれるのは、嫌だから」

 そのために協力してください、と言葉を繋ぎ、こっちのお願いは終わった。
 ………自分で言っていて、情けなくて涙が出そうだ。
 護りたいものがあるのなら、自分の力で護り通すべきなんだ、本当は。
 それができないから、こうして命の恩人にすら恥知らずにもすがることになる―――本当に、情けない。
 ……その時、下げ続けていた頭にぽん、と手を置かれたのを感じた。

「―――そんなに、思い詰めるなよ?」

 そう声をかけてくれたのは、チャラ女さん。

「そもそも協力するも何も、これは俺達の問題でもあるわけだしな?」
「………?」

 ……どゆこと?
 首を傾げると、何で気づいてないんだよ、とチャラ女さんは苦笑して、

「だってそいつ、この街の都市伝説を全部食っちまうつもりだったんだろ? だったら遅かれ早かれ、俺達も標的になってたってことだ」
「…………あ」
「だから、その危険を事前に都合のいい形に変えてその上報せてくれたお前に、"協力してくれ"なんてわざわざ頼まれる筋合いはないぜ?」

 むしろ感謝したいくらいだ、とそう言って微笑むチャラ女さん。
 ………そういえば、そうなのか? 確かに冷静に考えてみるとそういうことで、巻き込むもなにもないことな、ような、気も………?

「……思い詰めてるとな、気付けるはずのもんにも気付けなくなるもんだ。そう一人で背負い込むもんじゃないぞ?」

 まだ子供なんだからな、とチャラ女さん。
 なぜか、目頭がぐっと熱くなる。

(……………自分では、全然大丈夫なつもり、だったんだけどなあ……)

 あの男と再会して、なんとなくわかっていたことだけどボコボコにされて、死にかけて。
 どうも自分でも気づかない内に、相当まいっていたようだ。
 かけられた優しい言葉は、ゆっくりと傷んだ心に染み込んでいって―――。

「あ、あれ? お、かしいな。ひっく、なんで、こっち、泣いて……?」

 ―――こっちがしゃくりあげて泣き始めるまで、そう時間はかからなかった。



 ………たっぷりと泣いて、朝ごはん食べて、一応気持ちは落ち着いたの、だが。

(…初対面に近い人のまえで泣くなんて、恥ずかしすぎる……!)

 今、とても、恥ずかしい。
 なにが恥ずかしいって、さっき泣いてからなんかチャラ女さんと女の子の視線が優しくなったことが特に。
 年上なチャラ女さんはともかくとしても、こんな小さな女の子に慈しむような視線をもらうのはどうなんだろう、かりにも一人の男として。
 ………余談だが、こっちが実は男だということは隠させてもらっている。いろいろと不都合がっていうか精神安定上の問題で。

「………あの」
「ん、なんだ?」

 てきぱきと家事に励むチャラ女さんに話しかける。
 ちなみに黒服さん(Dさんというらしい。Hさんの同僚さんなんだろうか?)は仕事があったらしく、少し前に出かけてった。

「えっと、……もうそろそろ、家に帰ろうかと。同居人たちも心配してると思いますし」
「お、そうか。………いや、身体は大丈夫なのか? 酷い怪我だったんだし、なにより今顔色悪いぞ?」
「…………マジすか」

 ほれ、と差し出された鏡に映っていた顔は、確かに少し青かった。
 怪我は治っても、失った体力や血などを再生するのにはもう少しかかるようだ。

「ここで帰してもし倒れられでもしたら黒服が助けた意味もなくなっちまうし、もう少し休んでたらどうだ? 今日は一日ゆっくりする予定だったしな」

 朝のニュースによると、今日から十二月並みの寒気が学校町あたりに被さるそうで、そんな中で街中で気絶とかしたら本当に洒落にならない。せっかく助けてもらった命をドブに全力投球するようなものだ。

「えと…じゃあお言葉に甘えて、もう少しいさせてもらってもいいですか?」
「おう、いいぞ」
「……まあ、仕方ないわね」

 チャラ女さんはこくりと、女の子はしぶしぶといった感じで、それぞれ頷いてくれた。
 そして手を差し出して、

「じゃあ改めてよろしくな。俺は《日焼けマシンで人間ステーキ》の契約者だ。あと、《厨二病》と黒服とも契約してる」
「私は《はないちもんめ》の契約者よ。私も黒服と契約してるわ。……よろしくね」

 ………親子じゃなかったのか。三人ともお互いのことをすごい信頼してるようだったし年齢的にも納得できたので、てっきり父母娘の三人家族なのかと思ってた。
 とそんなことを考えながら、しかしもういい加減学習したので口には出さず、差し出された手を握り返す―――握手、親愛の証だ。

「こっちは《ジェットばあさん》、《地震発生装置》、《重いコンダラ》の契約者です。……こちらこそ、よろしくお願いします!」

 休ませてもらうとは言っても本当に同居人たちは心配してるだろうし、迷惑かけまくるのもアレだから早めに帰った方がいいよなあなんて思いながら、こっちは今生きていられる幸せを噛み締め、微笑んだ。


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