マッドガッサー達との接近遭遇~幼女マリ、路上にて
とある日、お昼頃の学校町、その北区の一角にて。
一人の少女が、人気のない路地をひょこひょこと歩いていた。
この寒い中、生足を盛大に露出させたスカートと明らかにサイズの合っていないYシャツを着て、白い上着を羽織っている。
小学生並の身長に、それに不釣り合いな今にもYシャツのボタンを弾けさせそうなほどの巨大な胸をたゆんたゆんと揺らしているという一部のマニア垂涎な容姿のその少女は、その細い首を今にもポッキリ折れそうなくらいに傾げさせ、しかしその歩みに迷いはない。
その少女が目指すは命の恩人、Dさん一家(血は繋がっていなくとも家族みたいだと、少女は思った)が住む家である。
一人の少女が、人気のない路地をひょこひょこと歩いていた。
この寒い中、生足を盛大に露出させたスカートと明らかにサイズの合っていないYシャツを着て、白い上着を羽織っている。
小学生並の身長に、それに不釣り合いな今にもYシャツのボタンを弾けさせそうなほどの巨大な胸をたゆんたゆんと揺らしているという一部のマニア垂涎な容姿のその少女は、その細い首を今にもポッキリ折れそうなくらいに傾げさせ、しかしその歩みに迷いはない。
その少女が目指すは命の恩人、Dさん一家(血は繋がっていなくとも家族みたいだと、少女は思った)が住む家である。
「―――うーん、まいったなー。まさか、こんなとこまで来る羽目になるとは………」
右手に持った紙袋をプラプラと揺らし、呟く。
何がまいったかって、とにもかくにも迷子である。
本人に自覚はないが(というか少女の親しい人間が色々とアレすぎる)、世間一般から見て十分変人の範疇に入るこの少女の悪癖の一つに、"好奇心には諸手を挙げて全面降伏する"という点が挙げられる。
要するに好奇心に忠実ということで、それはいい結果をもたらすこともあれば、悪い結果をもたらすこともあるのだ―――例えば、今のような。
ただでさえ頼りない記憶を頼りにDさん達の家へと向かう途中、何故か街中で見かけた狼っぽい大きな犬を思わず追いかけることしばし。
いつの間にか見たことのない道に入り込んでしまい、それでも「なんとかなるさー」と無駄なポジティブさを発揮した結果がこれである。
毎日に近い頻度で散歩をしているとは言っても夜と昼とでは感じも違うわけで、ただでさえこの街に来と二ヶ月程しか過ごしていないこの少女の土地勘など当てになるようなものではない。
よってこの少女は、中身は年齢十五歳、高校一年生、実は男なのにも関わらず、見事なまでに迷子となってしまったのだ。
見た目通りの少女ならばともかく、高校生にもなった男が地元で迷子というのはバカにされても仕方のないレベルのことである。
しかしそこは基本マイペースで無自覚ドMなこの少女(中身はともかく、見た目は現在完全に少女だ)、この"迷子になった"という状況含めて結構楽しんでいたりするのだが。
何がまいったかって、とにもかくにも迷子である。
本人に自覚はないが(というか少女の親しい人間が色々とアレすぎる)、世間一般から見て十分変人の範疇に入るこの少女の悪癖の一つに、"好奇心には諸手を挙げて全面降伏する"という点が挙げられる。
要するに好奇心に忠実ということで、それはいい結果をもたらすこともあれば、悪い結果をもたらすこともあるのだ―――例えば、今のような。
ただでさえ頼りない記憶を頼りにDさん達の家へと向かう途中、何故か街中で見かけた狼っぽい大きな犬を思わず追いかけることしばし。
いつの間にか見たことのない道に入り込んでしまい、それでも「なんとかなるさー」と無駄なポジティブさを発揮した結果がこれである。
毎日に近い頻度で散歩をしているとは言っても夜と昼とでは感じも違うわけで、ただでさえこの街に来と二ヶ月程しか過ごしていないこの少女の土地勘など当てになるようなものではない。
よってこの少女は、中身は年齢十五歳、高校一年生、実は男なのにも関わらず、見事なまでに迷子となってしまったのだ。
見た目通りの少女ならばともかく、高校生にもなった男が地元で迷子というのはバカにされても仕方のないレベルのことである。
しかしそこは基本マイペースで無自覚ドMなこの少女(中身はともかく、見た目は現在完全に少女だ)、この"迷子になった"という状況含めて結構楽しんでいたりするのだが。
「―――ん?」
うっすらと聞こえてきた、大勢が争うような音に反応する少女。
音の反響具合や大きさから大体の位置を割り出すと、小走りにその場所を目指した。
音の反響具合や大きさから大体の位置を割り出すと、小走りにその場所を目指した。
(―――普通の喧嘩だったらいいけど)
揺れまくる胸に若干どころでない動きにくさを感じつつ、少女は思う。
単純な喧嘩ならば、この少女が手を出そうと思うことはない。
よほどのこと―――例えばあまりに戦力差があったり、女の子や小さな子がやられてたり―――がなければ、むしろ野次馬になって見物していることだろう。
ならば何故、今その喧嘩が行われている場所へと急いでいるのか。
それは、
単純な喧嘩ならば、この少女が手を出そうと思うことはない。
よほどのこと―――例えばあまりに戦力差があったり、女の子や小さな子がやられてたり―――がなければ、むしろ野次馬になって見物していることだろう。
ならば何故、今その喧嘩が行われている場所へと急いでいるのか。
それは、
(……明らかに一つ、おかしい音があるんだよなあ………まあ、全体的におかしいって言えばおかしいんだけど)
普通の喧嘩ならば、何かしらの叫び声があってもいいはずだ。
しかし今聞こえるのは、意味を為さないような唸り声が複数と、一際大きな破砕音が一つ。
―――ただの喧嘩だと判断するには、少しばかり異常に過ぎた。
少しずつ大きくなる騒音に、方向が合っていることを少女は確信する。
そしてとうとうその場所へと辿り着き―――少女は思わず目を見張った。
そこは、路地と路地の合間に出来た空き地だった。
元々ビルか何かが建つ予定だったのが中止にでもなったのだろう、ビルとビルとの間にポツリと出来た、その目立たない空白地点。
そこに、まともに暮らしている者ならばまず一生目にしないだろう、異常な光景があった。
しかし今聞こえるのは、意味を為さないような唸り声が複数と、一際大きな破砕音が一つ。
―――ただの喧嘩だと判断するには、少しばかり異常に過ぎた。
少しずつ大きくなる騒音に、方向が合っていることを少女は確信する。
そしてとうとうその場所へと辿り着き―――少女は思わず目を見張った。
そこは、路地と路地の合間に出来た空き地だった。
元々ビルか何かが建つ予定だったのが中止にでもなったのだろう、ビルとビルとの間にポツリと出来た、その目立たない空白地点。
そこに、まともに暮らしている者ならばまず一生目にしないだろう、異常な光景があった。
まず喧嘩の状況は、一言で言うと多対一。
多の側の人間は、ピアスをはめた夜の街を歩いていそうな若者や煤けた格好をしたホームレスらしき中年など。
年齢もバラバラな彼らの共通点としては………たとえいきなりいなくなったとしてもそう気に病む者はいなさそうな、そんな感じがするところくらいか。
本来ならホームレスとホームレス狩りという形で敵対関係にあってもおかしくないような彼らが共に行動しているのも異様だと言えるのだが、この集団で最も異様なのはそこではない。
最も異様なのは、それは彼らの表情だ。
目は血走り、口からは涎を垂れ流し―――一目でわかる。正気ではない。
更にその口から漏れるのは知性ある言葉ではなく、ただの"音"としか表現できないような唸り。
普通の人間ならば思わず逃げ出してしまいそうな集団を前に、しかし少女が目を見張ったのは彼らにではない。
少女が目を見張ったのは、この集団がいるだけでさえ異様な空間を更に異様なものとしている、一の方に対してだ。
意味不明な声を発しながら人とは思えぬ瞬発力で襲いかかる集団を、その常識はずれの膂力と素早さで翻弄するその小さな人影。
それは、ヴェールを纏った、可愛らしい―――女の子だった。
少女はギリ、と奥歯を噛み締める。
プロレスラーですら及ばないだろうその膂力を見る限り、まともな人間であるはずはなく、人間ですらないのかもしれないが―――この少女にとっては、小さな女の子を襲っているというそれだけで、その相手を叩き潰す理由になった。
すぐさま飛んでいこうとし―――ふと思い止まって、右手に持った紙袋を地面に置く。
この紙袋の中には、Dさんの家から帰るときに貸してもらったチャラ女さんのシャツとはないちもんめの子のスカート、ついでに作ったミートパイが入っている。戦いに巻き込んで汚したりするわけにはいかない。
紙袋を丁寧に路地の脇に退けてから、改めて身体の調子を確認する少女。首を回し、肩を回し、手首足首を回して準備は完了、仕上げに指を鳴らす。
白く小さな可愛らしい手からこれまた可愛らしいコキリ、という音が鳴る。
多の側の人間は、ピアスをはめた夜の街を歩いていそうな若者や煤けた格好をしたホームレスらしき中年など。
年齢もバラバラな彼らの共通点としては………たとえいきなりいなくなったとしてもそう気に病む者はいなさそうな、そんな感じがするところくらいか。
本来ならホームレスとホームレス狩りという形で敵対関係にあってもおかしくないような彼らが共に行動しているのも異様だと言えるのだが、この集団で最も異様なのはそこではない。
最も異様なのは、それは彼らの表情だ。
目は血走り、口からは涎を垂れ流し―――一目でわかる。正気ではない。
更にその口から漏れるのは知性ある言葉ではなく、ただの"音"としか表現できないような唸り。
普通の人間ならば思わず逃げ出してしまいそうな集団を前に、しかし少女が目を見張ったのは彼らにではない。
少女が目を見張ったのは、この集団がいるだけでさえ異様な空間を更に異様なものとしている、一の方に対してだ。
意味不明な声を発しながら人とは思えぬ瞬発力で襲いかかる集団を、その常識はずれの膂力と素早さで翻弄するその小さな人影。
それは、ヴェールを纏った、可愛らしい―――女の子だった。
少女はギリ、と奥歯を噛み締める。
プロレスラーですら及ばないだろうその膂力を見る限り、まともな人間であるはずはなく、人間ですらないのかもしれないが―――この少女にとっては、小さな女の子を襲っているというそれだけで、その相手を叩き潰す理由になった。
すぐさま飛んでいこうとし―――ふと思い止まって、右手に持った紙袋を地面に置く。
この紙袋の中には、Dさんの家から帰るときに貸してもらったチャラ女さんのシャツとはないちもんめの子のスカート、ついでに作ったミートパイが入っている。戦いに巻き込んで汚したりするわけにはいかない。
紙袋を丁寧に路地の脇に退けてから、改めて身体の調子を確認する少女。首を回し、肩を回し、手首足首を回して準備は完了、仕上げに指を鳴らす。
白く小さな可愛らしい手からこれまた可愛らしいコキリ、という音が鳴る。
「それじゃあいっちょう―――」
言い出すと同時、少女は全力で走り出す。
その小さな身体はすぐに最高速に達し、そのまま戦いの場へと飛び込んでいく。
その小さな身体はすぐに最高速に達し、そのまま戦いの場へと飛び込んでいく。
「―――いきますかっ!」
威勢のいい叫びとともに地を蹴ったその足は、女の子を背後から襲おうとしていた中年男性の側頭部に、しっかりと足を揃えたきれいなドロップキックとなって突き刺さった。
全体重と全ての速度のこもった蹴りを食らったその中年男性は勢いよく吹き飛んでいき、逆に綺麗に着地した少女は、突然のことに目を真ん丸にしている女の子にぐっと親指を立ててみせ、その背中合わせに構えをとる。
その行動に込められたのは、"話は後で、背中は守る"というただ一つのメッセージ。
それは無事伝わったようで、背中越しに女の子がすっと構える気配を感じた。
突然の闖入者に警戒したのだろう、一時的に距離をとって様子を窺っていた若者や中年達の集団もそれぞれ体勢を立て直し、一人増えて二人となった標的達に純粋な敵意のみを向ける。
その意思を感じて、場を掻き乱すことであわよくば、と狙っていた話し合いは不可能だと少女は悟った。
目には見えず、しかしこの状況においては確かな拘束力を持った緊張が空き地の空気を埋め尽くしていき―――先に動いたのは、男達の方だった。
かなりの速度で突き出された若者の太い腕。それを少女は見切り、その腕に飛び付いて逆関節を極める。
サンボに見られるような飛び付き腕十字。ボキリ、という音とともにその腕から力が抜けるが―――それでもその若者の動きは止まらなかった。痛みを感じないかのように狂った笑みを浮かべながら、もう一方の拳を少女に叩きつけようとする。
それを見た少女は若者の腕を支点に身体を半回転させ、左足で若者の足を払う。
殴りかかろうとした瞬間にバランスを崩され、若者は仰向けの状態で地面に倒れ―――その後頭部が地面に当たるその瞬間、落下の勢いを利用し加速した少女の右足が若者の顔面に降った。
与えられた衝撃は逃げ場をなくし、若者の頭部で炸裂する。
その若者の目がぐるんと裏返るのを確認もせず、少女は即座に立ち上がる。
チラリと女の子の方を覗き見ると、二人の男性を無理矢理に振り回して地面に叩きつける女の子の姿が目に入った。
その暴れっぷりを見て、不意打たれなかったら余裕っぽいなーと分析しつつ、タックルしてきた中年男のこめかみへと身体のねじりを利用したフックを叩き込む。
ついで突進してきたホームレスっぽい人の脇腹には回し蹴りを。しかし今度は受け止められ、逆に足を捕らえられた。更に身体を捻って後ろ回し蹴りをその顎先に見舞い、意識を刈り取る。
そこまでで少女が地面へ沈めた人数は四人。その内二人は一撃で倒れず、反撃を加えようとしてきた。
その事実を頭の中で分析し、少女はとある仮説を打ち出す。
その仮説とは、"この男達は痛みを感じないのではないか"というものだ。
女の子に投げ飛ばされた男性達が手足を奇妙に折り曲げながらも立ち上がろうとしているのが、その信憑性に拍車をかける。
その行動に込められたのは、"話は後で、背中は守る"というただ一つのメッセージ。
それは無事伝わったようで、背中越しに女の子がすっと構える気配を感じた。
突然の闖入者に警戒したのだろう、一時的に距離をとって様子を窺っていた若者や中年達の集団もそれぞれ体勢を立て直し、一人増えて二人となった標的達に純粋な敵意のみを向ける。
その意思を感じて、場を掻き乱すことであわよくば、と狙っていた話し合いは不可能だと少女は悟った。
目には見えず、しかしこの状況においては確かな拘束力を持った緊張が空き地の空気を埋め尽くしていき―――先に動いたのは、男達の方だった。
かなりの速度で突き出された若者の太い腕。それを少女は見切り、その腕に飛び付いて逆関節を極める。
サンボに見られるような飛び付き腕十字。ボキリ、という音とともにその腕から力が抜けるが―――それでもその若者の動きは止まらなかった。痛みを感じないかのように狂った笑みを浮かべながら、もう一方の拳を少女に叩きつけようとする。
それを見た少女は若者の腕を支点に身体を半回転させ、左足で若者の足を払う。
殴りかかろうとした瞬間にバランスを崩され、若者は仰向けの状態で地面に倒れ―――その後頭部が地面に当たるその瞬間、落下の勢いを利用し加速した少女の右足が若者の顔面に降った。
与えられた衝撃は逃げ場をなくし、若者の頭部で炸裂する。
その若者の目がぐるんと裏返るのを確認もせず、少女は即座に立ち上がる。
チラリと女の子の方を覗き見ると、二人の男性を無理矢理に振り回して地面に叩きつける女の子の姿が目に入った。
その暴れっぷりを見て、不意打たれなかったら余裕っぽいなーと分析しつつ、タックルしてきた中年男のこめかみへと身体のねじりを利用したフックを叩き込む。
ついで突進してきたホームレスっぽい人の脇腹には回し蹴りを。しかし今度は受け止められ、逆に足を捕らえられた。更に身体を捻って後ろ回し蹴りをその顎先に見舞い、意識を刈り取る。
そこまでで少女が地面へ沈めた人数は四人。その内二人は一撃で倒れず、反撃を加えようとしてきた。
その事実を頭の中で分析し、少女はとある仮説を打ち出す。
その仮説とは、"この男達は痛みを感じないのではないか"というものだ。
女の子に投げ飛ばされた男性達が手足を奇妙に折り曲げながらも立ち上がろうとしているのが、その信憑性に拍車をかける。
―――もしそうだとしたら、厄介だな。
少女は襲いかかってくる男性の腕をいなしながら思う。
現在、少女はその能力を発動させていない。
その身体能力は―――契約者だということで、多少は強化されてはいるが―――それでも人間の域を越えてはいないだろう。
現在、少女はその能力を発動させていない。
その身体能力は―――契約者だということで、多少は強化されてはいるが―――それでも人間の域を越えてはいないだろう。
―――痛みで止まってくれるんだったら、小指捻るくらいでもなんとかなったのに。
痛みを感じないというのは、常識で考えればデメリットだらけのことだ。しかし戦いにおいては、ある意味ではそれはメリットとなりうる。
例えば―――こういう話を知っているだろうか。
アメリカの麻薬常習者が多く住む地域に勤める警官は、大口径の銃を好んで使うという。
抑止力を求めるならどんな銃だろうとただあればいいのだし、人を殺すのにはそんな大口径の銃のような威力はいらない。小口径のもので十分だ。
ならば、なぜ反動も大きい大口径の銃を使うのか?
それは、麻薬常習者の痛覚は鈍っていることが多いからだ。
痛みを感じない麻薬常習者達は、小口径の銃の銃撃だけでは止まらない。
つまり人間は、どれだけ身体を痛めつけられようが、身体が死に瀕していようが、動くことはできるのだ―――痛みさえ無視できれば。
この集団も正にそうだった。
殴ろうが蹴ろうが投げようが、その身体が動く限り怯まず襲いかかってくる―――鬱陶しいことこの上ない。
例えば―――こういう話を知っているだろうか。
アメリカの麻薬常習者が多く住む地域に勤める警官は、大口径の銃を好んで使うという。
抑止力を求めるならどんな銃だろうとただあればいいのだし、人を殺すのにはそんな大口径の銃のような威力はいらない。小口径のもので十分だ。
ならば、なぜ反動も大きい大口径の銃を使うのか?
それは、麻薬常習者の痛覚は鈍っていることが多いからだ。
痛みを感じない麻薬常習者達は、小口径の銃の銃撃だけでは止まらない。
つまり人間は、どれだけ身体を痛めつけられようが、身体が死に瀕していようが、動くことはできるのだ―――痛みさえ無視できれば。
この集団も正にそうだった。
殴ろうが蹴ろうが投げようが、その身体が動く限り怯まず襲いかかってくる―――鬱陶しいことこの上ない。
―――でも、やりようはある。
痛みで止まらないのなら、物理的に止まらざるをえないようにしてしまえばいい。
さっきの話の中で警官達が大口径の銃を愛用する理由もそれだ。
小口径の銃の銃撃の痛みで止まらないならば、大口径の銃の銃撃の単純な破壊力で無理矢理に止めてしまえばいいのだ。
そしてその考えを元に、少女は今の敵への対策を立てる。
さっきの話の中で警官達が大口径の銃を愛用する理由もそれだ。
小口径の銃の銃撃の痛みで止まらないならば、大口径の銃の銃撃の単純な破壊力で無理矢理に止めてしまえばいいのだ。
そしてその考えを元に、少女は今の敵への対策を立てる。
――― 一撃一撃をピンポイントで急所に叩き込んで、確実に意識を飛ばす!
殴りかかってきたその腕を左手でいなし、残った右の掌底でその相手の顎を撃ち抜く。
胴を薙ぐような軌道で繰り出された回し蹴りを、身を回転させつつかがむことでくぐるようにしてかわし、その勢いを乗せた飛び後ろ回し蹴りを相手のこめかみへめり込ませる。
胴を薙ぐような軌道で繰り出された回し蹴りを、身を回転させつつかがむことでくぐるようにしてかわし、その勢いを乗せた飛び後ろ回し蹴りを相手のこめかみへめり込ませる。
敵の数が多いこの状況で確実に相手の攻撃を避け、正確な急所への一撃で一人、また一人と地面へと沈めていく少女。
その膂力とスピードでもって数を圧倒し、時には相手の身体をすら振り回し武器として活用して、次々に敵を吹き飛ばしていく女の子。
力と技。それぞれ違う戦い方をする二人の動きは、それでも不思議と噛み合って―――その集団が全員沈黙するのに、長い時間はかからなかった。
その膂力とスピードでもって数を圧倒し、時には相手の身体をすら振り回し武器として活用して、次々に敵を吹き飛ばしていく女の子。
力と技。それぞれ違う戦い方をする二人の動きは、それでも不思議と噛み合って―――その集団が全員沈黙するのに、長い時間はかからなかった。
突き出された大きく無骨な男の拳の側面を白く柔らかな少女の拳が叩き、拳を弾いた流れに乗って懐へと潜り込んだ少女の肘が相手の男の鳩尾を抉る。
そうして、その男―――女の子を襲っていた集団の最後の一人は、口から泡を吹いて動かなくなった。
少女は適当に自分の身体をパッパと払うと、地面に転がる男達を踏まないよう気を付けながら女の子へ近寄っていく。
そうして、その男―――女の子を襲っていた集団の最後の一人は、口から泡を吹いて動かなくなった。
少女は適当に自分の身体をパッパと払うと、地面に転がる男達を踏まないよう気を付けながら女の子へ近寄っていく。
「えっと……怪我とかない? 大丈夫だった?」
女の子の肩などを払いながらそう訊く少女に、
「大丈夫ー」
といたって元気に答える女の子。
それはよかった、と少女は微笑み―――途端に表情を一変させると、鋭い目で上を見上げた。
それを見た女の子は、? と首をかしげながらその視線を追って顔を上へと向ける。
その視線の先、そこにその男はいた。
ビルの屋上から身を乗り出して、少女と女の子、そして何人もの男達が倒れ伏す空き地の様子を窺っている、その男。
その手には、コーラのペットボトルが握られていた。
女の子―――《マリ・ヴェルデのベート》の優れた目は、男の顔がひきつり、その頬を汗がたらりと垂れていくのを捉える。
慌てた様子で身を翻し、男の姿はビルの屋上へと消えた。
それはよかった、と少女は微笑み―――途端に表情を一変させると、鋭い目で上を見上げた。
それを見た女の子は、? と首をかしげながらその視線を追って顔を上へと向ける。
その視線の先、そこにその男はいた。
ビルの屋上から身を乗り出して、少女と女の子、そして何人もの男達が倒れ伏す空き地の様子を窺っている、その男。
その手には、コーラのペットボトルが握られていた。
女の子―――《マリ・ヴェルデのベート》の優れた目は、男の顔がひきつり、その頬を汗がたらりと垂れていくのを捉える。
慌てた様子で身を翻し、男の姿はビルの屋上へと消えた。
―――最近増えてるっていう《コーク・ロア》か。
―――《爆発する携帯電話》の契約者やらが襲われたのとは違う奴みたいだが………殺っておくか?
―――《爆発する携帯電話》の契約者やらが襲われたのとは違う奴みたいだが………殺っておくか?
幼い女の子の姿に似合わない、血生臭いことを考えるマリ。
そんなマリの思考を、少女の言葉が遮った。
そんなマリの思考を、少女の言葉が遮った。
「―――ねえ、ごめん。ちょっと待っててくれる?」
脈絡もなくマリの手を取り、その爪で自らの手を傷つけながらそう訊く少女。マリのその鋭い爪は、少女の白い手に一筋の赤い線を刻んだ。
驚いたマリは少女の顔を見る。
その顔は、不自然なほど優しい笑顔。
マリはその笑みを、とても危険なものだと感じた。
その笑顔は、心の中で燃え盛る激しい怒りを無理矢理その中へと押し込め、幼女の姿のマリへそれ相応の形で接するためのもの。
それなのにも関わらず、マリは思わず少女の問いに頷いてしまっていた。
別に拒否するようなことではないということもある。それも確かにあるが―――人狼や司祭の姿ならばまた違っていたのだろうが―――少女の笑顔のその異様な迫力に気圧された部分があるというのも、確かな事実だった。
直接向けられた訳でもないのに、気圧される程の怒り。ならばその、押し込められて凝縮された怒りをぶつけられた者は、どうなってしまうのか―――。
驚いたマリは少女の顔を見る。
その顔は、不自然なほど優しい笑顔。
マリはその笑みを、とても危険なものだと感じた。
その笑顔は、心の中で燃え盛る激しい怒りを無理矢理その中へと押し込め、幼女の姿のマリへそれ相応の形で接するためのもの。
それなのにも関わらず、マリは思わず少女の問いに頷いてしまっていた。
別に拒否するようなことではないということもある。それも確かにあるが―――人狼や司祭の姿ならばまた違っていたのだろうが―――少女の笑顔のその異様な迫力に気圧された部分があるというのも、確かな事実だった。
直接向けられた訳でもないのに、気圧される程の怒り。ならばその、押し込められて凝縮された怒りをぶつけられた者は、どうなってしまうのか―――。
「そっか、ありがとうね。―――30秒で終わらせてくるから」
マリが頷くのを見た少女は、そう言い放つと同時に、能力を発動させて跳躍した。
―――あの男が持ってたペットボトルの中身は、コーラ。
―――反応の仕方からして、あの男はほぼ間違いなく黒。
―――痛覚の麻痺など、麻薬と同じような効果―――恐らくは、《コーク・ロア》。
―――反応の仕方からして、あの男はほぼ間違いなく黒。
―――痛覚の麻痺など、麻薬と同じような効果―――恐らくは、《コーク・ロア》。
少女はビルの壁をその人間離れした脚力で蹴り、三角飛びの要領でビルの中ほどまで飛び上がると、両手に出現させた鎌をスパイク代わりに一気に屋上へと登り詰めた。
ビルの屋上には、既に男の姿はない。
ビルの屋上には、既に男の姿はない。
―――ふざけてる。
―――あんな小さな子を襲ったっていうのも気に入らない。
―――人を物みたいに操って襲わせるっていうのも、気に入らない。
―――あんな小さな子を襲ったっていうのも気に入らない。
―――人を物みたいに操って襲わせるっていうのも、気に入らない。
それを確認すると、少女は屋上の反対側へと走り、そこに非常階段を発見した――――――10秒。
ビルの中か非常階段か、一瞬迷うが……非常階段を飛び出した人影を地上に発見し、少女はすぐさま行動に移る。
ビルの中か非常階段か、一瞬迷うが……非常階段を飛び出した人影を地上に発見し、少女はすぐさま行動に移る。
―――これだけで、あいつはこっちの敵だと判断するのに十分だ。
―――けど、何よりも一番気に入らないのは。
―――あいつ、他の人に無理矢理戦わせておいて、自分だけ逃げやがった!
―――けど、何よりも一番気に入らないのは。
―――あいつ、他の人に無理矢理戦わせておいて、自分だけ逃げやがった!
ビルから飛び降りつつ壁を蹴って距離を稼ぎ、バタバタと手足を振り乱して走る男の前方へと着地。
「…………今のは、お前だな」
温度を感じさせない静かな声が響いた――――――20秒。
男は本能で感じとる。それは分からないことを訊く質問ではなく、既に分かっていることを声に出すだけの確認だと。
男は本能で感じとる。それは分からないことを訊く質問ではなく、既に分かっていることを声に出すだけの確認だと。
「―――っ、ひ、ヒィッ!」
恥も外聞もなく情けない叫びを上げ、男はただ生きるためだけにその手を振るう。
ペットボトルからコーラが勢いよく飛び出し、少女に向かって降り注いだ。
ペットボトルからコーラが勢いよく飛び出し、少女に向かって降り注いだ。
―――この程度、なにも怖くない。
空中に網のように広がったコーラを地を這うような軌道でかわし、少女は男との距離を詰める。
その恐怖にひきつった顔が、怯えた瞳が、今にも泣き出しそうに歪んだ口が、目の前に迫った。
少女の身体が限界まで捩られ―――まるで引き絞られた矢が放たれるかのように、右の抜き手が放たれる―――――30秒。
その恐怖にひきつった顔が、怯えた瞳が、今にも泣き出しそうに歪んだ口が、目の前に迫った。
少女の身体が限界まで捩られ―――まるで引き絞られた矢が放たれるかのように、右の抜き手が放たれる―――――30秒。
極限の一瞬、そのスローになった世界の中で、少女は男の耳元に優しく囁いた。
―――さようなら。
再びビルを飛び越えて姿を現した少女に、マリはピクリと反応する。少女を見るその目は鋭く、警戒心が露になっていた。
(うう……確かに今の格好、通報されても文句言えないようなのだけど、これはちょっと傷つく……)
両手を上げてふるふると振り、害意のないことをアピールする少女。軽くショックを受けたのが顔に出ていたのもあって、マリの警戒は目に見えて和らぐ。
「……これ、どうしようかな、マジで。生暖かい上にぬるぬるべたべたして気持ち悪いし……」
このままじゃ通報されかねんし、と少女はぼやく。
実際、少女が今の格好のまま街中を歩けば確実にアウトだろう。本当に通報されて逮捕される可能性すらある。しかも、かなり高い可能性で。
実際、少女が今の格好のまま街中を歩けば確実にアウトだろう。本当に通報されて逮捕される可能性すらある。しかも、かなり高い可能性で。
(家に帰ろうにも街中を絶対に通らなきゃいけないし………ビルの上でも飛んでいこうか……?)
ローラーを足場にすれば何とか……と、結構真剣に"ビルの上を飛んで帰ろう案"について検討を開始する少女。
地べたにしゃがみこみ、ブツブツ呟く少女の肩を、マリの小さな手が叩く。
ん? と振り向く少女に、マリは言った。
地べたにしゃがみこみ、ブツブツ呟く少女の肩を、マリの小さな手が叩く。
ん? と振り向く少女に、マリは言った。
「うち、くるー?」
近いしー、と続けるマリ。
マリとしては、これは特に意図があってのことではない。どちらかというとただの気まぐれに近い。
あのままでも負けはなかったとはいえそれなりに面倒だったことは確かで、そこに助太刀してくれたこの少女に対してなら、服を貸すくらいならいいかと思ったのだ。
襲ってきたあの男に対してみせたあの怒りを見たことも、プラス要素になっている。
マリとしては、これは特に意図があってのことではない。どちらかというとただの気まぐれに近い。
あのままでも負けはなかったとはいえそれなりに面倒だったことは確かで、そこに助太刀してくれたこの少女に対してなら、服を貸すくらいならいいかと思ったのだ。
襲ってきたあの男に対してみせたあの怒りを見たことも、プラス要素になっている。
「……え、いいの? ホントに?」
「いいのー」
「いいのー」
こんなどこの馬の骨とも分からない輩に、と訊く少女に、こくりと頷くマリ。
それを聞いた少女はすくっと立ち上がると、さっき置いておいた紙袋を回収しにいく。
左手に紙袋をぶら下げて戻ってきた少女は、マリに向かって右手を差し出そうとし―――途中でふと気づき、右手を慌てて引っ込めて左手の方を差し出す。
それを聞いた少女はすくっと立ち上がると、さっき置いておいた紙袋を回収しにいく。
左手に紙袋をぶら下げて戻ってきた少女は、マリに向かって右手を差し出そうとし―――途中でふと気づき、右手を慌てて引っ込めて左手の方を差し出す。
「えと、―――じゃあ、よろしくね?」
そう微笑んで言った少女の右半身、その白かったはずの上着とYシャツは―――どっぷりと粘つく赤に染まっていた。
―――その日。
北区にあるとある路地の一つで、胸を引き裂かれ、心臓を潰されるという、奇妙にして悲惨な死を遂げた男の死体が発見されたのだが―――何故かそれは大きな話題とはならず、警察の捜査も成果を挙げないまま、異常なまでに早々と終わることとなる。
北区にあるとある路地の一つで、胸を引き裂かれ、心臓を潰されるという、奇妙にして悲惨な死を遂げた男の死体が発見されたのだが―――何故かそれは大きな話題とはならず、警察の捜査も成果を挙げないまま、異常なまでに早々と終わることとなる。