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連載 - 女装少年と愉快な都市伝説-22b

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匿名ユーザー

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マッドガッサー達との接近遭遇~マッドガッサー、教会にて



「肉、ウマー」
「お粗末様です」

 口いっぱいにミートパイを頬張るマリと、微笑みながらその口元についた食べかすを取ってあげる少女。
 彼らは今、マリの住居を目指して歩いていた。
 人気のない路地のみを選んで歩いていくその動きは結構怪しいが、そもそも人目を避けているので見咎められることもない。

「おかわり、いる?」
「いるー」

 少女は紙袋の中の包みから小さなミートパイを取り出し、マリに手渡す。
 美味しそうにミートパイを頬張る幼女とそれをニコニコしながら見守る少女。
 少女の服が血みどろなのを除けば、それは微笑ましいと言って差し支えのない光景だった。

 そんなのほほんとした雰囲気のまま、何事もなく目的地に到着する。

「ここー」
「え、ここ? ……ホントに?」

 少女が戸惑うのも無理はない。
 マリの住居。そこは、教会だった。
 あまり特定の宗教を信仰しないというのが日本人の特徴の一つである。近所に教会があるだとか、そういう事情でもない限り、日本人が生の教会を目にすることは少ないだろう。
 少女もその例外ではなく、そもそも教会なんて一度たりとも見たことがなかったりする。
 ただいまー、と声をかけながら教会の扉を開き、中に入っていくマリ。
 少女は少し入るのを躊躇していたが、マリが「はやくー」と呼ぶのを聞いて、恐る恐るといった様子で扉をくぐっていった。

「お、マリ。遅かったな………って、その子は?」
「……?」
「何で首傾げてるんだ!? 知り合いじゃないのかよ!?」

 少女が中に入るなり聞こえてきたのはそんなやり取りだった。
 マリに対して全力で突っ込んでいるその人物を見て、少女はその頭にある疑問を浮かべる。
 すなわち、

(………なんでこの人、ガスマスクなんかはめてるんだろう?)

 この少女の一般常識はあまり信用できないものではあるが、それでもガスマスクが日常的に着用するものではないことくらいはわかっている。
 そもそもガスマスクなんて代物は、日常生活を送る中ではそうお目にかかれるものではない。
 精々映画やゲームなどの中で目にするくらいだろう。
 そのあたりから言っても、本物のガスマスクを着用している目の前の人物は非常に怪しいと言えるのだが………この少女の基準からすると、"怪しい"ではなく"ちょっと変わってる"という程度の認識だ。

(……ん? ガスマスク?)

「……だからな、連れてくるなとは言わねえから、せめてどこの誰か分かってから連れてきてくれよ!? 敵だったらどうすんだ?」
「でも、助けてもらったしー」
「何? ………うん、マリ。まず、何があったのかから説明してもらおうか」

 マリとガスマスクの男―――マッドガッサーのそんなやり取りを眺めながら、少女はふと既視感を覚える………具体的にはガスマスクに。
 何故か見たことがある気がするのだ。しかも結構最近に。
 先程の出来事をマリが説明しているのを聞きながら、どこで見たんだったかなー、と考え込む少女。
 その脳内のサルベージ作業が終わるのと、マリの説明を聞いたマッドガッサーが少女に目を向けたのとは同時だった。

「えーと、あんた。マリが世話になったみたいで、ありがとうな」
「いえ、そんな、世話になったなんて……大したことでもなかったし。マリちゃんだけでも十分そうだったけど、見てたらつい、手が出ちゃって………」
「いや、感謝するぜ。マリは確かに強いし、回復力も高いから心配はあまりしてないけどな。それでも大切な仲間だ―――出来る限り、怪我なんかしてほしくない」

 そう言って、頭を下げるマッドガッサー。
 それを見た少女は、笑う。まるで太陽を見るかのように、眩しそうに目を細めて。

「なんで笑ってるのー?」
「あ、ゴメン……あの、別にバカにしてるとかそういうのじゃないんです……」
「いやまあ、それは分かってるから大丈夫だ。………けど、俺もその理由は訊いてみたい」
「えーと、あの、大したことじゃないんですけど……素敵だな、って思って」
「素敵?」
「はい。…傷ついて欲しくないって思えるくらい大切な人がいるのは―――とても素敵なことだと思うんです」

 変なこと言ってすいません、と少女は頭を下げる。

「いや、俺も同感だ。―――仲間がいるってのは、いいよな」
「俺も、同感ー」

 口を揃えてその発言に同意を示す、マッドガッサーとマリ。
 やっていることの関係上、マッドガッサー達には敵が多い。だからこそ、マリに連れられてきたとはいえ、いきなり現れたこの少女のことも少なからず警戒していたわけだが………今の会話の中で、それはだいぶ和らいでいた。
 敵対する意思も見せず、見識がなかったにも関わらずマリに助太刀し、仲間がいることを「素敵だ」と言ったこの少女が敵だとは、あまり思えなかったのだ。

―――とはいっても、信頼できるって訳じゃないけどな。

 それはそうだ、自分達がやっていることが他人からどう思われるかなど、分かっているのだ。
 今こう接してくれているからといって、自分達の目的を知った後もそうだとは限らない。
 そう考えるマッドガッサーだったが………続く少女の言葉に、彼はマリ共々固まらされることとなる。

「それで、あの、つかぬことをお訊きしますが………」
「ん、なんだ?」
「えっと……もしかして、性別変えるピンクいガスとか、使えたりします?」

 空気が、凍った。
 マッドガッサーとマリの表情が一気に鋭くなる。が、それに対して少女の方は、のほほんとした雰囲気のまま。
 その様子を見る限りでは、今の発言はカマかけでも何でもなく、"ちょっと聞きたかったんで訊いてみました"という程度のただの質問とも思える。
 が、それだけとするには引っかかりがあった。
 "ガスマスクをしている"のは、ガスを出すということとイコールでは結ばれない。また、"ガスマスクを着けた男がガスを出す"ということだけなら、本来の《マッドガッサー》という都市伝説を知っていれば予想はつくだろう。
 だが、それだけでは"ガスがピンク色で女体化させる力を持つ"というのは分かるはずがないのだ。
 それを知っているということは、実際にガスを食らったか、他人から情報を受けとるしかないわけで、つまりはマッドガッサー達と敵対している可能性が高い。そう計算したマッドガッサーはマリをちらりと見る。
 アイコンタクトを受けたマリは、少女から見えないよう、その細い腕を背中へと回す。背中へと回されたその腕は一気に膨れ上がり、可愛らしい身体には恐ろしくアンバランスな、狼の腕へと姿を変えた。
 それを横目で確認しながら、マッドガッサーはガスを即座に放てるよう準備する。勿論、少女に気付かれないように、だ。
 女に対して媚薬の効果を発揮するガスだ、ダメージは与えられずとも気を引くことくらいは出来る。
 目の前で緊張感の欠片もなく首を傾げている少女は、やはり敵だとは思えなかったが、それでも他人に過ぎない―――仲間ではないのだ。
 少女が敵だった時、すぐに叩き伏せられるよう体勢を整えてから、マッドガッサーは答える。

「………そうだ、と言ったら?」

 それを聞いた少女は、無言でマッドガッサーへと近づいていった。マッドガッサー達の警戒度もそれとともに上がっていき、協会の中は張りつめた緊張感で満たされていく。
 少女はマッドガッサーの眼前へとたどり着くと、その小さな両手でマッドガッサーの手を包み込むようにして握り、言った。

「―――ありがとうございますっ!」
「「…………へ?」」

 張りつめていた緊張やらなんやらが一瞬でかき消され、揃って口をポカーンと開けるマリとマッドガッサー。
 そんな二人を尻目に、少女は尚も言葉を続ける。

「ホンッ……トにありがとうございます! お陰で"女装をする"っていう精神汚染から解放されました!
 ホント、もうやばかったんですよ………なんか"自分が男だ"っていう感覚が薄くなって、時たま性別が判らなくなったり。道端でヤンキーっぽい人にナンパされたり。満員の電車に乗ったらお尻とかさんざん触られるし、それに―――

 何やら暗い笑みを顔に浮かべながらボソボソと呟き続ける少女。目に光は宿っていない。所謂レイプ目である。その声はこもっている感情からして、"怨嵯の声"と表現するのが妥当だろう。
 さらに続くそれを解りやすく要約すると、「女体化させてもらったお陰で女装から解放されました!」という一言で済んだ。
 負の感情に満ちた声を聴かされているマッドガッサーとマリはといえば、目を丸くして呆けていた。
 女体化させて恨まれる覚えはあれど、感謝されることなど全く想像だにしていなかったのだから、これも妥当な反応だと言える。

「………あ、ああ。それは良かったな……」

 我に返ったマッドガッサーが、やっとのことで声を振り絞る。
 その脳内は「それって元から女装したら女にしか見えないくらい女っぽいってことじゃねーか?」とか「つーか、女装が嫌なら女になっても状況悪化してるだけじゃね?」みたいな、口に出したら少女の精神を一発で崩壊させかねないツッコミが駆け巡っている。
 ちなみにそのあたりの少女―――元少年の考え方について説明すると、"男で女の格好をする=女装→アウト"、"女が女の格好する→セーフ"であり、自分が女になっている間は女物の服を着るのが当たり前だと思っているのである。
 よって、女になっていると普通の格好をするだけで女装をしなければならない罰ゲーム期間を消費できる上、セクハラ等で受ける精神的ダメージも少ない。
 大した順応性だと見るか変態としての素質だと見るかは、まあ人それぞれだろう。
 ひたすら愚痴をこぼし続けた少女は、女装して最も辛かったこと(家庭内における同居人によるセクハラ・言葉責め。
例:「それにしても、360度どこから見ても女の子ですね、少年。しかもお尻を触ると「ひゃっ!?」こんな可愛らしい悲鳴まで上げてくれる。『現代に生きる男の娘!』みたいな感じでブログでも作って写真アップしませんか、きっと大人気ですよ?」)
を吐き出し終わると、今度は逆に目をキラキラと輝かせながらマッドガッサーの手を胸元に抱き寄せる。

「―――というわけで、ホントにありがとうございました! なにかあったらなんでも言ってください、全身全霊でお助けします!」

 そう恩返し宣言をしてくる少女からマッドガッサーは目を逸らす。女体化させたのを感謝されるという予想外の事態による動揺………と、ボタンを上から二つほど開けたYシャツからのぞく、少女の巨大な胸の谷間のせいである。
 身長差の関係で雪のように白い肌がかなり際どい所まで見えてしまう上、抱き寄せられた手がそのウエストのおよそ二倍という非常にアレな胸に埋まっている。
 視覚と触覚のダブルアタックの威力は絶大で、別にチェリーというわけでもないマッドガッサーを打ち負かした。女体化させた相手にイロイロしているとはいえ、色仕掛けでも何でもなく素でエロいことをされるというのは、それとはまた違った魅力があるのである。いやさ、リビドー的な意味で。

「う、ああ、ありがとな……」

 若干赤面しつつ手を引き抜くマッドガッサー。「あ、すいません」と少女が頭を下げると、つられて胸も派手に揺れた。
 元・男とはいえ―――いや、男だったからこそこういうことには敏感になるのではなかろうか。それを全く気にしないあたり、この少女はよほど純粋なのか―――それとも、ただ幼いだけなのか。
 そう考えながら、マッドガッサーは少女の方へと目を向ける。当の本人は「マリちゃんもありがとうね」などと言いつつマリを抱き締めていた。
 何故かマリは膝立ちになっており、その小さな頭を小女の胸へと埋めている。
 その口の端が今にも舌なめずりをせんばかりに歪んでいるのを見て、マッドガッサーは無防備な少女に忠告をしようとし、

「………」

 止めた。
 マリのあの愛らしい幼女の顔の下では、少女の乳を散々に弄くり回してアレやコレをするのを想像しているのだろう。
 だがそんなことは、マリのことを可愛らしい幼女だとしか認識していない少女に告げることではないと、マッドガッサーは判断する。
 今の時代、純粋というのは貴重である。貴重なその一人に、目の前の幼女が実はその脳内を常に性的なことと食べることで満たしているような人物だと、そう教えるのは忍びない。
 世の中、知らない方が幸せなこともあるのだ。


 その後、彼らは自己紹介を済ませ、当初の目的であった少女のシャツは洗濯することになった。

 洗濯の最中、少女が上半身裸のままうろつこうとするのをマッドガッサーが説得したり。
 少女の持っていたミートパイをかじりつつお茶をする時、マリが冷蔵庫の中に入っていた《魔女の一撃》特製の媚薬を原液のまま持ってくるのをマッドガッサーが必死に止めたり。
 少女が着ていた上着―――《火鼠の皮衣》をきれいにするためにとった"コンロに火をつけると、おもむろにその火で上着を炙り始める"という物理法則に真っ向から喧嘩を売るような行動に、マリとマッドガッサーが目を真ん丸にしたり。

 そんなアクシデントがあったりはしたが、おおよそ無事に洗濯も終わる。
 まだ生乾きのYシャツを着て、少女は早々に家に帰ることにした。

「今日は、お世話になりました」
「仲間に助太刀してもらった礼だ、そんな気にしなくていいぜ?」
「別にいいー」
「……つーか、服が乾くまでの間くらい居てもいいんだけどな」

 かけられる暖かい言葉に、少女の頬が綻ぶ。
 しかし、そういう訳にもいかない事情があるのだ。
 先日、とある理由により結果として無断外泊することとなった少女。
 家に帰ったところ、同居人達の見事なまでの誘導尋問と脅迫によって全てを吐かされ、その結果外出制限を設けられてしまったのだ。
 相手が自分のことを心配してくれていることも分かっているし、何よりペナルティが恐ろしい。
 家庭内ヒエラルキーにおいてダントツでドベな少女としては、何がなんでも逆らうわけにはいかないのだ………ペナルティによって侵されるだろう、自分自身の尊厳を守るためにも。

「いえ、ホントに大丈夫です。えと、では、お元気で。さようならー」
「おう、元気でな」
「バイバイー」

マリとマッドガッサーと別れの挨拶をかわし、少女は協会を後にした。

 その、帰る道中。
 いい人たちだったなあ、としみじみと少女は思う。
 別れたばかりの二人の顔が――― 一人はガスマスクだったが―――脳裏に浮かんだ。
 "類は友を呼ぶ"という言葉がある。仲間思いの彼らの仲間は、同じように仲間のことを大切に思っている人達なのだろう。

「………いい天気、だなあ」

 少女は空を見上げた。最近寒くなってきているとはいえ、青空に燦々と輝く太陽は、確かな暖かさを感じさせてくれる。
 心の中で、少女は誰にともなく祈った。

―――彼らの絆が、いつまでもいつまでも、繋がっていますように、と。


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