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連載 - 恐怖のサンタ-a03

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恐怖のサンタ 日常編 03



 ――――目標、補足。
 ――――距離、約10m
 ――――気付かれた気配、無し
 ――――跳躍準備、開始5秒前
 ――――4、3、2、1……

「こんにちは、愛しのひ――――」
「お前か、ストーカーってのは」
「――――と?」

 路地裏から、今まさに飛びかかろうとしていた少女の前に、影。
 ジャラジャラとアクセサリーを身に付けた青年が一人、少女の前に立っていた。
 その髪は金色にコーティングされ、身体は冬であるというのに日焼けで浅黒くなっている。

「やーやー、愛しの二人のお友達の翼君ではないですか」

 それは、直希と誠共通の友人である、翼。
 彼は、にっこりと微笑む少女を見て、少しため息をついた。

「愛しの二人、ねぇ……」

 あの二人の顔を思い浮かべながら、似合わないな、と思う。
 無論、似合っていてもそれはそれであれなのだが。

「それで、何のご用ですか、翼君。私は急いでるんですが」

 軽く首をかしげる少女。
 その目は、常に翼の先にいる誠へと向けられていた。
 翼はその視線に気づき、また軽くため息をついて

「ストーカー、やめてくんねぇかな」
「……はて、ストーカーとは一体」

 少女は、再び首を傾げ、ぽんっと手を打った。
 その動きに合せて、豊満な胸が揺れる。

「どこかに誠様のストーカーがいるわけですか! はいはい、是非ともおとめしましょうとも!」
「…………はぁ」

 全く悪気のない少女の笑顔を見て、翼は肩を落とした。
 物事を前向きにしか捉えられない性格と言うのは、往々にしてたちが悪い。
 翼は、どう言ったものかと考え、言葉を選びながら、口を開いた。

「それだったら『やめて』じゃなくて『とめて』って言うだろうが、普通」
「ですよねー、間違えちゃだめですよ、翼君」
「違うっ! 間違えてるのは俺じゃねぇっ!」
「ではストーカーの存在が間違いなんですか」

 ああもう、こいつは……。
 想像以上に少女が手強かった事に、翼は頭をくしゃくしゃとかいた。

「全くもう。駄目ですよー、人をからかっちゃ」

 少しふくれて、翼の横を通り過ぎようとする少女。
 思わず、翼はその肩を掴んだ。

「待てよ。まだ話は終わってねぇんだ」
「ぬー、しつこい人は嫌われますよー」

 そう言って、少女ははっと何かに気付いたように、翼と、そして少し先にいる誠とを交互に見た。
 そのまま、手に袋を出現させる。
 その中から取りだしたのは、一冊の手帳。
 それをパラパラとめくりながら、少女は何やらぶつぶつと呟き始めた。

「翼君……ホモ……誠様……求愛……受け入れる事はない……しかし……いや……まさか……」
「…………おい」

 少女の口から洩れた不穏な単語に、翼が肩を掴んだ手に力がこもる。
 その間も、少女は小声で呟き続け――――

「…………黒服さんとの二又は駄目ですよ、翼君」

 ――――全く意味のわからない言葉を、翼へと放った。
 それは、誤解が誤解を生み、さらにその誤解が誤解を生んだ結果の言葉。
 その全ては、翼の行動によるものである。
 しかしもちろん、彼はそんな事に思い当たるはずもなく

「……誰が、二又だって?」

 ぎりぎりと、肩を掴んだ手に力が込められていく。
 少女は、しかしその手を全く意識した様子はなく

「幾ら女装癖があってホモだとしても、二又は駄目です、絶対。黒服さん一人にしておいた方がいいと思います」
「……誰が、女装癖があってホモだって?」

 ピッと少女が指差したのは、翼。

「証拠の写真もありますよ!」

 少女が懐から取り出したのは、一枚の写真。
 少しピンクがかっている、その写真の中身。
 それは、翼にも記憶ある物で
 それを認識した途端、身体中が総毛だった。

「なっ……ちょっ、あの時はガスで何も見えなかったんじゃ……」
「甘いですねー、最新の化学技術を舐めてもらっては困りますよー」

 少女は、手をピラピラと振る。
 その度に、翼と黒服とはないちもんめの少女の写った、その写真がひらひらと揺れた。

「この町にはこういった盗撮を専門とする変態都市伝説集団がいてですね、最先端の科学技術と透視能力が合わされば、これくらい簡単なんですよー?」
「……よ……せ……」
「ちょっとお高かったですが完璧に映り込んでますよ、見ます?」
「…………よこせ」
「にゅ?」
「……それを、よこしやがれっ!」

 ボウッ、と。
 肩を掴んでいた翼の手が、熱を帯びる。
 それによって少女の服が焼かれ、そして身体が焼かれて行った。
 ……しかし

「……焼いても死なないってのは、本当なのか」

 焼いた傍から身体は再生し、果ては服までも元通りになっていく。
 どう見ても、焼く速度より回復する速度の方が、早かった。

「ぬー、酷いですね。私は愛しの二人のお友達である翼さんを傷つけられないんですよー?」
「知るかっ!」

 どんどん、炎の勢いが上がっていく。
 その度に少女の身体は焼かれ、焦げ、しかし再生していった。

「無駄ですよー、私は何があっても死にません」
「別に、死ななくても構わねぇよ」
「む?」

 焦げる範囲が、少しずつ、少しずつ、広がって行く。
 それはやがて、少女の身体半分を覆うほどまでに、広がって

「あーっ!?」

 少女はそれに、気付いた。
 燃えた身体は、服は、再生する。
 しかし、だ。

「写真が…………」

 燃えた写真は、再生しない。
 少女の力が及ぶ範囲は、自分の身体と、身につけた衣服のみ。
 手に持った写真は、その範囲外なのだ。

「うあー……高かったのに……」

 しょんぼりと、少女が肩を落とす。
 その間も少女の身体は燃え、しかし再生を繰り返した。
 しかし少女は、それを気にした様子もなく

「いいですよいいですよ、もう。私は誠様の所に行きますから」

 そうむくれて、歩き出そうとした。
 が、肩を掴まれているせいで、身体が前へと進まない。

「……離して頂けますかー」
「誰が、離すか」

 そもそもの翼の目的は、この少女を止める事。
 離すはずも、ない。
 ……しかし少女は、何を勘違いしたのか

「なっ、さては二股に飽き足らず私までっ!? 駄目ですよ私には誠様と直希様と言う心に決めたお二人が――――」
「…………おい」

 ボウッ!と。
 炎の出力が、上がった。

「ああ駄目ですよそんな風に『俺はドSなんだぜ』みたいなアピールしても私はなびきませんよー」
「…………………」 

 ごうごうと、燃え盛る少女の体。
 もはや無言で、火力を高める翼。

「うわちょっと強い、火力強……ああでも何だかこれアフ様の鎖に似てるような気も……」
「………………」

 そんなやり取りは、しばらく続き――――

「――――はっ」

 翼がやっと、我に返った。
 ――この少女には、相手に虐げさせたくさせる何かでも持っているのか。
 つい無言で、少女を燃やしてしまっていた。
 翼は慌てて、少女から手を放そうとして

「待ってください、翼様」

 しかしはっしと、その手を掴まれた。
 つかんだのは、先ほどまで翼が燃やしていた、少女。
 翼は何かと、訝しげに少女を見て……すぐに、その異変に気がついた。

(――――翼、様……?)

 熱に浮かされたように翼を見る、少女の目。
 それは、マッドガッサーのガスを吸い込んだ女性の目に似ていて
 つい先ほど燃やした、写真の中の翼自身の目にもにていて

「まさ、か…………」

 ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
 翼は、自分がやり過ぎてしまった事を
 絶対に越えてはならない境界を越えてしまった事を、知った。

「あなたの愛、この私はしっかりと受け取りましたよーっ!」
「出してもいないのに受け取んなっ!?」

 ――やって、しまった……。
 想像し得る最悪の事態だと、翼は思った。 

「大丈夫ですよー、恥ずかしがらなくても」

 しかし、そんな翼ににっこりとほほ笑む、少女。
 誠と直希に対しても、少女はこんな笑顔で二人を振り回しているのかもしれない。

「…………くそっ!」

 なりふり構わず、少女の手を払いのける。
 そのまま翼は全速力で、走りだした……否、逃げだした。

「あっ、待ってくださいよ、愛しの人ーっ!」

 その後をすぐに追いかけてくる、ワンピースの少女。
 その身体には傷一つ、ついていない。
 ――――こんな奴を相手になんて、してられるかっ!
 襲われそうだった誠を助けるという目標は、達した。
 しかし、もっと酷い事態になってしまったような。
 翼にはそんな気が、した……。




【終】




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