「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-a04

最終更新:

uranaishi

- view
だれでも歓迎! 編集

恐怖のサンタ 日常編 04


 あのクリスマスの日から、二ヶ月。
 俺たち三人は、ようやくまともな日常を取り戻していた。
 少々「普通」とは異なるながらも仕事を探し、そこそこの安アパートに入居して、三人で細々と過ごす。
 半年前、彼女と同棲していた時と比べれば雲泥の差の、けれど幸せな日常だった。
 ……少なくとも、ほんの数秒前までは。

「あふっ……んっ……」

 安アパートの一室で、今、俺の目の前にいる15、6歳くらいの少女。
 通称マゾ。正式名称マゾサンタ。
 一応、「エムナ=クロース」なんて偽名もあるが、今はどうでもいい。
 さらに言えば、ミドルネームを含めると「エムナ=ド=サンタ=クロース」になるのだが、もっとどうでもいい。

「んっ……ひゃっ……」

 問題は、この状況。
 今目の前で展開されている、この状況だ。
 ふっと軽く息を吐いて、心臓を落ち着ける。
 そして、平常心を意識しながら、俺は尋ねた。

「……お前は、何をしているんだ?」
「んー…………?」

 軽く首をひねって、少女がこちらを振り向く。
 同時に軽く揺れた胸に目が吸い込まれてしまうのは、やはり男の「さが」か。
 ……いや、少なくともこの状況では違うと思う。
 というか、思いたい。

「やーやー、契約者じゃないですか。お早いお帰りで」
「いや、そうじゃないだろ」

 全く、全然、微塵も動揺していない少女に、思わずため息が出る。
 一体どこで何をどう間違えたらこんな人間が出来上がるのだろうか。

「何で、お前は『全裸』で、『チョコレート』を体中に塗っているのか、と聞いてるんだ」

 ――――そう、少女は一糸まとわぬ全裸。
 そして何故か、湯煎されたチョコレートを体中に塗りつけていた。
 ……説明していて、俺にも意味が分からない。

「ああ、なるほど! それならそうと最初から聞いていただければちゃんと答えましたのに」

 ようやく俺の質問の意図がつかめたのか、ぽんっと手を叩いて答える少女。
 ……最初から聞いたつもりだったのだが。
 この少女の脳内は一体どうなっているのか。
 もし解剖でもして学会にでも発表すればノーベル賞でも貰えるかもしれない。

「ほら、明日はばれんたいんでーですよ、ばれんたいんでー!」
「ばれんたいんでー?」

 ひらがな英語で、「ばれんたいんでー」。
 つまりは「バレンタインデー」
 どっかの国の誰かが死んだとかいう、いわゆる命日だ。
 何でそんな日を祝う事にしたのかは知らない。
 しかし、明日もクリスマス同様「恋人たちの日」となっているのは確かである。

「何ですか契約者、知らないんですか? ばれんたいんでー」
「いや、知ってはいるが……」

 既に脳内で一通りおさらいをした後です。
 なんてメタ発言はもちろん出来ない。

「テレビで特集をやってたんですけどね、明日は女の子が好きな人にチョコレートをプレゼントする日らしいんですよ!」
「ああ、そうだな」
「で、ですね。私も愛しの三人のためにチョコレート作りをしたいと思ったんですよ!」

 ――――愛しの三人。
 マゾの魅入られたとかいう、あの不幸な少年達の事だろう。
 全く、不幸というかなんというか。
 よりにもよってこんな人間に魅入られるとは、その少年達も運がない。

「……それで? 何で『自分の体』にチョコレートを塗ってるんだ?」

 マゾの隣にあるのは、小さなキャンプなんかで使うガスコンロ。
 その上でチョコが湯煎され、またそこから少しずつマゾが取っては身体に塗りたくっていた。
 普通、手作りのチョコレートと言えばプラスチックやら金属の型で形を取って、冷蔵庫で冷やす物のはずだ。
 少なくとも、身体で型を取って身体で固めるなんて、俺は今まで聞いた事もない。

「いやですねー、どうせなら特集の中にあった『私を食べて―』をやりたくてですねー」

 ……どんな特集だったんだ、それは。

「だからこうしてチョコレートを塗ってるわけですが……んっ……結構熱くて気持ちいいですね……ひゃんっ……」

 しゃべりながら、チョコレートを体中に塗りたくっていくマゾ。
 かなりの高温のはずだが、彼女は全く気にした様子もなく塗っている。
 ……痛みが快楽に変わる性質と言うのも、厄介なものだ。主にマゾに魅入られた三人にとって。

「しかし、なぁ……」

 こんな状況、誰かに見られでもしたら通報されること間違いなし。
 どう見ても俺がマゾを虐げているようにしか見えない。
 もしくは、何か特殊なプレイの最中か。
 どちらにせよ、この部屋に「三人」の住人がいる以上、つまりは俺とマゾの二人暮らしではない以上、これ以上の行為は即刻止めさせないといけない。
 これが、もし「彼女」に見られでもしたら――――

「ただいまー。今日はお野菜が安かったから、一杯買ってき――――」
「あ」
「あふっ」
「――――え?」


 とさり、と。
 小さく音を立てて、エコバックが玄関へと落下した。
 固まる俺と、彼女と、なぜか塗るのを続けるマゾ。
 幸い、エコバックからは何も転げ落ちていなかった……が。

(……やばいやばいやばいやばいやばいやばい)

 何だか彼女の背にオーラが見える。
 ゆらりと、滑るように彼女の身体が俺へと向かってきた。
 これは、まずい。
 色々と、まずい。

「待て! 誤解だ! 俺は何もしていない!」
「じゃあこれは何なのかなぁ。マゾちゃんが裸なのは、何でなのかなぁ」
「だから誤解だ! これはこいつが勝手にやった事であって別に俺は関与していないというか――――」
「………………」
「いやーっ!? 何でオーラが増してるのーっ!?」

 まずい。
 何だか自分で自分の首を絞めているような気がする。

「お、お前も何とか言えって!」
「ひゃんっ」
「そうじゃねぇーっ!?」
「………………」

 にじり寄り、がしりと俺の肩を掴む彼女。
 長い間霊体でいたはずなのに、その力は非常に強い。
 ああ……神様。どうしてあなたは彼女から力を奪わなかったのか。
 そのまま、彼女は俺を引っ張りどこかへ連れて行こうとする。
 向かう先は……お風呂場。 

「血が飛び散っても大丈夫っ!?」
「お仕置き……だから、ね?」

 ね? じゃないと思います、良子さん。
 死ぬ。
 いや、死にはしないかもしれないけど死の淵にまで追いやられる。

「嫌っ、痛みは感じなくてもそれは嫌っ!? 助けてくれっ、マゾお前っ、俺を助け――――」

 ガラガラガラ…………
 ……ピシャッ!

 部屋に、静寂が戻り

「いぃいいいいいいいいやぁあああああああああああっ!?」

 すぐに、叫び声が部屋中を駆け巡った。

*********************************************

 ――――翌日、「うるさい」と大家さんは大層お怒りでした……俺にだけ。
 理不尽だ……。


【終】



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー