「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-a05

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恐怖のサンタ 日常編 05


 小さな子ライオンを連れて帰ってきた私に、まず占い師さんがかけた言葉は

「飼わないぞ」

 と言う一言だった。
 ……うん、予想通り過ぎて何も言えない。

「でも…………」
「一時的に餌を与える程度なら構わない。が、このマンションは犬猫のペット禁止だ」
「大丈夫ですよ。子ライオンですし」
「そういう問題じゃないだろう……」

 ぎしゃー、と。
 私の腕の中で鳴く子ライオン。
 何だか少し尊大そうな響きがあったのは、気のせいだろうか。

「ほら! こんなに可愛いじゃないですか」
「……今のを日本語に直すのなら『苦しゅうないぞ』と言った所か」

 ……やっぱり尊大だった。
 でも、このままあの寒さの中にこの子ライオンを一人ぼっちにするわけにもいかない。
 なおも反論しようとする私を見て、占い師さんはため息をつき

「分かった。分かったからそんな顔をするな」
「じゃあ、飼ってもいいんですか!」
「いや、それは駄目だ」

 ああ、一度持ちあげてから蹴落とされた気分だ……。
 と言うか、これが「いじめ」と言うものなのかもしれない。

「知り合いになら飼ってくれそうな人間がいる。そこに引き渡せば少なくとも凍死や餓死の心配はない」
「知り合いって……大将ですか?」
「曲がりなりにも食べ物を扱う店に動物を預けるわけにはいかないだろう……」

 つまりその人は大将でなく、尚且つ占い師さんの知り合いと言う事になる。
 あのマッドガッサーの件で知り合った誰かだろうか。
 ……でも、無条件で快諾してくれそうな人、いたっけ。
 私の考えている事を見透かしたのか、占い師さんは軽く首を振って

「いや、あの事件の際に知り合った人間じゃない。つい最近だな」
「はぁ…………」

 つい最近。
 そう言えば、最近誰かと時々連絡を取っているようなそぶりがあったような気がしなくもない。

「ここから近いんですか? その人の家」
「それなりに、な」

 ここからそこそこ近くて、ちゃんと飼ってくれそうな家。
 つい最近と言うのが引っかかるけど……ここで飼えない以上、贅沢は言えない。
 これ以上は占い師さんを困らせるだけになってしまうに違いない。

「じゃあ、それでお願いします……」
「ああ」

 頷いて、電話の方へと向かう占い師さん。

 ぎしゃー
 何となくうなだれた私を見て、この子ライオンは果たして慰めてくれたのだろうか。
 廊下を歩み進める占い師さんには「餌はまだか、人間」と子ライオンが言っている事が分かったらしいが、随分後になるまで言わないでくれた。

*********************************************

 ――――所変わって、恐怖のサンタ契約者、山田治重の住むアパートにて。

「……疲れた」

 今日も仕事を終え、俺はアパートの階段を一段一段上っていた。
 最近の俺の仕事は、主に都市伝説退治である。
 ある方面から入ってくる仕事をこなし、一応そこそこの収入が入るようにはなっていた。
 都市伝説のようなある種希少な物の退治で生活できるのは、ここが学校町だからか。

「……ふぅ」

 何とか自分の部屋の前にまで到着する。
 中では恋人であり、現在内縁の妻となっている良子が夕飯の支度をしてくれているはずだ。
 それを思うだけで、自然と扉を開ける気力が生まれた。

「ただいまー」

 鍵を開け、中へと入る。
 ……と。

 ぎしゃー
 何やら、小さな猫のような動物が山田を迎えた。
 一瞬、恋人が猫にでも化けてしまったのかと思い

「あ、お帰りなさい」

 その奥から彼女が顔を出した事に、ほっと安堵した。
 しかし、この猫が何であるかの疑問がまだ残っている。

「……なんだ、こいつ?」
「こいつじゃないですよ、子ライオンです」
「…………は?」

 中から出てきた赤いワンピース姿の少女が、猫を抱きかかえた。
 ふしゃー、とその豊満な胸に抱かれ気持ちいいのか猫なで声を出す猫。
 …………羨ましくなんかないぞ。

「……で、何だ。子ライオンってのはその猫の名前か?」

 だとしたら、かなりおかしいセンスだと断定しなければならない。
 いや、そもそもマゾに「まとも」を求めてもいいのだろうか。

「違いますよー。この子の種類がライオンなんです」
「…………。はい?」

 わしゃわしゃと猫……もとい、子ライオンの頭をなでるマゾ。
 多分、俺は何かを聞き間違えたんだろう。
 ああ、きっとそうに違いない。

「その子ね。はるくんに仕事を回してくれる男の人からお願いされたの。『出来れば預かってくれないか』って」

 台所へと戻りながら、良子が微笑みながら言った。
 仕事を貰ってる男……と言えば、あの占い師になるのだろうか。
 ……あの男、こんな捨て猫を拾うような人間には見えなかったのだが。
 まぁ、人は見かけによらないと言うし、案外猫好きなのかもしれない。

「……で、預かる事にしたのか」
「うん、飼う事にしたんだよ」

 …………うん?
 何だか、会話に少し食い違いがあったような気がする。
 おかしい、何かがおかしい。
 俺は確か「預かる事に」と言ったはずだ。
 それが何故「飼う事に」なっているのか。
 そう、それだ。
 そこがおかしい。

「……預かるんじゃ、無いのか?」

 その質問には、マゾが答えた。

「聞く所によるとこの子、親がいないらしいんですよねー。だから預かると言ってもほら、いつからいつまでの区切りが出来ないわけでして」
「だから『どうせなら飼っちゃいましょう』って。向こうの娘さん……だと思うんだけど、その子も喜んでたよ?」
「いや、待て。今の我が家の経済状況的にそれはまずい。すごぶるまずい」

 ただでさえマゾがいるせいで全身チョコレートコーディングとか言う意味のわからない無駄な出費がかさむのだ。
 これ以上支出が増えた場合、どう考えても我が山田家は破たんする。
 そんな俺に向かって、彼女はにっこりと笑って

「だから頑張ってね、はるくん」
「な、あ…………」

 これは卑怯だと思う。
 そして断ったら俺にどんなバイオレンス展開が待っているのか。
 救いを求めようにも、猫はマゾに抱かれたままだし、マゾが役に立つとは――――

「大丈夫ですよー、今度から私も手伝いますから」

 ――――役に立った。

「本当か?」
「はい。でも愛しの人との愛のひとときの合間になら、ですけど」
「ああ、それでいいよ。それなら何とかなるかもしれない」

 ほっと、一息ついて
 その合間がそれだけの時間なのか、少し心配にもなった。

 ――――その日、我が家に新たな家族と出費が増える事になった。


【終】




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