「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - モデルケース-02

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匿名ユーザー

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「Ding, dong, ding, dong, that is their song♪」

それほど広くない車内に、可愛らしい歌声が充満する。歌っているのは10歳ほどの少女だ。
オーバーオールに前を全開にした薄手の革ジャンを着て、赤毛のくせ毛を背中まで伸ばしている。その恰好はかなりちぐはぐだ。

「with joyful ring, all caroling♪」

少女は流暢な英語で歌い続けるが、その音程はあまり正確ではなく、音が盛大に外れたりしている。
しかし、少女はそれがわからないのか、あるいは無視しているのか、歌うことをやめようとはしない。

「One seems to hear, words of good cheer♪」
「テスタロッサ。少しは静かにできないのか?」

気持ちよく歌っている少女を遮る声が運転席から響く。運転席の声の主は女だ。
右目を隠すような黒髪のマニッシュショート、灰色のスモックブラウスに黒のジーンズとラフな格好をしている。年は20代ほどだろうか。
隠れた右目は眼帯が付けられており、血が滲んでいることからつい最近怪我をしたのだということが分かる。

「ひぃまぁ~~~~!」

車の後部、テスタロッサと呼ばれた少女は大声で叫ぶ。

「ひまひまひまひまひまひまひまひま!kill timeできるものなんかないよ!」
「テレビでも見ればいいじゃない。せっかく付けたんだから」
「こんな時間じゃおもしろいのなんてやっていないよ!」
「DSは?」
「飽きた!」
「……勉強は?」
「しない!」
「…………」
「無視しないで!」

少女の言葉を無視し、女は運転することに集中する。
しかし、テスタロッサが暇だと喚くのもわからないわけではない。
この女がこの町へ来てすでに5日目が経っている。しかし、そのほとんどの時間をこうやって車を走らせる時間に費やしている。
この5日間、女がテスタロッサにかまっている時間などほとんど無かった。テスタロッサを一人にするわけにもいかないので、一緒に車に乗せている。
最初の3日ほどは周りの景色の違いを楽しんでいたが、今ではすっかり飽き、昨日からこの調子だ。
車の中では自由に遊ぶことができず、テスタロッサのストレスも溜まるのだろう。その思いを知っていながらも女は車を走らせ続ける。
今は幼い少女の願いを聞いている場合ではない。

「無視しないないでよぉ~!ひまだよぉ~!遊びたいよぉ~!」
「……」
「もしずっと無視するなら一人で外出ちゃうもんね!それも夜に!」
「……ハァ。わかったよ。あと10分したらこの先にある回るお寿司を食べよう。そのあと2時間休み時間だ」
「ディンドディドーン!クルクルお寿司!サーモントロはみんなわたしのだよ!」

テスタロッサのよくわからない脅しに屈し、予定になかった予定を組まされることになった女は、苦笑を浮かべながらミラー越しに写るテスタロッサを眺めた。
テスタロッサは自分のすぐ隣にある等身大の人形に抱きついた。人形は黒髪で髪が膝ほどまであり、真っ赤なドレスにこれまた真っ赤なファーボレロを身に付けている。

「あなたも食べる?」

少女が抱きついていた人形は首を動かし肯定を表す。それは人形ではなかった。
しかし、表情は全く変わらず能面のようで、瞬きすらしない。肌も人とは思えないほど真っ白である。それに呼吸で胸すら動かない。

「ドレスも食べるんだって」
「そう」
「それにしても、なんで口裂け女をほうっておくの?わたしたちもやっつけよーよー」
「口裂け女にはもう興味ないよ」

女は車を走らせる。女が運転する黄色い救急車は国道に沿って寿司屋へひた走る。



モデルケース『口裂け女』②



「つまり、口裂け女を見たから追っかけて、追いつめたと思ったら逃げられたと」

わたしと篤子と藤枝の三人は横一列に並ばされ、勝手な行動の理由を尋ねられていた。

「しかもだ。口裂け女は50メートルも一瞬でバックして、20メートルもジャンプするような奴で、そいつは3日前から石田をストーカーしてるときた」

先生に顔はいつになく真剣であり、いつも見たいな脳筋な雰囲気は消え失せている。

「先生を嘗めてんのか?一瞬で50メートルバック?20メートルジャンプだぁ?」

声色はすでにドスが聞いていて、やくざのそれと話しているような気さえしてくる。

「う、嘘じゃありません!3人とも見たんです先生!」
「ふ~ん、じゃあほんとだってことで話を進めよう」

篤子の声も今の先生には届いてないみたいだ。

「まず石田ぁ、なんでお前は警察や先生に口裂け女に狙われてるって言わねぇんだ?」
「え、ああの、えっと……」

口裂け女は怖い。藤枝や篤子を失うのも怖い。でもそれらとは別種の恐怖を先生から感じる。
なんていうか、昔おじいちゃんに頭を殴られた時に感じたような。そう、最近感じることがなかった目上に対する恐怖だ。

「なんていうか、、もしかしたら、その、見間違いかもしれないじゃないですか。それに、その、えっと、まわりに迷惑がかかると思って……」

何か言おう、早く言おう、そう思えば思うほど考えはまとまらなくなる。口下手になっていく。

「確かに迷惑かもしれん。今警察は忙しいからな。先生たちも忙しい。でもな、言えばお前に人員を割くだろう。それでお前の安全は保障される。
 もしかするとぉ、それによって犯人発見のきっかけになるかもしれねぇ。こんな状況だからな、どんなに迷惑だと思っても遠慮せずに言え。わかったら返事ぃ!」
「は、はいっ!」

突然の大声で心臓が飛び上がる。この数分だけでどれだけ心臓を酷使してるんだか。絶対寿命が縮まってるにきまってる。

「そして百々ぉ。お前は何でいきなり口裂け女を追ったりした?」

藤枝は顔を俯けたまま一言も喋ろうとしない。

「百々ぉ、なんで黙ってんだお前?」
「先生、その藤枝は今こ「櫛間は黙ってろ!」は、はひぃ!」
「……あれか百々。敵打ちか?桑村伊斗子の」

伊斗子の名前が出されて藤枝の体が小さく揺れる。その反応は先生の予想があっていることを裏付ける。
そもそも、この場にいる全員がわかっていることだ。敵打ちのために向かって行ったなんて。先生はそれがわかっていて聞いたのだ。
でも、わざわざ見当が付いていることを質問する意味がわからない。普段の先生ならこんな回りくどいことしないだろう。なんでも不躾に聞く人だから。
先生の質問から大体10秒後くらいだろうか。藤枝が顔をあげ先生のほうへ顔を向ける。

「……何が悪いんですか。私は犯人をボコボコにしなきゃ気が済まないですよ。伊斗子を殺した報いをそいつに浴びせなきゃ気が済まないんですよ!」

髪を振り乱しながら、藤枝は先生に向かって吠える。藤枝の咆哮は痛いくらいの感情が込められているのを感じる。

「あの子は!あの子は誰かに恨まれるなんてことしてない!そんな子じゃない!殺されるような悪いことなんてしてない!」
「藤枝……」

藤枝の叫びに呼応するように篤子の声が漏れる。

「それで追いかけたわけだ。20メートルもジャンプするような奴を。」

しかし、そんな藤枝に何も感じていないのか、先生は態度を変えない。眉ひとつ動かさない。
ただ、左肩が少し盛り上がった様な気がする。

「悪いことですかそれが!?」
「悪いわぁ!」

それは一瞬のことだった。先生は突然怒鳴ったかと思うと、いきなり藤枝の頬を引っ叩いたのだ。
このご時世、教師が生徒に手を出すなんて、ほとんど考えられないことだ。世間から叩かれるし、全国ニュースに乗ることだってある。
自身の教職人生に消えようのない汚点を残すような行為。
そもそもこの先生は、睦城伊織先生はそれなりに生徒から慕われている。ドラム缶に丸太をくっつけた様な印象的な体。
厳しいが話がわからないわけではなく、融通がきき、ギャグも飛ばす。今日わかったけど、気遣いもできる。そしてどんな時も、冗談ですら生徒を小突いたことがない。
そんな先生が、生徒に手を出した。私には理解できない。

「いいか!死んだ人間のために行動するなんてのはなぁ!こんなこと言っちゃ悪いが意味がねえ!」

藤枝はしばらくの間茫然としていたが、先生の言葉に正気を取り戻し、キッと先生のほうを睨みつける。

「意味がないなんて「黙れぇ!」」

藤枝の言葉かき消し、先生はさらに声を張り上げる!

「お前が勝手に突っ走ったせいで、石田はどうしたぁ!?櫛間はどうしたぁ!?お前が心配で二人とも追いかけた!もし犯人が逃げずに襲い掛かってきていたと考えてみろ!
 お前のせいで石田と櫛間は死ぬ!お前の自己満足のせいでだ!死んだのがお前だけだとして、悲しむのは両親だけじゃねぇ!石田と櫛間も悲しむぞ!」
「あ……」
「いまさら気がついたか!桑村が死んだときにあれだけ悲しんでたんだ!お前が目の前で死んだら、二人はどれだけの衝撃を受ける!?
 お前は二人が目の前で死んだらどんな気持ちになるかよく考えてみろ!」

藤枝の眼に涙が溜まって、零れおちる。頬が痛いからなのか、悲しみからなのか、わたしにはわからない。
ただ、藤枝が涙を零す姿を目に移す。
先生の顔からも険の色がなくなり、少し顔を顰めると頭を掻き藤枝から目を外す。

「まあ、死んだ人に対する行動が意味がないってのは言いすぎたな。スマン。でも、生きている人間を優先してくれ。
 お前がいなくなったら悲しむし、お前もいなくなったら悲しむだろ?」
「うッ、、、グスッ、、、は、、い、、、、グスッ、、、、、」
「……ここだけの話な。2番目の被害者は先生の母親で、3番目の被害者は弟だ」
「「「え!」」」

あまりの驚きに、わたしも篤子も、泣いていた藤枝ですら驚きの声を上げる。

「母親は病院帰りに殺されてな。弟は犯人捕まえてやるって意気込んで家出て、口がでかくなって戻ってきやがった。これで身内がみんないなくなっちまった」

先生は少し憂いを帯びた目で私たちを見つめる。

「わかるだろ藤枝。お前は弟と一緒だ。お前は俺の代わりに、石田や櫛間を悲しませる。だからお前の行動は悪い」

この2週間で先生は母と弟さんを亡くしてしまった。先生の様子を見る限り、仲が悪かったということもないだろう。
この町で、仲が良かった身内が2人も殺された人なんて先生だけだろう。それだけに、先生のショックは計り知れない。
でも、そのショックをわたしたちせいとの前には一切出さずに隠し通した先生は、まさに教師の鑑と言えるかもしれない。
これも生きている人を優先するという気持ちが強いからできたことなのだろうか。

「もし、百々がそう思わないなら、保護者やほかの先生に俺から暴力を振るわれたって言えばいい。そうすれば俺は教師をやめなくちゃいけないからな」
「……しませんよー。そんなこと」
「そうかぁ。ありがとう。それと叩いてスマン」

先生から完全に怒りが抜け、いつもの脳筋な雰囲気が戻ってくる。

「んじゃあ改めて、お前たちを送るか」
「「「よろしくおねがいします」」」
「レッツゴゥ!」

わたしたちは再び自分たちの地区に向け歩きだす。

「ムッキー先生また筋肉付いた?」
「わかるか?ついに150キロ突破したんだだなぁこれが」
「それ以上筋肉つけてどうするんですか?」
「みんな引いちゃいますよ」
「何言ってんだ!筋肉がつくたび自分に自信が持てるようになるんだ!筋肉最高だろ!」

さっきのことでみんなの気持ちがリセットされたのか、最初のころと違って話も弾んでいく。
もちろん伊斗子のことを忘れたわけじゃない。伊斗子が殺された悲しみがなくなったわけじゃない、けど、ポジティブに行くことにした
張り詰めすぎてたらきっと追いつめられて大変なことになっちゃう。さっきの藤枝みたいな無謀な行動をとってしまうかもしれない。
でも、わたしに藤枝のように、自分を捨ててまで口裂け女に立ち向かうようなことができるだろうか?
悲しむことがあっても、それが激情的な行動に繋がる怒りに発展するとはあまり思えない。突然の理不尽に怒りを覚えたとして、それが爆発するとは思えない。
よっぽどの事情がない限り、わたしは藤枝のようには行動できないと思う。
わたしは薄情なのだろうか?それとも藤枝が特別なのだろうか?
わからない。
こんなこと、考えても結論なんて出せそうにはない。
事実は、わたしは伊斗子が死んで悲しかったけど、怒りを抱かなかった。それだけ。

「ナオコ」
「えっ?」

不意に篤子に声をかけられる。気がつくとわたしは3人から1メートルほど離れて歩いていた。
それに驚いて慌てて3人に駆け寄る。

「どうしたの?大丈夫?」
「あ、うん、なんでもない。ちょっと考え事してただけだから」
「ならいいんだけど、気をつけなさいよ。もし逸れてたらゾッとするから」
「ゴメンゴメン」

すぐ前のほうでは先生と藤枝がそれなりに楽しそうに話している。藤枝は頭が悪いし、先生も見た目頭が悪そうだから話が合うのかもしれない。

「私は、薄情なのかな」
「……どうしたの?」

篤子が小さな声で、わたしにだけ聞こえるような声で話しかけてくる。
その声色は、どこか悲しみを帯びているように聞こえる。

「私は伊斗子が死んだって聞いた時、悲しんだのは確かなのよ。でも、ナオコや藤枝みたいに涙なんて出なかったわ」
「それはわたしや藤枝を支えようとして気丈になったからじゃない?篤子は昔から何かあるたび支えてくれてたし」
「気丈っていうのかしら?私はナオコが泣いてる間に何をしてたと思う?」
「さ、さあ?」

泣いていた時は、ほとんど外の情報が入ってこなかったし、耳に入ってきた音も意味を組み取れてなかったし、正直全然わからない。

「携帯でね、電話したのよ伊斗子に。それから家電の方にも。安否確認のためにね。ボタンひとつ押し間違えなかったし、家電の方には留守電メッセージまで入れたわ。
 お手が空いたら電話をお願いしますって。声、全然震えなかった。これが気丈ってこと?なら気丈は薄情と同意語なのね」
「篤子……」
「確かに友人だった年数はナオコたちより少ないけど、絆はあると思ってた。でも涙一つでないのよ。悲しいはずなのに。悲しんでるはずなのに。
 ねえ、薄情って私みたいな人に使う言葉でしょう?」

篤子は苦笑する。その姿は、いつもの篤子と全く変わっていない。思えば、篤子が取り乱したことなんて一度も見たことがない。
きっと、篤子自身そう思っているんじゃないのか?どうして自分の感情を解放できないのかと。解放できない自分は薄情な奴なんじゃないのかと。
だけど、わたしは、

「わたしは、薄情だと思わないよ」
「どうして?
「悩んでるじゃない。ほんとに薄情だったらそんなことじゃ悩まないよ」
「う~ん。そうかしら?」
「そうだよ」
「なんだかはぐらかされた感じがするわね」

そういう篤子の顔には小さいながらも笑みが浮かんでいた。
メガネをはずし、制服の袖でメガネのレンズを拭うと、再びメガネをかけ直す。

「ちょっと楽になったわ」
「よかった」
「うん。ありがとう。後ごめん。へんなこと聞いちゃったわね」
「ううん。そんなことないよ」

そう、全然変なことなんかじゃない。わたしだって考えていたところなんだから。自分が薄情なんじゃないのかって。
あれだけワンワン泣いてたわたしが自分のことを薄情だと思ったんだから、篤子が自分のことを薄情だと考えてもなんの不思議もない。
わたしなら薄情どころか、自分には血も涙もないとか考えちゃうかも。
その後、わたしたちは努めて明るく振舞いながら、一人一人先生に家まで送ってもらった。
初めは一番近かった藤枝の家へ、次にわたしの家だ。
「ありがとうございました。わざわざ家にまで着いてきてもらって」
「気にするな。もう遅いんだし、なにより口裂け女がストーカーしてるってんなら、むしろ送るべきだろ。んじゃ次は櫛間の家か」
「よろしくお願いします。それじゃねナオコ」
「うん、また明日」

また明日って言ったけど、たぶん明日は学校に行かないんだろうな。わたしも篤子も藤枝も。
昨日伊斗子が死んでいるのが発見されたんだとしたら、今日にお通夜があって、明日お葬式があるはずだ。
今日発見されたとしたら、、明日にお通夜がある。そしたら普通に学校に行けるけど行く気が起きないし。

「はぁ~」

暗いこと考えちゃってるなわたし。お葬式とかお通夜とかさ。
暗い気持なんて笑い飛ばしたいけど、笑える気力が起きないや。
それどころか、さっきまで無理して明るくと取り繕ってた分、反動でけっこう感傷の波が来てる。
心の中がひどく暗い。
その気持ちを引きずったまま玄関を開ける。

「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったわね」
「学校でちょっと」

台所の方からお母さんの声が聞こえてくる。どうやら食事の準備をしているらしい。まだ夕食にははやいと思うけど。
靴を脱ぎ、家に上がりながら考える。すると、母が台所から出てきてこちらに向かってきた。その顔には驚きの表情が形作られている。
でも、どんな話題を話すかはすぐに予想がつくな。

「それより!ちょっとナオコ大変よ!」
「なに?」
「伊斗子ちゃんが殺されちゃったのよ口裂け女に!」

やっぱり思った通りの答えだ。その答えに拍子抜けして、気持ちの暗さがさらに増す。

「しってる」
「あら。そうだったの」
「うん。学校でね。お通夜とかお葬式とかのこと聞いてない?」
「聞いてるわよ。7時からお通夜らしいわよ」
「そっか」

腕時計を見る。今が15時だからあとあと4時間か。

「ねえ、お母さんもお通夜行くの?」
「ええ、母さんだって伊斗子ちゃんを昔から知ってるからね。成長を見守ってきたものだよ。お葬式にも行って最後のあいさつもしたいしね」
「じゃあ、車で行こうよ。怖いし」
「そうね。物騒だものね」

お母さんとの会話を切り上げ、台所を横切り自分の部屋に向かう。一階の台所の奥がわたしの部屋だ。
部屋を開けるとなんとも純和風な部屋が目に飛び込んでくる。畳のにおいが心地よい。
この部屋の景観は結構こだわって和風のものしか置いていない。ただし、ベッドとカーテンとテレビだけは別だ。特にベッドとカーテンだけは必須だよ。
よく伊斗子を含めた四人でこの部屋に集まったものだ。
炬燵机を4人で囲んでカードゲームをしたり、テレビゲームをしたり、Y談したりで盛り上がったものだ。
つい1週間前も皆で集まって今度の卓球の地区大会に向けて色々騒いだっけ。
でももう4人で集まることは2度とないんだよね。
あ~もう涙出てきちゃったよ。学校でさんざん泣いたのに。でも、涙が枯れてなくて安心した。
服が皺になるのも気にせず、ベッドにダイブする。
こういう時は我慢せずに泣いておこう。泣くのを我慢するよりとにかく泣いた方が気持ちが楽になるっていうし。

「う、う、う、、、、」

そして泣きつかれ目が痛くなってきたころ、顔をあげ時計を見るとすでに17時を回っていた。
どうもわたしは泣き始めると長いみたいだ。でも随分と長い間涙を流していたせいか、多少なりともすっきりした。
後2時間も経てばお通夜だ。今のうちにお風呂に入っておこう。
着替えを準備しお風呂場に向かう。

「お母さん。今からお風呂入るから」

台所の横を通る際に、一応一言声を掛けておく。

「あらやだ。母さんお湯抜いたままで洗ってないわ」
「わたしが洗ってそのままお湯貯めるから」
「あっりがっとー」

脱衣所に着替えを置き、隅にあるスポンジと浴槽洗剤を手に取ると手早く浴槽を洗う。そしてお湯を浴槽に出し、服を脱ぐとシャワーを浴びて体を洗う。
今頭の中にあるのは、口裂け女のことだ。50メートルを一瞬でバックし、20メートルもジャンプする化け物。
人間じゃないことは確かだ。だったらほんとに都市伝説の口裂け女なのだろうか?
体を洗い終え、湯船につかる。
口裂け女って確か100メートルを2秒や3秒で走るんだっけ?それぐらいできるなら20メートルジャンプとかなんて余裕だと思う。
でも口裂け女って高所恐怖症だって聞いたことがあるな。2階の高さですら駄目だとか。
そんな口裂け女が20メートルもジャンプできるものなのだろうか?それにイメージで言ったら口裂け女は長い髪だ。
でもわたしを付け狙う口裂け女は、そういえば髪は長くない。大体肩口くらいまでだろうか?なんだか、自分の中にある口裂け女とはイメージが違うな。
ポマードって唱えるのは聞くんだろうか?本物ポマードは?ベッコウ飴は?
……こんなこと考えても意味がないのかもしれない。
都市伝説なんて、その土地によっていろいろ変わるものだから、必ずしも一定なんかじゃない。
どこかは忘れたけど花子さんが家族でトイレに暮らしてるって噂があるとかテレビで見たし。
だから、意味ないんだ。自分のイメージとの違いなんて。
結構な間考えていたからだろうか?ちょっとのぼせ気味になってきたのでお風呂からあがる。
手早く着替えを済ませ、そそくさと部屋に戻る。時計を見れば18時。やっぱり長く入りすぎたようで、どおりで火照りも引かないわけだ。
今が18時だからあと1時間、いや、19時ぴったりに行くつもりだから移動時間も含めてあと50分ぐらいか。
お通夜の帰りにスーパーにでも寄ってもらってポマードやベッコウ飴でも買おうかな。持っといても損はないでしょう。
使えば大丈夫だっていう気休めにもなるし。

シャワーノアトノー カミノシズクヲー カワイタタオルーデ フキトリナガラー
「ん?」

突然携帯の着信が鳴り響く。鞄の中に入れていた携帯を取り出しディスプレイを見る。
ディスプレイには『百々藤枝』の文字。
一体何の用なんだろうか?どうせ篤子も藤枝も19時にはお通夜に来るだろう。連絡なんてしなくてもそれぐらい想像がつく。
じゃあ、一体なんだろう?予測がつかない。

「もしもし」
『もしもしナオコー?』
「うん。どうした?」
『私さー。小5の頃、三角屋根の横の土手歩いてたんだよねー』
「……うん?」

いきなりに何の話だ?なんでまた小学校の頃の話なのか。
三角屋根といえば、駅の近くにある三角形で緑色の屋根が特徴的な焼肉屋の愛称だ。すぐ横には土手があり、1級河川である阿左美河が流れている。

『よそ見して歩いてたんだけどさー。そしたら前から車来てたの気付かなくてさー』
「藤枝?なに?何の話?」
『サイドミラーに頭ガツーン!衝撃で土手からゴロゴロゴロゴロ!そのまま川にザッパーン!』
「ふじ、えだ?」

いつもと変わらない口調。いつもと変わらない声色。だけど違和感がある。
言わんとしていることもわからない。とにかく分かることは藤枝がおかしいということだけ。

『意識も朦朧として体も動かせなくてさー。そのまま死んじゃうところを一緒にいた伊斗子に助けてもらったんだよね』
「!?」
『助けてもらってね。感謝すると同時に情けないなーって思った。私のほうが年上なのに助けてもらうなんてってね。それから伊斗子の前じゃ年上ぶる様になった。
 あと、今度は私が伊斗子を助けようって思った』

確かに小学校5年生の夏休み明けの数日後くらいから、藤枝は伊斗子によくお姉さんぶる様になった。
それにはそんなわけがあったのか。

『でもさ。私は守れなかったんだよ。守るって決めたのに。結局守れなかったんだ。命の恩人を』

藤枝にとって伊斗子はただの親友ってだけじゃなくて命の恩人。
十分激情に駆られる理由はあったんだ。でも、だったおかしくない?
なんでこんなに平然とそれを語れるの?さっきから話の口調が乱れることはないし、声色も変わらない。
あんなに激情に走る女が、そんな平然と語れるものなの!?

『でさー。電話したわワケなんだけど』
「う、うん」

なんだか猛烈にいやな予感がする。体から火照りが急速に取れていく。

『私、伊斗子のお通夜行けなくなったから』
「はぁ?」
『先生に言われて目が覚めたけどさ。でも、割り切れないよ。先生みたいにはね。どうしても犯人に私の気持ちをぶつけなきゃ気が済まないんだ』

な、なに言ってるのよあんた……。

『我慢して、この気持ちを抱えたまま生きていくなんて私はいやだ。耐えらんない。だからごめんね。心配かけちゃうことになって。それとありがと。親友やってくれて』

何いってんのよ。

『生きてたら、さ。また明日会おうね。じゃ』
「あんた何言ってんのよ!」
プツッ!

電話が切れる。呆然と立ち尽くし、頭の中で藤枝の言葉を反芻する。

『どうしても犯人に私の気持ちをぶつけなきゃ気が済まないんだ』
『我慢して、この気持ちを抱えたまま生きていくなんて私はいやだ』
『生きてたら、さ。また明日会おうね』

……死ぬ気だ。藤枝は死ぬ気なんだ。

「どうしよう!」

どうしよう!どうしよう!どうしよう!どうすれば!どうすれば!どうすれば!どうすれば!
どうすればいい!どうすればいいの!?
頭がパニックになって、色々なことを思い浮かべては形にならずに消えていく。
考えがまとまらない!

コンコンコンコン

その時、ノックの音が耳に聞こえてくる。場所はドアのほうじゃない窓の方だ。

コンコンコンコン

窓の外はカーテンで覆われているため見ることはできない。でも、確かにそこに誰かいる。
もしかしたら藤枝なんじゃないのか!?そんな思いが頭をよぎる。
チクショウあいつやっていい冗談と悪い冗談があるんだぞコンチクショウ!出会いざまにぶん殴ってやる!
藤枝がこんなことをするはずがないのをわかっていながら、しかし、どうしても藤枝に結び付けてしまう。少しでも安心したいから。
勢いのままにカーテンに近づき、勢いよくカーテンを開く。
そこには、真っ赤なコートに白いマスク、そして短めのぼさぼさの髪。私を付け狙う口裂け女がそこにいた。

「………」
「………」
コンコンコンコン

口裂け女が木枠をたたく。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

わたし史上かつてないほどの声にならない絶叫が飛び出した。




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