「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - モデルケース-01

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日も暮れ町中の街灯が灯り終えた頃、人もあまり通らないような裏道を歩いている学生がそこにいた。
裏道の地面は荒れている上に狭くて暗く、街灯は大体20メートルほどの間隔にしかない。
そんな環境整備も行き届いていない場所だからだろうか、この裏道は町でも有数の怪談話の噂スポットになっていた。
裏道を歩く学生もこの町に住んでいるのだから、もちろんこの裏道の噂話は耳に入ってきている。
そもそも噂話の中心はいつも学校だ。こういった類の噂話は学校にいれば聞く気がなくても耳に入ってきてしまう。
だからこの学生もいろいろ知ったのだ。いわく、

『足を売っているおばあさんがいる』
首なしライダーの通り道』
『テケテケが襲ってくる』
『殺されたお爺さんが足を掴んでくる』

などなど。
数えだせば切りがないくらいのうわさが流れている。どれも与太話以下の代物だが、ひとつだけ事実に基づいているものがあった。
それは『殺されたお爺さんが足を掴んでくる』である。
それはまだ学生が子供のころの話だが、この裏道でお爺さんが殺されるという事件があった。犯人はまだ見つかってはいないらしい。
学生はその噂以外は全く気にとめてなどいなかった。学生の家はこの裏道を抜けてすぐのところにある。
通学路を通るよりここを通った方が学校に近いのでいつも通っているが、よく聞く噂の類は一切遭遇したことはない。お爺さんの幽霊に足を掴まれたことなどもちろんない。
昔は気にして通らなかったり、通ったとしても不安を感じて全速力で出口まで駆け抜けていた。
しかし、年を重ねるごとにそんな噂は気にならなくなっていった。家庭環境や学校のことで手一杯なのだ。
そもそも学生は4月には高二になるのだ。そこまで年をとっていて怪談話を過剰なまでに気にするのがおかしな方だろう。
いつもどおり下を向いて歩いていた学生は、何かを感じて不意に視線を少し上げる。
5メートルほど先、街灯のすぐ真下に、真っ赤なコートを来た人間がそこに立っていた。
学生は思い出す。最近新しい噂が流れていたことを。

『知ってる?あの裏道の新しいウワサ』
『ナニナニ?またなにか出たのあそこ?』
『真っ赤なコートを着た女の人が出るんだって』
『まっかなコート?そんなのおしゃれしてるだけじゃん』
『話はこれだけじゃないのよ。その女の人はね口にマスクをしてるのよ』
『あっ、それってまさか……』

学生は歩くのを止めない。そんな噂はいつもどおり、なんの意味もないものだと決めつける。
あれもただの話題作りのためにあそこに立っているだけだ。人を脅かしたいだけ。
4メートル
コートは全く動こうとしない。
3メートル
目を隠すほどの長く黒い髪だ。口元には大きな白いマスクが確認できる。
2メートル
ここまで近づくと、視覚的な情報から女だと断定する。
そして女に1メートルまで近づいたところで女は初めて動いた。コートの胸部に右手を入れ、棒状のものを取り出した。
学生が歩みを止め立ち止まる。学生は女が取り出したものに気が付いてしまったのだ。
女が取り出したのは鋭利な鎌だった。

『それでさ。こう、通りかかる人に尋ねるんだって』
「わたし、きれい?」



モデルケース『口裂け女』①



最近、町中である一つの噂が蔓延している。口裂け女の噂だ。
別の県いるいとこにそのことを話したら『いつの時代だよ』と一笑に付されたが、口裂け女の噂が蔓延していう事実は確かなものなのだ。
わたしはその噂を信じているし、町中のみんなだって信じている。
学生はみんな集団下校が言いわたされてるし、夜で歩く人なんてほとんどいない。なぜなら、口裂け女による被害がすでに出ているからだ。
すべての始まりは、3週間ぐらい前だった気がする。それぐらいのころから赤いコートにマスクをした、いわゆる口裂け女スタイルをした人を見たという噂があった。
わたしと同じ学校の人も見たって言ってた気がする。それも町でも有名な怪談話の裏道で。わたしは裏道じゃ見てないけど。
その頃は、誰もがいつものようにくだらない冗談だと思っていた。誰かが流した適当な噂。そう信じて疑ってなどいなかった。
しかし、2週間前にすぐこの高校から200メートルほどしか離れていない小学校の生徒が殺されるという事件が発生した。
それを皮切りにして、次々と殺人事件は起こっていった。老若男女無差別に。一番新しい事件では、私と同じ学校の人が被害にあった。
3年生の山本という先輩が被害者として、つい2日前見つかった。
この殺人事件の被害者には全員共通していることがある。それは被害者全員の口が鋭利な刃物によって切り裂かれていることだ。
さらに、殺人現場の目撃証言もある。目撃者によると犯人は赤いコートを着た長髪の女性で、鎌によって人を殺害した証言している。
そしてこの証言でもっとも注目された証言は、犯人の口がぱっくりと耳元まで裂けていたという証言だ。
まさしく口裂け女のイメージ想像図に一致する。この事件は今じゃ『口裂け女連続殺人事件』なんていってテレビや新聞で大きく取り上げられている。
事件初めの頃こそ、わたしたちは盛り上がっていた。新聞やニュースを見てコワーイなどと茶化し合っていた。
テレビや新聞も『現代によみがえった口裂け女』とか『口裂け女のルーツを探る』とか不謹慎な上に変な特集を組んでた。
けど11人。この2週間で11人の人間が殺されるのはもう茶化すことなんてできないくらいの恐怖を感じる。自分の学校からも犠牲者が出た。
もしかすると次は自分が襲われてしまうかもしれない。そんな恐怖が頭をよぎるようになった。

「それにしてもさー。夜遊べないなんてすっごい不便だよねー」

そんな町中の不安などをよそに、いつも危機感がないやつなんてのはよくいるもので。この教室の中にももちろんいる。

「私さー、最近カラオケに凝ってるんだけどー、ほらー茶店の横のカラオケってさー、夜しかレディースタイムないじゃん?マジ不便」
「……ハァ~」

わたしの目の前の机の上に肩まで伸びた黒髪のストレート、化粧を薄く乗せた端正な顔立ちの同級生が腰かけている。
腰かけているのはやつの名前は藤枝。私の親友だ。彼女は口裂け女など歯牙にもかけていない。きっと頭から恐怖が根こそぎ欠け落ちているに違いない。

「藤枝、あなた自分がいかにバカなこといってるか気づいてる?」
「えーーー、正論しか言ってないんですけどー?」
「自分の命が大切じゃないんかいあんた!」
「私のカラオケに対する情熱なめんなよ!」
「もぉ!マジでなんなのよあんたの頭のカラっぽさは!ママのおなかに忘れてきたの!?」
「いや、きっと彼氏とキスしすぎて吸い取られたんじゃないかなー?キスのときよく吸われるんだよねー」
「うざー!なんでラブラブ自慢されてんのわたし!?」
「落着きなさいよナオコ。そんなカリカリしてると処女のまま死ぬわよ」

わたしはその言葉に反応し、背後の席にいいる黒髪でエンジェルショート、顔にはメンズ用の黒縁メガネかけている同級生方を向く。
教科書を読んでいる彼女は篤子。彼女も私の親友だ。彼女はいつも容赦のない罵倒をわたしに浴びせてくる。

「アッハハハハハハハハハ!アッツーまじで鬼畜だしー」
「メガネーーーー!張っ倒すわよあんた!」
「やめてよ肩揺らすの。眼鏡がずれるじゃない」

たしかに町中は口裂け女の噂であふれていし、学校もその例外じゃない。わたしは真面目にこの事件に恐怖を感じてる。
でも、私たちの日常がそこから一変したわけじゃない。いつもどおり、冗談を言い合ったりして過ごしてる。

「まあ、ナオコもそんなに怒らないでいいじゃない。藤枝だってあなたの夜に出歩くなって言い付けをきちんと守ってるんだから」
「そーそー。ナオコがうるさいから出歩いてないよー」
「……別に怒ってないわよ」
「あなたが藤枝のことを思って口を酸っぱくしてるのは、藤枝だってわかってるわ」
「わかってるわかってるー。だからナオコは彼氏いない歴に終止符を打つ努力をしたらー?」
「ねぇ藤枝、あんたの彼氏にあんたの本名が百々(どど)藤枝ってこと教えるわよ?」
「やめてー!もうドドフジなんて呼ばないでー!藤枝なんて名前つけたばっちゃんまじで鬼畜だしー」

怖いけど、わたしは自分が襲われるなんて思ってもないし、ともだちのみんなが襲われるとも思ってない。
みんなと行動して暗くなったら出歩かない。テレビによれば殺された人たちはみんな夜ひとりで行動してたらしいし。
きちんとした対処さえしてれば、殺されずにすむ。

「お~い。先生来るぞ」

廊下にいた男子がいつものようにみんなに知らせを持ってくる。

「ちぇっ。もう来たのかー。んじゃねナオコアツコ」
「わたしらは漫才師か」
「なんでやねん」

わたしたちそんな別れの挨拶を交わし、藤枝は去っていく。藤枝だけは別のクラスだから自分の教室へ帰っていく。次に会うのは昼休憩になるだろう。
藤枝が教室を出て行って10秒ほどあと、先生が入ってきた。いつものように教卓の上にバインダーを置き両手を置いて体を支える。

「えー皆さんにぃ、重大なお知らせがあります。だから静かにしなさい」

開口一番、先生の重大なお知らせ。ここ最近よく聞く気がする。小学生が殺された時や集団下校を言い渡された時。
そして山本とかいう先輩が死んだ時。不吉なことばかり。

「またも口裂け女事件の被害者が出てしまいました」

先生の口から発せられたのはやっぱり不吉なお知らせだった。朝のニュースじゃ言ってなかったからまだマスコミは知らないのかな。
でもどうせすぐに嗅ぎつけて取材とか行くんだろーなー。山本先輩が死んだときもたくさんマスコミ来たし。ってかインタビューもされたし。

「被害者はぁ、嘆かわしいことにまた我が校の生徒です」

えっ……
クラス中のおしゃべりが一斉にやみ、クラス中の視線が先生の方へ注がれる。みんなの顔には驚きの表情が張り付いている。
もちろん私の顔にもだ。

「被害にあったのは一年生の子だ。なのでみんな目をつぶれ。1分間黙とうを捧げるぞ」

クラス中のみんなが先生の言葉に逆らわず、目を閉じ始める。目をつむる人の中には顔をひどく青ざめさせている人もいる。
無理もないと思う。今まで場所も、人も、被害者はみんなバラバラだった。共通点なんて一つもなかった。
でも今回は違う。前回の被害者と今回の被害者は共通点がある。

「じゃぁ、黙とー!」

二人ともこの学校生徒だ。はじめて事件に共通点が出来てしまった。
もちろん、偶然だと言い切ることもできる。でも、もしかしたら犯人が、口裂け女がこの学校に目をつけてしまったんじゃないか?
心にそんな疑惑が渦巻き始める。みんなも同じ考えだと思う。

『2連続でこの高校で被害者が出た。次は俺の番かもしれない』
『もしかしら私かも』
『あの子が死んじゃうんじゃ』

したくもない方向で、クラスの心意気が団結しているのが感じられる。

「おい、みんな目ぇあけていいぞ」

先生の合図でみんな目をあける。

「えー、とですね。いまから今日の授業割の変更をお知らせします。1限目の数学が無くなって全校集会になりました。それとぉ、授業は3限で終了です」

ま、当然のことだろうと思う。

「まだ寒いのでぇ、寒い人はジャンパーの着てもいいですよ。んじゃぁ準備ができた人から体育館に行ってください」

先生が言葉終えて、それでも動き出さない生徒が多々いた。無論わたしもその一人である。後ろにいる篤子も動き出す気配はない。
すると、先生がバンバンと黒板を大きく叩く。

「おまえらぁ、心配になるは確かにわかるが動かなきゃ始まらんぞ。みんなで動けば襲ってくることなんてない。大丈夫だ。わかったら動く!早く動く!」

先生の言葉に促され、みんながようやく動き出す。しかし、わたしはなかなか立ち上がることができない。
そんな私の肩に手が置かれる。

「大丈夫ナオコ?顔青いわよ」
「うん。大丈夫」
「ねぇ。もしかしてまた見たの?」
「……うん。今朝見た」

そう、ここ3日ほどわたしはよく見るのだ。真っ赤なコートを着た人物を。
はじめはただの見間違いだと思った。
でも、電信柱の影に、屋根の上に、電線の上に、車の影に、人の影に。連日見ればそれはもう見間違えとは言わないだろう。

「まったく、その場で言えばいいじゃない」
「ごめん。でも周りに人がたくさんいたから。あんまり騒ぎになるのも嫌だし」
「なったって構わないでしょう?その方が安全よ。近所から人がわらわら出てきてくれるわ。それに」

篤子がわたしの目の前まで来て目線を合わせる。

「藤枝は口裂け女なんて信じてないから怖がってないし、私は、うん、少なくともお化けだとは思ってないわね。犯人は人間よ。なら私も怖くない」

笑ってわたしを励まそうとしてくれる。

「だから、ナオコや周りがいくら騒いだって私たちが冷静に対処してあげるわよ」
「ありがとメガネ」
「うん。じゃあ行きましょう寝ゲロ女」
「調子に乗ってすみません」
「何を謝ってるの中三でおねしょ女」
「ほんとごめん」

ほんと、藤枝や篤子が親友でよかった。わたしが落ち込んでる時や怖がってるとき、いつも励ましてくれる。
小学生からの友達。彼女たちの励ましがなかったら、わたしはきっとこの3日をまともな精神で耐えられなかったと思う。

「アッツー、ナーオーまだ教室出てないのー」
昼休憩なんて待たずの再会。いい方向で予定が食ったなと思う。
「ドドフジー!篤子がいじめるー!」
「私はいまナオコからいじめられたー!」
「うるさわよ二人とも。早いところ行きましょ」
「うわ、出ましたよ篤子さんのボケ殺し」
「全然ノらないなんて、ボケる身にもなってほしいわよねナオコさん」
「……」
「「ほんと(まじで)調子に乗りました!だから無視しないで!」」

足早に去っていく篤子を藤枝と二人で追いかけながら、今日もいつもと変わらない毎日だと思っていた。でもそうじゃなかった。

それがわかったのは3限目も終わって集団下校のため校庭に集合し始めた頃。

「そういえば公園の近くにたこ焼き屋できたじゃん。あれ今の騒ぎで客来てなさそうだよね」
「あそこね。母さんが買ってきたことあるけどそんなに美味しくなかったわよ」

校庭で篤子と二人、藤枝を待っている時に『それ』は聞こえてきた。

『聞いたか1年のこと』
『ああ、死んだ1年だろ』
『名前なんだっけな。後輩が職員室で聞いたらしくてさ。さっき教えてもらったんだけどな』

わたしも篤子も自然とその方向へ目を向けてしまう。やはり、誰が死んでしまったのか、不謹慎だとは思うけど気になってしまう。
だから、こんな会話に反応してしまう。

『確かクワムラだったかな』

クワムラ。その苗字を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がるのを感じた。隣にいた篤子も目を見開いている。

『あ~そうそうカンペキ思い出したわ。クワムラ。クワムライトコだ』

その名前を聞いた瞬間膝から力が抜けるのを感じる。そしてそのまま体勢が崩れ地面倒れそうになったところで、

「ちょ、ちょっとナオコ!?」

篤子に支えてもらう。

「ナオコ!気をしっかり持ちなさい!」
「なになに!?どうかしたの!?」

そこにいつの間にかそばにいた藤枝が加わる。

「ふ、ふじえだぁ、、、、イ、イトコが、イトコが、、、、!」

涙が溜まり過ぎてもう前が見えなくなってきた。

「えっ……。なによちょっと、やめてよ、、、、そんな、そんな泣きながら伊斗子の話なんてさ!やめてよ!」

朝にあった1年生が死んだという訃報。わたしのこの態度。そして伊斗子の名前。

「う、、、うえ、、うううう、、、イトコが、」
「やめてったら!泣かないでよ!そんな声出さないでよ!そんな声で伊斗子の名前を出さないでよ!」

藤枝が私の体を乱暴に揺らし怒鳴り散らす。それでもわたしは泣くことをやめることができない。

「やめなさい藤枝!」
「篤子!違うわよね!伊斗子は!伊斗子は違うよね!」

藤枝も察したのだろう。

「……残念だけど本当だと思う。携帯で連絡が取れない。家の電話にも」

わたしたちの大事な後輩が死んだことに。

わたしのそばで藤枝も崩れ落ちる音がする。
今回の被害者の桑村伊斗子。彼女は私たちの昔からの後輩だ。わたしと藤枝は小学校のころから、篤子は中学生のころからの付き合いになる。
ぱっちり開いた目に薄い唇。男子のように短く切った、最低限の手入れしかしてない髪の毛が印象的な子だった。
伊斗子は私たち三人にとても懐いてくれていた。わたしたちも彼女が可愛くて大好きだった。藤枝と篤子を除いたら一番仲が良かったのが伊斗子だった。
わたしと藤枝は小学校のころから一緒に卓球してきた仲だ。篤子も中学生から一緒にやっている。
この高校には卓球部がなかったから、わたしたち4人で卓球愛好会なんてものを設立した。ずっと一緒にやってきた、ひとつ下の後輩。
今はこの事件で部活動全てが中止になってるけど、わたしたちは関係なく集まっていた。昨日も一緒に話した。夜にメールのやり取りもしてた。
10分ぐらいだけ電話でやり取りもした。つい昨日まで、伊斗子は確かに生きていた。でも、口裂け女に殺された。
何で……、何で殺されなきゃいけないのよ!あの子がなにかしたって言うの!そもそもあの子は夜ひとりで出歩くような子じゃない!
殺されるような状況なんてならないはずよ!

「お前等何してんだ?どうした腹でもいたいのか?」
「すみません先生。少しショックなことがあって。落ち着くまで待ってもらえないでしょうか」
「あ~、まあこの調子じゃな。いいよ。どうせお前等の地区学校からちかいしな。よくわかんないど元気出せよ?」
「ありがとうございます」

伊斗子が、伊斗子が、伊斗子が、どうして?なんで?いつ?どこで?どんなふうに?だれに?

「二人とも。悲しいのはわかるけど、いつまでもこうしてるわけにはいかないのよ」
「今私たちは家に帰らなきゃいけない。これ以上遅れたら今度は他の人たちが被害に遭うかもしれない」
「家ならいくら泣いても何も言われないし、迷惑もかからないわ。ほら二人とも、支えてあげるから」
「あと少し、あと少しよ。そしたら出発するの。私たちたちのせいで、わたしたちの地区の人たちだけ足止めを食らってるわ」
「早く家に帰らして両親を安心させてあげないと」



泣き始めて40分、いや50分は経ったかもそれない。落ち着いたころには校庭に生徒はわたしたちしか残っていなかった。
どうやら、わたしたちの地区の人たちも出発してしまったらしい。

「ナオコ。もう大丈夫?}
「……うん。も"うだい"じょう"ぶ。こ"め"ん"」
「ひどい鼻声になってるわよ。このティッシュ使いなさい」
「あ"り"がと"」

篤子からポケットティッシュを受け取ると2枚ほど引き抜いて鼻をかむ。
ずいぶんと詰まっていたみたいで、すっきりする。

「藤枝。はいハンカチ」
「……ありがとね」


篤子は立派だといつも思う。こんなときでもわたしたちみたいに取り乱さない。篤子もきっと悲しんでるはずなのに、辛いはずなのに。
いつもいつもわたしや藤枝にそんなそぶりを見せずにわたしたちを助けてくれる。

「おいお前等。もう大丈夫か?大丈夫ならさっさと帰ってもらわなきゃ困るぜ。先生たちにも用事があるからな」
「すみません。わざわざ特別に付き添ってくださって」
「あ~。気にすんな。こいつも教師の仕事ってやつだ」
「ほらナオコ、藤枝。立ちなさい」

わたしも藤枝も篤子に腕を引っ張られ、ようやく立つことに成功する。



「お前等たしかS地区だったよな」
「はい」
「んじゃいくか」

そういって歩き出す先生の足はそんなに早くない。もっと早く歩けるんだろうけど、わたしたちに合してくれてるんだとその意に気づく。
この先生はガサツだと思ってたけど、意外と気遣いができる先生っぽい。
先生を先頭に自分たちが住んでいるS地区へと足を動かす。
いつもなら他にも人数がたくさんいて、注意されるぐらい騒ぎながら帰ってる頃だけど、今はわたしたちの靴音しか聞こえない。
正直なところなにも話す気が起きない。
気持ちが落ち着いたとはいえ、伊斗子が死んだという事実は消えるわけじゃない。沈んだ気持ちが急に浮上するわけでもない。
わたしたちにとって伊斗子の死はあまりにも重い。

「お前等まじでどうしたんだ。泣いてた思ったら今度は黙りこくって?悩みあるならのってやるぞ!」

沈黙に耐えられなくなったのか、十字路に差し掛かったところで先生は無駄に元気にわたしたちにしゃべりかけてくる。
でも、わたしはとてもしゃべる気にはなれない。きっと藤枝もそうだ。もししゃべる気力があるとすれば、

「先生。一つ聞いてもいいですか?」

篤子くらいだ。

「おお!なんだなんだ!じゃんじゃん聞け!」
「今回の被害者が桑村伊斗子だっていうのは本当なんですか?」
「……」

先生はしゃべるのをやめるとともに、その歩みも止める。
こんな反応をするということは、伊斗子が死んでいる証明に他ならない。
死んでいないという答えを期待していなかったといえばウソになる。でも、その淡い期待ははかなく散って行った。
現実は容赦なくわたしたちの身に襲い掛かってくる。

「お前等、友達だったのか」
「友達じゃありません。親友です」
「……今回死んだのは確かに1年の桑村伊斗子だ。家についてテレビをつけたら、ニュースでも放送されてるかもしれん」
「そうですか」
「すまんな。その~、場違いなことばかり言ってな」
「いえ、いいんです」

先生はほんとにすまなそうな顔をすると、わたしたちから顔をそむけ再び足を前に進め始める。

「ほら、二人ともいくわよ」

伊斗子に促され、わたしたちも再び足を動き出す
その時ふと左の方、ギリギリ視界に入るか入らないかのところで、何かを捉えた。
左に顔を向ける。

「ヒッ!」

あまりの衝撃に喉が締め付けられ息が漏れる。心臓はかつてないほど躍動し、体から汗が噴き出す。
十字路の左折方向の10メートルほど先に、真っ赤なコートを身にまとった人物が立っていた。あのコートの色、あの背格好、間違いない。
ここ数日わたしを監視しているあいつだった。体が恐怖ですくみ篤子にもたれかかる。

「どうしたのナオ、、、な、あ、、、、まさか、、、!」

体はどうしようもなく震え、歯はかみ合わずカチカチとぶつかって音を立て続ける。
汗はどんどんと噴き出ているが体はこれ以上にないほど冷えていた。
今、わたしたちの目の前には、伊斗子を殺した殺人鬼が、口裂け女がいる!

「あいつかぁぁぁあああああああああああああああああ!」

後ろから怒号が発せられたかと思うと、わたしと篤子の横を誰かが駆け抜けていく。あれはまさか、

「「藤枝っ!?」」

わたしと篤子が同時に叫ぶ。
そう、わたしたちの横を駆け抜けていったのは、わたしたちの親友百々藤枝その人だった。

「お前が伊斗子をぉおおおおおおお!」

ダメだ!ダメだダメダメダメダメだ駄目だ駄目だ!あれに向かったら!そんなものに向かったら!異常なものに向かったら!
藤枝まで、伊斗子と同じ運命を辿ってしまう!

「待ってふじえだぁ!」

そう考えると、体すでに動き出し、藤枝へと走り出していた。
頭にはすでに口裂け女の恐怖なんて掻き消えている。その代わりに、別のものが支配していた。
小学生からの親友が、百々藤枝が殺されてしまうという恐怖。伊斗子に続き藤枝までいなくなってしまうという圧倒的恐怖が体を動かす。
なんとしても藤枝を止めなくちゃいけない!あいつのもとへ行かせちゃいけない!あいつに近づかせちゃいけない!
それだけを思い、ただ藤枝に向かって走る。しかし、追いつくことはできない。
藤枝はもともと運動能力はわたしたち3人の中では1番だ。チャラチャラした性格とは裏腹に、その体はスポーツによって鍛えられている。
そんな藤枝の脚力にわたしでは追いつけない!藤枝が、口裂け女の前に立ちはだかってしまう。
藤枝が走り出し、口裂け女のところにたどりつくのはほんの数秒。そのほんの数秒の間に口裂け女は後ろへ50メートル下がっていた。
それも、姿勢を一切乱さずわたしたちに正面をむけたまま。
しかし、口裂け女が移動した先には逃げ道がない。口裂け女のすぐ後ろはブロック塀がそそり立ち、両隣りには高い塀に囲まれた民家。
ブロック塀も民家の塀もすぐすぐよじ登れる高さじゃない。でも、口裂け女が逃げられない代わりに、わたしたちも逃げることはできない。
わたしたちだって塀をよじ登ることはできないのだ。50メートルの距離を一瞬で詰める化け物から逃げる手段がない。
化け物の巣穴にみすみす飛び込んでしまうだけだ。
しかし、それでも藤枝の疾走は止まらない。そんなこともわからないかのように、あるいは知ったことではないというように走る。
だから、わたしも追うことをやめるわけにはいかない。

「ふ、二人とも待ちなさいよ!」

篤子の焦った声と走るような靴音が聞こえる。
それを無視し、ひた走る。いくら走っても藤枝に追いつける気がしない。むしろ離されていっているかのような感覚に襲われる。
その感覚を打ち消すため、さらに足に力を込める。
しかしその時、再び口裂け女が動きを見せる。跳んだのだ。上に。目測としては約20メートルぐらいだろうか。
その光景に自然と足も止まる。藤枝の足も止まっているし、後ろで聞こえていた篤子の足音も聞こえない。
口裂け女はそのまま民家の屋根に着地するとこちらを一瞥すると、どこかへ去って行った。
……わたしたちの町が遭遇している事件とは、一体なに?わたしたちは何に狙われているの?
わたしは確かに口裂け女を信じている。町中のみんなも信じていると思う。だって実際に事件が起こっているのだから。
でも、どんなに信じている人でも心の奥底では人間が犯人だって思っていたはずだ。わたしだって思ってた。
この事件の犯人も、わたしをつけ狙っている口裂け女もみんな人間の仕業だって。

「こぉらぁ!お前等何をしてんだ!!急にこんな場所に入り込んで!危ないだろうが!」
「せ、先生!?」

じゃあ、人は20メートルもジャンプできるのか?正面を向いたまま身動き一つとらず50メートルを一瞬で移動できるのか?
できない。できない。できない。できない。できない。できない。
あれは人間じゃない。じゃあ、なに?

「百々ぉ!石田ぁ!櫛間ぁ!速くこっちに来い!ダッシュゥ!」

口裂け女、、、、都市伝説が現実になったっていうの?




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