「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ドクター-35

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ドクター35


口裂け女
都市伝説の吹き溜まりとでも言うべきこの学校町には、多数の口裂け女が存在している
バリエーションも地方差により豊富で、それでいて確固たるイメージがあるせいだろう
そして、彼女達の多くは人を襲い傷付け時には死に至らしめ、やがて違う都市伝説と契約した人間と遭遇し――殺される
そんな末路が予想される事を、別段疑問には思わなかった
周りは皆そうなのだから、そういうものだと思っていた
時折、他の都市伝説に襲われている人間に契約を持ち掛け、助けようとする同属もいた
だが名の知れた、つまり攻撃手段も弱点も知れ渡った都市伝説の力など、たかが知れている
そもそも、人間を圧倒する程度の身体能力を持っている程度では、様々な異能を使いこなす他の都市伝説に敵うはずもない
この町では、所詮はやられ役でしかないのだ
だが、それで生き方が変わる事も無い
薬で殺され、叩き潰されても、血を吸い種を残す蚊のように
人間を脅かし、傷付けて、恐怖と伝承を以って種を残すのが存在意義なのだから
だからこそ、彼女はいつもと変わらぬ足取りで歩み
前を歩く男女二人に向かって声を掛ける
「ねえ、そこのお二人さん」
先に振り返ったのは男の方だった
まだ若い大学生ぐらいの年齢の男は、マスクとロングコート姿の彼女の姿を見てすぐに警戒の色を浮かべる
「ドクター、返答をしないで下さい。すぐに倒します」
腰に下げていた布袋から、鎖で繋がれた棒状の武器を取り出す男
その節がすぐさま繋ぎ合わされ、一本の長い棍の形になる
戦い慣れている、そう理解できる反応と表情だった
「私、綺麗?」
諦めたわけではない
自棄になったわけではない
そもそもそんな感情があるわけではない
ただ役目を全うするために
己の存在意義のために
口避け女は、自らの伝説の常套句を告げ
返答をする事なく、微塵の容赦も見せずに攻撃を繰り出した男の一撃が
「待ちたまえ」
女の一言で、身体に触れる寸前で止まった
「女性に問われた以上は返答をせねばなるまい」
「何を言ってるんですかドクター、返答をするのは攻撃のスイッチを入れるようなものです。口裂け女の話ぐらい知っているでしょう?」
「知っているからこそ、ボクには常々言ってやりたい事があるのだ」
女はやや不機嫌そうにそう告げると、つかつかと口裂け女に歩み寄る
「綺麗か、そう聞かれればこう答えよう。綺麗だと」
その言葉に、口裂け女は確固たる反応を持ち合わせている
真っ直ぐに見詰めてくる女の視線に、マスクで隠していた頬が耳まで裂けた口を見せ付け
「これでも綺麗だって言うの?」
「勿論だ! 何故ならボクはこの世に存在するありとあらゆる女性を愛しているからだ! むしろあの世だろうが異次元だろうが女性は全て愛し慈しみ守るべき対象であるとここに宣言しよう!」
即答だった
余りにも素早い解答とアレな内容に、口裂け女の方が一瞬呆気に取られていた
だが素顔を見せても綺麗だと答えたのなら、その返答への対応は既に決まっている
「そう……それなら、あなたも同じようにしてあげる!」
口裂け女の手に大振りな鎌と裁ち鋏が現れ、それを女の顔目掛けて振り下ろそうとした、その瞬間
「その傷跡も含めて、それが君の個性だ。全て同じになったらそれは標準であり何の価値も無くなるではないか」
「……は?」
「いやいや標準的な女性もそれはそれで良いものだが、傷跡の一つや二つはアクセントだとボクは思う。それを含めて君という個すべてを愛したいと心の底から思っているのだ」
ぽふ、と音を立てるほどに耳まで裂けた頬を染める口裂け女
「だが……この傷跡が嫌だというのなら、ボクが必ず治そうではないか。都市伝説という存在であるためにアイデンティティを消せないというのなら」
伸ばされた手が背中に回され、優しく、とても優しく抱き締められる
「君を人間にしてでも、必ずその傷跡を消してみせる」
口裂け女の手からは、既に物騒な刃物は消え失せていた
「ボクが君を愛する事にせよ、君を治す事にせよ……それはボクを信じてくれるかどうか、まずはそれからだ」
与えられた役目を果たしていただけの命に、選ぶべき道を示してくれた
外の世界への扉を開いてくれた、そんな気がして
「よろしく、お願いします」
胸が一杯で、それを言うのが精一杯だった
そして、それを察するように、よくできましたと言わんばかりに頭を撫でられる
「ところで、その傷に触れてみてもいいかね? 痛みなどがあるなら遠慮しておくが」
「え、いいえ、特に痛みとかはな無いです。元からこういう形みたいなものですから」
「ふむ、それでは」
「へ、あ、ええっ!?」
そっと頬に添えられた手
そして傷跡に触れる唇と舌先の感触
「あ、そんなっ、はわっ、わ!?」
上擦った声が漏れる口裂け女
そんな状況を察して、男は視線を逸らし
「適当な頃合に迎えに来るよう、運転手に連絡をしておきます」
呆れたようにその場を立ち去る男と、軽く片手を振って見送る女
「さ……君の全てを見せて欲しい。いいだろう?」
「え、で、でもこんな道端で、あっ、んぅっ!」
口裂け女が都市伝説としての存在が故に、第三者をあまり寄せ付けないようにする人払いの力が自然と漏れ出していた
それが幸運だったのか不運だったのかは、当事者の判断に任せるとして
迎えが現れる頃には既に都市伝説としての存在以前に、一人の女としてべったりと身を寄せている口裂け女の姿がそこにはあったのだった

―――

「彼女にミツキと名前を付けたのは君だったな」
「まあ日本生まれの存在ですし、日本名の方が似合うと思っただけです」
休憩時間に、口裂け女のミツキが淹れたお茶を啜りながら、のんびりと昔語りをするドクター
バイトちゃんもまた、当時を思い出しながら適当に相槌を打つ
「ん、私はこの名前は気に入ってるよ。でもさ、遭遇した時は殺る気満々だったのにね」
「そっちだってそうだったじゃないですか」
顔を見合わせて苦笑を浮かべあうミツキとバイトちゃん
「むしろ、メアリーとの初顔合わせの時が一番大事だった気がします」
「あはは、あの頃は若かったわねー」
「まだ一年も経ってませんけどね」
誤魔化すように笑うメアリーと、冷静に突っ込むバイトちゃん
「浮気だの契約者を取られるだの、マジ泣きして大騒ぎだったじゃないですか」
「私も、ドクターに契約者がいるとは思ってなかったものねー」
のんびりと煎餅を齧りながら、思い出し笑いをするミツキ
「結局はドクターに説得されて二人とも落ち着いたみたいですけど。何を言われたんですか」
「それは……ねぇ?」
「ドクターの全力がどれぐらいか、思い知らされたというか」
真っ赤になって視線を逸らす、メアリーとミツキ
「まあ、なんとなく何があったかは想定してましたからその反応も納得ですが」
諦めたように溜息を吐くバイトちゃん
その傍らで、煎餅を食みながらちょこんと座っているエニグマ姉妹
「ドクターは何処に行っても変わらないでありますな」
「女性の為なら命知らず過ぎます」
二人の言葉に、バイトちゃんは軽く溜息を吐く
「ついこないだも、ホルマリンプールやら亡者の血の池やらに飛び込んで、色々無茶をしでかしたばかりですし」
「ははは、それは君のせいだと理解した上での発言かね?」
「俺の為だとか言って無茶されるのが怖いって言ってるんですよ……というか鉄砲玉の護衛役を逆に庇ってどうするんですか。いつかあっさり死にますよ?」
「ボクは死なんよ、この世に女性がいる限りな」
「どこまで本気かわかりません。というかそれ人類が滅亡するまで死なないって事ですか」
「ボクは常に本気だとも。さて、そろそろ午後の診療受付を始めるぞ」
ドクターがぱんぱんと手を叩くと、それぞれがてきぱきと動きお茶の片付けをして診療所のあちこちに散っていく
一時の慌しい平和を楽しむために
いつかまた訪れるトラブルに挑む英気を養うために


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