「祭、札が示すもの」
学校町北区、秋祭り一日目の夕刻。
神社の参道は多くの屋台が立ち並び、それを目当てにやってくる人々でいつも以上に路地は賑わっていた。
すでに辺りは暗くなり始めているものの、それも祭の空気の為か人の波は絶えない。
すでに辺りは暗くなり始めているものの、それも祭の空気の為か人の波は絶えない。
そんな喧騒から少し遠ざかった場所にそのテントはあった。
蝋燭のほの暗い明かりの中、二人の女性がテーブルを挟んで向かい合っていた。
片方は明るい色合いの茶髪を結い上げ、黒地の浴衣に身を包んだ若い女性。
もう片方は微笑みを湛えた、なんともミステリアスな美女――このテントの主、「タロット占いの館」の占い師であった。
片方は明るい色合いの茶髪を結い上げ、黒地の浴衣に身を包んだ若い女性。
もう片方は微笑みを湛えた、なんともミステリアスな美女――このテントの主、「タロット占いの館」の占い師であった。
「では、占わせていただきますね」
「は、はい」
浴衣の女性が緊張の面持ちで頷くと、占い師はおもむろに傍らに置いてあったカードの束を手に取った。
世の占い師達の御用達、看板にも掲げられているタロットカードである。
世の占い師達の御用達、看板にも掲げられているタロットカードである。
タロットカード。
起源については諸説あるらしいが、それでも歴史上確認できるものはすでに15世紀から存在していたものだという。
もとはゲームの為に生み出されたというそれは、年月を経るうちにやがて神秘的な魔術用具として認識され、現代でもなお未来を垣間見る為の道具として用いられているのだ。
起源については諸説あるらしいが、それでも歴史上確認できるものはすでに15世紀から存在していたものだという。
もとはゲームの為に生み出されたというそれは、年月を経るうちにやがて神秘的な魔術用具として認識され、現代でもなお未来を垣間見る為の道具として用いられているのだ。
テーブル上にばら撒かれ伏せられたカードの上を、ほっそりとした手がひらりと舞う。
かと思えば、瞬く間にばらばらのカードは一つの束に纏め上げられる。
それを今度は片手に持った束の内の半分を抜き出しては上に積み、また抜いては積み、を繰り返す。
これだけですでに一つのイリュージョンを見せられているかの様な気分になり、浴衣の女性はほうとため息をついた。
かと思えば、瞬く間にばらばらのカードは一つの束に纏め上げられる。
それを今度は片手に持った束の内の半分を抜き出しては上に積み、また抜いては積み、を繰り返す。
これだけですでに一つのイリュージョンを見せられているかの様な気分になり、浴衣の女性はほうとため息をついた。
そうして出来上がったのは、綺麗に揃えられたカードの山。
占い師はそれらを一枚、また一枚とめくり、規則的に並べていく。
あるカードは女性から見て逆さまに、またあるカードは正位置に。
そうして最終的にテーブル上に出来上がったのは、V字の様に並べられた色とりどりのカードの配列だった。
占い師はそれらを一枚、また一枚とめくり、規則的に並べていく。
あるカードは女性から見て逆さまに、またあるカードは正位置に。
そうして最終的にテーブル上に出来上がったのは、V字の様に並べられた色とりどりのカードの配列だった。
「さて……」
ふむ、とつぶやいた占い師の視線がカードの上を滑っていく。
対する浴衣の女性もほんの少しばかり身を乗り出し、テーブル上に現れた己の運命の一編をじっと見つめた。
対する浴衣の女性もほんの少しばかり身を乗り出し、テーブル上に現れた己の運命の一編をじっと見つめた。
「貴方は今……何も知らない、まっさらな状態ですね」
「何も……って、何をですか?」
"The Fool"(愚者)と銘打たれたカードを指差す占い師に、困惑の表情で女性が問いかける。
すると、占い師は別のカード――"The Devil"(悪魔)を指し示す。
すると、占い師は別のカード――"The Devil"(悪魔)を指し示す。
「何も……というのは間違いでしょうか。貴方もそれについて、少しは知っている。
でも、それは本当に表面だけでしかない。
深い泉の浅いところを離れたところから見ているだけで、まだ水底を覗き込んではいない」
でも、それは本当に表面だけでしかない。
深い泉の浅いところを離れたところから見ているだけで、まだ水底を覗き込んではいない」
醜悪な悪魔の絵柄を見つめていた女性は、その言葉に僅かに表情を強張らせた。
弾かれた様に顔を上げれば、こちらをじっと見つめる占い師の深い瞳にぴたりと吸い寄せられる。
弾かれた様に顔を上げれば、こちらをじっと見つめる占い師の深い瞳にぴたりと吸い寄せられる。
「もしその深淵の淵に立つ機会があれば、貴方はそれを覗き込む勇気はありますか?」
「覗き込む、勇気……」
ぽつりとつぶやく女性から、占い師は再び視線を落とす。
「でも貴方をそれに近づかせまいと、引きとめようとする存在がいるのでしょうか」
そう言って占い師が新たに示したのは、"The Empress"(女帝)。
女性もまたつられてそれに視線を落とせば、それは彼女から見て正位置になっている。
女性もまたつられてそれに視線を落とせば、それは彼女から見て正位置になっている。
「それはとても力ある存在……貴方をずっと見守ってきた。
でも、その思いは貴方には少しばかり重いみたいですね」
でも、その思いは貴方には少しばかり重いみたいですね」
そう言って微笑む占い師に、思い当たる節が有るのか、女性もまた苦笑を浮かべる。
「でもそう遠くない日、きっと貴方は淵のそばに立つ事になるでしょう。
さらに底を覗き込むか、それとも引き止められるままにまた離れてしまうかは、貴方次第」
さらに底を覗き込むか、それとも引き止められるままにまた離れてしまうかは、貴方次第」
「そ、それは確実な事なんですか?」
そう問いかける女性に、占い師はまた次なるカードを指し示す。
「なぜなら、貴方は「出会って」しまいました。すでにそこから「変化」は始まっていたんです」
示されたのは二人の人物が描かれた"The Lovers"(恋人)、そして不思議な模様の描かれた輪の絵柄の"Wheel of Fortune"(運命の輪)の二枚のカード。
真剣な面持ちでじっとそれらを見つめる彼女に、占い師は口を開く。
真剣な面持ちでじっとそれらを見つめる彼女に、占い師は口を開く。
「どちらを選ぶにせよ、貴方はまた新たに出発地点に立つ事になります。
それが以前と変わらぬ日々の始まりか、新たな始まりかは……先程の選択次第ということになるでしょうか」
それが以前と変わらぬ日々の始まりか、新たな始まりかは……先程の選択次第ということになるでしょうか」
"The Magician"(魔術師)のカードを示しながら微笑む占い師に、女性は「はい」と不安げな面持ちで返事を返す。
「これはあくまで占いですから、あまり深く考えすぎず」
「とは言われましても……けどすごいですねえ」
占い師の語る事柄の一つ一つに始終圧倒されていた様子の彼女だったが、一つ息をつけばいくらか緊張は薄らいだのか、すとんと肩から力が抜ける。
「こういう本格的な占いって初めてなんですけど、びしばし当たるんでびっくりしました」
「まあ、それは何よりです」
嬉しそうに微笑む占い師の表情に残りの緊張も緩んだのか、自らもまた僅かに笑みを浮かべて椅子にもたれかかった。
「では、これをどうぞ」
「え?」
いつの間にか占い師がテーブルに出したのは、小さな革の小袋。
「お守り……ですか?」
「そんなところですね。開けてもかまいませんよ」
では、と女性が小袋を開けてみると、手のひらにころりと落ちたのは親指ほどの濃い青みがかった石。
独特な光をたたえたその石は光の加減で模様もまた変化する様で、それは何かの眼の様にも思えた。
独特な光をたたえたその石は光の加減で模様もまた変化する様で、それは何かの眼の様にも思えた。
「ホークスアイ、決断と前進を意味する石として古くからお守りに使われてきた石です。
邪悪なものから身を守ってくれる効果もありますから、よかったらどうぞ」
邪悪なものから身を守ってくれる効果もありますから、よかったらどうぞ」
「へえ……ありがとうございます、こんな綺麗な石を」
その石、ホークスアイを一目で気に入ったのか、このテントに入ってから初めて満面の笑みを浮かべた。
それを見ると、また占い師も嬉しそうに微笑んでみせる。
それを見ると、また占い師も嬉しそうに微笑んでみせる。
「貴方が悔いのない選択をできる様、私も祈っています」
「はい……!」
占い師の激励の言葉に答える様、女性は石を強く握り締めた。
・ ・ ・
「お待たせしましたーホロウさん!」
気分爽快といった様子で下駄を突っかけ飛び出してきたのは、いつもと違う装いの文系女大生の彼女である。
いつもは下ろしたままの長い茶髪を淡く黄色に染められた花飾りのついたかんざしで結い上げ、それと同じ花柄の模様がちりばめられた黒の浴衣を身に纏い、まさしく祭モードそのものの装い。
ちなみに着付けは本を見ながらどうにか頑張った結果、それなりにぴしりとなった改心の出来である。
いつもは下ろしたままの長い茶髪を淡く黄色に染められた花飾りのついたかんざしで結い上げ、それと同じ花柄の模様がちりばめられた黒の浴衣を身に纏い、まさしく祭モードそのものの装い。
ちなみに着付けは本を見ながらどうにか頑張った結果、それなりにぴしりとなった改心の出来である。
「なかなかよかったですよ、占い! お土産までもらっちゃって……」
ご機嫌な様子で外で待っていた連れに報告をしようとする彼女だったが、ふと視線を上げた瞬間飛び込んできた光景に、思わず足を止めた。
「すいませーん、もう一枚お願いします!」
「かっけえー! あれ鎧ムシャだろ!?」
「凄ぇ、あの映画からそのまま飛び出してきたみたいだ……気合入ってるなあ」
ある者はカメラ片手に、ある者はしげしげと彼の服装を見つめ、かたわらの小さな子は素晴らしいこしらえの剣の柄に手を伸ばそうとして。
「……………………………………………………」
それは幾人にも囲まれ、まるで彫像の様に立ち尽くす己のパートナーの姿だった。
秋祭り一日目の夜、まだまだ祭りは始まったばかり。
<Fin>