「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-64b

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匿名ユーザー

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 痛みの感覚はなかった
 このところ、ずっと感じていた頭痛もない

 痛みどころか、他の感覚も感じなくなってきている
 まだ、辛うじて視覚や聴覚は生きているようだが

 あぁ、違う
 一つ、感じられる感覚があった

(……寒い)

 寒い
 寒い、寒い、寒い
 確かに今は冷え込んできている時期ではあるが、それ以上に寒い

(あぁ、そうか)

 自分は死ぬのか、と
 アダムは己の状況を理解した






「アダム?」

 皓夜は、呆然とした表情で倒れ込んだアダムを見た
 自分に向かって飛んできた、小さな虫のようなもの
 あのままだったら、自分はアレに貫かれたいたのだろう
 しかし、自分は生きている。どこも貫かれてなどいない
 代わりに、アダムが倒れていて、その胸元に小さく穴が開いていた
 じわ、じわ、とそこから赤が滲み出てくる

 庇われたのだ、と皓夜はようやく理解した
 あの瞬間、アダムが渾身の体当たりでこちらを突き飛ばして、代わりにあの一撃を食らったのだ

「アダム……アダムッ!?」

 アナベルが、悲鳴のような声をあげながらアダムに近づく
 皓夜がアダムに突き飛ばされた際に、皓夜の頭から落っこちていたらしい
 じわじわと広がっていく赤を前に呆然としていた皓夜もはっと我に返り、アダムに駆け寄る

 アダムは倒れ込んだまま、ぴくりとも動かない
 つ、と口元からも、血が流れ落ち始めていた

「アダ、ム。アダム、ねぇ」

 手を伸ばして、皓夜は躊躇した
 自分の力では、アダムに触れたら余計にひどい事になってしまうのではないか
 このまま、助からなくなってしまうのではないか
 思考が混乱し、皓夜はそのまま硬直してしまった
 一方アナベルは、ぺちぺち、とアダムの頬を叩いて起こそうとしている
 そうして叩かれても、アダムはやはり、反応がない
 赤が広がるだけで、目を覚まさない

 こういう時、九十九屋が居たならばもっと冷静に対応したのだろう
 だが、彼は今、この場にいない
 アダムが、「今夜やるべき事」の為に休ませるべきだ、と判断して、先に帰してしまったから
 皓夜やアナベルが戸惑ったりパニックになるような不慮の事態が起きた場合は、アダムが対応するつもりだったのだろう
 ……しかし、その肝心のアダムが、この状態なのだ
 皓夜もアナベルも、冷静な判断を下す、と言うことが出来ない

 ばたばたと近づいてくる足音が聞こえ、とっさにそちらに警戒の視線を向けると、近づいてきていたのは「後から合流するね」と言っていた唯で

「ちょっと!?ねぇ、何があった訳!?敵はどこ!?」

 彼女もまた、血を流して倒れているアダムの姿にパニックに陥っているようだった
 「狐」の配下に加わって以降、彼女とて皓夜が人を食らっている姿を何度か見たことがある。人が死にゆく瞬間を見てきたことがある
 ……だが、それらはあくまでも「自分には何の関わりもない連中の死」でしかなかった
 己にとって身近な人間が死にゆく所など、見たことがなかったのだ
 まだ女子高生でしかない、都市伝説と契約しているとはいえ、仲間の死が身近であった事などない彼女が冷静でいられるはずがなかった

「あ、っち。むこう。にげて、った」

 獲物となるはずだった奴らが逃げていった方向を指すので、皓夜は精一杯だった
 てんてんと血の跡が残っている。追うことは難しくないだろう

 それでも、皓夜は逃げた連中の後を追う気になれなかったのだ
 そんな事よりも、アダムのことが心配でならなかったから

「わかった、あっちね!」

 皓夜の指した先を見て、唯が能力を発動する
 唯の背後に、軍勢が現れる
 おぼろげに揺れる、鎧武者の群れが
 「夜、学校の校庭に落ち武者の軍勢が現れて合戦を行う」。それが彼女、唯川唯の契約都市伝説である
 その能力は、己が戦う力を得る以外に、こうして落ち武者の軍勢を呼び出し、操ること

「行って!」

 唯が指示を飛ばすと、落ち武者逹は不気味なうめき声を上げながら血の跡を追っていった
 彼女自体はアダムに駆け寄り………彼のその状態を見て、さぁ、と顔を青ざめさせていた

 アダムの顔から、血の気がどんどんと失せていっていた
 呼吸も、どんどんとか細くなっていっている

 死んでいこうとしている
 それに気づき、しかし、皓夜には何も出来ない
 彼女は、殺すことと食らう事しかできないのだから

 アナベルも、何もできない
 彼女は救う人形ではなく、呪い、そして殺す人形だから

 唯も、何も出来ない
 彼女は軍勢を呼び、軍勢と共に戦う力しかないのだから

 自分逹と同じように、皓夜にとって「おかあさん」のような彼女に従う者の中で、この状況をどうにかできる者など、誰一人いなかったのだ
 ファザー・タイムなら、もしかしたらどうにか出来たかもしれないが………きっと、彼はどうにもしてくれなかっただろう。あの死神は慈悲深くもあるが、「それが正しく死ぬ時」であるならば、それを正しく執行させようとするのだから

 誰も、死にゆくアダムを救うことが出来ない
 ……死にゆくところを、見ている事しか、できない

「か、ふ………」
「……!」

 かぱっ、と
 大量に赤を吐き出しながら、アダムの体が小さく、動いた
 瞼が押し上げられ、そして……皓夜を、じっと、見た



 ほんの一瞬、夢を見ていたのだと思う
 まだ、自分が「家庭」と言う中にいた頃の記憶
 あぁ、そうだ。あの狐についていってから、こっそりと行っていた仕送りができなくなっていた
 あの子は、きちんと生活できているだろうか?
 あの子を連れて行った彼女はしっかりとしていたし、あの子の事も愛してくれていたから、大丈夫だと信じたいが

「……や、こ、うや」

 夢に浸ったまま死んだほうが楽だったかもしれない
 かけられていた能力の効果が途切れた今、そちらに浸ったままの方がきっと楽だった

 それでも、そのまま終わる気にはなれなかった
 あの子に似ていない、けれどどこか似ている存在が、飢えによって死に近づいている事実は、記憶から消えないのだから

「っ、アダム、しゃべった、ら……血が……」

 あの子が、皓夜が狼狽えている
 アナベルと唯もそうだ。あぁ、唯はここに駆けつけてしまったのか、悪いものを見せてしまった

 声は、ほとんど出ない
 心臓が止まりかけている、と言うより、もうほぼ止まっているだろう
 それでも、やらなければならない
 ろくでなしの自分が、最期にできることがある

「……っ皓夜、俺を、食え……!」
「…………え?」

 皓夜逹があっけにとられた表情になるが、構わず喋る
 時間がないのだ

「俺を、食えば………もう少し、体が持つ、だろ………っあまり、うまい肉じゃあないだろうが」
「……!や、アダム、ゃ、だ」

 ふるふると、震えるように皓夜が首を左右に振った
 嫌だ、と
 食べたくない、と

「アダム、何言ってるの!それより、なんとか治療、しないと…」
「間にあわ、ない……死んでからじゃあ、あまり栄養にならないん、だろ。だから、今のうちに、早く、食べろ」

 アナベルの言葉を遮り、まっすぐに皓夜を見つめて告げる
 視界が完全にぼやけてきた
 皓夜がどんな表情をしているのか、もう、見えない

「食べろ、皓夜。生きろ。生きて………もうちょっと生きて、お前のやりたいように、やれ」

 ……もう、聞こえない
 何か言ってきているのかもしれないのだが、聞こえない
 暗い、くらい中へとそのまま、吸い込まれていくような

 その感覚を打ち切るように、ぶつんっ、と
 何もかもが赤く染まり上がって

 あぁ、最期に、「子供」の為に役に立てたか、と
 そう、安堵して、眠った


                                      to be … ?

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