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煙草を握りつぶしたりして先程まで騒いでいたのが信じられないくらい静かな、それでいて複雑な表情で沈黙した携帯電話を見つめているマドカ。
いきなり対面、とまではいかなかったが互いに対話の意思が明確になった。未だ隔意は抱いているようだが、まあ少しは関係も良い方向に傾いたという所だろうか。
Tさんはそんな彼女を見て思う。
さて、と一息し、マドカへと声をかけた。
「今貴女は一家が離散していて家なしの状態だったな?」
「それがどうしたんだい?」
携帯をTさんへと返したマドカはTさんたちが最初に会った時と同じ、少し豪快さを感じさせる笑みを浮かべた。
「今夜泊まる場所はあるのか?」
そう言ってTさんは頭上を示す。
既に陽は翳り、街灯が灯り始めていた。この時期、まだ夜は冷える。
「今日の宿泊場所は、まあ決めてないけど……」
どうにかならぁね。と言うマドカに舞が言う。
「なら今夜くらいウチに泊まってけよ」
「そうするの!」
続くように同意を示したリカちゃん。Tさんも頷いて「そうすると良い」と言う。マドカは数瞬迷うような表情を見せたが、
「そうだね、そろそろ懐が苦しくてねぇ、世話になろうかな」
困ったような笑みで答えた。
いきなり対面、とまではいかなかったが互いに対話の意思が明確になった。未だ隔意は抱いているようだが、まあ少しは関係も良い方向に傾いたという所だろうか。
Tさんはそんな彼女を見て思う。
さて、と一息し、マドカへと声をかけた。
「今貴女は一家が離散していて家なしの状態だったな?」
「それがどうしたんだい?」
携帯をTさんへと返したマドカはTさんたちが最初に会った時と同じ、少し豪快さを感じさせる笑みを浮かべた。
「今夜泊まる場所はあるのか?」
そう言ってTさんは頭上を示す。
既に陽は翳り、街灯が灯り始めていた。この時期、まだ夜は冷える。
「今日の宿泊場所は、まあ決めてないけど……」
どうにかならぁね。と言うマドカに舞が言う。
「なら今夜くらいウチに泊まってけよ」
「そうするの!」
続くように同意を示したリカちゃん。Tさんも頷いて「そうすると良い」と言う。マドカは数瞬迷うような表情を見せたが、
「そうだね、そろそろ懐が苦しくてねぇ、世話になろうかな」
困ったような笑みで答えた。
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舞たちが住んでいる集合住宅、その居間でマドカは万年コタツに足を突っ込み、リカちゃんをコタツ机の上に乗せて、特にすることもなくテレビを見ていた。
「なあ、姐ちゃんはそんなにチャラい兄ちゃんのじいちゃんばあちゃんが嫌いなのか?」
キッチンで夕餉の準備をしている舞が好奇心に惹かれたと言った体でマドカに話しかけた。
「糞爺も鬼婆も旧家の体裁が大事な奴らだったんだよ。やれ見合いだやれ次期戸主だとか縛られ続けてみなさいな、嫌気が差すよ」
リカちゃんを手で弄くりながら答えるマドカ。
「体裁かあ……」
調味料を適当に振り入れながら舞は苦笑した。
この調味料の入れ方は「こんな適当かつ大雑把な入れ方をしているから味付けが濃くなり嗜好もそちらに傾くのだ」とTさんに何度か注意されている。舞本人にもそれなりの自覚はあるが、だからといって無理に直そうとは思わない。理由は「俺の性に合わねえから」だ。マドカはそのような性に合わない無理な矯正を何度も、しかもかなり強引に受けたのだろう。
そいつはしんどいよなあ。性格に合わないこたぁやっぱやりたくねえしな。
意に沿わぬ事を無理にやらせられ続ければグレるのも当然だ。少なくとも舞などはそう思う。
「うちの親はそこら辺自由っちゃあ自由だからなー」
舞も高校生の一人暮らしで部屋に男を連れ込んでいるクチだ。
実家の方には適当に言ってあるし、基本的に舞の自由にさせてくれる親である。
旧家の体裁とかは良く分からない。だけど翼の親として振る舞う態度は間違っていたというのはよく分かる。でも反省してるんだしチャラい兄ちゃんもとりあえず話をしてみようぜ。それが舞の結論で、感想だった。
そうこうしている内に料理が完成した。
「なあ、姐ちゃんはそんなにチャラい兄ちゃんのじいちゃんばあちゃんが嫌いなのか?」
キッチンで夕餉の準備をしている舞が好奇心に惹かれたと言った体でマドカに話しかけた。
「糞爺も鬼婆も旧家の体裁が大事な奴らだったんだよ。やれ見合いだやれ次期戸主だとか縛られ続けてみなさいな、嫌気が差すよ」
リカちゃんを手で弄くりながら答えるマドカ。
「体裁かあ……」
調味料を適当に振り入れながら舞は苦笑した。
この調味料の入れ方は「こんな適当かつ大雑把な入れ方をしているから味付けが濃くなり嗜好もそちらに傾くのだ」とTさんに何度か注意されている。舞本人にもそれなりの自覚はあるが、だからといって無理に直そうとは思わない。理由は「俺の性に合わねえから」だ。マドカはそのような性に合わない無理な矯正を何度も、しかもかなり強引に受けたのだろう。
そいつはしんどいよなあ。性格に合わないこたぁやっぱやりたくねえしな。
意に沿わぬ事を無理にやらせられ続ければグレるのも当然だ。少なくとも舞などはそう思う。
「うちの親はそこら辺自由っちゃあ自由だからなー」
舞も高校生の一人暮らしで部屋に男を連れ込んでいるクチだ。
実家の方には適当に言ってあるし、基本的に舞の自由にさせてくれる親である。
旧家の体裁とかは良く分からない。だけど翼の親として振る舞う態度は間違っていたというのはよく分かる。でも反省してるんだしチャラい兄ちゃんもとりあえず話をしてみようぜ。それが舞の結論で、感想だった。
そうこうしている内に料理が完成した。
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配膳作業をTさんに任せて舞は調理器具の片付けをする。食卓に着き、食事が開始されるとTさんがマドカへと言った。「朝比奈マドカ、貴女が青年に会いたいと言うのなら日景の当主に会わないわけにはいかないだろうな」
それは電話口で黒服が提示した条件である。彼は未だ彼女の事を嫌っているようだ。
彼の冷たい声を思い出したのか、舞がいや参った参ったと苦笑する。
「黒服さん、あの電話での声音からしてもう怖いのなんのって」
「くろいふくのおじさん、おこってたの?」
「ありゃ雰囲気的に警戒してたとかそんな感じだったんじゃねえかな」
Tさんは舞の言葉に「そうだろうな」と頷く。
「黒服さんや青年にとっての貴女は、貴女にとっての日景の当主と同じようなものだろう」
会いたくはない存在だと、つまりはそういうことだ。それでももし青年に会おうと言うのなら、
「いくら会いたくなくとも、それくらいの条件は飲むしかないだろうな」
「分かってるさね」
不承不承と言った感じでマドカ。それよりも、とTさん、舞、リカちゃんを見て彼女は訊ねる。
「バカ亭主が起こしてる騒ぎのこと、もっと詳しく教えてくれないかい?」
「ああ、確かにそりゃ知っておいた方がいいぜ。――なあ?」と舞がTさんへと顔を向ける。
朝比奈秀雄のことは電話中に軽く話した程度だ。朝比奈マドカは都市伝説の事についても知っているようだし、無関係な問題でもない。教えておいた方がいいだろう。
Tさんは舞へと頷き、自分たちが見てきた今回の騒動についてマドカに話す。
この町で≪コーク・ロア≫および≪悪魔の囁き≫が大量に発生している事。朝比奈秀雄がそれらを操っているであろう事。彼には他にも都市伝説契約者の取り巻きがいるらしいこと。その目的がおそらく翼を利用した権力の奪取にあることを改めて説明し、今回の件のあらましを伝えた。
全てを聞いたマドカは「あーなるほどね」と呟く。
「それでさっき≪ユニコーン≫が走ってった後、私が狙われていたのなら≪悪魔の囁き≫の件が濃厚とか言ってたのね」
「ああ、まあ確証は無いのだがな」
「いろいろと教えてもらって悪いね」
「構わんさ。あの青年にも世話になったしな」
「ああ、本当にな……」
Tさんの言葉に少し遠い目で舞が深く頷く。
十中八九写真に収めた数々の思い出が頭の中を駆けまわっているだろうな。
Tさんが思っていると、マドカが興味を惹かれたような顔になる。
「ねえ、あんたたちから見た翼のこと、教えてくれるかい?」
マドカが息子の翼の事を知りたいと思うのも道理だろう。それに話すだけならロハだ。そう思い、Tさんは「いいだろう」と答える。
≪首塚≫の事などは伏せた方がいいだろうな……。
頭の中でどの話をするか取捨選択していると、突然舞が勢いよく立ちあがった。
「任せとけ!」
そのまま自室へと駆けて行く舞。
「あの子、どうしたんだい?」
勢いよく駆けて行った舞を呆然と見送ったマドカにTさんは苦笑気味に言う。
「さて、どうしたのだろうな?」
写真を取りに行ったであろうことは明らかだ。
さて、この人にあれを見せたものか。Tさんは割と真剣に悩みながら少し味付けの濃い料理を口に入れた。
それは電話口で黒服が提示した条件である。彼は未だ彼女の事を嫌っているようだ。
彼の冷たい声を思い出したのか、舞がいや参った参ったと苦笑する。
「黒服さん、あの電話での声音からしてもう怖いのなんのって」
「くろいふくのおじさん、おこってたの?」
「ありゃ雰囲気的に警戒してたとかそんな感じだったんじゃねえかな」
Tさんは舞の言葉に「そうだろうな」と頷く。
「黒服さんや青年にとっての貴女は、貴女にとっての日景の当主と同じようなものだろう」
会いたくはない存在だと、つまりはそういうことだ。それでももし青年に会おうと言うのなら、
「いくら会いたくなくとも、それくらいの条件は飲むしかないだろうな」
「分かってるさね」
不承不承と言った感じでマドカ。それよりも、とTさん、舞、リカちゃんを見て彼女は訊ねる。
「バカ亭主が起こしてる騒ぎのこと、もっと詳しく教えてくれないかい?」
「ああ、確かにそりゃ知っておいた方がいいぜ。――なあ?」と舞がTさんへと顔を向ける。
朝比奈秀雄のことは電話中に軽く話した程度だ。朝比奈マドカは都市伝説の事についても知っているようだし、無関係な問題でもない。教えておいた方がいいだろう。
Tさんは舞へと頷き、自分たちが見てきた今回の騒動についてマドカに話す。
この町で≪コーク・ロア≫および≪悪魔の囁き≫が大量に発生している事。朝比奈秀雄がそれらを操っているであろう事。彼には他にも都市伝説契約者の取り巻きがいるらしいこと。その目的がおそらく翼を利用した権力の奪取にあることを改めて説明し、今回の件のあらましを伝えた。
全てを聞いたマドカは「あーなるほどね」と呟く。
「それでさっき≪ユニコーン≫が走ってった後、私が狙われていたのなら≪悪魔の囁き≫の件が濃厚とか言ってたのね」
「ああ、まあ確証は無いのだがな」
「いろいろと教えてもらって悪いね」
「構わんさ。あの青年にも世話になったしな」
「ああ、本当にな……」
Tさんの言葉に少し遠い目で舞が深く頷く。
十中八九写真に収めた数々の思い出が頭の中を駆けまわっているだろうな。
Tさんが思っていると、マドカが興味を惹かれたような顔になる。
「ねえ、あんたたちから見た翼のこと、教えてくれるかい?」
マドカが息子の翼の事を知りたいと思うのも道理だろう。それに話すだけならロハだ。そう思い、Tさんは「いいだろう」と答える。
≪首塚≫の事などは伏せた方がいいだろうな……。
頭の中でどの話をするか取捨選択していると、突然舞が勢いよく立ちあがった。
「任せとけ!」
そのまま自室へと駆けて行く舞。
「あの子、どうしたんだい?」
勢いよく駆けて行った舞を呆然と見送ったマドカにTさんは苦笑気味に言う。
「さて、どうしたのだろうな?」
写真を取りに行ったであろうことは明らかだ。
さて、この人にあれを見せたものか。Tさんは割と真剣に悩みながら少し味付けの濃い料理を口に入れた。