業火 03
学校町、北区に面したとある山中。
しばしば小さな事件が起きこそするが、基本的にそこはのどかな場所である。
夏には子供が駆け巡り、秋には紅葉で彩られ、冬には正月の参拝客で賑わい、春にはまた様々な生命が生まれる。
そんな穏やかに時が過ぎるはずの一角が、今。
爆煙と炎の支配する地獄へと変化していた。
しばしば小さな事件が起きこそするが、基本的にそこはのどかな場所である。
夏には子供が駆け巡り、秋には紅葉で彩られ、冬には正月の参拝客で賑わい、春にはまた様々な生命が生まれる。
そんな穏やかに時が過ぎるはずの一角が、今。
爆煙と炎の支配する地獄へと変化していた。
「オレサマに楯つこうなんて百年はえーなぁ、坊主っ!」
橙色の影が一つ、燃え盛る木々の間を縫うように移動していた。
でっかちな頭に、輝くマント。
時折その顔から火が放たれては、周囲の木々を、そしてそこに隠れる人間を燃やし尽くそうとしていた。
でっかちな頭に、輝くマント。
時折その顔から火が放たれては、周囲の木々を、そしてそこに隠れる人間を燃やし尽くそうとしていた。
「おらおらおらっ! 逃げてばっかじゃつまんねーだろうがよぉ!」
ケタケタと愉快そうに笑うその顔は、巨大なかぼちゃ。
彼の名は「ジャック・ランタン」。最近では「ジャックオーランタン」などと呼ばれる事の方が多いかもしれない。
北欧に伝わる霊の一種である。
彼の名は「ジャック・ランタン」。最近では「ジャックオーランタン」などと呼ばれる事の方が多いかもしれない。
北欧に伝わる霊の一種である。
「隠れてねーで出てこよーぜぇ?」
宙を滑るように走っては、木々を燃やしていく。
冬の乾燥した気候も手伝って、その火は瞬く間に山中へと広がっていた。
大火災とも呼べる大きな山火事。
しかし、その場には誰も、消火活動に当たる人間さえいない。
「ジャック・ランタン」の力は魔除けであり、悪霊払い。
彼は自身の周囲何百メートルにも渡って巨大な「結界」を貼り、この「戦い」に邪魔が入らないようにしていた。
冬の乾燥した気候も手伝って、その火は瞬く間に山中へと広がっていた。
大火災とも呼べる大きな山火事。
しかし、その場には誰も、消火活動に当たる人間さえいない。
「ジャック・ランタン」の力は魔除けであり、悪霊払い。
彼は自身の周囲何百メートルにも渡って巨大な「結界」を貼り、この「戦い」に邪魔が入らないようにしていた。
「逃げてもだーれも助けに来ないんだぜぇ? いい加減諦めて戦ってくれよ、なー?」
半ばつまらなそうに、しかし火の手を緩める事はなく、ジャック・ランタンはその先を走る人間の後を追った。
彼には木々の間を走る人間が――――意味も分からず己に襲いかかってきた人間の姿が見えていた。
ジャック・ランタンには目がない。
正確にいえば顔についてはいるのだろうが、それは本来の目的を果たさず、ただ身体の内にある炎を排出する一種の気孔となっていた。
だから、彼は視るのではなくその存在自体をただ「感じる」
いかに逃げようと、どんなに足掻こうと、彼から逃れることはできないし、結局「死ぬ」という運命が変わることはない。
彼には木々の間を走る人間が――――意味も分からず己に襲いかかってきた人間の姿が見えていた。
ジャック・ランタンには目がない。
正確にいえば顔についてはいるのだろうが、それは本来の目的を果たさず、ただ身体の内にある炎を排出する一種の気孔となっていた。
だから、彼は視るのではなくその存在自体をただ「感じる」
いかに逃げようと、どんなに足掻こうと、彼から逃れることはできないし、結局「死ぬ」という運命が変わることはない。
――――しかし、だ。
存在を感じるだけの彼は、それ故に気づけなかった。
目の前の標的が、ただ逃げているわけではない事に。
それどころか、彼自身が標的に試され、測られているという、その事実に。
存在を感じるだけの彼は、それ故に気づけなかった。
目の前の標的が、ただ逃げているわけではない事に。
それどころか、彼自身が標的に試され、測られているという、その事実に。
「…………んー?」
ジャック・ランタンは、感じた。
標的が走るのを止め、こちらに向き直っている。
間に数本の木こそあるが、それは別段奇襲や隠遁を狙っているわけではないらしい。
標的が走るのを止め、こちらに向き直っている。
間に数本の木こそあるが、それは別段奇襲や隠遁を狙っているわけではないらしい。
「ほっほーっ! やっとやる気になったわけか。いいねぇ、坊主。燃えるじゃないか」
轟々と内部の炎が湧き上がり、幾筋かの炎が顔から漏れ出す。
その輝くマントの前にはいつの間にか、大きな鎌が一振り現れていた。
まるで何か透明な腕にでも支えられているかのように、宙に浮く鎌。
彼の本質ではない、派生の話から生まれた力の一つである。
その輝くマントの前にはいつの間にか、大きな鎌が一振り現れていた。
まるで何か透明な腕にでも支えられているかのように、宙に浮く鎌。
彼の本質ではない、派生の話から生まれた力の一つである。
「さーて、始めようじゃーないか。今更逃げないでくれよぉ?」
意味もなく鎌を一回転させ、ジャック・ランタンはケタケタと笑う。
彼は、まだ自身の力を全て使ってはいなかった。
……たとえば、そう。こんな事ができる。
白く輝くマント。それが風がないのにも関わらずなびいた。
そしてマントが大きく翻り、彼自信を包んだと思われた、その時。
彼は、まだ自身の力を全て使ってはいなかった。
……たとえば、そう。こんな事ができる。
白く輝くマント。それが風がないのにも関わらずなびいた。
そしてマントが大きく翻り、彼自信を包んだと思われた、その時。
――――ジャック・ランタンは一瞬で、標的の前へと移動していた。
「……へー、おもしれぇことできんだなぁ、かぼちゃ」
周囲の木も大方焼かれ、少し大きく開けたその場所で。
今日初めて、ジャック・ランタンはまともに「標的」と対峙していた。
最初の一瞬以外、遠くて「感じる」事のできなかったその姿も、今や手に取るように分かる。
身長180近い、長身の少年。
それが、くっくっと笑いながら、彼を見据えていた。
今日初めて、ジャック・ランタンはまともに「標的」と対峙していた。
最初の一瞬以外、遠くて「感じる」事のできなかったその姿も、今や手に取るように分かる。
身長180近い、長身の少年。
それが、くっくっと笑いながら、彼を見据えていた。
「あーりゃ、これくらいじゃ驚いてくれないわけか。つまんねーなぁ、最近の子供は」
自分のある種「とっておき」の一つを披露して、驚きの一つも見せてくれない少年に、ジャック・ランタンは少しの落胆を覚えた。
ついでに言えば、少年がちっとも恐怖におびえていない事にも。
しかし彼は、それをそんなに気にしてはいなかった。
驚いていないのなら、これから驚かせばいい。
怖がっていないのなら、これから怖がらせればいい。
そう、彼は思っている。
ついでに言えば、少年がちっとも恐怖におびえていない事にも。
しかし彼は、それをそんなに気にしてはいなかった。
驚いていないのなら、これから驚かせばいい。
怖がっていないのなら、これから怖がらせればいい。
そう、彼は思っている。
「なーら、これからたっぷり驚かせてやらなきゃなぁ?」
思った事をそのまま言葉に置き換えて
彼は再びケタケタと笑った。
彼は再びケタケタと笑った。
「………………」
対する少年は、無言。
何かを値踏みするように、彼を見ているだけだった。
それに、少しだけ苛立ちを覚えて
何かを値踏みするように、彼を見ているだけだった。
それに、少しだけ苛立ちを覚えて
「ちったぁ事前の会話を楽しむもんだぜ、坊主」
ジャック・ランタンは少年へと襲いかかった。
鎌による、一閃。
時間にして僅か一秒にも満たないその斬撃は、しかし少年の身体にかする事も無い。
軽いバックステップ。必要最低限の運動のみで、少年はそれをかわしていた。
しかし、それで取れる距離はせいぜい数メートル。
ジャック・ランタンの口から出る炎にとって、十分射程圏内である。
鎌による、一閃。
時間にして僅か一秒にも満たないその斬撃は、しかし少年の身体にかする事も無い。
軽いバックステップ。必要最低限の運動のみで、少年はそれをかわしていた。
しかし、それで取れる距離はせいぜい数メートル。
ジャック・ランタンの口から出る炎にとって、十分射程圏内である。
「らぁっ!」
言葉と共に、口から発せられる炎。
溜め込んでいたそれは、鎌とは比べ物にならない速度で、少年を襲った。
人間ならば、ひとたまりもないような灼熱の炎。
それが少年のいた辺りを喰らい、焼き、灰へと変えていく。
溜め込んでいたそれは、鎌とは比べ物にならない速度で、少年を襲った。
人間ならば、ひとたまりもないような灼熱の炎。
それが少年のいた辺りを喰らい、焼き、灰へと変えていく。
……しかし、その最中で。
ジャック・ランタンは少年の存在が全く消えていない事を、感じ取っていた。
むしろ、先ほどよりも増したような気がする存在感。
彼の炎の中、少年の周囲へと何かが展開されていた。
それは何かバリヤや結界の類ではなく、むしろ――――
ジャック・ランタンは少年の存在が全く消えていない事を、感じ取っていた。
むしろ、先ほどよりも増したような気がする存在感。
彼の炎の中、少年の周囲へと何かが展開されていた。
それは何かバリヤや結界の類ではなく、むしろ――――
「……なーる。どーりでこの山火事ん中で汗一つかいてねーわけだ」
唐突に、炎が周囲へと駆逐される。
もっと巨大な何かに押されるように、一瞬で。
その中心には、先ほどの少年が、先ほどのままの姿勢で立っていた。
……その全身に、ジャック・ランタンの物とは違う色の「炎」を纏って。
もっと巨大な何かに押されるように、一瞬で。
その中心には、先ほどの少年が、先ほどのままの姿勢で立っていた。
……その全身に、ジャック・ランタンの物とは違う色の「炎」を纏って。
「坊主も俺と同じっつーわけだ」
ケタケタと。
ジャック・ランタンは笑い、しかし一方で少しの焦りも感じていた。
少年の纏う炎は、己のそれとは明らかに違う。
他の炎を喰らい、そのまま退ける炎など、彼は知らない。
こんなにも強大で、圧倒的な威力を誇るものになど、彼は今まで一度たりとも対峙した事がなかった。
ジャック・ランタンは笑い、しかし一方で少しの焦りも感じていた。
少年の纏う炎は、己のそれとは明らかに違う。
他の炎を喰らい、そのまま退ける炎など、彼は知らない。
こんなにも強大で、圧倒的な威力を誇るものになど、彼は今まで一度たりとも対峙した事がなかった。
しかし、ジャック・ランタンはひるまない。
むしろ同じ炎使いである事で、彼はより大きなアドバンテージを得ていた。
むしろ同じ炎使いである事で、彼はより大きなアドバンテージを得ていた。
(……さて、どーすっかなぁ)
ぎゅっ、と。
手の形を取らない手で鎌を握り締める。
この戦の勝敗を分ける、その鎌を。
手の形を取らない手で鎌を握り締める。
この戦の勝敗を分ける、その鎌を。
宙に浮かび、策を巡らせるジャック・ランタン。
それを見て、対する少年はつまらなそうな、どこかがっかりしたような表情を浮かべた。
それを見て、対する少年はつまらなそうな、どこかがっかりしたような表情を浮かべた。
「…………これだけなのか? つまんねぇな」
「いーや? このオレサマがこれだけで終わりなわきゃねーだろうが」
「いーや? このオレサマがこれだけで終わりなわきゃねーだろうが」
そう答えるジャック・ランタンの顔は、笑顔。
顔であるかぼちゃをいびつに歪ませて、彼は笑っていた。
顔であるかぼちゃをいびつに歪ませて、彼は笑っていた。
「んじゃ、始めよーぜ。坊主」
その言葉が終わるかどうか。
そんな一瞬で、ジャック・ランタンの姿は少年の前から消えていた。
幾つかの炎の欠片を残して消えたそれは、何も透明になったわけではない。
――彼の本質は、炎。
己の放ったそれは、全てが彼であり、また攻撃の一手にもなる。
つまり、だ。
そんな一瞬で、ジャック・ランタンの姿は少年の前から消えていた。
幾つかの炎の欠片を残して消えたそれは、何も透明になったわけではない。
――彼の本質は、炎。
己の放ったそれは、全てが彼であり、また攻撃の一手にもなる。
つまり、だ。
「さーて、この一撃はかわせるのかなー?」
少年のの背後の炎が、ジャック・ランタンを形作る。
大きなかぼちゃに、輝くマント。
それはすぐに、実体として現れた。
――彼の本質は、炎。
彼が放ち、そして広がった炎全てが彼であり、彼はそのどこにでも現れる事が出来る。
現れ、鎌を持った彼は、先ほどよりも幾分早い速度で少年に襲いかかった。
距離はほぼ零。
鎌をかわせる時間など、ない。
大きなかぼちゃに、輝くマント。
それはすぐに、実体として現れた。
――彼の本質は、炎。
彼が放ち、そして広がった炎全てが彼であり、彼はそのどこにでも現れる事が出来る。
現れ、鎌を持った彼は、先ほどよりも幾分早い速度で少年に襲いかかった。
距離はほぼ零。
鎌をかわせる時間など、ない。
――――しかし
「炎藝――牆壁(しょうへき)――」
少年が何か一言呟いた、その瞬間。
少年の四方を覆うように、四枚の壁が出現した。
その材質は、先ほど少年が身に纏っていたのと同じ、強大な炎。
……しかし、その近くにいるだけで身を焦がされそうな炎の壁を前にして。
少年の四方を覆うように、四枚の壁が出現した。
その材質は、先ほど少年が身に纏っていたのと同じ、強大な炎。
……しかし、その近くにいるだけで身を焦がされそうな炎の壁を前にして。
(――――かかった!)
ジャック・ランタンは密かにほほ笑んだ。
彼の持っている鎌は、特別製。
通常の鉄製の鎌とは、その性質が異なっている。
炎を操る彼の鎌は、炎で融ける事はない
彼の鎌には、炎の盾など何の意味も持たないのだ。
彼の持っている鎌は、特別製。
通常の鉄製の鎌とは、その性質が異なっている。
炎を操る彼の鎌は、炎で融ける事はない
彼の鎌には、炎の盾など何の意味も持たないのだ。
「楽しかったぜー? 坊主」
何の迷いも無く、ジャック。ランタンは鎌を振る。
その戦いを、終わらせようと。
少年の命を、終わらせようと。
……しかし、それは結果として叶わなかった。
その戦いを、終わらせようと。
少年の命を、終わらせようと。
……しかし、それは結果として叶わなかった。
ガギン、という、鉄と鉄とが触れ合ったような音。
ジャック・ランタンの振った鎌は炎の壁に弾かれていた。
まるで、そこに本当に壁が存在するかのように。
ジャック・ランタンの振った鎌は炎の壁に弾かれていた。
まるで、そこに本当に壁が存在するかのように。
「なっ…………」
その結果に、ジャック・ランタンは絶句する。
そんなはずはない、と彼は「知っている」。
炎とは、一般にはエネルギーそのものである。
だから、そこに重さなどは基本的に存在しない。
ましてや、彼の放った鎌を弾くほどの質量など、存在するはずがない。
決して、あってはならない事象。
それが起こった事に、彼はうろたえ
そんなはずはない、と彼は「知っている」。
炎とは、一般にはエネルギーそのものである。
だから、そこに重さなどは基本的に存在しない。
ましてや、彼の放った鎌を弾くほどの質量など、存在するはずがない。
決して、あってはならない事象。
それが起こった事に、彼はうろたえ
「くっく……驚いたのはそっちじゃねぇか」
少年の声を、聞いた。
炎の壁で囲まれたその、中心で。
少年はさもおかしそうに、くつくつと笑っていた。
炎の壁で囲まれたその、中心で。
少年はさもおかしそうに、くつくつと笑っていた。
「『厨二病』ってのは便利だよなぁ、かぼちゃ」
炎の中、小さく呟いた少年の言葉は、しかし混乱したジャック・ランタンには届かない。
――――何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
今、ジャック・ランタンの思考を支配しているのはただその三文字だけだった。
炎を切る鎌という、決して揺らぐはずの無い存在。
その確信が壊された事に、彼は自分でも驚くほど混乱していた。
己の炎を駆逐し、あまつさえ絶対的な力を持つ鎌を退けた少年。
端的にいえば、ジャック・ランタンは彼を恐れていたのだ。
己の常識が通用しない、この少年を。
――――何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
今、ジャック・ランタンの思考を支配しているのはただその三文字だけだった。
炎を切る鎌という、決して揺らぐはずの無い存在。
その確信が壊された事に、彼は自分でも驚くほど混乱していた。
己の炎を駆逐し、あまつさえ絶対的な力を持つ鎌を退けた少年。
端的にいえば、ジャック・ランタンは彼を恐れていたのだ。
己の常識が通用しない、この少年を。
「だがっ、オレサマは負けねーぞ。負けるわけがねぇ」
しかし、ジャック・ランタンは虚勢を張った。
自分が負けることなどありはしない、と。
――彼の本質は、炎。
彼には特定の個体というものがない。
すなわち今この山に広がる炎全てが彼であり、その全てが彼を形成する核でもあるのだ。
だから、彼を殺すには、その全ての炎を駆逐し、消さなければならない。
自分が負けることなどありはしない、と。
――彼の本質は、炎。
彼には特定の個体というものがない。
すなわち今この山に広がる炎全てが彼であり、その全てが彼を形成する核でもあるのだ。
だから、彼を殺すには、その全ての炎を駆逐し、消さなければならない。
(……んな事、出来るわけがねぇ)
故に、ジャック・ランタンは少年と対峙する。
決して負けないと知っているからこそ、少年と対峙する。
決して負けないと知っているからこそ、少年と対峙する。
(そーだ、俺が負けるはずねーじゃねぇか。負けるはずが――――)
ジャック・ランタンは自信をそう鼓舞しようとして
(――――あん?)
「それ」を、感じてしまった。
それは、「視る」のではなく「感じる」彼だからこそ知りえた事。
少年の真後ろに、影が一対。
ちょうど守護霊のように、「それ」浮遊していた。
ジャック・ランタンはその時初めて「それ」を見て……しかし何故か、瞬時にそれが何かを理解していた。
それは、「視る」のではなく「感じる」彼だからこそ知りえた事。
少年の真後ろに、影が一対。
ちょうど守護霊のように、「それ」浮遊していた。
ジャック・ランタンはその時初めて「それ」を見て……しかし何故か、瞬時にそれが何かを理解していた。
「てめぇは全部燃やさねぇと死なねぇんだろ? 知ってんだよ、こっちは」
その時、少年がまた何かを呟いたのだが、ジャック・ランタンはそれどころではなかった。
少年の側を浮遊するその影。
この国にやって来る際、ジャック・ランタンは他の霊からその存在について忠告を受けていた。
古来日本に存在していたという、史上最強の火の神について。
少年の側を浮遊するその影。
この国にやって来る際、ジャック・ランタンは他の霊からその存在について忠告を受けていた。
古来日本に存在していたという、史上最強の火の神について。
「炎藝――狂瀾(きょうらん)――」
少年の言葉とともに、巨大な炎の波が彼の足もとから立ち上った。
その高さ、およそ10メートル以上。
全てを呑み尽そうと、それはうねりを上げて方々へ四散していく。
無論、ジャック・ランタンの元へも。
その高さ、およそ10メートル以上。
全てを呑み尽そうと、それはうねりを上げて方々へ四散していく。
無論、ジャック・ランタンの元へも。
(この坊主が契約してんのは、まさか――――)
しかし最後まで、彼はその波を気にする事はなかった。
その波がジャック・ランタンを。そしてその周囲に散らばっていた彼の核が炎に呑まれるまで、ずっと「それ」について考えていた。
その、存在。
彼が呑みこまれる間際まで考えていた、その存在は――――
その波がジャック・ランタンを。そしてその周囲に散らばっていた彼の核が炎に呑まれるまで、ずっと「それ」について考えていた。
その、存在。
彼が呑みこまれる間際まで考えていた、その存在は――――
(――――迦具土神……)
*********************************************
その日、学校町北部に面する山の一部が焦土と化し
少年の持つリストに新たな線がまた一本、刻まれた。
少年の持つリストに新たな線がまた一本、刻まれた。
【終】