三面鏡の少女 36
それは少女の瞳に映る
相手の姿とその瞳
目と目があったその瞬間に
それは互いを映しあい
合わせ鏡が出来上がる
相手の姿とその瞳
目と目があったその瞬間に
それは互いを映しあい
合わせ鏡が出来上がる
「ひ、いっ!?」
男の脳裏に瞬時に流し込まれる死の体験
光の速さで繰り返される無限の死の連鎖
一つの死の体験が精神を蝕むヤスリの一削りなら
それは猛回転するグラインダーのように
男の精神を根こそぎ削り尽くしていった
泡を吹いて倒れる男の隣で、もう一人の男が視線から外れようと大きく跳んだ
「くそっ、くたばれっ!」
何かの能力だろうか
少女の頭があっさりと爆ぜ
鮮血を撒き散らしながら倒れた少女の向こう側に
また同じ少女が立っており
視線を逸らした先にも同じ少女が立っており
「目を合わせなけれ、ばっ!?」
咄嗟に目を伏せた男の脳天に、少女が持っていた金属バットが振り下ろされた
鈍い音がして金属バットと男の頭がひしゃげ
同じ姿をした少女達は倒れた男に群がり
金属バットを
鉄パイプを
角材を
ブロックを
金槌を
倒れた男に向かって次々と振り下ろす
「あはははは」
少女は笑う
それはとても楽しそうに
「あははははははははははは」
少女も嘲笑う
それはとても楽しそうに
笑う
笑う
笑う
笑う
笑う
笑う
さも可笑しそうに
さも楽しそうに
あちらの少女も
こちらの少女も
向こうの少女も
町のあちこちにいる少女達は
誰一人として違う顔をしておらず
まるで合わせ鏡に映したように全員が同じ姿をしていた
「あははははははははははははははははははははははははははははは」
その瞳はまるで鏡のようで
その瞳はただ光を返すのみで
まるで、何も見ていなかった
男の脳裏に瞬時に流し込まれる死の体験
光の速さで繰り返される無限の死の連鎖
一つの死の体験が精神を蝕むヤスリの一削りなら
それは猛回転するグラインダーのように
男の精神を根こそぎ削り尽くしていった
泡を吹いて倒れる男の隣で、もう一人の男が視線から外れようと大きく跳んだ
「くそっ、くたばれっ!」
何かの能力だろうか
少女の頭があっさりと爆ぜ
鮮血を撒き散らしながら倒れた少女の向こう側に
また同じ少女が立っており
視線を逸らした先にも同じ少女が立っており
「目を合わせなけれ、ばっ!?」
咄嗟に目を伏せた男の脳天に、少女が持っていた金属バットが振り下ろされた
鈍い音がして金属バットと男の頭がひしゃげ
同じ姿をした少女達は倒れた男に群がり
金属バットを
鉄パイプを
角材を
ブロックを
金槌を
倒れた男に向かって次々と振り下ろす
「あはははは」
少女は笑う
それはとても楽しそうに
「あははははははははははは」
少女も嘲笑う
それはとても楽しそうに
笑う
笑う
笑う
笑う
笑う
笑う
さも可笑しそうに
さも楽しそうに
あちらの少女も
こちらの少女も
向こうの少女も
町のあちこちにいる少女達は
誰一人として違う顔をしておらず
まるで合わせ鏡に映したように全員が同じ姿をしていた
「あははははははははははははははははははははははははははははは」
その瞳はまるで鏡のようで
その瞳はただ光を返すのみで
まるで、何も見ていなかった
「ねえ」
少女は一人語り出す
「人も物もいつかは必ず死んでしまうから」
少女は鏡に向かって語り出す
「命の価値はみんな平等だから」
出会った時と変わらないあどけない顔で
「だったらいつ死んでも同じだよね?」
鏡からは少女と同じ姿をした少女が次々と飛び出して
部屋を出ようとしたところでぴたりと動きを止める
まるで蜘蛛の巣に掛かった蝶のようにじたばたと蠢いたかと思うと
その身体がばらばらに切り刻まれてどちゃどちゃと床に零れ落ちる
「なのに、なんで」
少女は振り返りもせずに呟く
「なんで、邪魔するの」
血の滴る漆黒の蜘蛛の巣が解きほぐされ、しゅるりと男の頭部に納まっていく
「ねえ、なんで、邪魔するの、Hさん」
振り返りもせず、鏡越しに背後に立つ黒服Hを不思議そうに見詰める三面鏡の少女
「お前をな、守ってやるってな……約束したんだ」
「だったら、邪魔しないで?」
鏡から飛び出した少女の分身が、様々な鈍器や刃物を手にHに襲い掛かるが
それらはあっさりと切り刻まれ、鮮血を撒き散らしながら消滅していく
「お前がそっち側に堕ちるならな」
血塗れの三面鏡がぱたりと閉じる
少女は慌ててそれを開こうとするが、それは絡みついた髪の毛によってがっちりと拘束されていた
「お前が完全に呑まれちまう前に」
少女の首に、するりと黒い筋が浮かぶ
それは巻き付けられた一本の髪の毛
その髪の毛が巻きついた跡は
町中に溢れる少女達全員の首筋に浮かび上がり
「ああ、そっか」
少女は振り返り、出会った頃と変わらない笑顔を浮かべる
「そういえば、そんな死に顔も見たんだっけ」
ぶつり、と音がして
少女がかくりと膝をつき
少女がごとりと畳の上に落ち
少女がどさりとその身を横たえた
溢れる鮮血の中、最後に見せた笑顔を浮かべたまま
町中に溢れた少女達もまた、本体に引き摺られるように首を落とし、消えていく
消えていく
消えていく
消えていく
掬い上げた砂が指の間を零れ落ちていくように
一つの出来事が呆気なく消え
一つの存在が呆気なく消え
思い出の中に笑顔だけが一つ、残された
少女は一人語り出す
「人も物もいつかは必ず死んでしまうから」
少女は鏡に向かって語り出す
「命の価値はみんな平等だから」
出会った時と変わらないあどけない顔で
「だったらいつ死んでも同じだよね?」
鏡からは少女と同じ姿をした少女が次々と飛び出して
部屋を出ようとしたところでぴたりと動きを止める
まるで蜘蛛の巣に掛かった蝶のようにじたばたと蠢いたかと思うと
その身体がばらばらに切り刻まれてどちゃどちゃと床に零れ落ちる
「なのに、なんで」
少女は振り返りもせずに呟く
「なんで、邪魔するの」
血の滴る漆黒の蜘蛛の巣が解きほぐされ、しゅるりと男の頭部に納まっていく
「ねえ、なんで、邪魔するの、Hさん」
振り返りもせず、鏡越しに背後に立つ黒服Hを不思議そうに見詰める三面鏡の少女
「お前をな、守ってやるってな……約束したんだ」
「だったら、邪魔しないで?」
鏡から飛び出した少女の分身が、様々な鈍器や刃物を手にHに襲い掛かるが
それらはあっさりと切り刻まれ、鮮血を撒き散らしながら消滅していく
「お前がそっち側に堕ちるならな」
血塗れの三面鏡がぱたりと閉じる
少女は慌ててそれを開こうとするが、それは絡みついた髪の毛によってがっちりと拘束されていた
「お前が完全に呑まれちまう前に」
少女の首に、するりと黒い筋が浮かぶ
それは巻き付けられた一本の髪の毛
その髪の毛が巻きついた跡は
町中に溢れる少女達全員の首筋に浮かび上がり
「ああ、そっか」
少女は振り返り、出会った頃と変わらない笑顔を浮かべる
「そういえば、そんな死に顔も見たんだっけ」
ぶつり、と音がして
少女がかくりと膝をつき
少女がごとりと畳の上に落ち
少女がどさりとその身を横たえた
溢れる鮮血の中、最後に見せた笑顔を浮かべたまま
町中に溢れた少女達もまた、本体に引き摺られるように首を落とし、消えていく
消えていく
消えていく
消えていく
掬い上げた砂が指の間を零れ落ちていくように
一つの出来事が呆気なく消え
一つの存在が呆気なく消え
思い出の中に笑顔だけが一つ、残された
DEAD END
※
三面鏡の少女が能力を成長したが容量が追いつかなかった場合のお話
視線を合わせた相手は即G・E・レクイエム
そんな能力持ちが数十数百とあちこちから襲い掛かってくる地獄絵図
殺視線を防ぐ偏光サングラスを掛けた黒服による掃討作戦が発動、という感じ
視線を合わせた相手は即G・E・レクイエム
そんな能力持ちが数十数百とあちこちから襲い掛かってくる地獄絵図
殺視線を防ぐ偏光サングラスを掛けた黒服による掃討作戦が発動、という感じ