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連載 - 正義の鉄槌-04

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uranaishi

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正義の鉄槌 日常編 04


 口裂け女。
 最近の形が誕生したのは今から30年以上前、一番昔に遡って200年程前ですが、総体的に見てかなり最近生まれた都市伝説と言ってもいいでしょう。
 花子さんや赤マントに次いで有名な都市伝説。
 しかしその著名さとは裏腹に、この学校町での彼女らの地位、と言うより実力は驚くほど低いと俺は思います。
 世間では恐れられるはずのその存在も、この学校町では単なる力馬鹿としか映らないようです。
 また対処法を世間に知られたのもまた一つの原因なのでしょう。
 そんな、ある種のやられキャラな位置にいる彼女なはずですが――――

「何なんですかね、この強さは……」

 繁華街の中でも廃れた一角。
 人気のない路地裏の少し開けた場所で、俺は彼女と対峙していました。
 既に力を使っているにも関わらずこちらはボロボロ。対して向こうは無傷だと言うのですから、やってられません。

「うふふ……ねぇ、私、きれい?」
「まずっ……」

 今の言葉が、彼女の攻撃開始の合図。
 慌てて俺は、口裂け女から距離を取ります。
 途端、上空に現れる黒い影。
 俺が退くのに一瞬遅れて、「それ」が落ちてきました。

「今度はスポーツカーですか……」

 落下し、派手な音を立てて大破したそれは真っ赤なスポーツカー。
 それが、先程まで俺のいた場所でひしゃげていました。
 もし引くのが一瞬でも遅れていれば、今頃直撃していた事でしょう。
 あの程度で俺の身体が傷つくとは思えません。
 しかし、問題はその一撃と言うよりも――――

「――――ねぇ、私、きれい?」

 ふっと、太陽の光を遮るように俺の背後に現れる黒い影。
 言葉が終わるや否や、彼女は両手に持った凶器を振り下ろしてきました。
 一々振り返っていては対処が出来ません。
 体勢を低くして、身体を横へと移動させる事で右と左から来る刃をかわします。
 標的を逃した凶器は、地面へと吸い込まれ、口裂け女の動きを一瞬止めました。
 本来なら、ここがチャンスなのでしょう。
 しかし俺は、彼女から距離を取るように走りだしました。
 瞬間――――

「私、きれい?」

 口裂け女の周囲が、爆風で包まれました。
 これは別に俺の攻撃ではありません、「口裂け女の」攻撃です。

 ――――口裂け女の派生元として、「原爆少女」と言うものがあるそうです。
 顔が焼け爛れた少女が、「私、綺麗?」と尋ねるお話。
 そこから派生した力なのか、彼女は自分の周囲の空気そのものを爆発させる事が出来るようです。
 しかも自分は傷つかないのですから、ある意味最強の自爆技でしょう。
 正直本当にやってられませんね。

「どうしたものですかね……」

 そんな事を言っている間に、口裂け女が移動を開始しました。
 今の一瞬で取れた俺と彼女の距離は、約10メートル。
 しかし時速120kmを誇る彼女に対しては大した距離ではないでしょう。
 走る来る彼女。
 既に身体のリミッターを外している今、彼女の動きはそれこそスローモーションのように見えます。
 ……まぁ、それでも中々に速いのが面倒なんですが。

「私、きれい?」

 走りながら、彼女の口が動いたのが見えます。
 はてさて、今度は何が出てくるのやら……。
 彼女に目を向けたまま、周囲へと気を配ります。
 先程の落下してくるスポーツカーもそうですが、一体何が出てくるのが想像がつかないのが少々厄介な所です。
 一体幾つ派生話があるのか、彼女はどうやら遠、中、近距離全ての攻撃に対応しているようです。

「…………っ!?」

 ブオン、と。
 鋭敏になった感覚が、背後からの音を捕捉しました。
 耳が捉えたそれは、車の走行音。
 別に廃れた一角とはいえ普通に車も走っているのでしょうが、後ろには廃ビルがありますから、さすがにこちらに真っ直ぐ向かってくる車が存在するとは思えません。
 振り返れば恐らく、何もない空間からその車体を出す車が見える事でしょう。
 この現象の元となった話は「口裂け女は交通事故で口が裂けた」といった所でしょうか。

「くそっ、本当に奇抜な攻撃ばかりですねっ」

 背後は廃ビルだからと少し安心していたせいか、一瞬対応が遅れます。
 再び横に飛び退り、受け身を取って地面に半ば這いつくばるように四肢を伸ばして着地すると、直後に俺のいた場所を抉るように一台の車が通り過ぎました。
 車内は無人。
 一体どんな仕組みになっているのか、後で分解でもしてみたいものです。

「――――私、きれい?」

 俺が体勢を立て直すより早く、口裂け女が俺の元へと辿り着きました。
 さすがは100mを三秒で走れる女、と言った所ですか。
 襲いかかる彼女の両手には、鎌と斧。非常に物騒ですね。
 男なら、己の拳で戦うのが真っ当と言うものでしょう。

 自在に変化する事の出来る身長を利用し、俺のリーチの外から銀色と黒の閃光となって襲いかかってくるそれらを、俺は立ち上がりかけた身体を前に倒して避けます。
 ちょうど口裂け女に近づくような体勢。
 あの爆発で敬遠した後だからか、口裂け女は一瞬驚いたような顔をしました。

 しかし、俺は一つ彼女の弱点に気付いていました。
 ある程度の間隔、あるいは使用に若干のローテーションのような物があるのか、彼女があの爆発を使うのは、必ず間に「三つ」、何か別の力を挟んだ後でした。
 現在彼女が使用したのは「口裂け女は2メートルを超す長身」と「口裂け女は交通事故で口が裂けた」の二つ。
 まだ一つ分、余裕があります。

 右手の拳を、握り締めます。
 リミッターを外した今の俺の拳は、鉄すら軽く貫けるほどにまで強化されています。
 放つ拳の速度は、さながら弾丸。
 もしそれが生身の身体にでも呑みこまれれば、必殺の一撃となる事でしょう。

 ……しかし、勝ちに急ぎ過ぎる余り、俺は一つの事を忘れていました。
 一つ何かの力を使えば、彼女は三つ間に別の力を挟まなければなりません。
 そして今は二つ目。まだ一つ分余裕があります。
 しかし、それはあくまで「口裂け女は原爆少女から派生した」と言う力を使うまでの余裕であって、彼女がそれ以外の力を使うのに制約は全くありません。
 彼女が近距離での牽制にそれしか使っていなかった事が勘違いの原因でしょうが、俺が浅はかだったと言う他無いでしょう。

「――――ねぇ、私、きれい?」

 彼女が呟いた瞬間、その周囲を火焔が包み込みました。
 爆炎とはまた違った、明るい橙色の炎。
 「原爆少女」と似たような「火傷説」でしょうか、一瞬にして口裂け女を中心にして巻き起こった炎は、彼女に近接していた俺を呑みこもうとうねりをあげ、襲いかかってきました。

「く、そっ…………!」

 ここで離れてはまたさっきと同じ状況に逆戻り。
 そもそも、今から逃げに入っても襲いかかる灼熱の炎から逃げる事は出来ないでしょう。
 だから、逃げるわけにも行きません。
 そして逃げるわけにいかない以上、俺に出来るのは進む事。
 既に今朝一度使っている以上、あまり使いたくはなかったのですが……。

「九死に一生っ!」

 叫んだ瞬間、炎が俺を包み込みました。
 しかし、そこに熱さは感じません。
 「九死に一生」を使っている今、一度限定ですが自らを殺そうとする要因から逃れる事が出来ます。
 口裂け女と俺との距離は、もう数十センチもないでしょう。
 後は今握りしめているこの拳を叩きこむだけ。
 ――――しかし

「私、きれい?」

 俺は、また一つ見落としをしていました。
 「三度間に別の力を挟む事で」、既に彼女はあの力を使えるようになっているという事に。
 周囲の空気が弾けていくのが、スローモーションのように俺の目に映ります。

 俺が「人間にはリミッターがかけられている」を使用した状態で「九死に一生」を使えるのは二回まで。
 既に朝と先程で二回使った今、俺は三度目を使う事が出来ません。
 仮に俺が使用した場合、精神が耐えきれず俺の意識は簡単に狩り取られる事でしょう。
 それに加え、リミッターを外した代償としての睡眠がその先に待っています。
 すなわち、このまま「九死に一生」を使用しても、使用しなくてもその先に待っているのは「死」以外の何物でもありません。

 ――――絶体絶命。
 そんな言葉が、脳裏をよぎりました。
 俺に選択の余地はありません。
 俺が選ぶべきは、少しでも生存の確率の高い選択肢。
 そして、既にそれは決まっていました。

「――――九死に一生っ!」

 叫んだのは、精神を圧迫する言葉。
 しかしそれでよかったと、俺は思います。
 仮に「九死に一生」を使わず、リミッターを解除しただけの身体で爆発に挑めば、恐らく9割方俺の身体は木っ端みじんになるでしょう。
 もし幸いにも死ななかったとしても、俺が動ける状態だとは考えられません。
 ならば、意識が狩られるかどうか、ある程度未知の部分がある「九死に一生」にかけてみるべきでしょう。
 片や確実に動けなくなり、片や意識がなくなるかどうかは俺の精神次第。
 本当に、俺に選択肢など残されていませんね、全く。

 爆風と炎が俺を襲い、しかしそれらは俺に傷一つ付ける事が出来ませんでした。
 「九死に一生」は正常に作用したようです。
 それに対して眉一つ動かさない口裂け女。
 彼女の目に、俺はどのように映っているのでしょうか。
 死を目前にあがく哀れな人間か、哀れとすら感じる必要のない虫けらか。
 ――――そんな事を考えた、その瞬間。 

 バチッと言う何かがショートするような音が、脳内に響きました。
 それは精神が焼き切られた音か、はたまた別の何かでしょうか。
 視覚以外の機能が一瞬にして途絶えます。
 足の感覚もなくなり、ふらりと倒れていく身体。
 それすらも、残された視覚でやっと分かる物でした。
 一瞬視覚だけは無事なのかと思い、しかしすぐに周囲が暗くなって行きました。
 それと同時に完全に身体が倒れ切り、ちょうど口裂け女の顔を見上げるような形で、顔が固定されます。

(そう言えば、マスクすら取って貰えませんでしたね……)

 未だ顔にかかったままのそれを見て、脳内で唇を噛みます。
 この口裂け女は、まだ本気を出していないのでは、と。
 彼女のその姿を見て、そんなことすら脳内をよぎりました。
 強大すぎる目の前の存在に、指一本すら触れる事の出来なかった俺。
 この世にはまだまだ強い都市伝説がいるのですね、全く。

 視界も、かなり薄暗くなっていました。
 もう感覚という感覚が全て断絶されています。
 残された視覚も、正常に作動するのは後何秒でしょうか。
 口裂け女は、そんな俺を無表情に見降ろして、その手の鎌を握りなおしました。
 彼女の怪力を持ってすれば、一秒と経たず俺の身体を粉々にする事が出来るでしょう。
 振り上げられた鎌を見て、「無力だ」と、そう思わざるを得ません。
 それが振り下ろされる一瞬、ここに来る前に別れた一人の少女の事が頭をよぎり

「――――ねぇ、私、きれい?」

 耳ではなく目がその口の動きを捉え、鎌が落下してきました。
 返り血が何かで黒く染まったそれは、俺に向かって黒い線となって向かってきます。
 避ける事など、叶いません。
 なす術もなく、俺はやってくる鎌を見る事しか出来ませんでした。
 既に返り血で切れ味のなくなったそれは、鈍器として俺の命を狩り取ろうとして

「…………?」

 しかしピクリ、とその動作が止まりました。
 俺の目の前僅か数センチの間で止まっている鎌がよく見えます。
 口裂け女はと言えば、何か気配を探るように周囲に視線を巡らせています。
 一体何が、彼女の気を引いているのか。
 疑問に思う俺をよそに、ゆっくりと鎌を上げていく口裂け女。
 まるで俺など眼中にないかのように、その目は俺を一瞥もしません。
 鎌をコートの内に仕舞い、彼女は一方向を眺めています。

 やがて、彼女はにやりと、笑い、何かを呟きました。
 俺と出会ってから、初めてまともに発しただろう言葉。
 しかし読唇術など持たない俺には、彼女が何を言っているのか分かりませんでした。
 狂喜を顔に浮かべ、今度は俺に分かる言葉を彼女は発します。

「私、きれい?」

 途端に口裂け女の手に現れる、赤い傘。
 それを広げ、彼女はたんっと地を蹴りました。
 普通ならただの跳躍。しかし、彼女の身体はまるで重量を感じさせずに宙へと浮かびます。
 「口裂け女は傘で飛ぶ」。恐らくそれが力として現れた物でしょう。
 宙を舞う口裂け女。
 ……それはすぐに、俺の固定化された視界から消え去りました。

(……何が、起こったんですかね)

 子供が欲しい玩具を見つけたかのような、あの歓喜の表情。
 何か別の標的を見つけたのかもしれない、と一瞬危惧して、しかし俺の視界はその意に反してどんどん狭まっていきます。
 動かなければ、と思えば思うほど、視界が闇に呑まれて行きます。
 それはすぐに、俺の全てを呑みこむようにうねり
 一瞬、見慣れた金髪の少女が慌ててこちらにやってくるのが見えたような気がして、しかしすぐに、俺の意識は途切れてしまいました。

【終】




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