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連載 - 恐怖のサンタ-x13

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uranaishi

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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 13


 山田は、都市伝説退治を専門とする業者の人間である。
 こう言うと格好いいかもしれないが、山田の場合は「それ以外にやる事がないから」この仕事に就いただけの事である。
 むしろ山田個人としては、出来るだけ都市伝説と関係のない、非日常から大きく離れた普通の仕事をやりたかったのだが。

 山田治重は、全国にその顔を報道され、名前を指名手配された容疑者でもある。
 容疑は殺人。現在、山田は恋人を殺害した嫌疑をかけられていた。
 冤罪でもなく、その殺人自体は事実なのだから山田としては特にその事に対して含みはないのだが、いかんせん行動に余計な制限がかかってしまうのだ。
 その上今年のクリスマスの件では「組織」にまで目をつけられる始末である。
 全て「自業自得」の四文字で済んでしまう事柄なのだが、それが結果的に山田の職業選びをさらに制限していた。

 いっそ自首するべきなのでは、と考えた時もある。
 しかし警察が組織と繋がっているかどうかを断定する材料を持たない山田としては、ヘタに自首して組織に捕まるわけにもいかなかった。
 組織が捕まえた山田をどうするのか、クリスマスの際に駆り出された天使や兄貴を見る限り想像に難くはない。
 良子やマゾ、ましてや今現在に至っては子ライオンに沙希、佑香を家に置く山田としては、安易に捕まって死ぬわけにもいかないのだ。

「…………はぁ」

 だから山田は、今非常に気が重かった。
 その原因は、山田の右手に握られた小さな財布にある。
 鰐だか何だかの皮で作ら手ているのか、その財布の手触りはどこかざらざらとしていた。
 この財布、山田の持ち物ではない。
 つい先ほど、道端に落ちているのを拾ったものだ。
 つまりは紛失物である。

「どうするかなぁ……」

 本来なら、交番にでも届け出るべきものなのだろう。
 しかし先に述べた通り、山田は指名手配犯である。
 それも一度大々的に報道もされたので、こんな地方の交番の警官でも、その人相くらいは覚えているだろう。
 覚えていなくとも、後でふとした機会に思いだす危険性もある。
 そんな事になればこの町に捜査の手が及ぶのは間違いないし、しばらくの間警戒が強まる事も必死である。
 詰まる所それは山田がようやく住み慣れたこの町を離れなければならないことを意味し、山田個人としては出来ればそれは避けたい所であった。

「…………はぁ」

 だからこそ、山田は悩む。
 その心は、善悪の間で大きく揺らいでいた。
 山田の内なる善良な心は交番に届けろと言っているし、悪意で満ちた心はそのまま捨ててしまえと訴えかけてくる。

「(猫ババシチマエヨ、拾ッタンダカラテメェノモンダロ、ナァ?)」

 そしてさらに、山田の悪意からさらに善良な部分をろ過した濃度の濃い悪意の塊のような声も、同時に山田の脳内に響いていた。
 最近都市伝説である事が明らかになった、山田の内に住まう悪魔の囁きことデビ田である。
 デビ田は、ここぞとばかりに山田をそそのかそうと言葉を重ねてくる。
 ついでに、善意と悪意の声もここぞとばかりに声を張り上げ始めた。

「(面倒クセェダロォ? 金ガ欲シイダロォ? ダッタラがめチマエヨ、大丈夫、バレネェッテ)」
「(自分の物にしては駄目ですよ、落とし主さんが困っているかもしれません。常識ある社会人として、きちんと交番に届けてあげるべきでしょう)」
「(捨てろ、そのまま見なかった事にして捨てろ。何事もなかった事にすればお前の生活は守られる)」

 三者三様、特に悪魔の囁きと悪意の声は同調でもしそうなはずが、三つの声は各々の理論を元に議論を展開していく。
 悪魔の囁きは「猫ばばしろ」と。
 善意の声は「交番に届けろ」と。
 悪意の声は「捨ててしまえ」と。

「(何言ッテンダ、テメェ――――)」
「(貴方の方こそ、その言い方は――――)」
「(俺の言う事を聞いてれば全て解決するんだ、聞け、そして従え――――)」

 全くまとまる事なく、議論は無駄に白熱していく。
 しかしその議論の中に、当事者であるはずの山田の存在は一ミリたりとも入っていなかった。
 ある意味善意の声と悪意の声は山田の化身とも言えなくもないが、少なくとも「現実の」山田は一言も議論に声を挟んでいない。
 というよりも、挟む余地が全くなかった。

「………………」
「(ダカラ――――)」
「(ですから――――)」
「(いいや――――)」

 無言の山田をその輪の中から追い出して、議論はさらなる加速を始めていた。
 忍耐強いはずの山田の沸点を通り越すまで、既に後一分を切っていた。

【終】



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