「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-x14

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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 14


悪意が牙をむくの続き

 山田治重は都市伝説の契約者である。
 間接的な物も含めれば4つの都市伝説と契約した彼は、学校町の中でもそこそこ強力な部類に入るのだろう。
 不死を得、空間移動能力を得、脚力を得、そして鉄をも曲げる怪力を得た男。
 しかしもちろん、山田には出来ない事がいくつも存在する。
 どんなに都市伝説と契約した所で、それが「万能」を意味する事はない。
 穴を埋めるように網を張り巡らせたところで、必ずそこから漏れ出るように小さな穴が出現するのだ。

「…見逃して、やる、から………俺に、関わるな……」

 だからこそ、山田は悩んでいた。
 目の前には、一人血を吐き続ける黒服がいる。
 見捨てる事は容易い。
 見逃してくれると言っているのだから、今すぐにここから離れればいいだけの事だ。
 助けるのは難しい。
 山田にあるのは、人を殺し、また守るための力。
 それは「治療」という言葉から遠く離れた存在だった。

「さっさと、消えろ……俺の気が、変わらないうちに……」

 血を吐きながらも、黒服は山田を遠ざけようとする。
 明確な拒絶。
 山田元より、そこまで押しの強い性格ではない。
 きっぱりと断られればそれ以上踏み込む事はしないし、ましてやここまで拒絶されれば、普段なら落ち込みながら去っていく所だ。
 平凡に育ってきた山田は、一般的な倫理を元に行動する。

「…………いいや」

 ――しかし、それは「普段」の事で、こんな緊急事態はその範疇の外だった。
 何もできないかもしれない。
 居ない方が良いのかもしれない。
 それでも、何もせずに立ち去る程、山田の倫理は崩れていなかった。
 結局の所、それは単なる自己満足でしかないのだろうが。

「見捨てられるわけないだろ、普通。いくらなんでもそこまで人間捨ててないぞ、俺は」
「……馬鹿、野郎が……」

 一瞬、その髪が山田を追い払うためにぴくりと動く。
 しかしそれ以上動かす気力も、体力も、黒服には残されていなかった。
 こんな状況下での無理な能力の使用は、それこそ本当に黒服を死に至らしめる可能性すらある。
 忌々しげに、黒服は血で染まった歯を食いしばって

「……そこの、ピルケースだ……それを俺に、渡せ……」
「ピルケース?」

 発作か何かの薬だろうか、と山田は黒服の周囲を見渡した。
 既に周囲は夜の闇に包まれ、電灯と辺りの家から洩れる明かりだけが二人を照らしている。
 そんな中でも、ピルケースはすぐに見つかった。
 倒れる黒服の、すぐ隣。
 ちょうど手から取り落とされたように、それは黒服の手の先に転がっていた。
 闇に紛れてしまいそうな黒い錠剤が、そこから零れ落ちている。

「これか……?」

 山田は屈んで、それを拾い上げた。
 周囲に散らばった錠剤を回収する事も忘れない。
 それを黒服の目の届く範囲に持っていくと、もう言葉を発する事も苦しいのか、こくりとだけ、黒服が小さく頷いた。
 取りあえず目的の物を見つけた事に山田は安堵して、ピルケースを黒服へ渡そうと手を伸ばしたのだが。

「……あれ? けどこれ渡しても飲めなくないか」

 渡す直前で、気付いた。
 そもそも取り出すまではこの黒服でもできたのである。
 それを開け、口に運ぶ事が出来なかったからこそ、ピルケースはアスファルトの上に転がっていたのだ。
 つまり、これを渡した所で、また落すのは目に見えているわけで

「……口移し?」
「…殺すぞ……」

 思わず呟いた山田に、黒服がほとんど動かないはずの口を動かして反発した。
 普段佳奈美に同じような冗談を口にしている黒服だが、今この生死にかかわるような状況でそれに応じるつもりはないらしい。
 少しでも場を和ませようと努力したつもりの山田としては、何とも不本意な結果である。

「いや、冗談だって」
「(何慣レネェ冗談言ッテンダ、馬鹿野郎。ヤルナラサッサトヤッテズカラロウゼェ?)」
「何だと、俺だってジョークの一つや二つ……」
「(いじケテネェデサッサトヤレッテ言ッテンダヨ。死ヌゾ、コイツ)」
「くそ……これ、直接口に放り込めばいいのか?」
「……ああ……」

 もはや突っ込む気力もなく、黒服は山田の問いにただ頷いた。
 それを確認して、山田がピルケースから落ちた物ではない方の錠剤を一粒取り出す。
 こんな黒い錠剤を飲んで大丈夫なのかと山田は少しだけ心配になったが、目の前で実際に吐血をしている人間が飲ませろと言っているのだ。
 さすがに劇薬という事はないだろう。
 手にした錠剤を、黒服の口へと持っていく。
 血を吐き続ける口の中へ押し込むようにして錠剤を入れると、残った力を振り絞るようにして、黒服はその口を閉じた。

「……大丈夫か?」
「……ああ……」

 先程と同じ、しかし少しだけ張りのある声で、黒服は答えた。
 即効性の薬だったようで、どうやら窮地は脱したらしい。
 その様子にほっとしながらも、山田は懐から携帯電話を取り出して

「取りあえず救急車、呼んだ方がいいだろ?」
「(ハァ? 都市伝説ヲ人間ノ医者ナンカニ見セチマッテモ良イノカヨ)」
「何を言っているのかこの悪魔は。この人は人間に決まってるだろう、うん、きっとそうに違いない」

 山田の言葉を聞いて、黒服は少しだけ複雑そうな表情をしたのだが、内側に意識を集中させている山田はそれに気づかなかった。

「(……ソレ、テメェガ信ジテェダケジャネェカ)」
「いーや、初対面の人を都市伝説だと疑う方が異常なの。大体、『組織』の黒服だって全員が全員都市伝説なわけじゃないんだろ?」
「(知ラネェヨ。少ナクトモ大半ハ都市伝説ナンジャネェノ?)」
「だったらこの人も人間かも知れないだろ――――あれ?」

 携帯で救急車を呼ぼうとしていた山田の顔が、怪訝そうに歪んだ。
 先程から電源を入れようとボタンを押しているのだが、うんともすんとも返ってこない。
 何故だろう、と山田は首を傾げかけて、ここ最近携帯の充電をし忘れていた事に気がついた。
 大方、電池の残量に気づかずに電源を切って、そのまま自然消耗してしまったのだろう。

「……悪い、ちょっと電話ボックス探してくるから、ここで待っててくれ」
「(あほダナァ、オイ)」
「(誰にでもミスはあるだろ……)」

 嘲笑するデビ田に脳内で言葉を返しながら、山田は黒服の返答を待たずに駈け出した。
 その時の山田は、まだ知らない。
 絶滅危惧種の電話ボックスを探す事が、どんなに大変な事なのかを。

*********************************************

 10分後、山田はようやく元いた場所へと走っていた。
 意気揚々と駈け出したつもりが、思いのほか時間を食ってしまっている。
 ようやく電話ボックスを見つけたものの、救急車が到着するまでにまた少し時間がかかってしまうだろう。
 あの黒服の状態から見て、それまで持つかどうか。

「俺が子供の頃はそこら中にあったはずなのに……」
「(時代ガ違ェヨ、時代ガ。今ハ携帯電話ガ主流ダロォガ)」
「いや、それでも2、3分で見つけられると思ったんだけどな……」
「(甘ェナ。大体テメェハてれぽーとガ使エンダカラソレデ運ベバヨカッタダロウニヨォ)」
「…………あ」
「(ハッ! ダカラ鶏頭ナンダヨ、テメェハ)」

 からかうデビ田の声に山田はうなだれて、最後の角を曲がった。
 この先で、あの黒服が死んでいなければいいと、山田は半ば願うようにしていたのだが――――

「……あれ?」

 ――――その先に、あの黒服はいなかった。
 それどころか、あれ程吐血していたはずの血の痕跡すらない。

「……え? あれ? 俺道間違えたっけ?」
「(勝手ニドッカ行ッチマッタンダロ。オレサマダッテ、テメェニ任セルクライナラ自分デ歩クゼェ?)」
「けど、あんな状態で……」

 不安そうに呟いた山田の声は、誰もいない空間に飲まれて、消える。
 後に救急車が到着して、山田は悪戯かと怒られた上に帰りが遅くなった事で恋人にも説教を喰らう事になるのだが
 少なくとも今はあの黒服の事を、山田はただ心配していた。

【終】



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