「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 三面鏡の少女・小ネタ-12

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小ネタその12 馬鹿は死ななきゃ治らない


「この見積もりがおかしい。というか単価間違ってる。そもそも計算すら合ってない」
禁煙パイプを咥えた『もげろ』の契約者、最上椿は、同僚の男の持ってきた書類をパンパンと叩きながら語る
低く唸るようなその喋り方は野生動物の威嚇にも似ており、周囲の同僚達は一様に目を合わせないように仕事に没頭しているふりをしていた
「ミスとか云々以前の問題だろ。このまま出したら大事だぞ、やり直し」
書類の束をつき返された男は、ぷるぷると震えながら何かを訴えかけるような目で椿を見詰めている
「どうした、何か言いたい事でもあるのか?」
「ええ、前々から一度言っておきたかった事が」
どうせ昔からよく言われている事だろう
入社一年目の癖に態度がでかいとか、言い方が怖いとか、人を殺しそうな目で睨むなとか
だが同僚の男の言葉は、今まで一度も聞いた事の無いものだった
「最上さんのスーツ姿ですら持て余すほどの乳が気になって気になって仕事にも手がつかんのです! いっぺん揉ませて下さい!」
空気が凍った
雪女も裸足で逃げ出す程に
そして一瞬遅れて、バックドラフトのように殺気が膨れ上がる
鬼ですら土下座して謝る程に
だがただ一人、その神をも恐れぬ発言をした本人だけはそれに気付いた様子は全く無い
「一揉みで今日一日何のミスもなく仕事ができそうな気が! 服の上からでも構いませんので是非!」
「寝言は……」
腕とネクタイをがしりと掴み、身体を捻りながら思い切り腰で相手の身体を跳ね上げる
「……死んでから言えっ!!!」
「のわ――――――っ!?」
軽々と宙を舞った同僚の男は、そのまま窓ガラスに叩きつけられた
ばしゃん、と派手な音を立ててガラスが割れ、悲鳴が尾を引いて小さくなっていき、数秒後にカエルが潰れたような音を立てた
僅かな沈黙の後、椿は席を立つとこの部署の責任者である課長の前に立ち、ぺこりと頭を下げる
「すいません課長、ガラス代は弁償しますので」
「いや、ガラス代が先!? 落とした彼は!?」
「……そういえば、普通の人間は5階から落ちたら死にますね。やり過ぎました」
「やり過ぎたで済むの!? この場合は呼ぶのは救急車!? 警察!?」
パニックを起こしてあたふたとしている課長(42歳・妻と二人の子あり、この部署に異動したばかり。最近の悩みは薄毛の進行)
「下に人がいたら大惨事でした。反省しています」
「だから落とした彼は!? 仕事できないからって5階から落とすのはやり過ぎでしょ!?」
「ただいま戻りました!」
どばんとオフィスの扉を開いてずかずかと闊歩してくるのは、つい先程窓から外に消えていったはずの彼だった
一瞬落ちていなかったのかと思ったが、ガラスの破片まみれであちこちから流血している様子から、やはり気のせいではなかったらしい
「申し訳ありません! 服の上からでも構わないなどというのは失礼でした! やはり女性の乳は直に揉んでこそその価値を」
がしりと両襟を掴まれて、ヒールの踵を鳩尾に抉り込まれながら綺麗な放物線を描いて割れた窓から吸い込まれるように外へ放り投げられる同僚の男
「失礼しました。仕事が出来る出来ない以前にストレートにセクハラですので、私が手を下さなくてもアレが反省するよう上へ掛け合っていただければ幸いです」
ぺこりと頭を下げて、何事も無かったかのように席に戻り仕事を再開する椿
周囲の同僚達もまた、状況が落ち着いたと察したのかそれぞれの仕事に戻り始める
「ね、ねえ、なんかこれ日常茶飯事的な事なの? それとも異動してきたばっかりの僕へのドッキリ? 歓迎されてないかな僕?」
うろたえるばかりの課長に、席が近かった一人がこっそりと耳打ちする
「彼、美人さんだった前の課長に対してもあんな調子でして。その時はもっと酷かったんで大丈夫じゃないですかね」
「大丈夫なの? 本当に大丈夫なの? 彼、二回も落ちてるよ? ここ5階だからね?」
「ただいま戻りました!」
不安げな課長をよそに、元気良く戻ってくる血塗れの男
「この際、形の良い尻やすべすべの太股で構いませんので触らせてもらえんでしょうか!」
彼が三度目の放物線を描くまでは、ものの数秒と掛からなかった

―――

「すいません、ちょっと病院に行ってきてもいいでしょうか」
ひびの入ったアスファルトの上で大の字になて寝転がり、奇跡的に無事だった携帯電話でオフィスに電話を掛ける
《そのまま野垂れ死ね》
即座に通話が切られた事、仕事に戻らなくてもいいという意味の言葉から了承と判断し、男はふらふらと立ち上がる
「いやー死ぬかと思った。野上さんてばリアクションが激しいなー、なんつーか親しくなってきた証拠? 脈あり?」
どう見ても瀕死の重傷という有様なのだが、その顔はにやけて緩んでおり、傍から見れば不気味な事この上ない
「一昔前に流行ったツンデレってやつか! という事は俺ラブ! あのないすばでぃが俺のものになる日も近いわけだな!」
そうやって独り言を垂れ流しているうちに、彼の身体の怪我はあっという間に治癒されていく
彼が知らぬ間に有している『馬鹿は死ななきゃ治らない』という都市伝説能力のお陰で、彼は馬鹿でいるうちは死ぬ事は無いのである
「身体はそんなに痛くなくなってきたけど、頭打ったからなー。一応病院ぐらいは行っておかんと……ん?」
掛かりつけの病院へと足を向けたその時、目の前に大きなマスクを付けた赤いコート姿の女性が立ちはだかった
どう見ても口裂け女です、本当にありがとうございました
「ねえ……私、綺麗?」
「そらもう綺麗ですとも! 目元を見ただけで判る別嬪さんやー! でもコートなんか着てたらちょーっと判断が鈍ると思いませんか!」
「綺麗なのね? じゃあ……」
「一丁ずばーっとそのコートを脱いでみませんか! 脱がなくてもいい乳してるのは判りますが是非そのボディラインを拝ませていただきたく!」
「これでも……」
「コートの裾から覗く足首も良い感じで! そのおみ足も拝見すればより美しさを判断する事ができますとも! できれば触らせていただければもっと良し!」
「えーと……」
「ああこれは失礼致しました! 一人では脱ぎ辛いですよね! そりゃもう俺で良ければお手伝いしますとも! でも手が滑ってどっか触っちゃったりしても不可抗力ですよね!」
「こ、これでも綺麗か!」
終始ペースを奪われながらも、果敢にマスクを外す口裂け女
「わざわざマスクを外すだなんて! 口付け求められてる!? 一目惚れ!? 大丈夫、俺は口が裂けてるぐらい気にしませんから!」
「ちょ、何こいつ!? や、放せ、はーなーせー!?」
「痛っ!? ちょ、鋏!? 刺さってる抉ってる切ってる!? ツンデレじゃなくヤンデレ! なるほど、いける! というわけで俺と清くセクシャルな交際をごふぅっ!?」
押し倒されながらも果敢に反撃し、都市伝説の身体能力で思い切り振り上げた足が男の股間にめり込んだ
涙と鼻水を噴き出し、股間を押さえ悶絶する男を押し退けて、涙目で逃げ出す口裂け女
「痴漢、変態、レイパー! 悪魔を殺して平気なのー!」
本来は追うための脚力であっという間に逃げ出してしまった口裂け女
「げふ……照れ屋さんにはちょっと押しが強過ぎたみたいだな……」
残された彼の姿は馬鹿そのもので
当分死ぬような目には遭っても死ぬ事は無さそうだったとさ


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