ドクター71
「ふむ、しかしまあ本当に巧妙であるな。町の結界に紛れ込ませるようにしてあっては、ややこしい事この上ない」
やや難色を示す将門の様子に、少々不安げな顔色になる盟主
そんな彼女の肩を掴み、ひょいと抱き寄せる将門
「なっ……こんな時に何のつもりですか!?」
「町と強い繋がりがあるお主の波長を感じ取っているだけだ。これで確実に呪を選り分けられる」
にいと不敵な笑みを浮かべ、将門の右腕がぐんと動く
ほつれていた糸を引き抜くように、張り巡らされていた『蟲毒』のための呪が抜き取られ、町を覆っていた何かが剥がれ落ち散り消えていく
「さて、これで『蟲毒』は破られた」
その言葉を待っていたかのように、それまでじっと座り込んでいた呂布が立ち上がる
「一戦、交えるか?」
「先に済ませる用事がある」
言うが早いか赤兎に跨り、赤兎もまたそれを待っていたかのように即座にエンジンを嘶かせる
「強者との戦いよりも大事な用か」
「俺の本質を見誤った連中に、この俺がどういうものかを刻み付けに行かねばならん」
走り去る呂布の姿を見送りながら、将門はからからと楽しそうに笑う
「つれないものよ」
「単に、『蟲毒』がある以上は手を出せず、さりとて素直に従うわけにもいかず、そんな事情だったのでしょう……それよりも」
将門の腕の中で、ふるふると握り締めた拳を震わせている盟主
「いつまでくっついているのですか! 『蟲毒』の結界を打ち払った以上、必要ないでしょう!」
「お主の為でもあったのだ、これぐらいの役得はあって然るべきであろう?」
盟主の顔が赤いのは、怒りの為かそれとも別の何かか
笑い声と怒声はしばらくの間、止む事は無かった
やや難色を示す将門の様子に、少々不安げな顔色になる盟主
そんな彼女の肩を掴み、ひょいと抱き寄せる将門
「なっ……こんな時に何のつもりですか!?」
「町と強い繋がりがあるお主の波長を感じ取っているだけだ。これで確実に呪を選り分けられる」
にいと不敵な笑みを浮かべ、将門の右腕がぐんと動く
ほつれていた糸を引き抜くように、張り巡らされていた『蟲毒』のための呪が抜き取られ、町を覆っていた何かが剥がれ落ち散り消えていく
「さて、これで『蟲毒』は破られた」
その言葉を待っていたかのように、それまでじっと座り込んでいた呂布が立ち上がる
「一戦、交えるか?」
「先に済ませる用事がある」
言うが早いか赤兎に跨り、赤兎もまたそれを待っていたかのように即座にエンジンを嘶かせる
「強者との戦いよりも大事な用か」
「俺の本質を見誤った連中に、この俺がどういうものかを刻み付けに行かねばならん」
走り去る呂布の姿を見送りながら、将門はからからと楽しそうに笑う
「つれないものよ」
「単に、『蟲毒』がある以上は手を出せず、さりとて素直に従うわけにもいかず、そんな事情だったのでしょう……それよりも」
将門の腕の中で、ふるふると握り締めた拳を震わせている盟主
「いつまでくっついているのですか! 『蟲毒』の結界を打ち払った以上、必要ないでしょう!」
「お主の為でもあったのだ、これぐらいの役得はあって然るべきであろう?」
盟主の顔が赤いのは、怒りの為かそれとも別の何かか
笑い声と怒声はしばらくの間、止む事は無かった
―――
降り注ぐ鉄針が細い腕を貫いて、まるで針鼠のような有様になる
「こっ、のぉっ!」
その攻撃を放ってきた中華黒服の一人を即座に髪の拳で殴り潰すが、それもまた瞬きした瞬間に拉げた紙屑に変貌する
「ああもう、偽者と本物の区別全然つかない!」
「私は見分けられるんですが、動きが激しいのであれこれと指示してる暇はありませんね。撤収すれば私の能力で敵は追って来れませんが」
「全員ブッ殺すって言ったでしょ! 実際、半分ぐらいは殺せてるはずなんだから!」
諭すような宥めるようなA-No.18782の声に、繰は怒声で返す
実際、紙切れに変貌せず黒い塵となって消えた黒服もそれなりの数がいた
が、減った傍から分身が増えて、結果としてどんどんと当たりを引く確率が落ちているのも事実である
――ああもう、あいつがいた頃は怪我をしないように気をつけてたのに
腕を貫いた鉄針を無理矢理引っこ抜き、それをそのまま敵へと投げ返す
鉄針に眉間や心臓を貫かれた黒服が一人また一人と紙屑になって消え、残った黒服達によって新たにばら撒かれた人型の紙切れが黒服の姿となって戦列に紛れ込む
「全員まとめてブン殴れば終わると思ったのに……ああくそ、イライラする」
口汚い言葉を吐き捨てる繰の怒りに呼応するように、髪の毛はざわざわと蠢きその質量を増していく
「ちょこまか動きさえしなきゃいいのに、黙って殴られて死になさいよもう」
「なるほど、黙らせる手伝いは必要かなお嬢さん」
その言葉の主に、その場にいた全員の視線が向けられる
黒い翼を羽ばたかせ、空に浮かぶ一人の男
一見すれば黒服のような雰囲気ではあるものの、黒いのは高級そうな生地のズボンとネクタイだけで、白いワイシャツと銀縁の眼鏡が黒ずくめではないという印象を抱かせている
「……誰?」
「通りすがりの都市伝説契約者、では不満かね? この町には掃いて捨てるほど居ると思っていたのだが」
そんな男の言葉を遮るように、中華黒服達は男目掛けて無数の鉄針を放つ
が、それらは全て、彼の背中から飛び出した無数の腕に弾き散らされた
「自己紹介ぐらいはさせたまえ。私の名はデイズ・スプリングス、契約している都市伝説からこう呼ばれる事もある」
デイズと名乗る男の目がぎらりと輝き、中華黒服達の身体がびくりと震え、そして硬直する
「『悪魔憑き(ディアボロス)』と」
周囲を取り囲んでいた中華黒服達が、一斉に悲鳴とも奇声ともつかない声を上げながら、身体を捻らせのた打ち回る
それと同時に半数以上の中華黒服達がただの紙切れへと戻り、何かに引き裂かれるように千切れ飛ばされた
「これはまた物騒な能力ですね。つい先日まで『悪魔の囁き』が暴れ回っていた土地で」
「そんな事が起こる前からこの町に住んでいたのだがね? そもそもだ……囁くだけの下等な悪魔など、私が扱う価値も無い」
自信満々に語るデイズを胡散臭げなものを見る目で睨みつつ、繰は髪の毛を伸ばしのた打ち回る中華黒服達を掻き集めると、まとめて絞るように捻り潰した
「可愛らしい外見に似合わずパワフルな能力だ。シンプルイズベストといった感じだな」
「うっさい。手伝いには感謝するけど、あんたが信用できるかは別問題よ」
「なるほど、事実だけに手厳しい。だが私もこの町に住み働く身分でね。騒動の芽は摘み取っておくに越した事は無いのだよ」
デイズは背中の翼をばさりと羽ばたかせると、間合いを取るように繰から離れる
「お嬢さんもその怪我では辛いだろう。後は私に任せておきたまえ」
「うっさいっつってんでしょ! 私はまだまだやれるわよ!」
「そしてそちらの黒服。それを預けておく事は吝かではないが……使うとなれば、敵はいくらでも増えると思うように」
「私は下っ端ですから、その答えはなんとも」
デイズが飛び去っていったのを確認し、A-No.18782は満身創痍の繰に微笑みかける
「手酷い傷を受けたようですが、まだいけますか?」
「当たり前でしょ、何言ってんのあんた? さっさと敵を探して案内しなさいよ」
傷口を髪の毛で覆い縛り上げながら、繰は不機嫌そうにそう言ったのであった
「こっ、のぉっ!」
その攻撃を放ってきた中華黒服の一人を即座に髪の拳で殴り潰すが、それもまた瞬きした瞬間に拉げた紙屑に変貌する
「ああもう、偽者と本物の区別全然つかない!」
「私は見分けられるんですが、動きが激しいのであれこれと指示してる暇はありませんね。撤収すれば私の能力で敵は追って来れませんが」
「全員ブッ殺すって言ったでしょ! 実際、半分ぐらいは殺せてるはずなんだから!」
諭すような宥めるようなA-No.18782の声に、繰は怒声で返す
実際、紙切れに変貌せず黒い塵となって消えた黒服もそれなりの数がいた
が、減った傍から分身が増えて、結果としてどんどんと当たりを引く確率が落ちているのも事実である
――ああもう、あいつがいた頃は怪我をしないように気をつけてたのに
腕を貫いた鉄針を無理矢理引っこ抜き、それをそのまま敵へと投げ返す
鉄針に眉間や心臓を貫かれた黒服が一人また一人と紙屑になって消え、残った黒服達によって新たにばら撒かれた人型の紙切れが黒服の姿となって戦列に紛れ込む
「全員まとめてブン殴れば終わると思ったのに……ああくそ、イライラする」
口汚い言葉を吐き捨てる繰の怒りに呼応するように、髪の毛はざわざわと蠢きその質量を増していく
「ちょこまか動きさえしなきゃいいのに、黙って殴られて死になさいよもう」
「なるほど、黙らせる手伝いは必要かなお嬢さん」
その言葉の主に、その場にいた全員の視線が向けられる
黒い翼を羽ばたかせ、空に浮かぶ一人の男
一見すれば黒服のような雰囲気ではあるものの、黒いのは高級そうな生地のズボンとネクタイだけで、白いワイシャツと銀縁の眼鏡が黒ずくめではないという印象を抱かせている
「……誰?」
「通りすがりの都市伝説契約者、では不満かね? この町には掃いて捨てるほど居ると思っていたのだが」
そんな男の言葉を遮るように、中華黒服達は男目掛けて無数の鉄針を放つ
が、それらは全て、彼の背中から飛び出した無数の腕に弾き散らされた
「自己紹介ぐらいはさせたまえ。私の名はデイズ・スプリングス、契約している都市伝説からこう呼ばれる事もある」
デイズと名乗る男の目がぎらりと輝き、中華黒服達の身体がびくりと震え、そして硬直する
「『悪魔憑き(ディアボロス)』と」
周囲を取り囲んでいた中華黒服達が、一斉に悲鳴とも奇声ともつかない声を上げながら、身体を捻らせのた打ち回る
それと同時に半数以上の中華黒服達がただの紙切れへと戻り、何かに引き裂かれるように千切れ飛ばされた
「これはまた物騒な能力ですね。つい先日まで『悪魔の囁き』が暴れ回っていた土地で」
「そんな事が起こる前からこの町に住んでいたのだがね? そもそもだ……囁くだけの下等な悪魔など、私が扱う価値も無い」
自信満々に語るデイズを胡散臭げなものを見る目で睨みつつ、繰は髪の毛を伸ばしのた打ち回る中華黒服達を掻き集めると、まとめて絞るように捻り潰した
「可愛らしい外見に似合わずパワフルな能力だ。シンプルイズベストといった感じだな」
「うっさい。手伝いには感謝するけど、あんたが信用できるかは別問題よ」
「なるほど、事実だけに手厳しい。だが私もこの町に住み働く身分でね。騒動の芽は摘み取っておくに越した事は無いのだよ」
デイズは背中の翼をばさりと羽ばたかせると、間合いを取るように繰から離れる
「お嬢さんもその怪我では辛いだろう。後は私に任せておきたまえ」
「うっさいっつってんでしょ! 私はまだまだやれるわよ!」
「そしてそちらの黒服。それを預けておく事は吝かではないが……使うとなれば、敵はいくらでも増えると思うように」
「私は下っ端ですから、その答えはなんとも」
デイズが飛び去っていったのを確認し、A-No.18782は満身創痍の繰に微笑みかける
「手酷い傷を受けたようですが、まだいけますか?」
「当たり前でしょ、何言ってんのあんた? さっさと敵を探して案内しなさいよ」
傷口を髪の毛で覆い縛り上げながら、繰は不機嫌そうにそう言ったのであった
―――
「劣勢は覆らぬ」
「仕方あるまい、この町から離れ身を隠す」
「『陰謀論』直属の『悪魔憑き』まで現れた以上は仕方あるまい」
「あるだけの分身の符をばら撒いて撹乱しろ」
「一人でもこの町から離れられれば我らの勝ちよ」
ばさばさと人型の紙がばら撒かれると、その全てが黒服を纏った人間の姿へと形を変える
その全てが町中は広がり、混乱を引き起こそうとした瞬間
真紅の暴風が辺り一面を薙ぎ払った
巻き上げられた中華黒服達は、本物偽者の区別無く全員が真っ二つに叩き斬られており、符は全てがただの紙屑となって散らかった
どすりどさりと地面に落ちる中華黒服もまた塵となって消え果るが、まだ僅かに息があった一人が方天画戟の先でぴたりと受け止められた
「契約者の女、返して貰おうか」
真紅のバイク、赤兎に跨った呂布は、虫の息である中華黒服を睨み付ける
「か、ははは、は、は、なれば、我らに、素直に従って、おくのだった、な」
「……なんだと?」
「『蟲毒』、が、完成しておれば、『太歳星君』の、制御が為され、あの祟り神を現世に留めておく、依り代の女は、開放され、るはず、だったのに、なぁ?」
血の混じった唾を散らしながら、けたけたと笑う中華黒服
「制御も、でき、ず、混ざり合った、まま、ならば、共に消えるか、呑まれるか、二つに一つよ」
呂布は舌打ちし、中華黒服を投げ捨てると赤兎のエンジンを嘶かせる
「それならば、そうなる前に……その祟り神を斬って捨てるまで」
「愚かなり! 祟りに、神に、歯向かうならば、それは貴様が破滅するだけよ!」
「行く先が破滅であろうと、この俺に斬れぬもの倒せぬものなど、無い」
けたけたと笑い続ける中華黒服を轢き潰し、呂布は赤兎を疾らせる
道すがら中華黒服の残党を斬り捨てながら、禍々しき気配を辿り祟り神の眠る場所へ
「仕方あるまい、この町から離れ身を隠す」
「『陰謀論』直属の『悪魔憑き』まで現れた以上は仕方あるまい」
「あるだけの分身の符をばら撒いて撹乱しろ」
「一人でもこの町から離れられれば我らの勝ちよ」
ばさばさと人型の紙がばら撒かれると、その全てが黒服を纏った人間の姿へと形を変える
その全てが町中は広がり、混乱を引き起こそうとした瞬間
真紅の暴風が辺り一面を薙ぎ払った
巻き上げられた中華黒服達は、本物偽者の区別無く全員が真っ二つに叩き斬られており、符は全てがただの紙屑となって散らかった
どすりどさりと地面に落ちる中華黒服もまた塵となって消え果るが、まだ僅かに息があった一人が方天画戟の先でぴたりと受け止められた
「契約者の女、返して貰おうか」
真紅のバイク、赤兎に跨った呂布は、虫の息である中華黒服を睨み付ける
「か、ははは、は、は、なれば、我らに、素直に従って、おくのだった、な」
「……なんだと?」
「『蟲毒』、が、完成しておれば、『太歳星君』の、制御が為され、あの祟り神を現世に留めておく、依り代の女は、開放され、るはず、だったのに、なぁ?」
血の混じった唾を散らしながら、けたけたと笑う中華黒服
「制御も、でき、ず、混ざり合った、まま、ならば、共に消えるか、呑まれるか、二つに一つよ」
呂布は舌打ちし、中華黒服を投げ捨てると赤兎のエンジンを嘶かせる
「それならば、そうなる前に……その祟り神を斬って捨てるまで」
「愚かなり! 祟りに、神に、歯向かうならば、それは貴様が破滅するだけよ!」
「行く先が破滅であろうと、この俺に斬れぬもの倒せぬものなど、無い」
けたけたと笑い続ける中華黒服を轢き潰し、呂布は赤兎を疾らせる
道すがら中華黒服の残党を斬り捨てながら、禍々しき気配を辿り祟り神の眠る場所へ
―――
ごぶり、と
水面に泡が立つ
それは目覚めた『太歳星君』の欠伸
ただ地の底で眠るだけの神は
誰にも知られずにまた眠りにつくために、掘り起こし縁を結んだもの全てを末代まで祟り根絶やしにする
誰が自分を起こしたのか
誰が自分に触れようとしたのか
それを確かめるために、『太歳星君』はゆっくりと水面に手を伸ばし始めた
水面に泡が立つ
それは目覚めた『太歳星君』の欠伸
ただ地の底で眠るだけの神は
誰にも知られずにまた眠りにつくために、掘り起こし縁を結んだもの全てを末代まで祟り根絶やしにする
誰が自分を起こしたのか
誰が自分に触れようとしたのか
それを確かめるために、『太歳星君』はゆっくりと水面に手を伸ばし始めた