ドクター72
ざわり、と蠢く髪を見て中華黒服達が動く
先程まで繰を攻め立てていた、まとめて殴り飛ばされないように散開した配置
「ははは、お前さん達……実戦経験はイマイチだな?」
「どういう意味――」
問い返そうとした中華黒服の首が、ずるりと落ちる
「似た能力だろうと初見で判断し同じような手で相対しようとした……馬鹿丸出しだ」
すぐさま飛び退こうとした数名の中華黒服が、空中で何かに引っ掛かったように動きを止め、次の瞬間ばらばらに寸断される
「それにな? 相手が動かなかろうと喋っていようと警戒しとくもんだ、普通はな」
動こうとしたその時になって気が付く違和感
既にあちこちに張り巡らされた髪の毛は、逃げ場も攻め場も全て封じ込めていた
「まあ、お前さん達も長生きしてるそうだが……理屈と実戦じゃ、経験値の質が違うわな」
一人、また一人と念入りに、どこまですれば死ぬかを確認するかのように、ゆっくりとゆっくりと
武器を振るおうとすれば腕が、音を発しようとすれば首が、締め上げられ切り落とされ細切れにされていく
「まあ何だ、顔見知りの同僚程度だったが。俺の知り合いに手ぇ出したらどうなるか……思い知り悔いながら、それを役立てる事無く死ね」
先程まで繰を攻め立てていた、まとめて殴り飛ばされないように散開した配置
「ははは、お前さん達……実戦経験はイマイチだな?」
「どういう意味――」
問い返そうとした中華黒服の首が、ずるりと落ちる
「似た能力だろうと初見で判断し同じような手で相対しようとした……馬鹿丸出しだ」
すぐさま飛び退こうとした数名の中華黒服が、空中で何かに引っ掛かったように動きを止め、次の瞬間ばらばらに寸断される
「それにな? 相手が動かなかろうと喋っていようと警戒しとくもんだ、普通はな」
動こうとしたその時になって気が付く違和感
既にあちこちに張り巡らされた髪の毛は、逃げ場も攻め場も全て封じ込めていた
「まあ、お前さん達も長生きしてるそうだが……理屈と実戦じゃ、経験値の質が違うわな」
一人、また一人と念入りに、どこまですれば死ぬかを確認するかのように、ゆっくりとゆっくりと
武器を振るおうとすれば腕が、音を発しようとすれば首が、締め上げられ切り落とされ細切れにされていく
「まあ何だ、顔見知りの同僚程度だったが。俺の知り合いに手ぇ出したらどうなるか……思い知り悔いながら、それを役立てる事無く死ね」
―――
ちゃぷり、と
小さな水音を立てて水鏡の縁に細い女の指が掛かる
息を潜め身を強張らせる一行の目の前で、ゆっくりと水面から這い出してくる金髪の女性
本人の能力や特性なのか水鏡が特殊なものなのか、水面から出たその身体も髪も全く濡れておらず、どこか寝惚けているかのような顔でぼんやりと周囲を見回す
恐怖で動けない者
相手の出方を伺う者
お持ち帰りや膝枕の衝動を抑え付けている者
様々な理由で動けない者達を意に介した様子も無く、女はぐるりと周囲を見回し首を傾げ
「くぁ……ふにゅぅ」
猫のような欠伸をして首筋をぽりぽりと掻く
「かっ……かぁいいよぅ……」
「我慢しろ、触れるだけで何があるか判らん相手だぞ」
小刻みに震え、衝動を抑え付けながらも口から欲望がだだ漏れるエリカ
だがそんな彼女に気を取られる様子も無く、きょときょとと周囲を見回した女――『太歳星君』は
「……むー」
『太歳星君』が不快げに表情を歪めたかと思うと、中華黒服が根城にしていたこの空家そのものが、忽然と消えた
「なっ!?」
下を見れば更地となった地面、上を見れば両隣の軒先と広がる空
「んー? ふむー?」
訝しげに眉根を歪め、何かを確かめるようにたしたしと地面を踏みつける
「この建物ではない? 寝てたのを邪魔したのは、これではないのかの?」
間近にいるマステマ達を気にした様子も無く、虚空から引き出した麻布の外套と髑髏の首飾りを身に纏う
「今の何だ? 何で俺らは無事なんだ?」
青い顔で身を竦ませる犬メイドに、マステマはこくりと喉を鳴らす
「多分……『この家』を祟り滅ぼしたんだろう」
「た、祟りってそんな即時効果あるものなのかよ!?」
「縁のものに仇為した訳でも、誰かが願ったわけでもない。本人が直でやってるんだからそりゃあ早いさ」
一行の目の前で『太歳星君』は裸足のつま先で地面を擦る
その跡にざわりと草が生え芽が吹いたかと思うとそれはあっという間に枝葉を伸ばし、『太歳星君』を抱えるように枝を広げてその幹を太く高く伸ばしていく
「建物が多いのう、とりあえず上から見て……見える範囲が無くなれば概要も掴めよう」
枝に腰掛け物騒な呟きを漏らす『太歳星君』
マステマはエリカにそっと呟く
「やれるか?」
「多分ね」
目の前ですくすくと成長を続けている木の幹に、エリカが手を伸ばしかけた、その時
馬の嘶きのようなエンジン音と共に現れた赤いバイクが宙を舞い、隣家の屋根ほどの高さにいた『太歳星君』に肉薄する
ぱちくりと目を瞬かせる『太歳星君』の座る枝ごと袈裟懸けに幹まで叩き斬り、その身をどさりと地面に落とす
バイクはそのまま隣家の屋根を歪ませて止まり、それに乗っていた呂布は戟を片手に『太歳星君』の目の前へと飛び降りてくる
「飛将、呂奉先。故あって『太歳星君』、貴様を討ちに参上した」
斬り落とされた枝ごと地面に落ちた『太歳星君』だが、そこには既に柔らかな草が生い茂りその身体を優しく受け止めていた
一緒に落ちたはずの枝はそこには既に無い
そして、もう一つ
落ちてくるはずだった、袈裟懸けに斬られた木の上の部分もまた、誰もが気付かないうちに消え去っていた
「ちょいちょい? 流石に祟り神相手じゃ分が悪いと思うんだけど。おねーさんと代わらない?」
「知るか。俺は俺の役目を果たすのみ」
「いやいや、ある意味武神のあなたなら神様ぐらい斬れるかもしんないけどね? 神様『だけ』斬るのは難しくないかな? かな?」
「やれるかやれないかなど知った事か。俺はやる、それだけだ」
柔らかく折り重なる草の上で、ぽりぽりと首筋を掻きながら『太歳星君』はふむうと小さく唸る
「あー、物騒な話しとるそこな二人? 儂をどうこうするつもりならとりあえずは止めておけ。儂に為した害は即座にその身に万倍となって返るぞ? 女、そなたの力なら儂をこの身より消し去る事も出来よう。さすれば貴様の力も心も、それで足りねば身体も消え果てる。そこな武人も例え儂の祟り神としての概念のみを斬れたとして、それはそなたがの概念を、それで足りねば借り物の身体をも断つ事となろう」
人差し指をぴこぴこと揺らしながら、諭すように語る『太歳星君』
「祟り神にしては優しいな……わざわざ教えてくれるなんて」
「あほう、私欲私情で祟る神がおるか。西洋の色ボケ共と一緒にするでない。祟りとはお役目であり性でありこの世の理であり戒めである……故に、起こると決まればそれは覆らん」
あふ、とまた一つ大きな欠伸をする『太歳星君』
「儂の眠りを妨げし、人も家も定まらず。なればこの地に祟りが注ぐ。なればそれを鎮めるには贄がいる。先程も言うた通り、儂を現世より追い払えるほどの力を持ち、それを万倍身に受けて滅びる覚悟のある贄がの……この中では先の二人かの? そのような覚悟はあるかのぅ」
半ばから断ち斬られた大樹が、また枝葉を伸ばしざわりざわりと空き地を覆う
「祟りを為して地の底に帰るも、打ち払われて地の底に帰るも、儂はどちらでも構わんて。この地、この国に祟りが為されるまでにじっくり考えよ」
そう言うだけ言うと生い茂る草の上にごろりと横になる『太歳星君』
その平和な寝姿とは裏腹に、重い空気が立ち込めていた
小さな水音を立てて水鏡の縁に細い女の指が掛かる
息を潜め身を強張らせる一行の目の前で、ゆっくりと水面から這い出してくる金髪の女性
本人の能力や特性なのか水鏡が特殊なものなのか、水面から出たその身体も髪も全く濡れておらず、どこか寝惚けているかのような顔でぼんやりと周囲を見回す
恐怖で動けない者
相手の出方を伺う者
お持ち帰りや膝枕の衝動を抑え付けている者
様々な理由で動けない者達を意に介した様子も無く、女はぐるりと周囲を見回し首を傾げ
「くぁ……ふにゅぅ」
猫のような欠伸をして首筋をぽりぽりと掻く
「かっ……かぁいいよぅ……」
「我慢しろ、触れるだけで何があるか判らん相手だぞ」
小刻みに震え、衝動を抑え付けながらも口から欲望がだだ漏れるエリカ
だがそんな彼女に気を取られる様子も無く、きょときょとと周囲を見回した女――『太歳星君』は
「……むー」
『太歳星君』が不快げに表情を歪めたかと思うと、中華黒服が根城にしていたこの空家そのものが、忽然と消えた
「なっ!?」
下を見れば更地となった地面、上を見れば両隣の軒先と広がる空
「んー? ふむー?」
訝しげに眉根を歪め、何かを確かめるようにたしたしと地面を踏みつける
「この建物ではない? 寝てたのを邪魔したのは、これではないのかの?」
間近にいるマステマ達を気にした様子も無く、虚空から引き出した麻布の外套と髑髏の首飾りを身に纏う
「今の何だ? 何で俺らは無事なんだ?」
青い顔で身を竦ませる犬メイドに、マステマはこくりと喉を鳴らす
「多分……『この家』を祟り滅ぼしたんだろう」
「た、祟りってそんな即時効果あるものなのかよ!?」
「縁のものに仇為した訳でも、誰かが願ったわけでもない。本人が直でやってるんだからそりゃあ早いさ」
一行の目の前で『太歳星君』は裸足のつま先で地面を擦る
その跡にざわりと草が生え芽が吹いたかと思うとそれはあっという間に枝葉を伸ばし、『太歳星君』を抱えるように枝を広げてその幹を太く高く伸ばしていく
「建物が多いのう、とりあえず上から見て……見える範囲が無くなれば概要も掴めよう」
枝に腰掛け物騒な呟きを漏らす『太歳星君』
マステマはエリカにそっと呟く
「やれるか?」
「多分ね」
目の前ですくすくと成長を続けている木の幹に、エリカが手を伸ばしかけた、その時
馬の嘶きのようなエンジン音と共に現れた赤いバイクが宙を舞い、隣家の屋根ほどの高さにいた『太歳星君』に肉薄する
ぱちくりと目を瞬かせる『太歳星君』の座る枝ごと袈裟懸けに幹まで叩き斬り、その身をどさりと地面に落とす
バイクはそのまま隣家の屋根を歪ませて止まり、それに乗っていた呂布は戟を片手に『太歳星君』の目の前へと飛び降りてくる
「飛将、呂奉先。故あって『太歳星君』、貴様を討ちに参上した」
斬り落とされた枝ごと地面に落ちた『太歳星君』だが、そこには既に柔らかな草が生い茂りその身体を優しく受け止めていた
一緒に落ちたはずの枝はそこには既に無い
そして、もう一つ
落ちてくるはずだった、袈裟懸けに斬られた木の上の部分もまた、誰もが気付かないうちに消え去っていた
「ちょいちょい? 流石に祟り神相手じゃ分が悪いと思うんだけど。おねーさんと代わらない?」
「知るか。俺は俺の役目を果たすのみ」
「いやいや、ある意味武神のあなたなら神様ぐらい斬れるかもしんないけどね? 神様『だけ』斬るのは難しくないかな? かな?」
「やれるかやれないかなど知った事か。俺はやる、それだけだ」
柔らかく折り重なる草の上で、ぽりぽりと首筋を掻きながら『太歳星君』はふむうと小さく唸る
「あー、物騒な話しとるそこな二人? 儂をどうこうするつもりならとりあえずは止めておけ。儂に為した害は即座にその身に万倍となって返るぞ? 女、そなたの力なら儂をこの身より消し去る事も出来よう。さすれば貴様の力も心も、それで足りねば身体も消え果てる。そこな武人も例え儂の祟り神としての概念のみを斬れたとして、それはそなたがの概念を、それで足りねば借り物の身体をも断つ事となろう」
人差し指をぴこぴこと揺らしながら、諭すように語る『太歳星君』
「祟り神にしては優しいな……わざわざ教えてくれるなんて」
「あほう、私欲私情で祟る神がおるか。西洋の色ボケ共と一緒にするでない。祟りとはお役目であり性でありこの世の理であり戒めである……故に、起こると決まればそれは覆らん」
あふ、とまた一つ大きな欠伸をする『太歳星君』
「儂の眠りを妨げし、人も家も定まらず。なればこの地に祟りが注ぐ。なればそれを鎮めるには贄がいる。先程も言うた通り、儂を現世より追い払えるほどの力を持ち、それを万倍身に受けて滅びる覚悟のある贄がの……この中では先の二人かの? そのような覚悟はあるかのぅ」
半ばから断ち斬られた大樹が、また枝葉を伸ばしざわりざわりと空き地を覆う
「祟りを為して地の底に帰るも、打ち払われて地の底に帰るも、儂はどちらでも構わんて。この地、この国に祟りが為されるまでにじっくり考えよ」
そう言うだけ言うと生い茂る草の上にごろりと横になる『太歳星君』
その平和な寝姿とは裏腹に、重い空気が立ち込めていた
―――
《ラーメンつけ麺ボクイケm》
「はいもしもしー」
もの凄く微妙な芸人着ボイスを途中で切り、携帯に出る一人の黒服
その傍らには同じ黒服姿の女が、きょとんとした顔でその様子を見ている
「はいはいこちら黒服πNo.0です、只今電話に出られない状態です。ぴーという発信音の後にご用件をお知らせ下さい……ぴー」
最初から最後までぞんざいな口調で語った後、聞こえてくる言葉を聞き流して携帯の通話を切る黒服、πNo.0
「なんかでっかいのがわーってなってるから一般人から隠してってさ」
「おういえー」
全く理解不能の説明をするπNo.0と、その傍らで理解してるんだかしてないんだか判らない返事をする女黒服、πNo.1
「いやいや、僕ら存在を忘れられてるかと思ったら意外と覚えられてたね。一年ぐらい無断欠勤して海外旅行してたのに」
「わんだほー」
路上にいた二人の身体が、何かに掴まれ引き上げられるように空高くへと舞い上がる
遥か上空から町の一角を見下ろし、住宅地の一角に茂る大樹の姿を確認する
「とりあえずあれを隠せばOKと。そんじゃま、いきますよー」
「やいさほー」
空高くで二人を掴まえている、紐のようなものが絡み合った奇妙な物体
そして透明でありながらそこに存在するピンク色のユニコーン
あらゆる情報を偽装する『フライング・スパゲッティ・モンスター』の契約者と、認識感覚を操作する『インヴィジブル・ピンク・ユニコーン』の契約者
『組織』きっての情報隠蔽の能力者であるものの、例に漏れず勤労意欲はこれっぽっちも無く、たまたま気が向けば働かない事もない程度の難儀な存在である
もっともそんな難儀さすら偽装して、その能力が必要な時でも近場に居合わせないとその存在すら誰も思い浮かべる事は出来ないという、最早何の為に『組織』にいるのか判らない連中だったりするのだが
「まーなんていうかさ、誤魔化してばかりじゃ物事って進展しないよね。戦わなきゃ、現実と」
「じぇろにもー」
「はいもしもしー」
もの凄く微妙な芸人着ボイスを途中で切り、携帯に出る一人の黒服
その傍らには同じ黒服姿の女が、きょとんとした顔でその様子を見ている
「はいはいこちら黒服πNo.0です、只今電話に出られない状態です。ぴーという発信音の後にご用件をお知らせ下さい……ぴー」
最初から最後までぞんざいな口調で語った後、聞こえてくる言葉を聞き流して携帯の通話を切る黒服、πNo.0
「なんかでっかいのがわーってなってるから一般人から隠してってさ」
「おういえー」
全く理解不能の説明をするπNo.0と、その傍らで理解してるんだかしてないんだか判らない返事をする女黒服、πNo.1
「いやいや、僕ら存在を忘れられてるかと思ったら意外と覚えられてたね。一年ぐらい無断欠勤して海外旅行してたのに」
「わんだほー」
路上にいた二人の身体が、何かに掴まれ引き上げられるように空高くへと舞い上がる
遥か上空から町の一角を見下ろし、住宅地の一角に茂る大樹の姿を確認する
「とりあえずあれを隠せばOKと。そんじゃま、いきますよー」
「やいさほー」
空高くで二人を掴まえている、紐のようなものが絡み合った奇妙な物体
そして透明でありながらそこに存在するピンク色のユニコーン
あらゆる情報を偽装する『フライング・スパゲッティ・モンスター』の契約者と、認識感覚を操作する『インヴィジブル・ピンク・ユニコーン』の契約者
『組織』きっての情報隠蔽の能力者であるものの、例に漏れず勤労意欲はこれっぽっちも無く、たまたま気が向けば働かない事もない程度の難儀な存在である
もっともそんな難儀さすら偽装して、その能力が必要な時でも近場に居合わせないとその存在すら誰も思い浮かべる事は出来ないという、最早何の為に『組織』にいるのか判らない連中だったりするのだが
「まーなんていうかさ、誤魔化してばかりじゃ物事って進展しないよね。戦わなきゃ、現実と」
「じぇろにもー」