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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-10

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 徹心のおっちゃんが告げた組織の漢字の綴りを千勢姉ちゃんに教わっている間に、Tさんが確認するように呟いた。
「≪神智学協会≫……」
「Tさん知ってんの?」
 俺はさっぱり聞いた事が無い名前だ。
 Tさんはこともなげに言う。
「ああ、神秘学系の哲学団体だな。――普通の社会の中では、だが」
「?」
「都市伝説の実在を知らない者達が作っている神智学協会という組織がある上で、都市伝説として語られる神秘を実際に扱う組織としての≪神智学協会≫があるということだ。
 そのあたりは≪フリーメーソン≫などと変わらんな。著名な秘密結社の性質だろう。一般社会に対して都市伝説の存在を隠すための身代わりにもなるし、一方で噂を広げる看板にもなる」
 な、なるほど……。分かった気がしないような気がしないでもないぜ!
「ところで、有名な〝秘密〟結社って日本語としてどうなんだ?」
「言葉の定義が違うんだ」
 Tさんが苦笑して、徹心のおっちゃんがその通り、と話を継ぐ。
「数年前まで≪神智学協会≫は世界中にその勢力を伸ばして、日本にもロッジと呼ばれる出張所を持っていたけれど、現在は中枢部の勢力を残すのみになっている」
「何か問題でもあったのか?」
「内紛がな」
 千勢姉ちゃんが補足を添えた。
「内紛とは言っても、実際には他勢力を潰して身軽になろうとする中枢部とそれに反抗するその他の派閥の戦闘に、情報を聞きつけた僕達≪組織≫T№が高坂君や≪組織≫から徴用した兵力を用いて介入した、けっこう大きなものだね。結局、中枢部――オルコット達を壊滅させるには至らなかった」
 オルコット……さっきも出てた名前だ。確か≪神智学協会≫をまとめてる偉い奴だっけか……。
「そのオルコットって野郎が他の勢力をぶっ潰して、今の≪神智学協会≫の全部を手に入れてるんだよな?」
 うん、と徹心のおっちゃん。
 なるほど。詳しくはさっぱり分かんねえけど、結果だけ見りゃあオルコットの一人勝ちってわけだ。
「それは分かったけどさ、なんでまたおっちゃん達が余所の内紛に介入なんかしたんだ?」
 勝手に争うなら争わせときゃいい気がするんだけど。
「そうもいかなかったんだよ。T№は、≪神智学協会≫に対しての抑止力として存在していたんだよ」
「また過去形なの?」
 フィラちゃんがモニカを抱き締めながら首を傾げる。
「今は≪組織≫から借り受けた兵は皆いなくなってしまったからね。僕がもともと個人的に恃んでいる高坂君がいるだけだから、実質T№は無くなったようなものだ」
 そう言って眉尻を下げ、困ったような顔をする徹心のおっちゃんは頼りなさそうな癖して妙に強い意志を感じさせる語調で言葉を重ねた。
「でも、彼は……彼等は僕が止めなければならない」
「さっきからモニカのお爺さんの事といい、ユーグの事と言い、やけに敵の事を知ってそうな口ぶりね?」
 フィラちゃんが追及するように言う。
 そうだ。会話の端々で徹心のおっちゃんの≪神智学協会≫の奴らに対する言葉は、どこか知り合いの事を話してるような印象を受ける。
「そうだね……」
 徹心のおっちゃんは、苦いものをかみしめるような、眉間に皺を刻んだ笑みを浮かべた。なんか余計にくたびれたような印象を受ける。
「それはそうだ。元々僕と≪神智学協会≫の長、オルコットやその側近だったエルマーは、友人で戦友なんだからね」


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 徹心の発言を受けて腰を浮かしかけたフィラちゃんを、Tさんは制した。
「待て、藤宮由実。この男には今の所害意は見られん。話だけでも聞いておいた方がいいだろう」
「でも、」
「公園で受けた襲撃、あれが≪神智学協会≫という組織単位での行動だった場合、モニカは今後用心しなければならなくなる。話だけでも聞いておくんだ」
「フィラちゃん……」
 モニカが不安気にフィラちゃんを見上げる。
「……分かったわ」
 フィラちゃんは座り直して、警戒心も露わに徹心のおっちゃんを睨んだ。
「――で、そのオルコットっていう人と友人だったのはいつなの? 敵対の理由は? モニカはユーグや≪冬将軍≫――≪神智学協会≫から何故追われているの?」
「答えられる質問から順番に答えて行こう」
 徹心のおっちゃんは話の順番を考えるような間を置いて、フィラちゃんの質問に答え出した。
「僕とオルコット達が友人だったのは、そう、もう随分と昔の話だ……第一次世界大戦が始まるもう2世代程前だったかな?」
 ……は? えーと、世界大戦はたしか〝行く人死ぬぞ世界大戦〟だから1914年で…………!?
「おっちゃん何歳!?」
「うーん、歳を数えるのはもうやめてしまったけど、たしか200位にはなるんじゃないかな。これでも高坂君よりは遥かに年下――」
「あ?」
 ≪壇ノ浦に没した宝剣≫が床を削る音がした。
「――いや、うん。なんでもない。……まあ、こんな異界を持つ都市伝説と契約しているのだしね、これくらいは御愛嬌かな。そして仲違いの理由だけど、そうだね……」
 徹心のおっちゃんは難しい顔で唸って、俺達に問いかけてきた。
「君達は≪拝上帝会≫という組織を知っているかい?」
「……いや、これぽっちも分かんねえ」
「≪太平天国≫の前身だったな」
 Tさんが答えて俺とフィラちゃんはああ、と得心する。
 リカちゃんとモニカは分からないみたいで疑問符を浮かべていた。
 ……ふっ、子供は知らねえだろうなっ! つい先日まで受験生だった俺を嘗めるなよ!
「――で、≪拝上帝会≫って何したんだ?」
 ≪太平天国≫の方は確か、でっけえ乱を起こしたって事だけは歴史の教科書に載ってたから憶えてるんだけど、≪太平天国≫を名乗る前の事なんてさっぱりだ。ってか≪太平天国≫も都市伝説が関わってる組織だったのか……。
「≪拝上帝会≫は最大の世界宗教の流れを受けて中国で発足した組織だな。上帝を至高存在として組織全体の統率者を曰く天帝、または天王。
 差別や対立のない世界を理想として、厳格で禁欲的な戒律を掲げていたように思うが」
「その通りだよ。僕とオルコットは≪拝上帝会≫内の都市伝説契約者でね、それぞれ上位の地位にあった。≪拝上帝会≫は国や宗教と対立しながらも理想に向かって徐々に成果を上げていたんだ……≪太平天国≫が建国されて天京――今の南京が首都とされる前までは」
「えーと、つまり反乱を起こしたのは失敗だったって事でいいのか?」
 教科書に載っていた太平天国の乱を脳内で思い出しながら言う。……たしかとんでもねえ数の犠牲者が出たんだっけか。
「そうではないかな」
 徹心のおっちゃんは緩く首を振った。
「≪太平天国≫の長、天帝は都を手に入れてから、自身が掲げ続けていた理想を忘れたかのように奢侈に明け暮れて驕溢していった」
「しゃし?」
「きょーいつ?」
「遊んで偉そうにふんぞり返っていたんだ」
 千勢姉ちゃんがモニカ達に補足する。徹心のおっちゃんは難しかったね、と失笑して頷いた。
「そうなると、当然人心は離れる。僕もオルコットも、天帝におもねって腐敗していく組織内部に愛想を尽かしてね、同じように愛想を尽かした連中と共に≪太平天国≫を離脱したんだ。
 モニカのお爺さん、エルマーと出会ったのはその頃かな」
「≪太平天国≫を抜けた後なの?」
「うん。エルマーは≪テンプル騎士団≫という――そう、当時はまだ教会も彼等の名誉回復を認めていなかった筈だから、相当悪名高い都市伝説と契約していたことになるね」
 Tさんが公園で言っていた事を思い出す。神様の名義で無茶苦茶に暴れてた人達、だっけか。悪魔崇拝をしてるっていうのも都市伝説の性質に入ってたはずだし、あの数だ。かなりのインパクトがありそうだ。
「エルマーってじいちゃんと騎士のおっちゃんとはどうやって仲間になったんだ?」
「簡単だよ。エルマーもユーグも≪拝上帝会≫の噂を聞いてやって来ていたらしい。そこでなら自分達の存在も広くは知られていないだろうから追われる事もないだろうし、力を正しく使えるだろう。と考えてね」
「だが≪拝上帝会≫……その時にはもう≪太平天国≫か。――≪太平天国≫はどうしようもない程に腐敗していた」
「そう。そして、それを聞いたエルマーは、僕やオルコット達と一緒に≪太平天国≫、その腐敗の原因である天帝を誅殺する事を決意して、反乱に加担した≪太平天国≫の構成員の中でも立場的に偉かった僕とオルコットが全体の指揮を執って戦った。――あとはまあ歴史通りに見てもらって構わないよ。大量の人々が死んでいく大きな内乱が発生している裏では、僕たちも天帝を討つ為に血を流していたんだ」
「歴史の裏ね……」
「知っても詮無い事だぞ、フィラちゃん」
「でもよ、それで天帝は倒せたんだろ?」
 歴史の教科書的には、≪太平天国≫はもうとっくに滅びてるんだからそれは間違いないはずだ。目的は達成できたんだと思う。
 ――あれ? じゃあ、
「なんで今そのオルコットって奴と敵同士になんかなってんだ?」
 そうだねえ、と言って徹心のおっちゃんはやるせなさそうな息を吐いた。
「≪拝上帝会≫や≪太平天国≫が掲げていた理想。それは悪いものではなかった。そう僕は思っている。
 ただ、その理想を徹底して世界をよりよくする為には、人が指揮を執っているようでは駄目なんだ」
「≪太平天国≫の天帝のように、人はやがて歪んでしまうと?」
「人は身に過ぎた権力や暴力を持つと、その力が持つ毒に中てられて狂うんだ。
 故に人はその治世を永く維持する事が出来ず、争いがおこり、無辜の民が犠牲になる」
「その小難しそうな話とおっちゃん達が敵同士になった事になんの繋がりがあるんだよ?」
「オルコットは天帝が誅殺された後、しばらくして≪神智学協会≫を設立した」
 ここにきて、今日Tさん達が戦った奴らの所属組織の名前が出てきた。
「≪神智学協会≫は人種、信条、性別、階級、皮膚の色の違いにとらわれることなく、人類の普遍的な同胞団の核となること。比較宗教、比較哲学、比較科学の研究を促進すること。宇宙の未解明の法則と人間に潜在する能力を調査すること。これらを標榜しているのは、さっきも言ったね」
 細かいところまでは憶えちゃいないけど、大体は憶えてる。皆で頷くと、徹心のおっちゃんは会釈して、続けた。
「人類の普遍的な同胞団の核になって様々な研究に力を注ぎ、結果として未解明の法則や人間の潜在的な能力を調べ上げる事。
 ――これらの事は全て一つの事を示している」
 つまり、
「都市伝説の研究だ」
 徹心のおっちゃんの言葉を聞いて、Tさんが思慮深気に訊ねる。
「≪神智学協会≫の目的は、都市伝説の研究なのか?」
「いや、それは手段だよ。だからこそ、もう不要になった巨大な研究機関としての≪神智学協会≫をオルコットは内紛でほとんど潰してしまったのだからね」
「じゃあ、目的は一体なんなの?」
 焦れたように問いかけるフィラちゃんに、徹心のおっちゃんは告げた。
「世界の在り方の改変だよ」


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「世界の在り方の……改変?」
 怪訝そうなTさんに千勢姉ちゃんが頷く。
「≪拝上帝会≫の掲げていた理想は差別や対立のない世界。その実現は今存在している世界を書き換える事に他ならん。オルコットは元々徹心と同じ≪拝上帝会≫の一員だった。そして理想が腐敗した後もオルコットは天帝の下で甘い蜜を吸う事無く、理想を放擲した天帝を滅ぼす側に回った。オルコットは理想を本気で目指していた人間の一人だったわけだな」
「そして、その理想は彼の中で未だ生き続けている」
 そう言って、徹心のおっちゃんは深刻そうに額に皺を刻んだ。
「その理想が、世界の在り方の改変ってこと?」
「そうだ。そしてオルコットは、人ではその理想を成し遂げる事は不可能だと愛想を尽かした末、結論した」
 それは、
「大きな力を持つ都市伝説達を研究することで、都市伝説に世界の書き換えと、以後の世界の維持を任せる事ができるようにしようと……。
 オルコットはそのために≪神智学協会≫を立ち上げて、そして人道に悖る実験や研究を断行してね。当時僕やオルコットと共に戦ってくれた人たちも、半ばがオルコットのやり方に反対した。――僕も反対だった。人に生み出された都市伝説が人を支配するという図式にどうにも納得ができなくてね」
 急激に話がヤバい方向に向いて来た気がする。世界の改変なんていう、俺のような人間にはよく分からない事の重大さが、今まで俺が関わってきた都市伝説関連の事件から得た経験によって、おぼろげに理解出来てくる。
「≪神智学協会≫やオルコットと決別した僕は、その後数十年、共に≪神智学協会≫を離れた同胞と一緒に陰日向になってオルコットの監視、場合によっては妨害を働いた。
世界規模にまで成長した≪神智学協会≫に政治的に対応するために、出来たてだった頃の≪組織≫にも参入してね。T№の長に就けたのは≪太平天国≫で天帝の禁軍、なんて偉そうな名前で呼ばれていたおかげだね。名目上は他組織に対する牽制要員。実際には≪神智学協会≫が無茶をしないように監視し、暴挙を起こした場合にはこれを鎮圧する役を請け負っていたんだ」
 これで話は一旦終わりだと言うように深く息を吐いたおっちゃんに、Tさんが訊く。
「都市伝説による世界の在り方の改変、そしてその維持か……具体的な方法は分かっているのか?」
「残念ながらこれがさっぱりでな」
 千勢姉ちゃんが首を振って、徹心のおっちゃんが付け足す。
「だけどあれだけ巨大だった≪神智学協会≫を内紛を起こして潰し、身軽になったんだ。手段にはアテがあるんだろう」
「そのアテが……モニカだって言うの?」
 呆然としたようにフィラちゃん。
「このタイミングでモニカ君が狙われた所を見ると、どうもその考えが正しそうなんだ。元々、数年前に≪神智学協会≫からモニカ君達が逃げ出した時の追っ手の陣容は尋常ではなかった。≪道案内する死霊≫をご丁寧に憑かせていた辺りも合わせると、モニカには何かあると僕は半ば確信している」
 物を見るような言い方であまり好ましく無いけどね。と徹心は言って目を僅かに伏せた。
 なんか話を聞いてると、都市伝説使って世界の在り方の改変とかやばそうだ。そう思いつつ、俺は挙手して意見を言ってみる。
「あー、どっか他の組織とかさ、そうでなくてもこの≪組織≫内からでも、応援ってもらえねえの?」
「それは厳しいな」
 千勢姉ちゃんが言って、周りの大人達が一様に頷いた。
「どーしてなの? みんなでやった方が安全なの」
 まったくだ。
 リカちゃんや俺の疑問に、千勢姉ちゃんはどう説明したものか、と苦笑して、俺達を取り巻く周囲の状況を話し始めた。
「……傍から見れば、今の≪神智学協会≫など内紛で弱体化した組織という印象しかない。だが実際には内紛で規模こそ縮小されたものの、頭目とその側近たちは誰一人欠けてはいない。それが≪神智学協会≫の実情だ」
 しかし、
「こう話したところで力を借りる事になる組織が正しく状況を理解して相応の戦力を供出してくれるとは思えん。現状ではモニカが本当に≪神智学協会≫に狙われているのかも分からないことだしな。そして半端な力しかもっていない者が助力に来るようでは≪冬将軍≫に取り込まれてしまうのがオチだ。
 それに、≪神智学協会≫側が研究成果を餌にして寄せ集めの集団を切り崩しにかかって来る可能性もある。前方に強大な敵が居るのに背中を討たれる警戒もしなければならないというのはごめんこうむりたい。
 そしてもう一つ」
 千勢姉ちゃんはそう言って、モニカに目をやった。
「モニカの今後の事を考えると、モニカの価値を――それが何かは今は分からないが――あまり喧伝するような事態は避けたい。
 まあ、そんな理由で外部の手は借りる事ができんのだ。下手に他所に働きかけるくらいなら、私達自身の手で≪神智学協会≫を潰すなりモニカを護るなりした方が賢い」
 徹心のおっちゃんも頷いた。
「さて、僕たちが話す事が出来るのはこれくらいだ。オルコットや≪神智学協会≫が日本に来た目的が今もって不透明な今、モニカ君の両親が必死になってモニカ君を逃そうとしたことがそれに深く関わっている気がしてならない。少なくともモニカ君に今危機が迫っている事は確かだ。≪神智学協会≫について行くとどんな目に遭わされるかわからない。よくよく気をつけて、そして自分の状況を受け容れて欲しい……」
 そう締めくくって、徹心のおっちゃんは長く息を吐き出した。




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