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連載 - 騎士と姫君-30

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「星祭りと子どもたち」


 七月七日、それは年に一度の星祭りの日。
 普段は親子二人慎ましやかに暮らしている鮫守家であるが、この日はうって変わって賑やかな声であふれていた。

「うー、つるおれたー!」
「僕もー!」

 二人の少年が自信たっぷりに掲げたのは、少しいびつな二つの折り鶴である。
 それだけではない、かたわらにはすでに色とりどりの折り鶴が小山をなしている。

「わあ、二人とも上手にできましたね。じゃあ次はこっちの折り紙を切ってくれますか?」
「うー!」
「よーし!」

 次なる任務を与えられて我先にと飛びつく彼らに頬を緩めながらも、彼女は再び手元の作業へと注意を戻す。
 作りかけの千羽鶴は半分に到達していたものの、完成まではもうしばらくかかりそうな気配であった。

 去年の秋祭り以来しばらくお世話になってからというもの、彼女と鮫守家とは家族ぐるみのつきあいが続いている。
 途中彼女の都合で半年ばかり間があいたりしたものの、彼女らにしてみれば些細なものでしかなかったらしい。
 今日も久しぶりに泊まりに来ないかとというお誘いを受け、鮫守家にお邪魔することとなったのだった。
 折しもこの日は七夕、ならばせっかくだし七夕飾りも作ってしまおうという彼女の発案で、現在に至るというわけである。

「あーあ、そんなんじゃせっかくのお飾りがよれよれになっちゃうよ」
「うーうー、ジャックのだってだんだんななめになってる」
「こ、これはまっすぐに切れてるからいいんだよ!」

 時折そうしてぎゃいぎゃいと騒ぎながらも、二人は真剣な面持ちではさみを走らせていく。
 端から見れば兄弟か、それとも同じ年頃の友達同士といった様子に、思わず彼女はくすりと笑みをこぼしてしまう。

 ジャックというのは、≪夢の国≫からやってきた幽霊少年の新しい呼び名である。
 いつまでも「君」だの「あなた」だのでは不便だからという申し出に、意外にも少年はあっさりとその話に乗ってくる。
 最終的に「ジャックが良い」という彼の一声で、彼は新しい名を手に入れたのだった。

 ジャックといえばジョンなどと並び、英語圏の男性名としてかなりありがちな名前の一つだ。
 しかし何でも彼が憧れる人物の名前でもあるらしく、決まった当初はひどく嬉しげにしていたものだ。
 そういえば元居た館ではなんと呼ばれていたのかとも聞いてみたのだが、名前のあるものもいればないものもいたから特に気にしていなかったのだとか。

 少年もかつての古びた洋館では一番の年下だったらしい。
 周りは年上のゴーストたちばかりだったけれど十分楽しく暮らしていたのだと、以前彼自身が語ってくれたのを思い出す。
 そのためかたまに大人びた物言いをしてみせたりもするが、こうしてはしゃぐ姿はやはり年相応のもの。
 それに同じ年頃の相手というのは、一番気心の知れる間柄でもある。
 この町に来てからそういった相手に事欠かない環境を、どうやら少年は心から満喫しているらしい。
 紙の切り方でどちらがうまいかという比べあい、ジャックにとってはそれですら楽しくて仕方ないのだろう。
 そんな彼らを眺めているだけで、彼女自身なんとも微笑ましい気分にさせられてしまうのだった。

「って、私もさっさと作っちゃわないと」

 はたと我に返り、慌てて針と糸とを持ち直す。そろそろ竹が来る頃だし、いい加減完成させてしまわねば。

 折り鶴の下側、折った境目から背中に抜けるようにぷつりと針をさし、静かに糸を通す。間にストローを短く切ったものを挟み、また鶴を通す。
 それを繰り返していけば、鶴の連なった糸の出来上がりである。それにあらかじめ完成していたものを束ね、しっかりと上部で結ぶ。
 そして一番下の鶴の下からわざと少し残しておいた糸の先に小さな短冊を結びつければ、小さいながらも千羽鶴が完成した。

「よし、できた!」
「うーできたー!」
「出来たー!」

 ちょうど二人の作業も終わったようで、歓声を上げながらもそれぞれに出来たものを持ち寄って駆け寄ってくる。

「僕の方がまっすぐにできたよね? ね?」
「うー! 僕のがきれい!」
「ふふ、どっちも上手に出来てますよ。じゃあいよいよ短冊に願い事を書いてもらいましょうか」

 笑いをこらえながらもそう声をかければ、たちまちぱあっと二人の顔が輝いた。
 特にジャックは初めての体験だからか、今か今かと落ち着かない様子ですらある。

「お願いって何でもいいの?」
「もちろん。ただし原則一人短冊一枚に一つまでですけど……えーと書くものが」
「うーうー! 僕、クレヨンあるー!」

 用意していたペンを探すよりも幸太がクレヨンの箱を取り出す方が一足早かった。
 こういう時の子どもの行動は素早いもの、クレヨンを片手に得意げに胸を張っている。

「じゃあそれでお願いしますね」
「うー! はい、ジャック!」
「うん!」

 クレヨンを手に取ると、早速子どもたちは思い思いの場所で短冊を前にする。ようやく一息がつけそうだ。
 出来上がった千羽鶴をかたわらに寄せ、先に作っておいた他の六つの七夕飾りと一緒にしておく。
 これは彼女の母の地元に伝わる飾りで、『七ツ道具』と呼ばれているものらしい。
 先ほど作っていた千羽鶴や吹き流し、紙で作った着物や巾着袋など、おそらくこちらではあまり見ない飾りであろう。
 それぞれ異なる願掛けの意味あいもあり、単なる飾りに止まらないものだ。
 ネットで調べた作り方と小さい頃母と一緒に作った記憶をたどりながらではあったが、我ながらなかなかの出来映えになったと思う。
 あとは竹が到着次第飾り付けをして……

「うー、おねーちゃんはお願い書かないの?」
「えーそんなもったいない! じゃあ僕がかわりに」
「ちゃんと書きますから大丈夫です」

 ちぇ、と悪態をつく少年を尻目に淡い水色の短冊を一枚選び取り、今度こそペンを取り出そうとして――ふといつの間にかかたわらにいた幸太と顔を目があった。
 不思議そうに首を傾げる彼女を見つめると、少年は顔いっぱいに笑顔を浮かべて勢いよくクレヨン箱を突き出した。

「うー! おねーちゃんもどーぞ!」

 こんな無邪気に笑いかけられて、断れるはずなどない。
 ペンへとのびかけていた手を引っ込め、じゃあ、と青のクレヨンを手にすればさらに嬉しそうに笑ってみせる。
 そんなそぶりだけでこちらまで幸せになってきてしまうからたまらない。

「ねー、おねーちゃんは何をお願いするの?」
「んー……それは飾り付けするまで秘密です」

 そう悪戯っぽく微笑んでみせると、すかさずジャックの不満げな声が飛んでくる。
 どうやら彼としてはすぐにでも見せ合いする気満々だったらしく、むくれた様子で短冊を握りしめている。

「見てから飾ったっていいじゃん! 減るものでもないんだし!」
「え、だってやっぱりこういうのはお願いする神様に一番に見てもらわないと」
「うー、神さまいちばん?」
「そう、だからみんなにはその後で。ね?」

 減るものでもないんだし、と先ほどのジャックの言葉も付け加えてやる。

「あーもうわかったよ! じゃあ早く飾っちゃおうよ!」
「うー僕も飾るー!」
「はいはい、じゃあみんなでホロウさん迎えに行きましょうか」

 その言葉に今日何度目かの賑やかな声が起こり、少年たちは転がるように玄関へと駆けていく。
 それを見送るとようやく短冊へ向かい、さらさらと願い事を書き付けていく。

「……これでよし、と」

 出来映えを眺め満足げにうなづき、出来あがった短冊をテーブルに置いて立ち上がる。
 案の定すぐさま催促の声が飛んできて、慌てて彼女も玄関先へと消えていったのだった。

*



 彼女らが去ってすぐ後、不意の風に吹かれて青い短冊が宙を舞う。
 あわや開け放たれた窓から外へと飛んでいきかけたそれを、すんでのところで大きな手がつかみ取った。

「ととっ……ふう、危なかったわ」

 ほっと安堵の息をついたのは、何ともきらびやかな人であった。
 一見すれば妙齢の女性にしか見えないものの、名を虎吉というれっきとした男性である。

「あの子たちどこ行ったのかしら、せっかくだから顔だけでも見ていこうかと思ったのに」

 辺りを見回し、残念そうにつぶやく虎吉の目にとまったのは先ほどつかみ取った短冊。
 くるりと返してみると整った筆跡が並んでいて、まあ、と嬉しげに彼女の目が細まった。

「『みんなが元気で楽しくすごせますように』……あの子らしいわね」

 ふふ、と知らぬうちに頬を緩ませていると、にわかに外が賑やかになる。
 その中に息子の笑い声が混じっている事に気がつくと、虎吉の笑みがさらに深まった。

 夜の勤めばかりでいつも出迎えてもらってばかりの自分も、たまには子どもたちを出迎えてあげようか。
 そんなことを考えつつくるりときびすを返すと、彼女もまた足早に玄関先へとおもむいたのだった。


<END>


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