「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-Hさん報復記-01

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 そろそろ夏もキツくなってきて日が傾いても一向に気温が下がってくれない。扇風機よりもクーラーの力を借りたい今日この頃。
 俺は夏休みを数日後に控えて半ドンになった高校から最後の夏休みということもあってか、なんかたんまり出された宿題に頭を抱えている状態だった。チクショウめ。
 Tさん手伝ってくんないしなー。
 ともあれ、夏休みになろうとそれはやっぱ日常の延長だ。日々必要な物はやっぱり必要、学校に行かない分要る量は増える。そんなわけで食材その他消費物日常雑貨を買い込みに行こうとTさんとリカちゃんと三人連れだって南区のスーパーにでも行こうかと思っていた。
 その道中で不意に鞄の中からリカちゃんが声をかけてきた。
「お姉ちゃん」
「んー、どうした、リカちゃん?」
「あれ」
 そう言ってリカちゃんが鞄の縁から身を乗り出して手を伸ばした。
「ん?」
 俺はリカちゃんが示す先を見る。そこにはこのクソ暑い中、ダイエットかなんかなのか、ご苦労な事に必死で走ってるっぽい姉ちゃんが居た。
 ――ってあれはたしか……、≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃん?
「Tさん、あれ、携帯の兄ちゃん……ってか、姉ちゃんだよな?」
「そのようだな」
 まさかと思って隣のTさんに訊ねるとTさんは頷いた。
 それこそ日が落ちて来てるとはいえこの夏のクソ暑い中、なんか必死に突っ走ってるみたいだけど……なんかあったのか?
 そんな事を思っているとTさんもなにかおかしいと感じたようで、
「……一人でいる姿を見るのは、珍しいな」
「だよなあ」
 どうもあの中央高校の時のイメージからして、あの姉ちゃんは、
「≪13階段≫の兄ちゃんと一緒のイメージがあるよな」
 あの姉ちゃんは元々男だって言うし、まあ、つまりその……なんだ? 禁断の愛? ……いや、今は女になってるからそうでもないのか?
「あの男はその呼び名を嫌うようだ、辰也と呼んでやれ」
「おう」
 そういや中央高校の時もそうだったな。センチメンタルな野郎だなーと思いながら返答する。
 と、Tさんが不意に表情を険しくした。
「ん……?」
 何かを探るようにあちこちを見回し始める。
 どうしたんだ? と声をかける直前、リカちゃんが鞄から飛び出て来てTさんの袖を引いた。
「お兄ちゃん!」
「リカちゃん、視えるか?」
 言いながら≪ケサランパサラン≫の力を使ったのか目に光を宿して≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんが走ってった方向をTさんは見据えた。
「うん、かくれるのへたくそさんなの」
「そのようだ。ああも巨大では……な」
 空気が緊張してる感じがする。俺はなにかまたロクでもない事が起こってるんだろうなと半ば予測しながら「どうした?」と訊いてみた。
「ああ……」
 Tさんは尚も≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんが走り去って行った方向を見て、
「リカちゃん――」
 リカちゃんに指示を出し始めた。


            ●


 ソレは巨大な蛇だった。
 ソレは獲物を追っていた。追いすがるのは一人の女、必死に走っているようでこちらに気付いてはいないようだ。
 ――追イツケル。
 ソレは余裕と共に思う。と、突然獲物から電子音が鳴り響きだした。
 ――?
 獲物は小型の通信機をとり出すとそれを耳に当て始めた。通信先の相手に獲物は何やら驚いているようだ。
 何らかの行動を起こされる前に襲いかかってしまおう。ソレはそう思い、獲物を喰らおうと飛び出す。ソレの姿を見た獲物は驚きに目を瞠り、足がもつれたのか地面に倒れる。好機だ。
 ――捕ラエタ!
 ソレが狩りの成功を愉悦と共に思った瞬間、忽然と人間が姿を現した。
 ――!?
 人間は男女の二人、片方は女、頭に児童向けの人形を乗せた女はソレを見て驚いたように目を丸くしている。もう片方は女よりもいくらか年嵩に見える男、どこか底の知れない瞳を鋭く向け、悠々とソレと獲物の間に立ちはだかっている。
「わたしリカちゃん、今お姉ちゃんの後ろに居たの」
 そう声を発したのは少女の頭に乗っている人形だった。少女はソレを指さし、
「なんだなんだ、この蛇は? でっけえなおい! ――食えるのか?」
 最後の言葉は隣の男を見て発されたものだった。男の方は冷静に、
「さて、都市伝説で、更にこれは毒蛇だからな。あまり食おうとは思えんが」
 そう答えながら一歩前に出て、迫りくるソレへと告げた。
「お前が襲おうとしているこの娘、知己でな。退く気はないか?」
 ソレは言葉を無視して勢いを殺す事無く接近を続ける。
 何という事は無い。獲物が増えただけだ。食ってしまおう。
 ソレは彼等を獲物と軽侮した。
 ――食オウ。
 改めてそう思い、大きく口を開く。人など丸呑みにできる程の大きさを誇る口だ。男も女も人形も当初の獲物も、まとめて一呑みにしてしまえば良い。
 ソレは勢いのままに突撃する。
 ――モラッタ!
 それらの判断全てがソレの敗因だった。


            ●


 でっかい蛇がTさんの光弾に容赦なく吹き飛ばされた。
「寺生まれってスゲェ……」
 俺は粉々になって吹っ飛んだでっかい蛇が居た方をみて呟いた。やったことは単純明快、リカちゃんの能力で姉ちゃんの携帯に電話をかけて姉ちゃんの背後に回り、正面から蛇をTさんが迎え撃っただけだ。
 ……まあ何の説明も無く一気に口おっぴろげたでっかい蛇のまん前に立ちはだかるとかいう状況に引っ張り込まれたのはアレだ。緊急事態だったっつーことで大目に見てやろう。
 それはそれとして、
「ひっさしぶり~。姉ちゃん、大丈夫か? ってか余計な世話じゃなかったか?」
 翻って≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんに声をかける。姉ちゃんも携帯電話絡みの都市伝説と契約してるから邪魔してなけりゃいいけど。
「だいじょーぶなの?」
 リカちゃんも俺の頭の上から声をかけている。
「っ、あ……ああ」
 息を整えながらの吃音気味の返事、顔色がよくなさそうに見えるけど以前もこんな感じだったような気がする。あの蛇は毒持ちだとかいう話だし、姉ちゃんが実際どうなのか俺にはどうも判断がつかない。
「Tさん」
 任せた。と言って背中をぽんと叩く。
 Tさんは辺りを確認するように見回した後に姉ちゃんへと目を向けて、
「毒は受けていないな?」
「あ……ああ」
 頷きが返る。それにTさんは頷き返して、
「先程の蛇、どうも野良の都市伝説ではなく何らかの指示下にあったように見えるが――何か襲われる心当たりはあるか?」
 反応ははたで見てる俺が驚くほど劇的だった。姉ちゃんは焦ったように表情を強張らせ、
「え………あ、びょ、病院……急いで……辰也……!」
 その様子はどうも、
「蛇におっかけられてて必死に突っ走ってたわけじゃなさそうだぜ?」
「そのようだな」
「一体なにが姉ちゃんに起こってんだ?」
 姉ちゃんの様子にTさんは思案気に眉根を寄せて数秒、しっかり姉ちゃんの手に握られている鞄に目をやる。
 Tさんがそれを手に取るのを見届けると俺は姉ちゃんを立たせて身体に付いた砂利を払ってやった。
 どうも買い物は別の日に回す事になりそうだな。
 そう思いながら俺が首を縦に振るとTさんも同様に応え、
「――さて、どこに行くのかは分からんが」
 安心させるように口許を緩め、
「急いでいるんだろう? ≪13階段≫……辰也の代わりにボディーガードを請け負わせてもらおうか」



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