「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-22

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 ≪神智学協会≫との戦いから一週間が経った。
 皆けっこうな怪我をしてたのにこの短期間で怪我を動くのに問題無いレベルにまで治しちまうあたり、規格外過ぎて自分の中の常識を疑っちまう。
 ≪夢の国≫は一週間の間にもう完全に建物とかは直しちまったらしい。石畳なんて新品同様だ。夢子ちゃんはまだフロートが直しきれてないと言ってたけど、話に聞いた荒れ具合からすると、こっちも建築技術とかの常識をぶっちぎってる気がする。荒らされまくった≪桃源郷≫の方はまだ直りきってない所からみても≪夢の国≫がいろいろとおかしいんだろう。
 ≪夢の国≫の住人はまだ半分くらいが動けない状態らしいし、徹心のおっちゃんのとこの≪キョンシー≫達は半分以上が完全にやられちまってるらしい。それだけでもあの戦いの被害は大きかったと思う。
 で、今俺達は≪夢の国≫で子供達の遊び相手をしていた。
「……何故、私も……」
 騎士のおっちゃんがまだ少し痛むらしい右腕を庇いながら微妙に居づらそうに呟く。
「人手は多い方がいいだろう? ユーグ」
「しかしなTさん……」
「ユーグおじさん、次あそこに行こう!」
 おっちゃんはさっきからモニカにあちこち連れまわされてはいろいろとアトラクションに乗っているらしい。モニカの周りには夢子ちゃんが連れてきた他の子供たちがいつの間にか集まっていて賑やかだ。由実が妙に手慣れた様子で子供をまとめている。≪首塚≫で慣れてるのかな?
 ちなみに本日の≪夢の国≫一日お手伝いの会っぽい何かはあの戦いに参加した奴ほぼ全員参加だ。
 ただ将門だけいない。組織の長は忙しいらしいし、夢子ちゃんとしても、「雷の落とし過ぎで相当≪夢の国≫が荒らされてしまいました」とご機嫌斜めなようなのでしょうがない。うーん、それにしても夢子ちゃんも言うようになったなぁ……。
 Tさんが言うには夢子ちゃんはまた一つ少し成長したらしい。俺にはよくわからんが、なんでも昔を受け容れて、また一つ≪夢の国≫の信望を集めたらしい。
 冬のじいちゃんと戦って何かを掴んだって事だろうか? 夢子ちゃんは冬のじいちゃんからもらったっていう軍人さん仕様の武骨なコートを大事にしまってる。また今度冬のじいちゃんが訪ねてきた時に返すんだそうだ。律義だなぁ……。
「どうした舞? 考え込んで」
「千勢姉ちゃん……、いや、別に考え込んでたわけじゃねえよ……ただみんないろいろとすげえ人だなと思ってた」
「それを言ったら最後のあの無茶な転移の乱用を思いついてオルコットの虚を衝いた舞も十分にすごいさ」
 そう言って千勢姉ちゃんは短くなった髪を揺らして小気味よく笑う。
 姉ちゃんはなんか子供達以上に≪夢の国≫のアトラクションを全力で楽しんでるように思える。ケウがさっきから身体中の毛を子供達に引っ張られて超迷惑そうにしているのを見て盛大に笑い転げていた所からして、たぶん箸が転んでもおかしい年頃なんじゃなかろうかと思いつつ俺も笑っていた事は秘密だ。
「それにしても≪夢の国≫というのは面白いな! 馬鹿息子も良い友人をもったものだ」
「私たちとしてもこれほど楽しんでくださる方がいらっしゃいますと俄然やる気が出てきます」
 夢子ちゃんがこっちも楽しそうにコロコロ笑う。
 需要と供給がうまいこと噛みあってる感じが伝わって来る。
 ケウの助けて欲し気な視線にリカちゃんを放り投げてより困らせる方向に事態を転がしながら、俺はこの一週間の間にあった重大イベントを思い出す。
 二日前、傷もいい感じに治って来たTさんとケウと千勢姉ちゃんは、リカちゃんと俺を連れて≪桃源郷≫の外へと出て、墓参りに行ってきた。
 Tさんの両親の墓参りだ。
 元々はTさん自身が埋葬したらしいけど、今では千勢姉ちゃんの計らいで立派な墓に移し替えられていた。妙に緊張しながら墓前に挨拶する俺に苦笑してTさんは墓に向かってこう言った。
「父さん、母さん、この二人は俺を生かしてくれた人、高坂千勢。俺の育ての親、母さん、という事になるだろうか」
「戦いばかりの世界に引き込んだ体でそう称するのはおこがましいが、御子息は立派になられたよ」
 それからTさんは千勢姉ちゃんの事を一貫して母さんと呼び続けていて、千勢姉ちゃんも馬鹿息子と呼んでいる。
 互いに遠慮していた呼び方をやっと素直に言えるようになったらしい。
 徹心のおっちゃんに言わせればやっと素直になったねぇ。ということで、俺やリカちゃんに言わせれば何をお互いに遠慮しちまってんだかってところだった。
 千勢姉ちゃんとしてはTさんが都市伝説になっちまったという事で負い目があったみたいだから、それを千勢姉ちゃんに引きずらせたTさんが悪いな。うん。
「……ふむ、墓前で馬鹿息子に堂々と愛しい人と言われた時の余熱が残っていると見た」
「何言ってんだよ、別に、んなことねぇ……よ?」
 まあ、全くその事の影響が無いかといえばそういうわけでもない。
 ちょっと慣れない思案にふけまくってるのはその影響じゃないとは言い切れないのがまあ……いいだろ別に。
「お姉ちゃん遊ぼー」
 いつの間にか戻って来たモニカが言う。騎士のおっちゃんは≪テンプル騎士団≫を全員喚び出して子供達の相手をさせているっぽい。リアル(?)メリーゴーランドとかやってて子供達にも好評だ。こういう時にも便利な能力でいいなあ、あの騎士団……戦うよりもこういう事ばっかりしてりゃいい。平和なのが一番だ。
 あそぼー、あそぼーと夢子ちゃんが連れてきた子供達が連呼してくる。この子らはそこら辺から夢子ちゃんが迷子とかを一時的に連れて来ているらしいんだが、この白昼夢みたいな空間をあまり不思議に思ってないみたいだ。≪夢の国≫の力か……? 不思議だ。
「おう! 今行く!」
 大声で応えて俺はそこら辺にいたマスコットとケウの毛を引っ張って一緒に子供達の所へと遊びに行く。


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 日も暮れて≪夢の国≫が子供達をそれぞれの場所へと送り返した。
 俺は石畳にへばってるケウ程じゃないが割とへとへとだ。
 子供のパワーはすごいなぁ、と妙に年寄りじみた事を思っちまう。
「皆お疲れさま」
 Tさんと一緒に上手い具合に子供達の遊んで攻撃を躱して茶を飲んでいた徹心のおっちゃんが労ってくる。
 おっちゃんの右腕は上腕の辺りから先がなくなったままだ。方々手を尽くせばどうにかならないわけでもないらしいけど、おっちゃんは特にこだわりはないらしく、そのうち不便を感じたら義手でも仕入れるということらしい。
 おっちゃんは一仕事終えて一息ついていた俺達を≪夢の国≫のカフェへと案内して飲み物をサービスして、話を始めた。
 今日ここに皆で集まった理由は実はこっちだ。
「皆、一週間前の戦い、重ね重ね尽力してくれたことに感謝するよ」
「高部徹心、それを言い始めたらまた感謝合戦が始まるぞ。本題に入ろうじゃないか」
 飲み物をサーブしてきたTさんが話を促す。「ん、そうか」と徹心も話を始める。
「この一週間の間で今回の戦争に対するだいたいの評価が定まった。その事を今回報告して、この事件の一応の決着としたい」
「……そうか、どのようになった?」
 騎士のおっちゃんが神妙に訊ねる。徹心のおっちゃんは会釈して、
「表に対してはウィリアムが所持していた製薬会社跡に偽装した実験場の崩壊が少し取りざたされた程度で、それも内々に隠蔽した。
 そして裏、いわゆる僕らの方の世界に対してだけど――」
 徹心のおっちゃんは言葉をまとめるように少しの間を置いて、
「オルコット以下、≪神智学協会≫メンバーのほぼすべての死亡、壊滅をもって≪太平天国≫の帝位は僕が形式上引き継ぐという事になった。事実上の僕達の勝利ということになるね」
 騎士のおっちゃんが頷いてモニカがその顔を見上げる。騎士のおっちゃんはそれに微笑みを返して、
「モニカお嬢様やオルコット様の目的、それに≪聖槍≫や≪杞憂≫についてはどうなっている?」
「うん、ばれていないよ。そもそも戦い自体が他者の監視に晒されないように細心の注意を払っていたんだからね。≪杞憂≫はどうやらモニカ君の中で落ち着いているようだ、気にしておくにこした事はないけど、暴走の危険はほとんどないと見ていいだろう。≪聖槍≫は僕が預かっている。これは特定条件がそろわない限りは≪聖痕≫を刻むくらいが限界の≪聖槍≫だ。こちらも特に問題はないだろう」
 そう言って徹心のおっちゃんは晴れやかな顔で締めくくる。
「そして跡は僕が天帝の位を放棄して≪太平天国≫の消滅を宣言すれば全ての因果は一応、決着だ」
 疲れを吐き出すように徹心のおっちゃんは盛大に息を吐き出す。長い間戦ってきたことが決着して一安心したんだろうなぁ……。
「それで、徹心のおっちゃん、ってか皆はこれからどうすんだ?」
 今回の戦いで徹心のおっちゃんやモニカはけっこう難しい立場に立ってたりしていた。この後、戦いを終えたからと言ってその前のように簡単に戻れるとも思えないけど……。
「私とモニカは≪首塚≫を抜けて、千勢が持っていたマンション、あそこにユーグと一緒に住むわ」
 フィラちゃんがそう言ってモニカがうん、と頷いた。
「え? ≪首塚≫抜けんの?」
 俺の驚きにフィラちゃんは頷く。
「ええ、将門様にはもう了解を得ているわ。今回いろいろとあって、≪首塚≫にいるよりも身軽になっておいた方が楽だと思ったのよ。それに≪桃源郷≫の主に≪テンプル騎士団≫、≪夢の国≫と組織クラスの後見人にも困らないからどこか一つ所属しているよりもこちらの方が便利なのよ。千勢が持っていたマンションの部屋の鍵も、もうもらっているわ」
 そう言ってフィラちゃんは鍵を見せる。
「私はどうせあの部屋にはほとんど戻らないしな。あそこは徹心が街の治水に手を貸した時に地元の有力者が礼にと用意させた部屋だ。≪組織≫等には認知されてはいないからその点も気にしなくていいだろう」
「ありがとう千勢、このままある程度の年齢になるまではモニカには学校に行ってもらって、その後徹心さんや千勢のように見識を広げながら人々を助けていくわ」
「わたしはやるよ、みんな。――ね、おじさん」
「はい、私達はそう在ると決めました」
「立派だな。まあ焦らずにやると良い。それとフィラちゃん、私はそんなに立派なもんじゃない、あまり持ち上げんでくれ」
「そういう千勢はどうするの? 部屋に戻らないなんて」
「元々私は定住しない性質でな」
 そう答えて、千勢はそうだな、と考えるような間を開ける。
「私は永らく徹心に返し続けていた恩もこれで満了した事だし、形式的に放りこまれていた≪組織≫の席もT№の離脱宣言と共に無くなった。自由になったんだ、適当に旅にでも出るさ」
「どこか巡るアテでもあるのか?」
 Tさんの問いに千勢は頷き。
「≪神智学協会≫との戦いで戦線を離脱させたT№や古い知り合いを当たるのもいいかもしれんな」
「そうか、少しさびしくなるね……」
 徹心のおっちゃんがしみじみと言って、それに千勢姉ちゃんは、は? と首を傾げた。
「徹心、お前には次私が行くまでに≪桃源郷≫を復興して酒を漬けるという使命があるんだ。厄介払いができたと思うなよ? お前のとこの桃を漬けた酒は流石に極上だ」
 徹心のおっちゃんは微妙に懐かしそうなめいわくそーな顔をして、はいはいとぞんざいに答える。
「僕はオルコットやエレナ君、それにエルマーや秋月君達の墓守でもしながら少しでも理想を目指していくよ。オルコットとは違ったやり方でね」
「酒を忘れるな。……最優先事項だぞ?」
「あーうん、わかったわかった」
「高部徹心、俺も頂きたい」
「君たち母子は……」
「お酒っておいしいの? フィラちゃん、おじさん?」
「いいえ、彼等はあれが燃料なだけです。お嬢様には必要ありませんよ」
「そうよ、普通の桃の方がおいしいわ」
「私も≪夢の国≫の子達もTさんたちみたいには飲みませんね……」
 おお、盛大に呆れられてる。そしてこの母子まったく堪えない。流石だ。
 ともあれ、と徹心のおっちゃんは言葉を繋げた。
「近いうちにTさん達には別に何か贈らせてほしい。今回はとんだ事態に巻き込んでしまったからね」
「おお、そりゃ気になるな、リカちゃん!」
「楽しみなの!」
「うん、少し期待しておいてくれると僕も嬉しい」
 そう言葉を締めようとする徹心のおっちゃんに俺は訊ねる。
「それでさ、徹心のおっちゃん、おっちゃんは死んだりはしねえよな?」
「あははは、これはまた直接的に言うね」
「はぐらかされたらかなわねえからな」
 徹心のおっちゃんは苦笑して大丈夫、と答える。
「死に際のオルコットとの約束もある。それに僕もまだまだ現役のつもりだからね、死にはしないよ。確約しよう」
 徹心のおっちゃんの返答にTさんも千勢姉ちゃんも息を吐く。酒酒言ってたのは気にかけてたから……だよね、たぶん、きっと……。
「オルコットも徹心のおっちゃんもいろいろ失くしていったんだろ? そんで、なんとか踏みとどまった徹心のおっちゃんはともかく、無理を通そうとしたオルコットは最後、一人でTさん達に挑む事になっちまった。あんなのはもう見たくねえぞ?」
 おっちゃんの≪キョンシー≫たちがかつて失くしたものの一つなんだろうと思いながら俺は言う。徹心のおっちゃんは何かに謝るかのように深く深く頷いて、
「――うん、分かってる、いや、ほとんど全てを失ってしまってやっとわかったんだろうね……もう二度と失くさないようにするよ」
「……よし」
 腕組みしつつ頷く俺におっちゃんが訊いてくる。
「伏見君達はどうするんだい? 確か4月から大学に入ると聞いたけど」
 ああそうか、もう3月も終わるのか。急いでいろいろと用意しねえとなぁ……。
「まずは、夢子ちゃんが明日ここを発つって言ってるからそれに合わせて学校町に戻るかな」
 学校町の部屋も解約の確認しねえとまずいし、あと大学に近そうな部屋も探さねえとなぁ……。
 めんどくさいが、やっと日常に戻れるという実感が湧く。
 大変だったけど、忘れられない出会いがあった。
 だから、
「もう二度とこんなのはごめんだけど、でも悪い事ばっかってわけでもなかったよ」
 口にすると皆が頷く。それぞれに忘れられないような事があるんだろうなぁ……。
「お疲れ様、舞」
 Tさんが肩を軽く叩く。
「――ん」
 しっかりと生きて帰ってきたTさんに俺は褒美をくれてやることにした。
「あ」と小さな声がする。「うわぁだいたん」とか「若い」とか聞こえてきたが俺的にはここはまだ非日常なのでセーフ!
「みんな、撮れた?」
 夢子ちゃんが不吉な事を言う。
 振り向くとなんか火炎瓶を投げすぎて丸焦げになったとか笑えねぇ冗談を言っていた世界一有名なネズミがレトロなカメラを構えている。
「撮られたな」「撮られていたぞ」「撮られていた」
 騎士のおっちゃんと千勢姉ちゃんとTさんが三連続で言って徹心のおっちゃんが我関せずで笑っている。
 モニカがフィラちゃんに目隠しされ、ケウが安らかに寝息をたてている中、俺は席をおもむろに立ち上がる。
「いくぞ、リカちゃん」
「はいなの」
 俺は追いかけっこをはじめた。
 ああ平和だ……と思いながら。
 ――割と全力で。






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