はらり、はらり
日も暮れてきた黄昏時
静かに、桜の花びらが舞い落ちる
日も暮れてきた黄昏時
静かに、桜の花びらが舞い落ちる
その風景を静かに眺めながら、朝比奈 秀雄は酒を口にしていた
…なお、マドカは酔い潰れ、秀雄の膝に頭を置いてすやすやと眠っている
…なお、マドカは酔い潰れ、秀雄の膝に頭を置いてすやすやと眠っている
マドカが作り上げてしまった化死窪喪血の騒ぎやら何やら、騒がしい花見ではあるが
秀雄は、その騒ぎにあまり加わる事なく、マイペースに酒や料理を口にしている
元々、騒ぐのは得意ではないし、知り合いが多い訳でもない
…そもそも、つい先日まで、学校町を騒がし、脅かしていた存在である
そうそう、親しい相手がいる訳でもない
むしろ、どちらかと言うと、自然と周りから距離を置かれてしまう事だろう
…まぁ、将門など、そんな事は一切合財気にせず、話し掛けてきたりもしたのだが
秀雄は、その騒ぎにあまり加わる事なく、マイペースに酒や料理を口にしている
元々、騒ぐのは得意ではないし、知り合いが多い訳でもない
…そもそも、つい先日まで、学校町を騒がし、脅かしていた存在である
そうそう、親しい相手がいる訳でもない
むしろ、どちらかと言うと、自然と周りから距離を置かれてしまう事だろう
…まぁ、将門など、そんな事は一切合財気にせず、話し掛けてきたりもしたのだが
とまれ
喧騒に近い場所にいながら、秀雄は静かに、この時を過ごしていた
…自分がこのように穏かな時間を過ごす事ができるなど、つい先日まで、考えた事もなかった
都市伝説への嫌悪感が、なくなった訳ではない
だが、多数の都市伝説が傍に居る状況でありながら、不思議と心がざわつく事は無かった
……己も、随分と丸くなったものだ
ぼんやりと、そんな事を考えていると
喧騒に近い場所にいながら、秀雄は静かに、この時を過ごしていた
…自分がこのように穏かな時間を過ごす事ができるなど、つい先日まで、考えた事もなかった
都市伝説への嫌悪感が、なくなった訳ではない
だが、多数の都市伝説が傍に居る状況でありながら、不思議と心がざわつく事は無かった
……己も、随分と丸くなったものだ
ぼんやりと、そんな事を考えていると
「親父」
と、翼が、声をかけてきた
秀雄は、ゆっくりと顔をあげる
秀雄は、ゆっくりと顔をあげる
「…どうした……私などに構わず、仲の良い者と飲んでいればいいだろうに」
「……別に、そう言う言い方しなくてもいいだろ」
「……別に、そう言う言い方しなくてもいいだろ」
秀雄の言葉に、翼は少し、不貞腐れたような表情を浮かべて
ほら、と酒を差し出してくれた
どうやら、追加の酒を持ってきてくれたらしい
ほら、と酒を差し出してくれた
どうやら、追加の酒を持ってきてくれたらしい
…このように、翼のほうから接触をもってくれたというのに、ロクな対応ができない自分自身に、秀雄はあきれる
実の息子相手に、もっとマシな対応はできないものなのか
こんなことだから、翼は自分から離れていったというのに
己の言動に、秀雄が自己嫌悪していると
実の息子相手に、もっとマシな対応はできないものなのか
こんなことだから、翼は自分から離れていったというのに
己の言動に、秀雄が自己嫌悪していると
「…親父」
と
改めて、翼が声をかけてきた
改めて、翼が声をかけてきた
「…体の具合、大丈夫なのか?」
ぽつり
心配そうに、そう、尋ねられる
心配そうに、そう、尋ねられる
無茶な多重契約をした体
悪魔の囁きの力で、無理に身体能力を引き上げた体
50代に達している秀雄の体には、あまりに大きすぎた負担
その反動は、今も残っている
悪魔の囁きの力で、無理に身体能力を引き上げた体
50代に達している秀雄の体には、あまりに大きすぎた負担
その反動は、今も残っている
「…日常生活を過ごす上では、何の問題もない………長時間の激しい運動は無理だ、とは言われたがな」
「そうか…」
「そうか…」
ただ、日常を穏かに過ごすのならば、問題はない
だが、秀雄は罪の償いの為に、都市伝説と関わり続ける道を選んだ
そうなれば戦いに巻き込まれる事もある、戦わなければならない事もある
……しかし、秀雄の体は…長時間の戦闘には、耐えられなくなっているのだ
もっとも、秀雄自身の戦闘能力と、契約都市伝説の力を考えれば、よほどの相手でもない限り長時間の戦闘にはならないだろうが…
だが、秀雄は罪の償いの為に、都市伝説と関わり続ける道を選んだ
そうなれば戦いに巻き込まれる事もある、戦わなければならない事もある
……しかし、秀雄の体は…長時間の戦闘には、耐えられなくなっているのだ
もっとも、秀雄自身の戦闘能力と、契約都市伝説の力を考えれば、よほどの相手でもない限り長時間の戦闘にはならないだろうが…
「…無理はすんなよ。お袋も心配するだろうし」
「……わかっている」
「……わかっている」
心配してくる翼の言葉に、短く答える秀雄
マドカにも……もう、苦しい想いは、させたくない
せめて、己の命が続く間は、幸せにしてやりたい
マドカにも……もう、苦しい想いは、させたくない
せめて、己の命が続く間は、幸せにしてやりたい
…マドカ、だけではなく
翼や、娘であるとわかった、恵も
許されるならば…幸せにしてやりたいと
秀雄は、そう、願うのだ
翼や、娘であるとわかった、恵も
許されるならば…幸せにしてやりたいと
秀雄は、そう、願うのだ
「…翼、お前も、無理はするなよ」
「ん、俺は大丈夫だよ。大樹や望達を護ってやりたいから、無理をしなければならない時もあるけど………俺は、大丈夫だ」
「ん、俺は大丈夫だよ。大樹や望達を護ってやりたいから、無理をしなければならない時もあるけど………俺は、大丈夫だ」
そう簡単に潰れたりしないから、と
翼は、そう言って笑う
翼は、そう言って笑う
……ちらりと
秀雄は、翼が護りたいと言った、黒服と少女に視線を向ける
秀雄は、翼が護りたいと言った、黒服と少女に視線を向ける
感じたのは、羨ましさと、嫉妬
本来の家族よりも、翼はあちらと共に生活する事を選んだ
自業自得であるとは言え…やはり、翼に大切に思われている二人に、嫉妬せずにはいられない
本来の家族よりも、翼はあちらと共に生活する事を選んだ
自業自得であるとは言え…やはり、翼に大切に思われている二人に、嫉妬せずにはいられない
「……翼」
「うん?」
「その、護りたい者との生活は……幸せか?」
「うん?」
「その、護りたい者との生活は……幸せか?」
秀雄の、その問いかけに
翼は、少し誇らしげに笑って、答える
翼は、少し誇らしげに笑って、答える
「もちろん…俺は、大樹達の事が好きだから。好きな相手と一緒に暮らせるなら、幸せだよ」
「…………そうか」
「…………そうか」
…あぁ、そして
その大切な相手を護る事ができるのならば、翼は幸せなのだろう
今、共に生活している「家族」が、翼はとても大切なのだ
その大切な相手を護る事ができるのならば、翼は幸せなのだろう
今、共に生活している「家族」が、翼はとても大切なのだ
かつて、翼からそれを奪おうとした己の罪を自覚しながら
今なお、翼に大切な家族として認識されている黒服と、少女に
秀雄は、嫉妬に似た感情を覚えずには、いられないのだった
今なお、翼に大切な家族として認識されている黒服と、少女に
秀雄は、嫉妬に似た感情を覚えずには、いられないのだった
なお
翼の発言に、花見会場の全腐女子が反応したかもしれないが
それは、どうでもいい話である
翼の発言に、花見会場の全腐女子が反応したかもしれないが
それは、どうでもいい話である
続くかどうかわからない