「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - とある警察幹部の憂鬱-18c

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 …あの小さな老女の姿をした都市伝説達は、突然絶叫して消え去った
 影守が、自分を個室へと連れ込み、その状態で戦ってくれたおかげで……自分も、彼も、傷は負っていない
 ……自分は、どうでもいい。ただ、影守が傷つかないでくれた事を、安堵する

 自分の兄を化け物に変える実験の許可をしたと言う少女は、その少女を庇って撃たれる事を選んだ青年と、もう一人の少女と共にどこかに行ってしまった
 自分の兄と、同じ姿をした黒服は…何やら、残った者達と話している

「宏也さん…」
「安心しろ、佳奈美。万が一にでも、お前を危険な場所に置き去りにしたりしねぇよ……お姫さん、ちょいと、マッドガッサー達に連絡を……」

 高校生くらいの少女に、安心させるようにそう言っている黒服
 よほど、大切な存在のようだ
 気を使っているのが、伝わってくる

「…美緒さん、大丈夫ですか?」
「……影守、さん………私は、問題ありません……」

 そうだ、私は大丈夫なのだ
 立ち上がらなければ
 しかし、体が、脚が、動かない
 ……完全に、腰が抜けてしまっているらしかった
 情けない
 自分はどこまで、周囲に迷惑をかければ気がすむのだろうか

 情けなさに、自嘲気味に笑っていると

「………美緒」

 …話が終わったらしい、黒服が
 こちらに、近づいてきた

「…何か、ご用ですか?」
「……いや、用っつぅか……とりあえず無事か、良かった」

 ほっとしたような表情を浮かべる黒服
 つきり、一瞬、心が痛んだ

 ……この黒服の正体を、知っても、なお……
 …いまだ自分は、真実を、現実を、受け止めきれない
 どこまで、自分の心は弱いのだろうか
 真実を知って、なお……目の前のこの現実から、目をそらすことしかできないとは

「…影守、大丈夫、とは思うんだがな……美緒を、頼む」
「また、襲撃者が来ると?」
「可能性は低いと思うが、否定できねぇだろ。愛華は顎砕き飴のお嬢ちゃんに任せるし、吸血鬼爺さんと坊や、それに佳奈美はこっちで何とかする。だから、美緒は、お前に頼む」
「どうして僕に?」
「さぁてね?お前さん自身で考えてみな?」

 …くっく、と
 一瞬、いつも通りの…どこか、からかうような笑いを浮かべた黒服
 影守は意味がわからなかったのだろう、首をかしげている

 ……そして
 黒服が、こちらに視線を向けてきた

 つきん、つきん
 心が……痛む

「…美緒」
「……何ですか」
「俺の事を……認めてくれなくとも、俺は構わない。俺はただ、お前が幸せに生きてくれりゃあ……それでいい」

 つきん
 つきん、つきん、つきん、つきん、つきん、つきん、つきん、つきん……

 痛い
 痛い、いたい、イタイ
 心が、痛み続ける

「…俺の事を認める事ができなかったら……お前の兄は、死んだんだと思っておけ。広瀬 辰也の名前は…………もう、あいつにやっちまったからな。俺は、広瀬 辰也には…もう、戻らない」
「……………」

 痛む心を、無視して
 せめて…これだけ、尋ねる

「…ひとつ、尋ねても良いでしょうか?」
「うん?」
「……何故、あなたは……広瀬 宏也を…………私達の父の名前を、名乗ったのですか……?」

 広瀬 宏也
 それは、自分達の父親の名前
 都市伝説に、理不尽な理由で殺された父親と…まったく同じ、名前

 何故、彼がその名前を名乗っていたのか
 それが…ずっと、疑問だったから

 こちらの問いかけに、黒服はどこか、自虐気味に、笑って

「…悪かったな。この名前を使っちまって………………親父と同じ、死んだ人間。そのつもりで、名乗ってた」
「………っ」
「……俺に、この名前を名乗る資格なんざない事は、わかっていたさ………けど、せめて……親父のように、なりたかった……その未練も、含んでいるが、な」

 死んだ人間?
 いなくなった人間?
 …確かに、人間ではなくなってしまった

 けれど
 あなた、は

 つきん、つきん、つきん
 痛む心を、無視して
 もうひとつ
 もう一つ、だけ………尋ねる

「……あなたは……………今でも、私を、妹だと………………思ってくれるのですか……?」

 その、問いかけに
 黒服は…宏也は、静かに

「俺としては、そう思ってるつもりだぞ?…お前が、俺を兄だと思ってくれなくても、な」
「------っ」

 くるり、宏也はこちらに背を向ける
 急がなければならないのだろう
 彼がお姫さんと呼んでいた少女は、どこかに連絡がついたようだ
 彼もまた、先ほど連絡をとっていたどこかからの返事が着たのか、応対していて
 ……危険な場所に、向かおうとしている
 それが、はっきりと、わかって

「……んじゃあ、影守、任せたぜ?」

 どこか、おどけるようにそういって
 宏也は踵を返し、そのままどこかに行こうとして……


「-----っ辰也、兄さん……………!」


 ぴたり
 一瞬、宏也は足を止めた

「……ッ死なないで、ください…………あなたが、どんな化け物に向き合おうとしているのか…………私には、想像もつかない……ただ、死なないでください。お願いです……………どうか、二度も……死なないで……」
「…了解」

 そう言って…宏也は今度こそ、他の者達と一緒に、行ってしまった
 自分達は、ここに取り残される

「……美緒さん」

 影守が、気遣うように、こちらの顔を覗き込んできた
 ……零れ落ちる、涙を
 私は、ぬぐうこともできず、そのままだ

 …迷惑だと、わかっている
 迷惑にしかならないと、わかっている
 けれど

「…すみません、影守さん」

 そっと
 影守に、すがりつく

「少し、だけ………少しの間で、いいんです…………こうさせて、ください……」

 悲しい
 自分は、どこまでも弱くて、ちっぽけで、無力で
 誰の力にもなることができない
 支えになることもできない

 ただ、誰かを傷つけてばかりで
 迷惑をかけてばかりで
 どこまでも、どうしようもなくて

 こんな事態だというのに
 ただ、泣く事しかできなくて…………



 泣き続ける美緒の体を、影守は静かに、慰めるように抱き寄せ、頭を撫でた
 長い間、凍りつかせていた感情が、想いが、溶けて、あふれ出て
 ただ、子供のように泣き続ける美緒

 今は、ただ
 それを慰める事と
 彼女の性格を考えれば…きっと、この泣き顔を、必要以上に他人に見られる事を嫌うだろうから
 この泣き顔が他の誰にも見られないよう、抱きしめることしか、できなかった



to be … ?



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