【電磁人の韻律詩38~遠野の河童~】
修行の開始から三日目の夜。
明日真は上田家に泊まり込んで上田明久の修行を受けていた。
明久の行っている修行の内容はシンプルである。
「上田明久と限界まで戦闘を続ける」
たったこれだけのことだ。
しかし今まで二日間行われたその修行の間に、
全身の骨で折れなかった物はなく、
内蔵で破裂しなかった物はなく、
筋肉で断裂しなかった物はなかった。
そうやって体力筋力精神力全てを限界まで引きずり出され河童の塗り薬で精神も肉体も完全に治される。
でも完全に回復した彼の身体は当然の如くまた破壊の限りを尽くされた。
ちなみに恋路はその間ずっと茶を飲んでいた。
玉露だった。
女中の杏奈さんの淹れるお茶は彼女の味覚にマッチしたらしい。
明日真は上田家に泊まり込んで上田明久の修行を受けていた。
明久の行っている修行の内容はシンプルである。
「上田明久と限界まで戦闘を続ける」
たったこれだけのことだ。
しかし今まで二日間行われたその修行の間に、
全身の骨で折れなかった物はなく、
内蔵で破裂しなかった物はなく、
筋肉で断裂しなかった物はなかった。
そうやって体力筋力精神力全てを限界まで引きずり出され河童の塗り薬で精神も肉体も完全に治される。
でも完全に回復した彼の身体は当然の如くまた破壊の限りを尽くされた。
ちなみに恋路はその間ずっと茶を飲んでいた。
玉露だった。
女中の杏奈さんの淹れるお茶は彼女の味覚にマッチしたらしい。
「おっかしいなあ……、そろそろ追い詰められて内なる力に目覚める筈なんだけどなあ?」
「な、なんですか内なる力って……?」
「いやドラゴンボールでもクリリン死んだら悟空が覚醒するじゃん。」
「いやいや漫画じゃないんですから。」
「おっまえなあ……、奇跡の一つも起こせないで強くなれる訳無いじゃん。
創作世界で起きる程度の出来事を現実でできないでどうする?
人間の想像力、否創造力は常に空想を越えて現実を生み出すのだ!」
「できないもんは無理!」
「だーからてめえは弱いんだよ!」
「な、なんですか内なる力って……?」
「いやドラゴンボールでもクリリン死んだら悟空が覚醒するじゃん。」
「いやいや漫画じゃないんですから。」
「おっまえなあ……、奇跡の一つも起こせないで強くなれる訳無いじゃん。
創作世界で起きる程度の出来事を現実でできないでどうする?
人間の想像力、否創造力は常に空想を越えて現実を生み出すのだ!」
「できないもんは無理!」
「だーからてめえは弱いんだよ!」
正拳突きが明日真の腹にめり込む。明日真、本日五度目の気絶である。
「…………ぷはっ!」
五分後、明日真は無事に目を覚ました。
恋路も最初の頃は気絶する度に心配していたが、
もうそれにも慣れたらしく彼が目を覚ます頃には平気な顔で杏奈さんと談笑していた。
恋路も最初の頃は気絶する度に心配していたが、
もうそれにも慣れたらしく彼が目を覚ます頃には平気な顔で杏奈さんと談笑していた。
「おう、眼を覚ましたか。」
「……残念ながら。」
「まあそう言うな、頑張れ頑張れ。地道な努力の果てに奇跡は起こるんだ。
悟空だってすっげえ修行してただろ?」
「明久さんジャンプ派ですか?」
「そういうお前は何派だよ。」
「サンデーです。」
「お も て で ろ !」
「理、理不尽だ……………………!」
「……残念ながら。」
「まあそう言うな、頑張れ頑張れ。地道な努力の果てに奇跡は起こるんだ。
悟空だってすっげえ修行してただろ?」
「明久さんジャンプ派ですか?」
「そういうお前は何派だよ。」
「サンデーです。」
「お も て で ろ !」
「理、理不尽だ……………………!」
とまあそんな訳で再び対峙する二人。
明久は2mの巨体に闘気を漲らせて腰を深く落とす。
明久は2mの巨体に闘気を漲らせて腰を深く落とす。
「――――――――手抜かり無く手を抜いてやる、来い!」
「行くぞ!」
「行くぞ!」
今までタイミングが合わずに使えなかったが、今日の明日真には秘策があった。
戦闘開始。
それと同時に明日真は紙飛行機をいくつか同時に飛ばす。
表面をアルミ箔で覆われた紙で作られた特別な紙飛行機だ。
最初は折る度に表面のアルミ箔がクシャクシャになって中々綺麗にできなかったが、
元々器用だった明日は一二時間練習するだけですぐに綺麗に折れるようになっていた。
それと同時に明日真は紙飛行機をいくつか同時に飛ばす。
表面をアルミ箔で覆われた紙で作られた特別な紙飛行機だ。
最初は折る度に表面のアルミ箔がクシャクシャになって中々綺麗にできなかったが、
元々器用だった明日は一二時間練習するだけですぐに綺麗に折れるようになっていた。
「――――――――2100W、双方向放射!」
明日は空中に舞う紙飛行機と上田明久に向けてマイクロ波を撃ち込んだ。
紙飛行機のアルミ箔に反射されたマイクロ波が上田明久の逃げ道を塞ぐ。
紙飛行機のアルミ箔に反射されたマイクロ波が上田明久の逃げ道を塞ぐ。
「小・癪!」
上田明久はそれを躱すでもなく防ぐでもなく、只受けた。
巨体とは言え体内に水を含む人間である。
マイクロ波の照射を喰らえば当然その水分が破裂して致命傷に至る。
だが、上田明久は平然として立っていた。
巨体とは言え体内に水を含む人間である。
マイクロ波の照射を喰らえば当然その水分が破裂して致命傷に至る。
だが、上田明久は平然として立っていた。
「ええええええ!?」
「刀を抜かなくても、刀の加護は受けられるんだぜ?」
「刀を抜かなくても、刀の加護は受けられるんだぜ?」
明日真は自分の秘策が無駄に終わったことに気がついた。
そう、上田明久の契約する都市伝説は明日真とは最悪の相性なのだ。
そう、上田明久の契約する都市伝説は明日真とは最悪の相性なのだ。
「そうやってお上品にしているなよ、もっとお前の思うように力を使え。」
明日の策が無駄に終わったと見て、上田明久は極悪に笑った。
「抜けば玉散る氷の刃。
抜かねど霊散る魔轟の刀。」
抜かねど霊散る魔轟の刀。」
上田明久としてはその文言を何気なく唱えただけ。その文言そのものに意味は無い。
今上田明久が腰に提げているのは彼の第一の愛刀『村雨』、司るのは水の力。
それは指示を受けるまでもなくマイクロ波を霧を発生させることで吸収して主を守る。
佳い能力だが、いかんせんいささか地味なことは否定できない。
そう、確かにその刀は上田明久の嗣子たる上田明也を選んだ村正と違って刀剣としての格は大きく下がる。
今上田明久が腰に提げているのは彼の第一の愛刀『村雨』、司るのは水の力。
それは指示を受けるまでもなくマイクロ波を霧を発生させることで吸収して主を守る。
佳い能力だが、いかんせんいささか地味なことは否定できない。
そう、確かにその刀は上田明久の嗣子たる上田明也を選んだ村正と違って刀剣としての格は大きく下がる。
だが
都市伝説を駆る者なら誰もが知っているはずだ。
都市伝説の対決はそんな格でなど決まらない。
あくまでそれは本来最も重要な要素を補助する二次的要素。
都市伝説同士の決闘とは即ち精神の勝負。
伝説の使徒たる契約者の信仰心が信頼が精神が伝説を伝説たらしめ、都市伝説を非日常たらしめるのだ。
都市伝説の対決はそんな格でなど決まらない。
あくまでそれは本来最も重要な要素を補助する二次的要素。
都市伝説同士の決闘とは即ち精神の勝負。
伝説の使徒たる契約者の信仰心が信頼が精神が伝説を伝説たらしめ、都市伝説を非日常たらしめるのだ。
上田明久のそれは息子である上田明也が持つ「都市伝説の都合など一切考えない狂信」とは完全に異質の信仰。
真実真性にして神聖なる自己の実力と自己の愛刀に対する自信。
そこから放たれる居合いは間違いなく究極。
その信仰に応えて村雨は彼に刀を抜かずして居合いを放つ絶技を与えた。
真実真性にして神聖なる自己の実力と自己の愛刀に対する自信。
そこから放たれる居合いは間違いなく究極。
その信仰に応えて村雨は彼に刀を抜かずして居合いを放つ絶技を与えた。
「――――――見せてやる、これが技というものだ。」
上田明久にとって居合いとは心の所作。
刀を抜かずともそこにあると上田明久が信じれば、剣閃は生じるのだ。
刀を抜かずともそこにあると上田明久が信じれば、剣閃は生じるのだ。
不思議なことに明日真は上田明久の“技”を見ても大して驚いていなかった。
むしろ恍惚としていたのだ。
空中から水の刃が形を為して明日真に降り注がんとする瞬間もそうだった。
でもその刃はいつまで経っても彼には降り注がない。
その恍惚からさめて、明日真は始めて「おかしいな」と思った。
死の瞬間に時間がスローになると言うのとは明らかに違う。
そうだ、一秒が極限までに引き延ばされた時間の中に自分が居る。
むしろ恍惚としていたのだ。
空中から水の刃が形を為して明日真に降り注がんとする瞬間もそうだった。
でもその刃はいつまで経っても彼には降り注がない。
その恍惚からさめて、明日真は始めて「おかしいな」と思った。
死の瞬間に時間がスローになると言うのとは明らかに違う。
そうだ、一秒が極限までに引き延ばされた時間の中に自分が居る。
だったらその時間の中で果たして自分は動けるのだろうか?
明日真は素直に疑問だった。
本来だったら、否、今も恐怖に震えている脚は驚くほどスムーズに彼を上田明久の眼の前に連れて行った。
彼は格闘技を習ってないが故に正しい拳の突き出し方を知らない。
明日真は正しく攻撃しなければそもそも筋肉の鎧でこちらが怪我をすると経験で知っていた。
だから彼は上田明久の厚い胸板を掌でぺたりと触った。
そして、体内で生まれたありったけの電流をマイクロ波に変換して流し込んだ。
だがそれとほぼ同時に明日真の視界で銀色の光が二回閃く。
本来だったら、否、今も恐怖に震えている脚は驚くほどスムーズに彼を上田明久の眼の前に連れて行った。
彼は格闘技を習ってないが故に正しい拳の突き出し方を知らない。
明日真は正しく攻撃しなければそもそも筋肉の鎧でこちらが怪我をすると経験で知っていた。
だから彼は上田明久の厚い胸板を掌でぺたりと触った。
そして、体内で生まれたありったけの電流をマイクロ波に変換して流し込んだ。
だがそれとほぼ同時に明日真の視界で銀色の光が二回閃く。
上田明久は刀を抜いていた。
だが明日真はそんなことに気付かない。
真っ二つになった自分の手首とその切断面から起きるスパークを子供みたいに目を丸くして見つめていた。
明日真には本日六度目となる気絶だった。
真っ二つになった自分の手首とその切断面から起きるスパークを子供みたいに目を丸くして見つめていた。
明日真には本日六度目となる気絶だった。
「…………あ、起きた!」
「ああ、やっと起きやがりなさりましたか。」
「ああ、やっと起きやがりなさりましたか。」
明日真は寝室で眼を覚ました。
時刻はとっくに真夜中だった。
だが明日の寝ているベッドの周りには恋路と杏奈が座っていた。
そして明久が寝室のドアを開けて部屋に入ってくる。
時刻はとっくに真夜中だった。
だが明日の寝ているベッドの周りには恋路と杏奈が座っていた。
そして明久が寝室のドアを開けて部屋に入ってくる。
「あれ、俺寝てた?」
「起きたか少年。おめでとう、修行の第一段階はお終いだ。
明日から第二段階に入るからまあゆっくり寝ていろ……と、言いたいんだが。」
「言いたいんだがなんですか?」
「明日からお前の修行に付き合ってくれる奴が来た。
一応紹介しておかないとなと思って……あれ?癸巳の奴どこいった?」
「起きたか少年。おめでとう、修行の第一段階はお終いだ。
明日から第二段階に入るからまあゆっくり寝ていろ……と、言いたいんだが。」
「言いたいんだがなんですか?」
「明日からお前の修行に付き合ってくれる奴が来た。
一応紹介しておかないとなと思って……あれ?癸巳の奴どこいった?」
どうやら連れてきた人物が居ないらしい。
だが上田明久はすぐに彼を発見することになる。
だが上田明久はすぐに彼を発見することになる。
「ご機嫌麗しゅう見知らぬレディー、こんな場所で会ったのも何かの縁です。
これから一緒に愛の逃避行、ひいては幸せな家庭の共同構築を前提としたお付きあ……」
「ごめんなさい。」
「くっっそおおおおおおおおおおお!」
「おい、癸酉。そこの嬢ちゃんはそこの少年の彼女だ。」
「ガッデム!」
これから一緒に愛の逃避行、ひいては幸せな家庭の共同構築を前提としたお付きあ……」
「ごめんなさい。」
「くっっそおおおおおおおおおおお!」
「おい、癸酉。そこの嬢ちゃんはそこの少年の彼女だ。」
「ガッデム!」
明日真と上田明久の目には恋路を口説いてあっさり振られた赤髪の青年が映っていた。
「あの、……その人誰ですか?」
「カワシロキユウ。漢字で書くと河伯癸酉な。ミズノトトリでキユウ。
俺のかみさんの兄貴の息子、甥っ子だ。
都市伝説『河伯』と契約している一族の男でもある。」
「君のことは聞いているよ明石くん!」
「明日です。」
「ごめん、明石君!」
「そいつ人の名前覚えられないから気にするな。
一文字合っているってことは大分好かれているってことなんだぜ?」
「なんなんですかそれ……。」
「よろしくね!明石君!」
「カワシロキユウ。漢字で書くと河伯癸酉な。ミズノトトリでキユウ。
俺のかみさんの兄貴の息子、甥っ子だ。
都市伝説『河伯』と契約している一族の男でもある。」
「君のことは聞いているよ明石くん!」
「明日です。」
「ごめん、明石君!」
「そいつ人の名前覚えられないから気にするな。
一文字合っているってことは大分好かれているってことなんだぜ?」
「なんなんですかそれ……。」
「よろしくね!明石君!」
青年は明日真に握手を求める。
よく見ると彼の髪だけでなくて眼も赤かった。
よく見ると彼の髪だけでなくて眼も赤かった。
「え、えっと……よろしく。それにしてもあんな可愛い彼女持ちなんて羨ましいな!」
「へ?ああ、ありがとうございます。」
「明日からの修行はよろしくね!叔父さんからの頼みじゃあ断れないしね!」
「あの、その髪と眼って……?」
「ああこれか、良いだろう明石君には教えてやろう。
構いませんよね、叔父さん!」
「まあ今更別になあ…………。」
「ふっふっふ、じつはね明石君。
ボカァ河童と人間のハーフなんだよ。
君の修行に使っていた薬もボクが作ったんだぞぉ!どうだ!」
「へ?ああ、ありがとうございます。」
「明日からの修行はよろしくね!叔父さんからの頼みじゃあ断れないしね!」
「あの、その髪と眼って……?」
「ああこれか、良いだろう明石君には教えてやろう。
構いませんよね、叔父さん!」
「まあ今更別になあ…………。」
「ふっふっふ、じつはね明石君。
ボカァ河童と人間のハーフなんだよ。
君の修行に使っていた薬もボクが作ったんだぞぉ!どうだ!」
偉そうだ、河童と言うより天狗である。
「お前は明日からそこの癸酉と相撲をとってもらう。」
「相撲ですか?」
「相撲ですか?」
赤い髪の青年の身体を見る明日。
どうみても相撲をとれるような肉体には見えない。
どうみても相撲をとれるような肉体には見えない。
「ハッハッハ、俺は強いぞ明石君!」
肌は白くていかにも不健康そうだ。
腕も細い、指はひょろながくて手も大きいがそれだけである。
腕も細い、指はひょろながくて手も大きいがそれだけである。
「本当ですか……?」
「嘘だと思うんなら明日から試してみると良い!
なんで俺が呼ばれたのか知らないけど明也をぶっ飛ばす手伝いができるなら喜んで手伝うさ!」
「何か恨みでも……?」
「うん!だってあいつ昔から俺よりもてたから!」
「嘘だと思うんなら明日から試してみると良い!
なんで俺が呼ばれたのか知らないけど明也をぶっ飛ばす手伝いができるなら喜んで手伝うさ!」
「何か恨みでも……?」
「うん!だってあいつ昔から俺よりもてたから!」
本当にこいつとの修行は意味があるのだろうか。
明日真は目の前のお気楽極楽赤髪青年を見て少しばかり不安を覚えた。
【電磁人の韻律詩38~遠野の河童~fin】
明日真は目の前のお気楽極楽赤髪青年を見て少しばかり不安を覚えた。
【電磁人の韻律詩38~遠野の河童~fin】