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連載 - 悪意が嘲う・悪意が消えたその後に・純白の騎士-02

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 小さな子供が泣いている
 暗闇の中、誰にも見つからないように
 誰にも気付かれぬように、ひっそりと
 己に付き従う存在すら、振り払い
 たった一人で、泣いていた

 しかし
 誰にも見つからないはずのそこで、子供を見つけた存在が居た

「……ここに、いたの……?」
「………っ!!」

 聞こえてきた、声に
 びくりと体を震わせて、子供は顔をあげた
 泣き腫れた子供の顔に、彼は慌てて子供に駆け寄る

「どうしたの?……何か、あったの……」
「------か」

 ぼそりと、呟くように
 泣きじゃくりながら、子供は、答える

「娼婦の、子供である事は………罪、ですか……?」

 子供の母親は、娼婦だった

「…娼婦を姉妹に持つ事は……罪ですか…?」

 子供の姉も、娼婦だった
 貧窮して、娼婦になった訳ではなかった
 望んで、その身に堕ちた者達だった
 子供は、幼いながらに、それを理解していた

「………人殺しは」

 そして、子供は理解している

「…………肉親殺しは…………その、咎を犯した者は………死ぬべき、ですか…………?」

 そんな母親を、姉を
 自分が、殺した事を
 子供は、理解していた

 己に付き従う存在に
 子供は、母と姉を殺させた
 自身もまた、売春行為を強要させられそうになって
 それから逃れる為に、殺させた

 自分が手を汚した訳ではない
 けれど、自身の手は血にまみれていると、子供は理解していた


 その事で、周囲から責められた
 子供は、周囲に嫉妬されていた
 かの存在と触れ合い、認められ、契約した事実を嫉妬されていた

 周囲はその醜い感情を、幼い子供にそのままぶつけた
 …子供を保護したその場所は、決して優しい場所ではなかった
 天国のような場所とも呼ばれるはずの場所
 子供のような、弱き存在を、優しく包み込んでくれるはずの場所
 しかし、そこは子供をただ護ってくれるだけではなかった
 護ってくれるのは、ほんの、一部だけ
 それ以外は、全て子供に軽蔑の眼差しを、嫉妬の眼差しを向け続け
 幼い心を、無残に残酷に傷つけた

 死んでしまえばよかったのだ、と
 娼婦の子供など、死んでしまえ
 汚らわしい
 肉親殺しの咎人が、ここにいても良いと思っているのか……と


 彼は、泣き続ける子供を見つめる
 …そして、そっと
 子供に、手を差し伸べて
 その小さな体を、優しく抱きしめた

「…そんな事、ないよ………君は、確かに、罪を犯してしまったかもしれない………けれど、君はここで、その罪の償いをしているのだから」
「……で、も……」
「君は、誰かを傷つけてしまった以上に、病に苦しむ人々を救っている。それを、君達の信じる神様だって…ちゃんと、見てくれているはずだよ」
「……でも!」

 彼の言葉は、あと一歩のところで、子供の心に届ききらない
 まだまだ、子供は泣き続ける

「でも!……病を癒しているのは、僕じゃない………………-ン、なんだ。僕じゃない…僕は、何もできていない……っ」

 病を癒しているのは、自分ではない
 自分に付き従う存在
 …これでは、罪の償いなど出来ていない
 子供は、そう考える

 泣き続ける子供に
 彼は優しく優しく、続ける

「違うよ……確かに、病を癒しているのは君ではないかもしれない。けれど………あの子が、人々の病を癒しているのは、君がそれを望んでいるからだよ」

 気高い存在
 あれは、人前に出現する事すら、通常嫌がる
 あれが認める存在でなければ、なおさらだ
 ……それが、表に出て、人々の病を癒すのは
 ひとえに、この子供がそれを望むから
 苦しむ人々を救いたいという、子供の願いを聞き届けたからだ

「君が望むから、救われる人が居る……君は、人々を救えているよ」
「…僕、が?」
「そう……君は、罪を償っている」

 だから、と
 子供を優しく撫で、彼は続ける

「君は、ここにいてもいい……生きていて、いいんだよ」
「-------っ」

 ぼろぼろと
 子供の両目から、大粒の涙が溢れ出る
 彼にすがりつき、わんわんと大声で泣き始めた
 先ほどまでの、誰にも聞かれないように…と、ひっそり泣いていたそれとは、違う
 感情を爆発させるように、泣き続ける

「…あ、あれ……?……な、泣いてるのを、止めようとしたんだけど………ご、ごめんね。僕、悪い事、言ったの、かな…?」
「……う、違う」

 泣き続ける子供
 彼にすがりつき、彼を見上げて

「………ありが、とう………」

 と
 認められた事を、生きていてもいい、と言ってもらえた事を、心から感謝して
 そして、押し込めていた感情を爆発させ、ただただ……泣き続けた



 子供は知っていた
 彼が、人間ではない事を
 子供は知っていた
 彼が、「教会」にとって、忌むべき悪魔である事を


 それでも、子供は彼を好いた
 手を差し伸べてくれた彼を、兄のように…と言うには、少し頼りないが…優しく、見守ってくれる彼を、本当の兄のように慕っていた


 子供は知っていた
 「教会」が、彼を殺そうとしている事を

 だから、子供は彼の事を隠し続けた
 それが罪になろうとも、それよりも、彼に罪を許され続けたかったから








「----っぁ…………なんで、今更…………昔の………」

 夢から、覚めて
 自分が泣いていた事を自覚した

 幼い頃の夢
 自分は、もうあの頃のように子供ではない

 ……ひひん、と小さな嘶きが聞こえた
 自分を心配してきた、付き従う存在に、何でもない、と首を振る

「…大丈夫………本当は、二度と許される事のない咎だったとしても……………あの人達が、許してさえくれれば…」

 たとえ、神に許されなくとも
 彼らに許されれば、それでよかった
 それだけが、支えだった

 …いや
 今でもきっと、それが支えなのだ

「……さて…………今日も、乙女を護らないとな」

 自分にできる事は、何でもしよう
 今でも、彼らに許され続けたいから

 彼らのように、誰かを救える存在になりたい
 咎を許せる存在になりたい

 …ただ、そう願い続けるのだ





fin





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