全ての天使達が、一瞬で屠られた様子を
そして、B-No.001が、返り血にまみれている、その姿を
A-No.0は、ただ、無表情に見つめていた
そして、B-No.001が、返り血にまみれている、その姿を
A-No.0は、ただ、無表情に見つめていた
…そして
その視線が、神野悪五郎へと向けられる
その視線が、神野悪五郎へと向けられる
「……プログラム化された、都市伝説の契約書……地獄門…………あなたは、イっちゃんに、多重契約をさせたのですか」
「黙れ、下郎。貴様となど、言葉を交わしたくもない」
「黙れ、下郎。貴様となど、言葉を交わしたくもない」
感情のこめられていないA-No.0の言葉に、神野悪五郎はそう答えた
しかし、A-No.0は、構わず続ける
しかし、A-No.0は、構わず続ける
「多重契約のリスクを、イっちゃんに背負わせたのですか?そして、何故、イっちゃんを生身でこちらの世界に侵入させたのです。
通常ログインと違い、生身での進入は、この世界を形成している存在に目をつけられる意味で、危険です。何故あなたはイっちゃんに、そんなリスクを背負わせたのですか」
「黙れといっている……」
通常ログインと違い、生身での進入は、この世界を形成している存在に目をつけられる意味で、危険です。何故あなたはイっちゃんに、そんなリスクを背負わせたのですか」
「黙れといっている……」
…A-No.0は、神野悪五郎の言葉を、意に介した様子はない
ただただ、いつも通り、今まで通り
無感情な言葉を続ける
ただただ、いつも通り、今まで通り
無感情な言葉を続ける
「…都市伝説の契約書の、プログラム化。そんな事を可能にできるのは…私が把握している限りでは、B-No.0しか存在しません……あなたは、あなたと契約している存在は。B-No.0と接触を持っているというのですか?」
「…下郎が。言葉が通じぬか」
「…下郎が。言葉が通じぬか」
………
駄目だ、会話になっていない
二人の会話を半ば他人事のように聞きながら、B-No.001は軽い頭痛のようなものを感じた
駄目だ、会話になっていない
二人の会話を半ば他人事のように聞きながら、B-No.001は軽い頭痛のようなものを感じた
…と
A-No.0の視線が、B-No.001に、向けられた
A-No.0の視線が、B-No.001に、向けられた
「イっちゃん。何故、彼は私の質問に答えてくれないのでしょうか?」
「…本気でわかっていないのですか?アーちゃん」
「理解できないので、尋ねています」
「…本気でわかっていないのですか?アーちゃん」
「理解できないので、尋ねています」
淡々とした言葉に、B-No.001はため息をついた
やや嫌味をこめて、答える
やや嫌味をこめて、答える
「彼も、あなたの事が嫌いだからではないですか?」
「………?何故、彼が、私を嫌うのですか?」
「そりゃあ、あなたは、彼の契約者を「組織」に勧誘しておきながら、一方的に切り捨てるなんてしたんですからね。嫌われて当然なんじゃないですか?」
「………?何故、彼が、私を嫌うのですか?」
「そりゃあ、あなたは、彼の契約者を「組織」に勧誘しておきながら、一方的に切り捨てるなんてしたんですからね。嫌われて当然なんじゃないですか?」
冷たく、そう言い放ってみせるB-No.001
A-No.0は、不思議そうに首をかしげて…
A-No.0は、不思議そうに首をかしげて…
………つぅ、と
「……え?」
「……?」
「……?」
静かに、静かに
A-No.0の頬を、涙が伝う
A-No.0の頬を、涙が伝う
(…なみ、だ?)
そう
………涙だ
静かに、静かに
A-No.0が……涙を、流している
………涙だ
静かに、静かに
A-No.0が……涙を、流している
「…?これは…?」
自分が、涙を流している事を
A-No.0は、ようやく自覚したようだった
A-No.0は、ようやく自覚したようだった
ただただ、不思議そうに…ただし、無表情のまま…首をかしげる
「え?ア、アーちゃん、どうして、涙を流しているんです?」
「……?何故、なのでしょうか?」
「……?何故、なのでしょうか?」
B-No.001の言葉にも、A-No.0は首を傾げるばかりだ
…自分で、何故、涙を流しているのか、理解できていない…?
いや、それよりも
…涙を、流す?
それは、まさか
感情など持ちえていない存在のはずの、A-No.0だが
…感情を、持ち合わせていたとでも、言うのか?
…涙を、流す?
それは、まさか
感情など持ちえていない存在のはずの、A-No.0だが
…感情を、持ち合わせていたとでも、言うのか?
B-No.001が、そんな疑問を抱いていると
『やーいやーい、いじめっこー』
と
非常に、非常に、この場の空気にそぐわない、緊張感の伴わない声が、頭に響いた
B-No.001も聞き覚えのある、できればあんまり聞きたくなかった、声で
非常に、非常に、この場の空気にそぐわない、緊張感の伴わない声が、頭に響いた
B-No.001も聞き覚えのある、できればあんまり聞きたくなかった、声で
「っちょ!?何です、突然の言いがかりは!?」
『状況的に、エーちゃん泣かしたのはお前らだろうがよ』
『状況的に、エーちゃん泣かしたのはお前らだろうがよ』
B-No.001の言葉に、声は続き
直後、A-No.0の前に、イクトミが姿を現した
恐らくは、小さな蜘蛛の姿で接近してきていたのだろう
己を護るように姿を現したイクトミに、A-No.0は小さく首をかしげた
直後、A-No.0の前に、イクトミが姿を現した
恐らくは、小さな蜘蛛の姿で接近してきていたのだろう
己を護るように姿を現したイクトミに、A-No.0は小さく首をかしげた
「イクトミ?あちらはどうにかなったのですか?」
「あぁ。ついでに、ちいとばかし面倒なことが起きたが…まぁ、いい。それは後で報告する」
「わかりました」
「あぁ。ついでに、ちいとばかし面倒なことが起きたが…まぁ、いい。それは後で報告する」
「わかりました」
A-No.0の前に立つイクトミは、ゆらゆらと軽く手を揺らしながら、B-No.001と神野悪五郎を見つめてくる
いつでも、戦闘行為に入れるよう、警戒している様子だ
…特に、神野悪五郎、相手に
いつでも、戦闘行為に入れるよう、警戒している様子だ
…特に、神野悪五郎、相手に
「……ところで、イクトミ。イっちゃんと神野悪五郎がいじめっこ、と言うのは、どう言う事ですか?それは、私が涙を流している事と、何か関わりがあるのですか?」
「どう考えても、お前はあいつらの言葉を聞いて涙を流しただろうが。関わりがないとでも思ったのか」
「……?よく、わかりません。そもそも、何故、私は涙を流しているのですか?これには、私の思考に波が起きている事が、関係しているのですか?」
「どう考えても、お前はあいつらの言葉を聞いて涙を流しただろうが。関わりがないとでも思ったのか」
「……?よく、わかりません。そもそも、何故、私は涙を流しているのですか?これには、私の思考に波が起きている事が、関係しているのですか?」
相変わらずの、無感情な声での、一方的な質問
B-No.001とは違い、それに嫌な顔一つせず、イクトミは答える
B-No.001とは違い、それに嫌な顔一つせず、イクトミは答える
「ん~?そうだな……エーちゃん、その思考の波ってのは、前に感じた事はあるか?あるとしたら、それはどう言う時だった?」
「……以前にも、この波を自覚した事はあります………ダレン・ディーフェンベーカーが暗殺されたと、聞いた時。その瞬間に……よく、似ています」
「……以前にも、この波を自覚した事はあります………ダレン・ディーフェンベーカーが暗殺されたと、聞いた時。その瞬間に……よく、似ています」
一瞬
声に、感情のゆれのようなものが、混ざる
声に、感情のゆれのようなものが、混ざる
まただ、とB-No.001は怪訝に思った
今まで、A-No.0と会話していて、何度か感じられた感情のゆれ
…ダレン・ディーフェンベーカー、D-No.0の話題になった時、それが多いように思えたのだ
今まで、A-No.0と会話していて、何度か感じられた感情のゆれ
…ダレン・ディーフェンベーカー、D-No.0の話題になった時、それが多いように思えたのだ
「そうか。それじゃあ、それは「悲しい」って感情だ。お前は、こいつらに嫌われた事を「悲しい」って感じた。だから、涙が流れたんだよ」
「…悲しい…?…………これが、「悲しい」という、感情なのですか?」
「…悲しい…?…………これが、「悲しい」という、感情なのですか?」
己の頬を伝う涙に、不思議そうに触れながら、A-No.0が呟く
それは、まるで映画などでよくある、感情を持たないはずのロボットやアンドロイドに、感情が芽生えたシーンに、よく似ていた
それは、まるで映画などでよくある、感情を持たないはずのロボットやアンドロイドに、感情が芽生えたシーンに、よく似ていた
「…アーちゃん、あなたには……感情が、あるのですか?」
「……本来、「組織」として生まれた私には、感情など存在しませんでした………しかし、いつからか、それに似た思考の波が、私の中で生まれ始めています」
「……本来、「組織」として生まれた私には、感情など存在しませんでした………しかし、いつからか、それに似た思考の波が、私の中で生まれ始めています」
B-No.001の質問に、A-No.0は無感情な声で答えた
その間も、涙は止まっていない
恐らくは、A-No.0が、生まれて初めて流した、涙
それは、静かに流れ続けている
その間も、涙は止まっていない
恐らくは、A-No.0が、生まれて初めて流した、涙
それは、静かに流れ続けている
「…イっちゃん。あなたは、アダ名で呼び合うのは親愛の証だと言いました。ならば、私を「エーちゃん」とアダ名で呼んでくるイクトミは、私に親愛を感じているのでしょうか?」
「それは、俺に聞いてくれよな、エーちゃん」
「それは、俺に聞いてくれよな、エーちゃん」
A-No.0の言葉に、イクトミが小さく苦笑した
…それは、まるで、大人が子供の言動にするような、苦笑
B-No.001が、初めて見たイクトミの表情だった
…それは、まるで、大人が子供の言動にするような、苦笑
B-No.001が、初めて見たイクトミの表情だった
「…あぁ、そうでしたね。イクトミ、あなたは、私に親愛を感じてくれているのですか?」
「当たり前だろ。俺は、嫌いな奴の下になんざつかねぇよ」
「そうですか」
「当たり前だろ。俺は、嫌いな奴の下になんざつかねぇよ」
「そうですか」
イクトミの言葉に、A-No.0はやはり、無感情な声で答えた
…再び、A-No.0の視線が、B-No.001に、戻される
…再び、A-No.0の視線が、B-No.001に、戻される
「………私には、オール・アクロイドと言う名前が存在します。しかし、私は皆から、A-No.0と呼ばれます…………誰も、私を、名前で呼んではくれません
少なくとも
A-No.0が把握している限り…「組織」において、A-No.0を「オール・アクロイド」という名前で呼んでくる者は、いない
いや、A-No.0の前でなければ、そう呼ぶ者はいるかもしれない
しかし、A-No.0との会話中、その名前で呼んでくる者など、ほとんどいないのだ
それは、A-No.0が、事実上の「組織」のトップである立場であるが故、自然と、そうなってしまっているのだが…
A-No.0が把握している限り…「組織」において、A-No.0を「オール・アクロイド」という名前で呼んでくる者は、いない
いや、A-No.0の前でなければ、そう呼ぶ者はいるかもしれない
しかし、A-No.0との会話中、その名前で呼んでくる者など、ほとんどいないのだ
それは、A-No.0が、事実上の「組織」のトップである立場であるが故、自然と、そうなってしまっているのだが…
「…私を、名前で呼ぶ相手は…………ただ、一人。ダレン・ディーフェンベーカーしか、私は把握していません」
…声に、感情のゆれが混じる
ダレン・ディーフェンベーカーと
その名前を、口に出した、瞬間に
ダレン・ディーフェンベーカーと
その名前を、口に出した、瞬間に
「…ダレン・ディーフェンベーカーに名前を呼ばれると。必ず、私の思考に波がおきます。しかし、それは、「アメリカ政府の陰謀論」相手に起きる思考の波とは違い、決して、不快なものではありません…そして、それは、「悲しみ」とも、また違います」
---それは
むしろ、心地よさすら感じる感覚
A-No.0はそれを自覚して以来、その正体が何なのか、ただ、悩み続けていた
むしろ、心地よさすら感じる感覚
A-No.0はそれを自覚して以来、その正体が何なのか、ただ、悩み続けていた
その正体に悩むと同時に
自分が、そのような思考の揺れに囚われて良いのかとも、悩んだ
「組織」そのものである自分
概念でしかなかったはずの自分
ただ、「組織」を保つ為だけの存在するはずの、自分が
それ以外の思考に囚われても良いのか、と
自分が、そのような思考の揺れに囚われて良いのかとも、悩んだ
「組織」そのものである自分
概念でしかなかったはずの自分
ただ、「組織」を保つ為だけの存在するはずの、自分が
それ以外の思考に囚われても良いのか、と
……その、答えが
特に、前者の悩みの答えが
ゆっくりと、導き出されようとしていた
特に、前者の悩みの答えが
ゆっくりと、導き出されようとしていた
「………イっちゃん。私が、ダレン・ディーフェンベーカー相手に感じる思考の波は…これも、何かの感情なのでしょうか?感情なのだとしたら……これは、どのような、感情なのでしょうか?」
まさか
ありえない、とB-No.001は、頭を抱えたい気分になった
無理難題を押し付けたつもりだった
それで、A-No.0の質問から逃げ出すつもりだった
ありえない、とB-No.001は、頭を抱えたい気分になった
無理難題を押し付けたつもりだった
それで、A-No.0の質問から逃げ出すつもりだった
だと、言うのに
(----ありえない……!)
…A-No.0が、ダレン・ディーフェンベーカー相手に感じるのだという、その思考の波は
感情は
感情は
…「恋慕」と言うそれで、説明が可能なものだったのだ
to be … ?