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連載 - ハーメルンの笛吹き-104

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【上田明也の奇想曲33~美味しい麻婆豆腐の食べ方~】

「命ってなんなんですかね探偵さん。」
「俺には解りませんよ看護婦さん。」
「ていうか名前で呼んでくれないんですか探偵さん。」
「そっちこそ名前で呼んでくれないんですか看護婦さん。」
「そっちが名前で呼ぶまでは呼びませんよ。」
「だって貴方の名前って偽名じゃないですか。」
「ありゃりゃ、ばれていたか。」
「探偵ですから関わった相手のことくらい少しは調べますよ。」
「ってことは我が家の家庭事情とかもバレバレだったり?」
「まあ貴方が友人に話している程度には調べています。」

顔をつきあわせて四方山話に興じる二人の男女。
一人は臙脂色のネクタイに紺色のスーツを合わせた鷹のような眼をした男。
もう一人はタートルネックのセーターに黒い革のコートを合わせた背の高い女性。
遠くから見ているとまるで映画に出てきそうな二人である。
しかも話している場所が探偵事務所ともなれば尚のことだ。

「えー、素直に聞いてくれれば良いのに。」
「だって貴方ウソツキじゃないですか。」
「私だって探偵さんに聞かれたら本当のことくらい言いますよぅ。
 なんせ命の恩人ですからねぇ。」
「嘘くさいなあ……。」

上田明也とこの女性は何度か会っていたがその中で彼は一つの発見をしていた。
この女性――看護婦さん――は嘘吐きなのだ。




上田明也は彼女との二度目の遭遇後、色々と彼女の身辺調査をしていたのだが、
どうにもこうにも彼女の言っていることと彼女の周囲の環境の辻褄が合わないのだ。
看護婦ということは合っていたが別にゲームに嵌っている形跡も無いし、
彼氏も居るような雰囲気だし、
ならば何故彼と会い続けるのかも解らないし、
あと父親の正体がよくわからなかったりするし、
その割に家は裕福そうだし、
でもそれ故に上田明也の興味を惹いているとも言える訳で。

「流石に彼氏が居る女性を口説く趣味は俺にはないんだけどなぁ?」

小さい女の子的な何かにランドセルを背負わせてアレする趣味はあるけど。
あと小さな女の子の小さなお口に熱くてドロドロした麻婆豆腐を流し込む趣味もあるけど。

「どうしたんですか探偵さん?」
「いや、なんでもないよ。」
「なら良いんです。」
「今日はどんな用で呼んだんですか?」
「いや、この前教えられた通りにしたら口裂け女倒せたので今度はテケテケ辺りとやってみようかなあ……と。」
「え?」
「何驚いているんですか。準備して慌てずにやれば誰でも倒せるって言ってたじゃないですか。」
「いやいや、言いましたけど……。」

本当にやるとは思っていなかったのだ。

「それよりも、ご褒美にこの前約束していたアレ、食べさせてくださいね?」
「ああ……麻婆豆腐ですか。」
「はい!」

心底嬉しそうに彼女は返事をした。






「貴方の熱くてドロッとした麻婆豆腐食べてみたかったんですよね。」
「やめようね!?今日番外編でそのネタやったばかりだから!」
「うにゅ?」
「まあ良いや、少し待っててください。」

上田は台所にたって麻婆豆腐を作り始める。

「まずは材料を切る!
 長ネギ豆腐唐辛子葉大蒜!
 それぞれ食べやすいサイズに!特に唐辛子は原型無くなるまで刻む!
 そして次にタレだ!
 熱した鍋に油を引いて挽肉をパリパリになりすぎない程度に炒める!
 ここに大蒜!豆鼓醤四川豆板醤四川辣椒粉甜面醤XO醤穀醤草醤魚醤肉醤!
 さらに上田家伝来!食べるラー油!」
「上田?探偵さんってば笛吹って名字じゃ……」
「次に豆腐をゆでる!
 南イタリア産の岩塩をひとつまみ入れておくことにより味わいが爽やかになる!
 これでたれの味が引き立つぜ!」
「探偵さ~ん?」
「豆腐がぷるぷる震え始めたら優しくすくい上げてやれ!」
「探偵さ~ん!?」
「さあこのまま豆腐をぶち込むぞ!」
「駄目だ、トランス状態になっている……。」
「名字は気にするな!」
「あ、聞いてたんだ。でも上田って……まあ良くある名字だし良いか。」

彼女は小首をかしげて何か悩むような素振りをするが、
割とすぐに忘れてしまった。





「この鍋に!俺が作り置きしている鶏ガラスープをたたき込む!
 魚介だしを僅かにまぜることで味に深みが増しているぜ!
 使用している鳥は出汁専用に特化した老鶏だから美味いぞお!」
「そういえば探偵さん?」
「さあ火力を最大にしろ!少し煮えたら紹興酒をたたき込め!
 塩や醤油で味を調えることはしない!
 俺が使うのはこれだ!」
「それは!さっき使っていたXO醤!」
「違うぜ看護婦さん!」

それにしてもこの看護婦、ノリノリである。

「真の料理人たるもの状況に合わせて様々なXO醤を作っておくのが当たり前さ!」
「まあ、すごいわ!」
「俺のは……濃いぜ?」

上田が仕上げ用と書かれた瓶に入った真紅のXO醤――諸悪の根源――をたたき込む。
これが入った瞬間、鍋の中が完全に赤く染まった。

「で、最後に水溶き片栗粉をタぁアァァアップリ!混ぜて、……できあがり。」
「わぁ、とってもおいしそう!でもこれってカロリー……」
「食えば全部消費するから大丈夫。」
「いくらでも食べられるわね!」
「まかせてくれ!」

上田は皿にたっぷり麻婆豆腐を盛って看護婦さんに出した。




「でわでわ……、頂きます!」
「召し上がれ!」

赤黒いソレが看護婦さんの柔らかい唇の間に入り込み、彼女の味覚を蹂躙する。

「んっ……、はぁぅ……。
 なに、これえ……?すっごく辛くて、でも……。」
「これでも自信があるんだけど、どうだい?」
「うふふ、……すっっごくイイです。」

看護婦さんの額にじっとりと汗がにじむ。
あまりの激しさに早くも体力を消費し始めているようだ。

「そう言ってくれると嬉しいね。」
「こういう刺激的なのって、大好きなんですよ。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの、それじゃあ……。
 と こ と ん 喜ばせてあげないとなあ!」
「きゃっ、怖いわぁ、……なんてね。」

上田は特製物食うってレベルじゃないラー油を取り出して彼女に差し出した。

「これをかければ……、もっと熱くなれるぞ?」
「まぁ素敵…………!」

彼女は迷わずにそれを手に取る。
なんの遠慮も容赦もなく、彼女はそれを麻婆豆腐にぶっかけた。




「こんなに出しちゃうなんて随分と随分じゃないか、イケナイ看護婦さんだ……。」
「あらぁ、怖いんですか探偵さん?自分から始めたくせに。」
「怖いさ。」
「え?」
「怖いけど……。」

上田は自分の分の麻婆にもラー油をだくだくとかけ始める。
そしてスプーンでぐちゃぐちゃにかき混ぜてから一口、二口。

「でもそれが最高に……そそるんだよな。」
「―――――まぁ、悪い子。お姉さんそう言うのは許さないぞ?」
「ソレを言ったら二人とも悪ガキだよね?」
「そのまま大人になっちゃった。」
「ふふっ」
「あはは……」

それにしても、自分に姉が居たらこんな感じなんだろうか。
いつも悪戯をしようとしたら見つかって、でも笑顔で一緒にしてくれる姉が欲しかった。
親父にもそんな我が儘言ったっけか。
……正月の親族一同集まってた所で。
ごめんね父さん母さん。
まあそれは過去のことだ、俺が見つめるべきは今。
今目の前にある麻婆豆腐。

「じゃあ、」
「改めて、」
「「頂きますっ!!」」

そんなことを思いながら上田は看護婦さんと麻婆豆腐をむさぼり始めたのだ。
【上田明也の奇想曲33~美味しい麻婆豆腐の食べ方~】

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