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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-a09

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uranaishi

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恐怖のサンタ 日常編 09


「――――酷いな」

 血まみれの女性を見た占い師の第一声はそれだった。

 ここは、山田が三人(+一匹)で住んでいるアパートの一室。
 部屋の中央の畳の上には何枚ものシーツが敷かれ、その上に一人の女性が横たわっている。
 山田家の面々はそれを取り囲むように、占い師は女性の横に跪くようにして座っていた。

「……そんなに、酷いのか?」

 半ばやっぱりと思いつつも、山田が占い師に尋ねる。
 子ライオンがここまでやってしまったと考えている山田は、内心びくびくである。
 占い師はそんな山田の顔を見ずに、女性の腕に軽く触れた。

「少なくとも、俺がどうこうできる範囲じゃない」
「マジか……」
「とうとう殺人ですか、契約者。日ごろの鬱憤が溜まってたのは分かりますが、発散方法が過激ですねー」
「……違う。これをやったのは猫で、俺じゃないぞ」

 呆れたように呟くマゾに、山田が噛みつく。
 しかしそれを聞いて、占い師が怪訝そうな顔をした。

「見た限り、その子ライオンは何も関与していないと思うが」
「…………へ?」

 きょとん、と山田が目を丸くする。
 その背後では、マゾが何やらうんうんと頷いていた。

「そうでしょうそうでしょう。やっぱり契約者が憂さ晴らしに――――」
「……いや、この血は外からついた物だろう。外傷は一つもない」

 占い師の言葉に、その場にいた全員の目が点になる。
 一匹の子ライオンだけが、眠たそうに眼をしょぼしょぼさせながら欠伸をした。

「とにかく、俺にはどうしようもない」

 膝を立て、占い師が立ちあがる。
 それに合わせて畳が鈍い音をたてて軋んだ。
 立ち上がった占い師は、どこか睨むような視線を一点に向けている。
 その先にいたのは、一人の女性。

「……えっと、何でしょうか」

 占い師に視線を向けられた女性、良子は首を傾げた。
 怪訝そうな顔をする彼女に、占い師は首を振る。

「いや、あんたじゃない」
「…………?」

 さらに首を傾げる良子を無視して、占い師は彼女の元へ歩き始める。
 占い師の言葉とは裏腹に、彼の眼は良子の方向に固定されていた。
 どこか呆れたような、少し疲れたような視線。

「……俺が何もできない以上、あんたに頼むしかないわけだが――――」

 占い師の手が、良子へと伸びる。
 どことなく刺のある言葉とその手に、良子は身体を竦めた。
 おい、と訝しむ山田を横に、その手は彼女へと向かい

「――――隠れてないで出て来てもらおうか、じいさん」

 ……その手が、良子の後ろにいた「何か」を掴んだ。
 空中で静止し、しかし何かをつかむように握りこまれた手。
 それを見て、山田が怪訝な顔をする。

「おい、一体何を――――」
「見てれば分かる」

 山田の問いかけを切り捨てて、占い師が手に力を込める。
 ギリギリと、その手が何かに食い込んでいく。

「いつまでも出て来ないつもりなら、引きずり出すだけだ」

 占い師が小さく呟いた途端、その手が淡く輝き始めた。
 光は占い師の手から離れ、その周囲へと散らばっていく。
 角度によって、赤から黄色、黄色から緑へと変色していく光。

「確かに、光を反射しなければ透明にもなれる――――」

 光は浮遊し、隠れた「何か」へと付着していく。
 最初はただの肌色の光の塊のように見えたそれは、指、手、腕と形を作っていった。

「――――だが、身体の色素と同じ発色をする光を身体に付着させれば、擬似的に身体を浮かび上がらせる事も出来る」

 やがてそこに現れたのは、一人の老人。
 140cmの小柄な身長に、ただの白い布を纏った老人は、「仙人」と呼ばれる都市伝説である。
 老人は、自身の身体についた光を、そしてそのせいで浮かび上がった身体を見降ろし、渋い顔をした。

「……つまらんの。透明人間は男の浪漫じゃろうが」
「そんな幻想は子供の時に捨てろ。仮にも数千年生きるじいさんが持つべきものじゃない」
「――――おい、何だその爺は」

 占い師が光の粒を発生させるのをぽかんと眺めていた山田が、ようやく声を出す。
 ちなみに、その視線の先にいる老人はわきわきと手を蠢かし、山田の恋人の胸へと伸ばしている。

「えっ? ……ひゃっ」

 それに気付いた良子は、慌てて老人から距離を取った。
 名残惜しそうに、老人が後一歩で届くはずだった夢へと視線を向ける。
 その手は空を掴み、虚しく蠢いていた。

「……浪漫の分からん弟子を持つと大変じゃな」
「現在進行形で大変な事態になってるこの部屋で何が『大変』だ」

 突然現れた老人に警戒し毛を逆立てる子ライオンに、後一歩で色々とされていただろう恋人を背に庇う山田。そして極め付けにはシーツの上に血まみれで横たわる女性。
 どれを取っても「平穏」のへの字もない光景である。
 唯一「まとも」な部類に入る占い師は、寝かされた女性を指差して

「アレを救えるのはあんただけだ。喜べ、無条件で女の身体に触れるぞ」
「医者は患者に性的な興奮を抱かん。そのような劣情など持てるか、阿呆」
「……えらくまともな事を言うな、じいさん。偽物か?」
「なぜそこを疑われねばならん……」

 未だに占い師の手が食い込む肩を落とし、老人が考え込む。
 その目は血まみれの女性と、山田の後ろに隠れる良子を行き来していた。
 大方、何をすれば一番徳なのかを頭の中で計算しているのだろう。

「…………ふむ」

 答えが出たのか、老人が頷く。

「――――おいっ!?」

 老人が何をしようとしているのかに気づいた占い師が両手で老人に掴みかかるも、少しだけ遅かった。
 老人の方を掴んでいた右手からその感触が抜ける。
 占い師の目の前から、老人が消えていた。
 何が起こったのか、などは考えるまでもない。
 老人は自分の身体を霞に出来る。

「サンタの契約者、恋人を隠せっ!」
「え? あ、けど――――」

 ――――いきなり隠せと言われても。
 そう困惑する山田の前に、部屋に散らばっていた霞が集中し始める。
 白いそれは、やがて塊へと変貌し、その塊は人を形作っていく。

「ほっほ」

 笑い声と共に、老人が山田の目の前に現れる。
 その目は欲に暗く輝き、手は再び蠢き始めている。
 老人の視線は、山田の背後にいる恋人へと注がれていた。

「――――くそっ!」

 思わぬ登場を前に、山田が拳を振りかぶる。
 いくら透明になっても、霞になっても、その実体はただの老人。
 成人男性である山田にとって、それ程の難敵とは思えなかった。

「違う、それは偽物だ!」

 そこに響いた、占い師の声。
 驚き思わず手を止めた山田の目の前で、老人の姿が揺らいだ。
 紐がほどけるように、、ただの白い霧のような煙へと身体が崩れていく。
 目の前にいた老人は、偽物。
 つまり、老人の狙いは、山田を倒してわざわざそれを乗り越える事ではなく

「――――きゃっ」

 背後で、小さな驚きの声が漏れる。
 振り返ると、良子の前にあの老人が立っていた。
 偽物の時でさえ陰鬱だと思えた瞳は、今や欲望で光り輝いていた。手の蠢きに至っては二倍の速度でわきわきとしている。
 老人でも仙人でもない、ただの変態がそこにいた。

「…………っ!」

 目の前の老人を見て、良子は身の危険を感じた。
 それは身体的な意味でもそうだし、また精神的な汚染すらなぜか連想させる。
 とにかく、この老人に触れられていい事はないと、彼女は思った。
 しかし同時に、彼女は自身の安全の確信していた。

 良子の身体が、薄く、半透明になっていく。
 全ては老人が彼女の身に触れる事で起こる。
 ならば霊体となり、老人に触れさせなければいい。
 実体が霊体に触れる事は出来ない。
 半人半霊である彼女だからこそできる芸当である。

「……ほっほ、甘いの」

 しかし老人は、笑っていた。
 良子は、目の前の老人を見て驚く。
 先ほどとは変わっていないように見える、老人の身体。
 しかしその周囲を、淡白い光が覆っていた。
 彼女は本能で悟る。
 今の老人は、霊体でも自由に触れる事が出来るだろう、と。

「『仙人』とは幽界と顕界を往還する者。霊体に触れるのは簡単じゃよ」

 ほっほと笑って、老人は良子へと手を伸ばす。
 正確には、その胸へ。
 老人の顔は、勝利を確信していた。
 後数秒で、その確信は事実へと変わる。

「――――なら、こうしたらどうなるんですかねー?」

 しかし、その時老人の耳が、一人の少女の言葉を捉えた。
 わざわざ目を向けなくても分かる。
 この部屋にいる「少女」と呼ばれる部類の人間は、ただ一人。

「ふっふっふー」

 マゾサンタが、何やら得意そうな顔で立っていた。
 その手には、1メートル程もある巨大な袋が握られている。
 老人はあの袋が何を意味するのか、知らない。
 しかし何かとてつもない嫌な予感に襲われ、老人は手を伸ばす速度を速めた。
 マゾが何をしようとも、決して届かない距離と速さ。
 老人の野望が成就するまで、後1秒もない。
 一瞬揺らいだ勝利への確信を、老人は再び取り戻して

「…………む?」

 しかしその手は、到達目標の地点へとは届かなかった。
 老人の手が、これ以上前へと進まない。
 それどころか、指一本動かせない。
 似たような現象を、老人は移住後に一度体験している。
 「組織」の黒服がやってきた時、縫いとめられた際にも同じように指一本動かせなかった。

「…………まさか」

 唯一動かせる眼球を下へと向ける。
 視線の先は、腹部。
 そこに一振りの剣が突き刺さっていた。
 それは中国において伝説とされる霊剣の一種である。

 老人はその持ち主を知っていた。
 眼球だけを動かし、恐る恐る少女の声のした方向、さらに言えばその手に持った袋へと視線を向ける。
 その袋は奇妙な形に歪み、その一部は真一文字に裂けていた。
 まるで何かが突き破って出来たような破け方を、さらには人でも入っているかのように揺れる白い袋を見て、老人の顔が初めて驚きと恐怖に染められる。

「まさか空間転移系の都市伝説、かの……」

 袋を持ったマゾを、老人が窺うように見やる。
 戦々恐々の体である。

「ふっふっふー」

 それに対して、マゾは不気味に笑うだけだった。
 その表情に、老人は己の嫌な予感が的中した事を悟る。
 マゾの手に持った袋を結わいていた紐が、ひとりでにほどける。
 軽い音を立てて紐は床へと落ち、括りのなくなった袋の口が大きく開いていく。
 ゆっくりと、しかし老人には永遠のように感じられる時間。

 やがて、袋の中からは一人の女性が立ちあがった。
 長身のロングの黒髪。
 老人のよく知る女性が、そこにいた。

「あぁ…………」

 思わず、老人がうめき声を洩らす。
 もう、楽しい時間は終わってしまった。
 そう感じずには、いられなかった。

*********************************************

「――――全く、また人様に迷惑をかけて……よりにもよってあの人にまで……」

 ぶつぶつと、老人の背後で長身の女性が呟き続けている。
 老人の身体には、つい先日と同じように剣が突き刺さり、床へと老人を縫いとめていた。
 山田などは「虐待なんじゃないのか」と内心戦々恐々である。
 老人の目の前には、血に塗れた女性が未だに横たわっている。
 女性そっちのけでずっと騒いでいたわけだが、特にその身体に変調は見られなかった。良い意味でも、悪い意味でも。

「……まるで扱いが囚人じゃの」

 文句を言いつつ、老人が唯一動かせる腕を女性の元へと運ぶ。
 その動作はぎこちなく、まさに「運ぶ」としか形容できないものだった。
 それだけ老人の力を制限しないと、老人が何がし始めるか分からない程危険なのだが、山田などはその姿を前に「虐待? 警察沙汰!?」とさらに怯え始める始末である。

「…………ふむ」

 老人の手が横たわる女性へと触れ、淡く光る。
 その様子を見て、老人は眉を潜めた。

「……何じゃ、これは」

 治療はまだ、始まったばかり。
 長い夜は、まだ明ける兆しすら見せない。

【続】



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