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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-105

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【上田明也の奇想曲34~キサラギ~】

電車。
俺は電車に乗っていた。
現在三月十四日、俺と茜さんは電車に乗っていた。
ちょっとした旅行である。
だが先ほどからどうにも車内の様子がおかしいのだ。

「明也さん、何か変ですよ……?」
「ああ、さっきからずっと気になってたんだが……。
 でも都市伝説の気配も人間の殺気もしない。」
「する訳無いじゃないですか。」
「それもそうか。」

だって、何時の間にか車内には誰もいなくなっていたのだから。
その上に各駅停車の電車がもう二十分も止まっていない。

「俺はさっきからずっと寝ないで起きていた。」
「私もずっと周囲を警戒してました。」
「旅行中なんだからもっとゆるくいこうよ、ゆるく。」
「そうは行きませんよ、丁さんはいろんな所から恨まれているんですから。」

ちなみに茜さんも外では俺のことを偽名で呼んでいる。
気になることがそういえば一つあった、強いて言えばなのだが空間の雰囲気が違う。
だがそれも繁華街と路地裏程度の差。
都市伝説によって形成される異界のような強烈な違和感はない。
空間操作を使える俺だから気付いたレベルなのだ。



「むぅ、誰かいませんか?」
「…………返事はないですね。」
「携帯電話とかパソコンは動く?」
「動きます、最悪赤い部屋を使って帰りましょう。」
「そうだな。リレミトさえあれば……。」

バチッと音がしてパソコンにノイズが入る。
突然、パソコンの電源が切れてしまった。

「リレミト使えなくなりましたよ。」
「もうやだこの状況。」
「ですが、これで都市伝説か何かに襲われていることは解りました。」
「まあな、俺達を襲うなど馬鹿みたいな話だがそうなる。」

だが嫌な感じはする。
こうやって徐々に徐々に逃げ場を奪われて、最後には命まで……。
まあ気のせいか。
俺の命を奪えるほど巨大な力は感じないし。

「でもあれだな。この異常は恨まれてというより、俺たちは偶然巻き込まれた感じじゃないか?」
「うーん……。」

そうやって悩んでいる内に電車が停まる。
駅の名前は「きさらぎ駅」と書いてあった。

「どうする?ぶらり途中下車でもしてみるかい?」
「……いや、駄目です。こんな駅聞いたことがありません。
 鉄子でネトゲ廃人でフィギュア収集が趣味でプラモ製作がライフワークの私が聞いたことない駅なんてありえません。」

この子はどこまでオタク化していくつもりなのだろうか。





「茜さん、妙なところでキャラを立てなくても良いんだからな?」
「へ?」

俺は茜さんを抱きしめて優しく頭を撫でた。
そんな妙なキャラ立てされるとむしろこっちが困るぞ。

「あ、電車が動き始めましたよ!」
「おお、本当だ。」
「まあしばらくしてれば元の世界に戻れるでしょう。
 偶然出会ったなら静かにやり過ごせば良いだけですから。」
「まぁな、無駄な戦いをしてもしょうがない。」
「ええ、ところで北海道に着いたら何処行きます?」
「まあ函館から札幌、そして知床行ったりしたいな。
 北海道は都市伝説が多いと言うしな、あとは帰りにでも富良野に寄るか。」
「今三月ですよ?」
「ああー、しまった。じゃあ素直に旭山動物園な。
 温泉は函館で入るから良いかなあ……。」
「登別!登別!」
「あれだな、別行動するのが嫌だから個室に温泉がついているのが良いな。」
「そうですね、今みたいなことになると困りますから。」
「ああ……。」

しばらく話していると電車が次の駅に停まる。
今度の駅の名前は……

「……どういうことだ。」
「また、きさらぎですね。」

先ほどと同じ駅に着く。
どうやら俺たちはこの異界に完全に飲み込まれているらしい。





「降りるか?」
「その前に車掌室とか他の客車の様子とか調べましょうよ。」
「うーん……、俺の異常をフル活用した所、他の客車には誰もいない。
 言葉が聞こえない、人間の心の気配も無いぜ。」
「……明也さん、只の人間なのにそのスキルずるいですよね。」
「スキルじゃない、そういう系(タイプ)なんだ。」
「明也さんって、人間というよりは私たち寄りなんじゃないですか?」
「……どうなんだろうな。」

自分が人間じゃないのかもしれない。
不意に心細くなって茜さんの手を強く握る。
大丈夫、それでも彼女は此処にいる。
俺が人間であろうと無かろうと、彼女は其処にいる。
だから彼女は俺が人間であるのか俺に問うたのか?
何が有ろうと俺が何者だろうと俺の側にいつも居るのは自分だと言いたくて。
彼女の心を言葉から覗けば彼女自身も気付かないそんな想いが透けて見える気がする。
それはきっと気のせいなのだ。
それは気のせいなのか。

「行くか。」
「ええ。」

考えていても仕方ないから、俺は自分の異常が届かない運転席に向かうことにした。
何故か其処だけはノイズがかかっているのだ。




誰も居ない客室を抜けるとすぐに運転席に着いた。
コンコンとノックしても反応はない。
どうせ何か居てもまともな物ではあるまい。

「少し離れていろ茜さん。」

俺はドアノブに手をかける。
だが空かない。
鍵穴がないところから見ると内側からしか鍵がかからないか、何かしらの封印がなされているのか。
俺は契約で上がっている身体能力でドアを蹴破る。
押し込み強盗もかくや、という感じだ。

「ノリがアクション映画ですね。」
「良いんだよ、非常事態なんだから。」

蹴破ったドアの中には誰も居なかった。
当たり前か。
そうこうしている内にまたきさらぎ駅に停まる。

「今度こそ降りてみるか?」
「しかたありませんね、そうしましょう。」
「素直にサンジェルマンに連絡しても良いが……。」
「まあこれくらい問題無いんじゃないですか?」
「そうだな、あいつも忙しいし。」

俺は茜さんと二人できさらぎ駅に降りた。
外はまだ昼間だがやはり冬なので少し寒い。
茜さんの身体が心配だ。




「寒くないか?」
「いえ、都市伝説の身体は丈夫ですから。」
「……そうか。」
「行きましょう、なんでこんな事が起きているか調べるのも面白いと思いません?」
「それもそうだな。」

駅にはきさらぎ駅という看板が置いてあるだけだった。
駅員さえも居ない。

「これは本格的におかしいな。」
「ええ、多分完全に別の次元に迷い込んでますよ私たち。」

俺は茜さんと二人で線路に沿って歩き始める。
しばらくすると目の前にトンネルが見えてきた。

「あっ、トンネルだ!でもこういうのって潜る時は気をつけた方が良いんですよね。」
「ああそうだな。ところで茜さん、何か聞こえないか?」
「私は何も…………、あ!」
「祭り囃子みたいな音が……。」
「私にも聞こえます、祭り囃子ってなんでしょうかね?」
「おい、あんたたち!線路の近くは危ないぞ!」

心のこもらない虚ろな声が聞こえてくる。
声色は真面目なのにどうしてだろうか?
後ろを振り返ると片足のないおじいさんが立っていた。




「あ、ごめ……。」
「返事をするな茜さん。」
「……解りました。」
「声から心を感じない、多分残留思念、幽霊って奴だ。
 暴力が通じない都市伝説より質が悪い。」
「明也さんって霊感強かったんですね。」
「おう、幽霊とでも会話が成立するからな。異常も霊感の延長線上にあるのかもしれないね。」
「それは無いですね。」
「そっか。」

ガン無視してしばらく話していると片足のおじいさんは消えた。
祭り囃子はその間にも近づいてくる。

「よし、もう居なくなったな。」
「祭り囃子が近づいてきますね。」
「ああ、なのに姿も見えない。」

そう、祭り囃子の音だけが近づいてくる。
まるで怪談みたいだ。
音がすぐ側まで来る前に俺は茜さんを自分の後ろに隠すように立たせる。

「そこの人間。」

声だけが聞こえる。とりあえず無視を決め込んだ。

「何故人間がこのような所に居る。ここは神の通り道だ。」

無視。
返事をしてはならない。




「ふむ、何かいる気はするんだがのう……。
 気のせいか……。」
「…………。」

生暖かい息がかかる。
本来何も居ないはずなのに。

「気のせいじゃな、行こうかのう。」

そうして祭り囃子の音色はどこか遠くに去っていった。
茜さんはどうやら“それ”の姿は見えていたらしく顔を真っ青にしていた。

「何が見えたんだ?何かされたのか?」

俺が尋ねても茜さんは首を横に振るだけだった。

「あれは……、多分人間が見えても聞こえてもいけないものです。
 私には何も無かったですけど明也さんの方こそあそこまで近くに寄られて平然としてられるなんて……。」
「ふむ、戦わなくて正解か。
 学校町の外には“日常化”されて無い分、洒落にならないレベルで強い存在が居るからな……。
 よしんば外なら勝ててもこの世界じゃ勝ち目がない。」

あれもきっと八百万の一柱だったのだろう。
となればここは神様の通り道か。




「茜さん、まずはこのトンネルの先に行こう。」
「そうですね、トンネルを抜けたらそこは異界とか良くある話ですしお寿司。」
「お寿司食べたいね、函館の後は小樽にも行こうか。」
「わぁ!それは素敵ですね!」

トンネルを振り返らずに歩き続ける。
予想以上に何も無い。
ただ…………くらぁいだけだ。

「そういえば明也さん。」
「なんだ?」
「昔の巫女とか神官って明也さんみたく神様の声を聞けた人がなったんでしょうかね?」
「……なのかね。あんな物と話してどうするというのだろうか。」
「そりゃあ恵みを頂いたりとか……。」
「うぅん……。」
「学校町の外では契約者が少ないので明也さんみたいな霊感が強い人が都市伝説を退治してるらしいじゃないですか。」
「霊感が強いと言うのかこれ?」
「でもやたらこういう時の対処に慣れてますし……。」
「契約者だもの。」
「契約者なら戦うか逃げるかしますよ。まさか向こうがこっちを視認できないなんて思いません。」
「そういや契約無しで戦ってた時期も有ったからな、ちょっとしたお祓いもできるの。」
「そうなんですか……。」

トンネルの向こうに小さな光が見える。
どうやらあれが出口らしい。




「さて、愛すべき我が世界……。」
「……じゃないですね。」

今度は森の中。
朧気ながらも異界特有の違和感は消えない。
遠く向こう側に黒い服を着た青年と巨大なバイクが見える。
その青年には大量の幽霊が群がっていた。
恐らくあの青年は見つかって、位相が重なってしまったのだろう。
そもそも幽霊や神様と俺たち人間が生きる次元の位相は違う。
声が聞こえたり、姿が見えるのは、その位相が重なりかけているからなのだ。
だから見えても見るな、聞こえても聞くな、触らぬ神に祟り無し。
神や霊と接触するのは素養を持った一部の専門職の仕事だった。
人間は何時の間にかそんな当たり前のことすら忘れて神や霊との触れ合いの場を奪ったのだ。
人々の生活の中にある闇を追い払ってしまった。
だから一度本当に闇に触れればどうすればいいか解らなくなる。
心の中から闇なんて幾らでも湧くというのに。

さて、青年は光線銃と思しき物でそれをなぎ払っているがあの様子だと五分も保たないだろう。
見捨てるのも気分が悪い、組織の黒服のようだが助けておくか。
そう思った時だった。
まず青年自身が自らの服を引き裂いて狼に変身する。
そして青年の乗ってきていたらしいバイクが突然ロボットに変身する。
あれは組織のF-№、というかサンジェルマンの城で見たことがある。
ロボットは幽霊らしき物に向けて組織の黒服が持つ光線銃の巨大版を撃ちまくる。
狼に変身した青年はその爪で幽霊を滅茶苦茶に切り裂く。
幽霊達はあっけなく消え去った。
ロボットがまたバイクの姿に戻る。
俺たちは周囲の安全を確認してから黒服の青年に声をかけた。




「おい、あんた達大丈夫か?」
「ひぃっ!ハハハハハ、ハーメルンの笛吹きじゃないッスか!」
「待て待て、俺たちはお前らに危害を加える気はない。所属と№を教えてくれ。」
「お、お、俺はF-№555ッス!」
「……ッスって誰かと口癖被ってない?」
「知らないッスよ!」

まあカタカナだしギリギリ許されるレベルか。
そしてF-№ならサンジェルマンの部下だ。
ある程度、会話の余地もあるだろう。

「まあ良いや、ところでお前はなんでこんな所に来ているんだ?
 どうにも神様の世界に近いぞここ。」
「そ、そういうあんた達はなんでこんな所に?」
「まあ先に説明するのが筋か。
 俺たちはちょっと旅行に来ていたんだ。
 その途中で偶然迷い込んだ。」
「ホ、本当何スカ……?」
「ああ、【嘘はない】よ。そもそもお前の所の№0、サンジェルマンとは知り合いだ。
 友人の部下を傷つけるなんてことはしないぜ。」

言葉に力を込める。
それは彼の脳に浸透して思考を、行動を、俺の言葉通りに制限する。

「俺はサッちゃんに頼まれて新兵器の実験をしに来てたッス。
 携帯で呼び出すタイプだったんスけどさっき会ったよくわからない神様みたいなのに携帯使えなくされちゃって……。」

……あいつ、サッちゃんって呼ばれてたのか。
少し意外だ。






「新兵器?サンジェルマンの言っていた武器……。
 ああ、都市伝説の力を最適化して制御する為の人工契約者か。
 身体に装着することで一時的に契約した都市伝説並みの力を得るんだろう?
 サンジェルマンが幾つも試作品ぶっ壊して頭を地面に叩き付けたあげく、ストレスで発狂して俺の尻めがけて全裸で襲いかかってきたぞ。」
「え、何それ羨ましい。」
「そこは突っ込まないからな。今見た限りではあんた狼男か?まあ契約でパワーもスピードも上がるし新兵器の実験には良いよな。」
「はい、まあそんな感じッス。」
「ところでなんで今使わなかったんですか?」
「それが聞いて欲しいッスお嬢さん、その新兵器が転送されて来ないんすよ!
 組織でF-№が使ってる転移装置によって送られてくるはずなのに!」
「ふむ、それは大変ですね。転移装置の故障、ですかね。
 それとも異界のせいで通じていないのか……。
 すこし転移装置見せて頂けませんか?
 機械には詳しいので……。」

茜さんが機械を手に取ろうとしたその瞬間、遠くから祭り囃子が聞こえてくる。

「まずい、また来たか!」
「なんなんすかあの音?」
「神様だよ、日本に古くから居る神様だから間違っても戦おうだなんて……。」
「え、俺あいつと戦ってこいって言われてたッス。」
「サンジェルマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!」
「明也さん大声出しちゃ駄目で……あらあら。」
「こいつが敵ッスね!俺が倒しますよ!」
「先ほどから煩いのはお前らか?」

祭り囃子は何時の間にか聞こえなくなっていた。
その代わり、とてつもなく大きくて真っ黒で仮面を付けた何者かが立っていた。
どうやら位相が合ってしまったようだ。カオナシの神様といった所か。




「もはや黙りを決め込んでも無駄だぞ!
 我々の領域に踏み込んでくるとは無礼な人間共め!」
「さっきのと、違う神様?」
「……すまなかった、すぐ帰るから見逃してくれ。」
「ならん!貴様ら四人とも叩き殺してくれるわ!!」
「四人とも?
 ふぅん……じゃあ仕方ないな。
 おい555、変身できればあいつ倒せるのか?」
「サンジェルマンはそう言ってたッス。」
「茜さん、その変身装置をスマートフォン経由で赤い部屋と接続しろ。
 サンジェルマンの所と直接繋げて何でも良いから強化服だかを呼び出せ。
 俺が時間を稼ぐ。」
「了解しました!急いでやるから無茶しないでくださいね?」
「笛吹きさん、申し訳ないッス!作業が終わったらすぐに助けるッス!」
「なぁに、ところでアレを倒してしまっても構わんだろう?」
「それは実験の都合上……。」
「うるさいのう、何やらペチャクチャペチャクチャと……。
 もう良い、貴様らのような無礼者は……!」

カオナシが大きな腕を振り下ろしてきた。
どうやら俺たちを叩きつぶすつもりらしい。




先手必勝。
カオナシが振り下ろしてきた腕に大量の釘を突き刺す。
内側から高速の振動を与えることでダメージを増やし、相手の動きを止める。
釘の刺さった穴から黒い液体がドロドロと噴き出す。噴きだした後すぐに傷口は塞がるのだが。

「ぬぅおおおお!?」

大量の都市伝説の力が俺の身体へ流れ込んでくる。
赤い部屋があのカオナシの神様に勝っている部分は二つ。
一つは知名度による能力補正、だがこれは異界の影響でかなり削られている。
むしろ向こうの方がその点では優勢だ。
そしてもう一つは契約者の存在。
都市伝説の契約は都市伝説自体と契約者のつながりが深ければ深いほどに力を増す。
だから都市伝説も契約者も無意識のうちに互いを強く求め合う傾向がある。
俺と茜さんのつながりは聖杯の一件以来、通常ならあり得ないレベルで深まっている。
そう、彼女の体内に宿っている存在が契約の回路を補強するように動いているのだ。





またも取り出した釘を指に挟んでカオナシの指を斬りつける。
滅茶苦茶な勢いで振動しているそれはカオナシに触れた瞬間に甲高い音を立ててそれを真っ二つにした。

「おのれえええ、小賢しいわ!」
「小賢しい?パワー負けしてる奴が言う台詞じゃないぜ。」

そう、圧倒的な出力の違い。
そもそも俺の器で契約できる都市伝説の量が異常なのだ。
その器を全てたった一つ、赤い部屋に使っている以上、純粋な地力が違う。
低級な神程度ならば遠慮無く叩きつぶせる。
が、ここは俺の世界ではない。
あいつらのための異界。

「これでも喰らえぃ!」

一気に体中から力が抜ける。
どうやらこれがこの世界の能力らしい。
引き込んだ人間の都市伝説能力を阻害しているようだ。
そのままカオナシの太い腕が俺を地面に叩き付ける。

「くっはっはっは!所詮は人間、ここではお前らが弱者よ!」

「さぁて、それはどうだろう?」

ペロン、と口を開ける。
中から出てきた大量の釘がカオナシの仮面に殺到した。
含み針と言う奴だ。
カオナシは思い切りのけぞって二、三歩後ろにのけぞった後、地面に倒れる。





「つ、強いッスね……。
 相手が回復を続けてさえ居なければもうとっくに倒せてるんじゃないッスか?」
「今の丁さんは赤い部屋を拡大解釈……いいえ、曲解拡張しています。
 彼の使う能力はもはや解釈の違い云々で済まされない、
 赤い部屋をベースにした別の何かと形容するしかない物になっていますから。
 赤い部屋っていうのはそもそも被害者の居た部屋が血で赤く染まった空間になるってことなんですよ。
 だから彼は赤く染まってさえいればどんな空間でもある程度異界化できます。
 たとえば……自分の体内とか。
 攻撃を受けても内蔵を異界に飛ばして血流を繋げて致命傷を防ぐとかやってるんじゃないですかね?」
「どれだけ精緻な操作系の能力が要るっていうんですかそれ……。」
「そこが、あのお医者様の言うところの特化型たる所以なのではないですか?」
「ふうむ……。」

強い?とっくに倒せている?
そう見えるかも知れないがこれではじり貧だ。
どれだけ攻撃してもそれを上回る速度で回復されてしまうのだから。
幾らこちらが優勢に見えてもあまり意味は無い。
まあそれでも手がない訳ではないのだが。







「さて、人間、お主はどれほど保つのかのう?」

カオナシは俺を見下ろしている。
俺が何時か限界を迎えて倒れると思っているのだろう。
普通なら確かにそうだ。
そもそも幾ら手数で圧倒してもここではあいつの方が強い。
でも、此処以外ならこいつとて八百万の一柱、取るに足りない神様だ。
ならば此処ではない場所で叩きつぶせばいい。
そう、俺の世界の中で。

「そうだな、……俺の世界が尽きるまでといったところか。」
「ぬ、これは……!」

俺を起点にして周囲の風景がそのまま赤く染まる。
赤い部屋の真骨頂、汚染型の異界発生能力だ。
この異界を『奴の世界でもあると同時に俺の世界でもある』状況に変更することができる。

「む、異なことを……。人間風情がこれではまるで我々と同じではないか!」」
「おいおい、人間だって進化するんだぜ?これくらいできるさ。」

俺はシニカルに笑ってみせた。
さぁ、お了いにしよう。





真紅に染まった世界。
それは俺によって征服された神の通り道。
パソコン内部の異界に新しい赤い部屋を作る感覚でカオナシの周囲に障壁を形成。
カオナシをその部屋の中に閉じ込める。

「ぬっ、うごけん!?」
「押しつぶされろ!」

両手を合わせると同時にその部屋のサイズを極小化する。
かなり抵抗されるがジリジリとカオナシがつぶれていく感覚が伝わる。

「や、止めろ人間!
 我々をここで殺すと言うことは世の理を……!」

ここは神の世界。
神の世界で神を殺すと言うことは確かに理に合わない。
人間が人間の世界で幸せに暮らしているのだから、
神だって神の世界で普通に幸せに平和に暮らす権利はある。
この秩序が壊れれば確かに危険だ。

「八百万なんだろ?すぐ補充されるさ。」
「馬、馬鹿を言うでない!」
「ウソウソ、神様から恨まれると怖いからさ。
 俺たち四人を殺すんだろ?
 三人までなら仁義を通して見逃そうとか思ったんだよ。
 でもお前は四人と言っただろ?
 いけないな……、すごくいけない。
 その言葉は俺を怒らせた。」

パチン、俺はもう一度だけ手と手を合わせて音を鳴らした。



カオナシは赤い部屋の異空間の中に飲み込まれた。
恐らくトドメを刺すまでもなく存在を忘れられて消滅するだろう。

「あの、丁さん……?」
「ん?」
「笛吹きさん……。」
「ん?」
「いや、あれだけ時間を稼ぐって言っておいてサラッと勝つなんて……。」
「どう考えてもおかしいッス!
 あの台詞は時間稼ぎで死ぬ奴の台詞ッス!」
「俺が生きてたら困るか?」
「いえ……。」
「あ、でも実験はパァになっちゃったね。スマヌスマヌ。」
「はぁ……。」

なんなのだこいつら二人の「うわぁ……」みたいな表情。
俺が頑張ったというのに萎える奴らだ。

「さ、帰るぞ。恐らくサンジェルマンがそろそろ迎えに来るだろ。」
「555さん、実験のデータが送られないんですけど……あるぇ!?」
「ほら来た。おいサンジェルマン、俺たちを北海道行きの列車に乗せろ。
 新婚旅行の途中なんだ。」

サンジェルマンにも「うわぁ……」って表情をされた。
どうにも今日は厄日らしい。
サンジェルマンが指を鳴らすと俺と茜さんは何時の間にか電車の中に戻っていた。
【上田明也の奇想曲34~キサラギ~fin】

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