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青年と雪姫-03

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匿名ユーザー

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彼が5歳の時に、父親が家を出て行った。(後々の母の言葉を総合すると、どうやら女を作って出て行ったらしい)
玄関先で泣く母を、子ども心に慰めなければ、と思い…一歩、近づいた。
母が、彼に気づいて振り向いた。その時の憎悪に満ちた顔が、忘れられない。
「あんたの…あんたのせいであの人が出て行ったのよ!」
その言葉が終わるか終わらないか、といった辺りで、頭を叩かれた。
何度も何度も。母が満足するまで。

それから、母が不機嫌になるたびに、罰と称して何度も叩かれた。蹴られた。
他にも、首を絞められたり、階段から突き落とされたり、後ろ手に縛られガムテープで口を塞がれて押入れに閉じ込められたり…上げればキリがない。

それ以外の時は、名前を呼んで貰えなかったし、無視され続けた。
小学校に上がる頃には、3、4日程、家に帰ってこない事が多々あった。
少しでも母の役に立ちたいと料理や家事を覚えたが、見向きもされなかった。

中学に上がったある日。
いつもの様に帰宅すると、居間に、母の姿が見えた。
外は薄暗いのに明かりが付いておらず、俯いているため、表情は伺えない。
「―――母、さん…?」
恐る恐る呼びかけると、顔を上げ、鋭い眼光で彼を睨みつけた。
あの頃より背が伸びても、幼い頃から自分を虐待してきた母の眼に条件反射で恐怖を覚えた。
恐怖で動けない彼に、母が足早に歩み寄る。
「――私の幸せを返しなさいよ、この疫病神!!」
母の右手に握られた、鈍く光る銀色が見えた。
直後、ぶつっ、という、制服か皮膚を貫いた音がして、腹部に熱さを感じ…瞬時にそれは激痛へと変わった。
思わず腹部に目を向けると、左の脇腹に包丁が刺さっていた。
母が傷口を広げるように包丁を抜き、支えを失った体が、どさりと崩れ落ちた。

「まったく…産むんじゃなかったわ。こんなのを」
忌々しげに吐き捨てられたその言葉を聞きながら、彼の意識は闇に沈んだ。



「―――さ、ま…主様…!」
体を揺さぶられて、目を覚ました。
必要最低限の物しか置かれていない…見なれたアパートの一室。
白い髪の少女が、こちらを心配そうに覗きこんでいる。

「―――、………ユ、キ?」
「主様がうなされておりましたので…」
「……起こしてくれて、ありがとな。もう、大丈夫だから」
安心させようと、ぽふぽふとユキの頭を撫でる。

昔の夢を見たのは、久しぶりだった。
左の脇腹には、あの日の刺し傷が今も残り続けている。

自分を見る時の、母の眼が怖かった。
自分に話しかける時の、威圧的な口調が怖かった。
罰が、怖かった。
それでも、誰かと電話をしている時の母の笑顔は綺麗だった。
あの笑顔を、自分にも向けて貰えたら、と思ってしまった。
笑顔を向けて貰えなくても、名前を呼んで貰えなくても、死にかけても、母を嫌いにはなれなかった。


時計を見ると、真夜中だった。
ユキに、自分の事はいいから眠るように言おうとして
「―――そんな酷い顔色で言っても、大丈夫には見えませんよ…」
直後、ふわりと抱きしめられた。
「主様が落ち着くまで、こうしていますから」

背を撫ぜる手が、ユキの優しさが、温かかった。
それに、何故か酷く安心して…いつしか、徹の意識は眠りの底へと落ちて行った。


――翌日、徹が、ユキが一緒の布団で眠っている事に慌てふためくことになるのだが…それはどうでも良いことである。

続く…?

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