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連載 - プレダトリー・カウアード-16

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uranaishi

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プレダトリー・カウアード 日常編 16


 部屋は暗かった。
 暗くて、陰気で、じめじめとして。
 だがしかし、それを好む変わり者もいる。

「――――んでぇ? 今日だろ、例の『男』が出てくんの」

 黒服 O-No.008。
 組織子飼いの黒服にして、一桁台の「古参」の一人だ。

「どうなのよ、なぁおい禿坊主さんよぉ」
「……まだ初日。様子を見ている」
「あぁ? 様子見? 様子見ぃ? てめぇ死にてねぇのかこの野郎。俺ぁなんて言った? 『すぐ』だ、『すーぐ』」
「だが――――」
「だがじゃねぇけどじゃねぇしかしでもねぇ。俺が『すぐ』って言ったらそりゃ『すぐ』なんだよ屑」

 使えねぇ、と舌打ちして、黒服は一枚の紙を相手に放った。
 明りのない部屋で、けれどなぜか白が照る。

「――――これは?」

 一枚の写真をくくりつけられた紙。
 髪を伸ばした決して清潔とは言えない男が、盗撮なのかあらぬ方向を向いて写っている写真。
 紙のほうにはその男のものと思われる簡潔な略歴と、「今」の居場所。
 ご丁寧に「これから」通るであろうルートまで書き出されている。
 これが意味するところが何か、分からないほど彼が組織で過ごした期間は短くない。
 だがどうしてか、彼の口からは黒服に対する疑問が漏れ出ていた。

「それ、殺せ」

 対して、黒服の言葉は至って完結だった。
 聞き間違えなど起こり得ない、二つの単語。

「理由は」
「組織を裏切った。以上」

 だるそうに、黒服が伸びをする。
 人殺しを命じた気配など、欠片も見せない。

「…………これでも俺は、お前から与えられている任務の『報告』のためにここへ来ただけなんだがな」
「知らねぇよ。その『報告』に中身があんなら聞いてやってもいーけどよぉ。雑音じゃぁ耳に入れたくねぇよなぁ?」
「……おまえ自身が手を下せば良いだろうに。俺と違って暇を持て余しているのだろう?」
「あのな? 俺は命令する側。てめぇはされる側。それ以上でもそれ以下でもねぇんだよクソッタレ。
 大体よぉ、俺が出張んのに相手がんな雑魚一匹ってどうよ? ねーなねぇよなまッッッッッたくねぇ。
 俺出してぇなら『一族』殲滅作戦でも持って来いってんだ」

 話は終わりだといわんばかりに、黒服がソファで横になる。
 これ以上は何を話しても受け付けないだろう。
 そう判断して、彼――――禿坊主こと五十嵐輝樹は、闇から光へと、姿を消した。

*****************************************

「はっ……はっ……やった、やったぞっ!」

 男の胸に湧き上がるのは歓喜。
 柄でないと分かりつつも、喜びで鼻歌でも歌ってしまいそうだった。
 夜の道路。等間隔で街頭の並ぶ道を、ただひらすらに男は走る。
 「組織」からはうまく逃げた。後は匿ってくれる側と落ち合うだけが、男に残されたアクションだった。
 だから男は走る。

 走って、走って、ただ走って――――

「………………くそ」

 ――――道路の先に「ソレ」を見つけた。
 影。まだ遠くてよく分からないが、少なくとも猫や犬の類ではない。
 ただの通行人かもしれない。しかし本能が男に告げていた。
 ――あれは追っ手だ、と。

 口で悪態をつきながら、懐に手を入れる。
 取り出したのは携帯。
 折りたたまれたそれを開けると、既に一つのソフトが立ち上げられていた。
 携帯を縦に、裏面のカメラを影へと向ける。
 「カメラ」機能を実行した携帯の画面に映るのは、今肉眼で見えているのと寸分たがわぬ風景だ。
 顔を歪ませ、笑みを貼り付けて
 ――男はシャッターを、切った。

 ――――「写真を撮られると魂が抜ける」
 古い迷信だ。
 時を裁ち、一枚の紙へと封じ込める「業」を恐れた人間の、勝手な噂話。
 男が契約しているのは、そんな都市伝説だ。
 「魂」なんて不確かなモノを抜き取る死神の鎌。
 鎌は形を変えポケットサイズの通信機器となり、その「狩る」速度は飛躍的に上昇した。
 男が写真を取った相手は、問答無用に「魂」を抜き取られて死ぬ。
 故に最強。この力のお陰で、男はここまで生き残ってきた。

 ――――だが

「……………………そんな」

 影が、動いた。魂を抜かれたはずの、影が。
 それは重量に引かれての所作ではない。明確な意思を持って、影は一歩を踏み出している。

 腰が抜ける。最強が崩れる。
 狂ったように携帯を構えて、連射した。
 何度も、何度も、指が痛くなっても、構わずに。
 けれど、それでも――――影の足は、止まらなかった。

*****************************************

「終わった」

 短く一言、そう報告する。
 携帯を片手に、五十嵐はかつて男だった「モノ」を見下ろした。

「おーけぃ。じゃ後は俺が始末してやっからよぉ。てめぇは家帰って糞して俺様に感謝してから寝ろ」
「………………」

 死体をわざわざ処分するのであれば、男を殺す一手間くらいかけたらどうなのか。
 思って、しかし、彼は声に出さなかった。
 結果は分かりきっている。そして、そんな分かりきった答えを聞くのに、彼はもう飽きていた。
 ただあの黒服は、彼を痛めつけたいだけなのだ。
 人を殺させ、神経を嬲り、骨の髄まで黒く染め上げる。
 ただの黒ではない、血が変色した結果に出来る黒に染まり切った人間を、黒服はこよなく愛している。
 五十嵐はただ、その異常な性癖を押し付けられているだけ。
 子供のダダに反抗は無意味。相手の機嫌を損ねる結果にしかならない。

「…………了解」

 だから彼は、一言で会話を終わらせた。
 不平も不満も、あの少年の事も、その全てを飲み込んで。


【Continued...】


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