【不思議少女シルバームーン~第二話 第一章「魔法少女と錬金術師」~】
僕と朔夜の初めての出会いから数週間後。
世間は冬休みを迎えていた、朔夜は僕の家に来てゲームに嵌っていた。
なんでも驚いたことに彼女の家にはパソコンやゲームが無いのだそうだ。
彼女は今、戦闘機を使って各国のエース部隊と戦うエースコンバット7というゲームがお気に入りである。
「このっ!くそっ!ああん、もうこの機体早すぎ!
何がカスタムモデルよ!装甲も限り無く薄いから機銃一発でゲームオーバーじゃない!
こんな妙な改造の機体しか使わせないミッションって何の嫌がらせなの!?
ああでもちょっと楽しくなって来ちゃったキャッホー!」
「お嬢様、トップガンの称号を狙うのはそこらへんにしておいてそろそろご自宅の方に帰って修行を……」
「うるさいわよバトン!今度こそ私が一位になるんだから!」
「おい人間!貴様からも何とか言ってくれ!このままだとまたヨツバ様にどやされる!」
「ところがどっこい、今回はその心配がないのですよバトンさん。」
「……どういうことだ?」
「ほら、そこを見ると良い。」
僕が指さす先はゲームの電源装置。
そこでは十匹ほどのハムスターが交代制で回し車を回していた。
この回し車が回ることでコンセントから電源が通る仕組みになっているのだ。
朔夜が使い魔であるハムスターへの指示を間違い、回し車が止まると電源が一発で切れる仕様になっている。
「…………。」
「ちなみに彼女は今朝早く起きていた筈だ。」
「ああ、そういえばな。」
「ハムスターの為の体力増強薬を作らせていたんだよ。
その薬の調合を失敗しても、ハムスターが倒れてゲームオーバー。」
「…………動物虐待。」
「朝から鶏を捌いていたお前のマスターに言ってくれ。
ちなみに生け贄に使った後の残り滓を使って朝飯を作ったそうだ。」
「屠殺は虐待に含まぬ。」
「人間みたいな事言ってくれるなよ。間違ってるんだからさ。」
「あっ、ちょっ、囲まれた!?やっ、あっ、駄目!駄目!駄目来ないで!其処弱いの!
いやあああああああああああああああ!墜ちちゃううううううう!」
機体の撃墜と同時にゲーム機の電源が落ちる。
どうやら彼女の集中力も限界が来たらしい。
ハムスターが死んだ魚のような目つきでこっちを見ている。
こっちみんな。
「…………もう良い、帰る。」
ふてくされている。
おまえもこっちみんな。
「はいはい、それじゃあお家に帰りなさい。
もう五時だしね、学校で決められた帰宅時間だ。」
「はーい。……といっても冬休みだしなあ。」
「冬休みと言えばお前宿題やったか?」
「あ……、しまった。」
「お嬢様は何時も最終日に長期休みの宿題をヨツバ様に手伝って頂いていたな。」
「解った、じゃあ明日は一緒に宿題やろうか、魔法少女ごっこについていってあげるから。」
「うわあ……」
「何日分かに分けてやっちゃえば大してきつくはないよ。」
朔夜は滅茶苦茶いやそうな顔をしている。
だが僕は彼女の生活を様々な面でサポートするように命令されているので言わざるを得ない。
「うぅん、仕方が…………!」
その時、突然彼女が立ち上がる。
「どうした?」
「いや、使い魔の烏からの映像で解ったんだけど、人が襲われているみたいなの。」
「そうか、じゃあ先に行っていてくれ。僕は後から行く。」
「うん!」
と言って箒に跨る朔夜。
こっちの方をチラチラと見て中々出発しようとしない。
「なんだ?」
「いや、ボイスレコーダーとか無いよね?」
「うん。」
「あと着替えるから部屋を出て行ってくれると助かるかな。」
「え、ああ……解った。」
魔法で変身するんじゃねえのかよ!
あのコスチューム手作りなのかよ!
僕は家を出てさっさと自転車に跨る。
窓を開けて朔夜が僕の頭上を飛び去っていった。
残念ながらスパッツを穿いていてパンツが見えない。
「さて……、俺も行くか。」
冬だが今年は雪が少ないので自転車を使える。
暖冬様々である。
「お待ちなさいそこの少年。」
家を出て最初の曲がり角を曲がった時、突然何者かに呼び止められる。
「貴方が天野昴ですか?」
「最近の子供は知らない人に質問されても答えてはいけないって学校で教わるんですよ。」
「成る程、それも道理か。」
俺は自転車をこぎ始める。
曲がり角を一回曲がる。
二回曲がる。
見慣れた風景。
何故か俺は家の前の通りに戻ってきていた。
「求めなさい。そうすれば与えられます。捜しなさい。そうすれば見つかります。たたきなさい。そうすれば開かれます。
だれであれ、求める者は受け、捜す者は見つけ出し、たたく者には開かれます。
さてさて貴方は何時になったら私に与えてくれるのでしょうかね?」
碧眼金髪の青年は笑う。
「ああ、そうだ。申し遅れました。私の名前はサンジェルマン、“魔女”の血統に連なる人々を保護しています。
用事があって此処を訪ねたんですけど……。貴方が天野君ですよね?」
ハッキリと言っておく、俺は今までこれほど怪しい男を見たことは無い。
もう全身から漂う得も言われぬ黒幕オーラ!無駄な気さくさも黒幕ポイントを稼いでいる。
そして聖書の引用とかしちゃう辺りもどう考えても黒幕だ!
さらに声!ロボットアニメなどでクールな天才科学者兼主人公のライバルとか勤めあげる最強のパイロットっぽい声!
ここまでやっておいて黒幕じゃないなら一体何だと言うんだ!
「僕は天野昴じゃない、宇喜多秀家だ!きっと人違いだ!」
「それはねーよ。」
「…………。」
「それはねーよ。八丈島に流しますよ?
ほらさーん、にー、いーち……」
「…………。」
「ぜろ。」
サンジェルマンが指を鳴らす。
俺はあっという間に何処かの海岸に飛ばされてしまった。
「素直じゃない子にはお仕置きだ。」
サンジェルマンとやらが一歩ずつ近づいてくる。
なんかきもい。
思わず一歩ずつ後ずさる。
「まさかここが本当に八丈島って訳じゃ……」
「八丈島です><」
冗談じゃないぞ。
「見なさいこの美しいサンセット!八丈島ですよ!」
「そんな一瞬で海を越えられる訳ないだろうがよ!」
「都市伝説知ってる癖に馬鹿な事言わないでくださいよバーカ!」
「馬鹿って言った奴が馬鹿なんだぞバーカ!」
「やれやれ……、まあ良い。
貴方が天野君だということは既に調べがついているのですよ。」
「じゃあ聞くなよ。」
「礼儀でしょうが!」
「そういうのを慇懃無礼って言うんだよ!」
「言いません!そんな自信満々で間違わないでください!騙されるでしょうが!」
「騙される奴が馬鹿なんだよ!」
「最近の子供怖い……」
「とりあえず俺になんの用なんだよ!」
「えっとですね、魔女である天野さんを捕まえなくてはいけないので貴方を人質にしようかと。」
「は?」
「まあ大人しく捕まっておいてください……よ!」
何も無い虚空からサンジェルマンは突然黄金の鎖を取り出し、俺に向けて投げつけてきた。
幸い動きは鈍かったので咄嗟に回避することが出来た。
「解った、お前は敵なんだな?」
「そうでもあると言えるし、そうでもないとも言える。」
「しかも結構強そうだ。」
となると朔夜に近づける訳にはいかない。
少なくとも日が完全に沈んで夜になるまで俺が持ちこたえなくてはならない。
そうすれば夜になって本調子の朔夜かヨツバさん辺りが助けに来てくれるだろう。
時間を稼ぐ、その為に俺は迷うことなく逃げ出した。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第一章「魔法少女と錬金術師」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 第二章「魔法少女と魔法少女」~】
「昴の気配が……消えた?」
空を飛んでいる最中にに気付く。
まるで自分の身体の一部が抜け落ちたかのような違和感。
「バトン、昴の身に何か有ったの!?」
「それが……解らぬのですお嬢様。突如としてあの人間が消失してしまい……。」
「困ったわね……」
「お嬢様、あの人間は私が探しておきますのでお嬢様はまず目の前の為すべきことを……。」
「解ったわ、あんたが人助けを勧めるなんて珍しいわね。」
「お嬢様が気もそぞろな状態で戦ってしまい、危機に陥られてしまってはこのバトン、悔やんでも悔やみきれません。」
「ああ、そゆことか。」
「さようでございます。」
「解ったわ、じゃあ私は先に行っているわよ!」
「ご武運を。」
「まっかせなさい!」
私は飛行速度を上げて、先ほど襲われている映像が見えた人の元に急いだ。
都市伝説の気配が強くなる。
どうやらこの近くらしい、助けを求める悲鳴の方向を振り向くと、女の人が下半身の無い男の人に追いかけ回されていた。
今回の敵はテケテケか……
「おおおおお嬢ちゃあアあアあぁァぁァぁあァぁぁあああッッッハンん!
その綺麗なおっぱいをふにふにさせてよおおおお!
そんな生体マシュマロに何もできないなんて拷問だよおおお!
挟んで!揉んで!埋まって!摘んで!舐って!舐めて!囓って!突っ込んで!」
「こ、来ないで!誰か助けて!止めてよこの化け物!」
「ハッハー!男は上半身と下半身が別の生き物なのさ!
といっても下半身無いんですけどおおおおおお!
見えざるモンスターとかマジホラーだよねええええええ!
ギャハハハハハハハハハハハ!」
うわぁ……。
予想外に関わり合いになりたくない相手だ……。
何よ、何なのよあれ卑猥いわ。
でも落ち着いてシルバームーン、ああいうのこそ戦わなければいけない敵だ。
「そこまでよ!」
意を決して私は声を上げた。
「月の光をこの身に受けて、只今推参美少女戦士シルバームーン!
うら若き女の子にセクハラするなんてゆるせない!
月にかわっておしおきよ!!」
「あン?」
「へ?」
え、なにこのリアクション。
魔法少女でしょうが、美少女戦士でしょうが。
もっと嬉しそうなリアクションしてくれたって良いじゃない。
気を取り直して私はお姉さんとテケテケの間に立ち、お姉さんに逃げるように促す。
「もう大丈夫よお姉さん!魔法少女シルバームーンが助けに来たからには!
こんな変態ちょちょいのちょいで片付けちゃうわ!」
「え、あ、ありがとうございます……?」
「ほら、行った行った!」
女性を避難させると私はテケテケと対峙する。
何故かテケテケは一気にテンションが落ちていた。
私がその不自然さに警戒していると、テケテケはぽつりと呟いた。
「……おっぱいは成長してこそなんぼダヨ
ロリコンは駄目絶対に駄目……」
五七五七七って……何このテケテケ、死ねば良い。
私はもはや詠唱すらせずに箒に竜巻を纏わせた。
「芥と消えろオオォォお!くぉんのド変態がああああああああああ!」
滅多矢鱈に箒を振り回してテケテケに襲いかかる。
「いっぱいおっぱいいっぱいおっぱいいっぱいおっぱい………」
「うわあああ!気持ち悪い!ボソボソ言うな!
どっかいけえええええ!いなくなっちゃええ!」
一瞬、目と目が合う。
テケテケの唇が動いている。
や・れ・よ、そう動いているような気がした。
次の瞬間、私の風がテケテケを捉える。
テケテケの姿が歪む、そして、彼は本当に塵芥と化した。
最後の瞬間、彼は微笑みながら呟く。
「なんで、ロリ巨乳が現実にならないだなんて思ってたんだろう……?」
テケテケは、一筋の涙をこぼしていた。
私は魔法の威力を倍増しにした。
「ロリ巨乳バンザアアアアアアアアアアアイ!」
それがテケテケの断末魔だった……。
「な、なによあいつ。なんでいきなりロリ巨乳とか言い出したのよ。」
訳が解らない。
念のために言っておくが私のバストサイズは至って普通である。
「……いやー、引くわー。アレはないわー。視姦されちゃってたわー。」
後ろから聞こえる声に反応して私が振り返ると、私と同い年の少女が居た。
テケテケが見ていたのはこいつか。
「あ、どーもこんにちわ。私の名前は……そうね、貴方に無理矢理対抗して炸裂少女レインバレル。」
「い、何時から見てたのよ!」
ここのところ私のバトルは覗かれっぱなしである。
なんていうかこう……ゾワっと来る。
「その質問に答えることにこの場合意味はあるのかしら?」
「へ?」
「いやだからね、私が何時から貴方の戦闘を見ていたかを言ったところで無意味なのよ。
違うわ、それどころか私にとっては有害。
だってほら……」
たゆん少女がどこから出したのか大量のビーズを私に向けて撃ち込む。
私は咄嗟に箒を使って風を起こしビーズをまとめて真横に逸らした。
閃光、熱風、轟音。
ビーズが近くの建物の壁に当たった瞬間、大爆発が起きた。
「な、何するのよ!」
「悪の魔法少女シルバームーン、
貴方は“ツングースカ大爆発”の契約者にして正義の炸裂少女レインバレルが退治するわ!」
「私が悪人ってどういうことよ!」
「解らないの?」
レインバレルは自らの足下で爆発を起こし、その反動で一気に近づいてくる。
私は箒で起こした風を射出するようにしてレインバレルに叩き付けようとした。
だが、その一撃は通らない。
レインバレルは掌から爆発を起こして突風を薙ぎ払ったのだ。
「見させてもらったんだけど、貴方のやり方はとても独善的。
あんなもの正義じゃない、只のリンチ、いじめっ子となんら変わりないわ。」
「悪い都市伝説を倒すなんて当たり前よ!」
「さて、それは当たり前なのかしら?」
爆発の煙に紛れて、突然私の目の前にレインバレルが現れる。
レインバレルは私に向けて下段回し蹴りを放ってくる。
私はジャンプしてそれを躱す。
地面を起点に爆発が起きるが、咄嗟に箒を使ってレインバレルと距離をとる。
「生きとし生けるもの全てには等しく生きるだけの価値が有るわ。
貴方に何の権限があってそれを奪うの?
誰にも許可されずに誰かを傷つけるなんて傲慢よ。」
「そういう貴方はどうなのよ!私を攻撃しているんじゃない!」
「ええ。」
レインバレルはまるで物わかりの悪い子供を相手にする時のようにため息を吐いた。
「確かに私は貴方を現在攻撃しているわ。」
レインバレルはあっという間に私との距離を詰める。
次々と繰り出される拳、そして脚。
その全てが一撃必殺の威力を持っていると判断して良い。
「でもそれは命令なのよ。諸事情の為やらねばいけない仕事なの。」
「人を傷つけるのがやらなきゃいけない仕事だっていうのね!」
「都市伝説の命を奪うのが貴方の愉快な趣味だっていうの?
都市伝説を生み出したのは他ならぬ人間なのに。
それともあれ?
生み出したんだから別に殺すのだって自由とでも言いたいの?」
レインバレルの頭に向けて箒を振り下ろす。
レインバレルは疾風を爆発で、箒本体を空手の上段受けで受け止めてそのまま箒ごと私を投げ飛ばす。
私は空中で受け身をとってそのまま全ての風を推進力に変えて突撃する。
「そんな事言ってないわよ!」
「それが、その態度が!無知だと、傲慢だと、悪だと、私は言っているんだ!」
レインバレルは何故か激昂する。
またも至近距離での殴り合いが始まる。
私は箒、相手は拳、一進一退の攻防が続く。
「じゃあ聞くけどあなたならあのテケテケはどうするのよ!」
「胸ぐらい揉ませてあげなさいよ、減るもんじゃなし。」
「…………。」
「うそうそ、でも殺すことはないでしょう。
適当に弱らせて組織にでも渡しておけば良かった……。
貴方にはそういう選択の自由が有ったはずよ……。
でも貴方はそんなこと考えずに悪い奴は殺す、人間じゃないし別に良い。
いえ、それどころか悪い奴だったら人間でも死んで良いと思っている。
私からしたら貴方みたいな思考の人間の方が化け物よ。」
「そんな……!」
そんな台詞はあんまりだ。
「己が罪を悔いて死ね!灼炎遙!」
「くっ……、カレイドスタードリーム!」
レインバレルの掌に光が集まる。
それに合わせて私はありったけの風を箒に集める。
箒による最高速度の突撃と、掌から放たれる最高温度の爆撃が正面からぶつかる。
何が起きたかは良く解らない。
私は立ち上がって辺りを見回した。
頭がグラグラする。
「く……、その力を安っぽい正義感で自分が悪と判断しただけの弱者を虐げるために使っていたのね。
才能が有る人間なら何をやっても許されるってところかしら……?」
どうやら爆発の中で私の突撃は彼女に掠っていたらしい。
レインバレルは右腕を押さえたまま立ち上がる。
「その様子だとどうやら戦闘はままならないみたいね。」
「それは貴方もそうでしょう?私は大丈夫よ、鍛えてますから。」
私も上手く歩けない。
爆発の衝撃で三半規管がやられているらしい
「さあ、決着を付けましょうか。」
レインバレルがどうやら無事らしい左拳を構える。
「なんで貴方はそこまで勝負に拘るの?
貴方だってボロボロじゃない!どうして?」
「私は……、貴方を倒さなくちゃいけないのよ!
貴方みたいに誰かの事情も理解しようともしない奴に理解してもらおうなんて思わないわ!
爆撃奏・震天動地!」
レインバレルは空中高く飛び上がり、爆発を利用して私に向けて跳び蹴りを放った。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第二章「魔法少女と魔法少女」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 第三章「苦労人と亡霊少年」】
「さーて、この狭い島の中に逃げ道は無し、君には私に立ち向かう力も無し、さりとて誰かの助けの宛も無し。
天野昴、貴方はこの状況でどんな選択をしますかね?」
持っていたステッキをくるくると振り回して僕に向けるサンジェルマン。
絶対的な強者故の余裕、ゆっくりと歩み寄ってくる様は餌をもてあそぶシャチのようだ。
これはなんという恐怖だろう。
僕はこの男の前では黙って餌となるしかない小動物に違いない。
しかしながら、獅子はネズミを狩るのに全力を尽くすという。
僕の勘が正しければこの男は直接的な戦闘経験がその持っている膨大な力に比して圧倒的に少ない。
ならばこの戦力差、当然油断していると考えて良いだろう。
…………全力を出さずして獅子如きにネズミが狩れるものか。
「なあサンジェルマン、あんたさ、僕や朔夜に危害を加えに来たわけじゃないんだろ?
……これは推測だが、あんたは僕の実力を計っているんじゃないか?」
「ウェ!?ナナナナナナ、ナニヲゥイッテェイルンディスカ!?」
「一つ、この状況が幻術だか空間転移だか知らないけど、これだけすごいことできるようなヤツが来たら流石にもうヨツバさんが助けに来る。
二つ、これだけすごいことできるヤツが敵だったらだったら俺なんか無視してすぐに朔夜の処に行く。
三つ、念には念を入れた陽動だったとしても、朔夜からの救難信号が来ていない。ヨツバさんの魔術が破られない限り彼女の救難信号は僕に届く。
この三点から僕は貴方を「僕が朔夜のパートナーに相応しいか試しに来ただけの何者か」である可能性を推理します。」
「…………オーワタシニホンゴワカリマセーン」
「――――――誤魔化しやがった!?」
「ワターシハミライカラヤッテキタコロシヤデース、スカイネットノタメニアナタヲコロシニキマシター」
しかもマトリックスかよ……。
こんなエージェントスミス居てたまるかよ……。
「それを言うなら」
「?」
「それを言うならターミネーターです。スカイネットって言ったじゃないですか。」
「似たようなもんじゃねえか。」
「ターミネーターのガチムチ肉体美とエージェントスミスの細マッチョボディを一緒にして良いとでも!?」
「各方面に謝れ!」
「ワタシニホンゴワカリマセーン」
「何この腹立つ外人。」
ていうかさらっと心の中を読むなよ……。
「私の知り合いに読心術の達人が居ましてね、彼に教えてもらったんですよ。」
「なにそれ今度紹介して。」
「良いでしょう、ただし朔夜ルートのイベント進行度MAX手前まで進めてからね。」
「遠いなあ……。」
「ククク、そう遠くもないんですよ?
あの子が人間に心から懐いたのなんて久しぶりですし。」
「なにその気むずかしい馬みたいな言い方。ていうかあれで懐いてたのかよ。」
「まあある意味彼女はサラブレッドですからねえ……。」
「ああ、なんかあいつが名乗りのパターンに使っていたな。
『始祖は大魔法使いマーリン、その母の血統に夜会の魔女朝月ヨツバを持ち、
父は聖書に現れし三百もの惑乱の悪魔の担い手、地獄の客将、鮮血の徒と呼ばれしもの、
属性(エレメント)は風、形象(モーメント)は操作、魔具(シンボル)は箒と短剣!
我こそ魔法少女【銀之弾丸(シルバームーン)】!』
とかいう長くて恥ずかしいヤツ。録音したわ。」
「なんと恐ろしいことを……!それを脅しのネタに使っているのですね!」
何故分かったし。
こいつ朔夜から話を聞いているのか?
「まあ座ってくださいよ、もうこうなったら面倒くさいですし。」
「いや、いつでも逃げられるように立たせてもらう。ナンカガチホモッポイシ。」
「私の膝の上に座っても良いんですよ?シツレイナ、バイデスヨ」
その怪しげな視線を人の股間に集中させないで欲しい。
あとその嫌らしい手つきも止めて欲しい。
「正直に言うとですね、彼女の家は日本でも古い魔女の家柄でして、
彼女のおばあさまが私の友人と同じ師匠について競った姉妹弟子の間柄だったところから縁が始まるのですよ。
明治期に日本に渡った西洋の魔女たちは独自の発展を遂げてこの国に居着いていますからね。
魔女狩りも行われていないし、研究材料としてはちょうど良かったんです。」
「研究?」
「勿論、合意の上で相当の報酬を払った上でDNAの採取や魔術理論の解析などをさせていただいています。
都市伝説の中でも魔術というのは特殊な立ち位置にあるものですから、研究対象として興味深いのです。
たとえば人間と『赤い部屋』や『花子さん』なんかは結ばれても子供は生まれません。
しかし人間と魔女は当たり前の如く子供が生まれる。
遺伝子も調べてみると完全に人間のそれなんですよ。
でも魔女の血統の子供は年を重ねるにつれてどんどん都市伝説の能力に目覚めて、魔女になっていくんです。
特に女性にその傾向が顕著だ。
おもしろいと思いませんか?
人間でも都市伝説でも契約者でもなく、その力を発揮する存在。
研究者としてはとてもそそられる。」
「ふむ、なるほど……。
それはまあそれとして……」
突然手の甲に鋭い痛みが走る。
これは朔夜が危険に陥った時のサインだった。
手の甲に埋め込まれている彼女の髪の毛が本体の危険を教えるために発火するのだ。
「――――まずい、サンジェルマン、いますぐ僕を朔夜の処に連れて行ってくれ。彼女が危ないんだ。」
「何かあったのですか?」
「彼女の身に危険が迫っている。」
「え?そんな馬鹿な……」
「良いから早く!」
「分かりましたよ!」
サンジェルマンが指を鳴らす。
するとどこからか大量のキョンが走ってきたではないか。
「乗ってください!これで一気に時空を越えます!」
「はぁ?」
「スバル!スリップストリームでついてこい!」
しかたない、とりあえず乗っておくとするか。
僕は手近なキョンに跨るとサンジェルマンのあとを追った。
小さなキョンにのる長身の白人男性。
なんともシュールである。
目の前の風景がゆがむ、立ち眩みにも似た感覚が収まると僕はサンジェルマンと共に学校町に戻ってきていた。
そこで僕が見たのは朔夜と謎の美少女の服の後ろ側をつまんで持ち上げる角のついた赤い鎧と白いマフラーを身にまとった男だった。
「……カブト?」
朝八時台とかになじみの深そうな姿を見て思わずつぶやく。
「な、貴方はそこの二人に何をしているのですか!?」
サンジェルマンが男に向けて叫ぶ。
どうやら知り合いのようだ。
「傷つけては居ません、ただこんな時間から町中で暴れられると隠蔽が大変になりますから二人には気絶してもらっただけです。
人払いはしてありますので、あとは貴方に壊れた建物等直していただければ隠蔽も終了ですよ。
馬鹿な妹を持つと苦労しますね、まったく。」
妹?
こいつに家族なんて居たのか?
「良いでしょう、若く美しいお母様、可愛い妹、優しい姉、頼れる兄。貴方は恵まれている。」
サンジェルマンが僕をかばうようにして前に立つ。
「優しい姉には同意しておきましょうか、姉や兄や妹については保留、追記させてもらうと冷たい父親と怖い祖父もセットです。
妹にばかり愛情を注いで、まったくもってやれやれだ。
とりあえずこの子らは二人とも家に運んでおきます。それで良いでしょう?」
「待ってください!朔夜は僕が家まで連れて帰ります。」
「……そうか、じゃあこの子を頼む。」
赤い鎧の男は僕に朔夜を渡す。
箒もあるので意外と重い。
「それでは昴君、私はこれからこの方とお話があるので……」
「はい、今日の処は撤退させてもらいます、またそのうちゆっくりお話ししましょう。
貴方の研究に興味が出てきました。」
そう言うとサンジェルマンは機嫌良さそうにほほえむ。
僕はこれ以上のトラブルに巻き込まれる前に急いで朔夜を抱えて逃げ出した。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第三章「苦労人と亡霊少年」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 第四章「苦労人と魔法少女」~】
少女の拳が私に迫る。
今までの短い人生の様々なシーンが目に浮かぶ。
幼稚園の頃の友達。
転校する前にできた友達。
苦手だった勉強。
おばあちゃんに手伝ってもらった。
自由研究の時なんてわざわざ知り合いの学者さんに電話したり、
その人の研究旅行に連れて行ってもらったり。
あの旅行は楽しかったな……、日本の小さな島には沢山綺麗な鳥が居て……。
でもなんでだろう。
こんな時でも何故かあいつの顔がちらつく。
あいつは大丈夫なんだろうか。
私が居ない間に何か面倒なことに巻き込まれていなければ良いけど……。
私を守るくせに、なに私に心配されてるんだか。
本当にむかつくヤツだな昴は……。
ダメだ、あいつ一発蹴ってやる。
そうしないと気が収まらない。
となると、こいつに負けるわけにはいかないかな?
そう思った瞬間、一陣の風が吹いた。
「そこまでだ、これ以上やられると隠蔽が面倒だ。」
「……兄さん」
「霧雲霙、おまえに兄と言われる覚えは無い。俺には二人しか妹は居ないんだ。」
目を開ける。
私とレインバレルの間に一人の紅の装甲を身にまとった男が立っていた。
「組織に所属している人間として、おまえらの戦いを止めに来た。
おまえらの間にどんな事情があるのかどんな因縁があるのかどんな命令がどんな理由がどんな敬意があるのかは知らないが……
高貴なる俺の命令だ、とりあえず戦いを止めろ。」
何故だろう、この上から目線、腹が立つ。
「そうはいきません、あの人から命令を受けています。
それに忠実に行動するのが私の役目です。」
「またあいつか、おまえはあいつの人形か?
………………まあ、体の良い玩具代わりだよな。」
「…………ッ!それは誤解で……」
「ちょっと待ちなさいよ!あんた達知り合いなの?」
「知り合いではあるが仲が良いわけではない、むしろ嫌っているくらいだ。」
「なんでいきなり私が襲われるか事情を説明してもらわないと困るわ!」
赤い鎧に身を包んだ男は少し考え込むそぶりをする。
鎧の隙間から冷たく鋭い瞳が覗いた。
「……その質問には答えられない、こいつの主人にでも聞け。」
「さっきから高貴なる高貴なるうるさい癖に質問一つにも答えられないの!?
偉そうなだけで使えないヤツね。」
「ふん、そんな安い挑発に俺のような男が乗るとでも思ったか。」
「兄さん、とにかくどいてください、その人を倒せません。」
「だから兄と呼ぶな。お前は家族なんかじゃない。」
「うーん、降りかかる火の粉なら払うしか無いけど……。」
それにしてもこの男がむかつく。
なにか事情があって私を襲うみぞれとかいうこの子はまだ許せる。
だが自分を兄と呼ぶ人間に対してあのような態度を取る人間は正義の魔法少女として許せない。
……とまあ話している間に平衡感覚が戻ってきた。
これならいつ相手が襲ってきても戦える。
「もうすぐ黒服が来るはずなんだが……」
鎧の男はのんきに腕時計を見ている。
どうやら油断しているらしい。
実力には相当自信があるのだろうがこれでは隙だらけだ。
突風をあててその隙に箒で逃げることにしよう。
「「吹き飛べ!」」
どうやらまったく同じタイミングでまったく同じことを考えたらしい。
私と霙はほぼ同じタイミングでまったく変わらない威力の爆発と突風を起こした。
本当にわずかだけ私の技の発動が遅れたために彼女の爆発が鎧の男に直撃。
そのあとに私の風が空気を送り込んで爆炎が更に威力を増した熱風になって男を襲う。
霙と一瞬目が合う、お互い肯いてしまった。
真っ黒に煤けたアスファルトの真ん中で男は膝をついていた。
「シルバームーン、いいえ“朔夜さん”。決着をつけましょう!」
「いいわよ“みぞれちゃん”、相手してあげるわ!」
鎧の男の真上を飛び越えて空中戦が始まる。
箒と拳が激しくぶつかり、辺りに激しい熱が舞う。
空中においてみぞれは足を使った攻撃を使えない。
足から起こす爆発は空中における姿勢制御に使い続けているからだ。
「くっ!」
みぞれが距離を取ろうとする。
そうなれば当然私に足を向けて爆発を起こすのは解っている。
攻撃の軌道さえ読めていれば空中で相手の攻撃をかわすのは簡単だ。
「外した!?」
「読めてるのよ!」
空ならば私のテリトリーだ。
踏み入ってきた以上、確実に仕留める!
倒してつかまえてこいつに命令している奴も突き止めてやる!
「せいやあ!」
箒がみぞれを確かに捉えた。
「吹き飛べええええええええ!」
そのままみぞれを地面にたたきつける。
「やった、勝った!よし、このままあんたを締め上げてどこの誰から命令を受けてここに来たのか吐かせてやる!」
我ながら正義の魔法少女にあらざる台詞である。
だがまあこれが正しい選択のはずだ。
「く……、負けた。」
私は服の下からおばあちゃんの作った魔法の縄を取り出してみぞれを縛り付けようとする。
「なんていうとでも思った?」
私がぎりぎりまで近づいた瞬間に大爆発が起きる。
近くの壁に叩きつけられてそのまま崩れ落ちる。
とっさに風で身を守ったり衝撃を殺したりはしたがせっかく夜なべして作った衣装が黒こげになってしまった……。
「あ、あんたね……、これ衣装代馬鹿にならないのよ!?
小学生の乏しいお小遣いを必死でやりくりして作っているのにどうしてくれるのさ!」
「ふふふ、ざまあみなさ……」
みぞれが私の後ろを見て口をぽかーんと開けている。
「お前ら、戦うのをやめろと言ったよな?」
「あれ?」
「この俺の寛容な停戦勧告を無視するとは愚かな奴らだ……!」
先ほどまで倒れていたはずの赤い鎧の男が後ろに立っていた。
首筋に衝撃が走った、と思った次の瞬間には意識が遠くなっていた。
「サンジェルマン、俺はお前の命令を受ける義務はないんだ。俺が何をしようが勝手だろう。
とにかくさっさと隠蔽工作を始めさせてくれ。
親父の愛人をわざわざ親父のもとまで送り届けなきゃいけない子供の気分くらい察してくれ。」
「貴方はまだ言うのですか、それは誤解だと何度言えば解るんです?貴方が彼女を父の元に運ぶ必要はありません、良いからみぞれさんを渡しなさい!」
「お前らこそ俺を丸め込もうとしているんだろうが。今日という今日はこいつから話を聞いてやる。」
ぼんやりとしていて何を話しているかは聞こえないがどこかから大声が聞こえてくる。
それを聞いて目が覚めた。
「……ん?ここはどこ?」
誰かの背中におぶられている。
ああ、昴か。
どこかに消えたから心配してたけど無事だったんだ、良かった良かった。
変態だし性格が悪いけど死なれたら寝覚めが悪いもんね。
「やっべ……」
昴が小声でつぶやく。
聞こえてないつもりかもしれないが、というか心の中で言ったつもりかもしれないがしっかり聞こえて居るぞ。
何事かと思って私が振り返るとみぞれちゃんを負ぶった赤い鎧の男とおばあちゃんのお友達であるサンジェルマンが何かを言い合っていた。
サンジェルマンは私を助けに来てくれたのだろうか。
赤い鎧の男とにらみ合っている。
……もしかして、みぞれちゃんが危ないのではないだろうか。
まあ敵同士なのだがなんていうかこう……、心配だ。
というかあんな男に連れて行かれればみぞれちゃんはもしかしてじゃなく嫌な目に遭うんじゃないだろうか。
敵対しているとはいえあんなノリノリで魔法少女ごっこにつきあってくれる人はいない。
ていうか一度拳を合わせた以上、単なる敵ではない。
もはや強敵(とも)だ。それならば私は彼女を助ける義務がある、幸いサンジェルマンに渡せばあとは何とかしてくれそうだしね。
「おい、ちょ、やめろ朔夜!」
「うるさい!あんたは今回遅れてきたんだから私のわがままに付き合いなさい!」
「うわ馬鹿お前やめ……」
昴から箒をひったくって鎧の男に突撃を仕掛ける。
箒の柄が良い感じに鎧の隙間の脇腹に直撃して男は派手に吹っ飛ぶ。
あいつが思わず取り落としたみぞれちゃんは私が拾ってサンジェルマンに投げ渡した。
「その子頼んだわよ!」
「任されました!」
サンジェルマンはみぞれちゃんを抱えてそのままワープをする。
彼は不老長寿の特性を持った都市伝説で、時間を無視するその特性からある程度限定的ながらワープが使えるのだ。
彼にはよく八丈島やハワイのオアフ島などに連れて行ってもらって自由研究を手伝ってもらったものである。
「逃げるわよ昴!手をつかみなさい!」
「なんてひどい話だ……。」
そう言いながらも昴は私の手をつかんで素早く箒に乗り込む。
「ここまで俺をコケにするとは……!」
その時だった、遠くにいたはずの鎧の男が、鎧の一部を脱ぎ捨てた状態でいつの間にか真後ろまで迫って来ていた。
「許さんぞお前ら!」
どういう理屈か、この赤い鎧の男も何かの理屈で高速移動が使えるらしい。
男の指先が箒に掠り、その部分だけが砕け散る。
「仕方ないなあ。喰らえ……、スバルレーザー……。」
うわ、テンション低ッ!
「うぉっ、眩しっ!」
鎧の男は何故か曲がり角の電柱に正面衝突してしまう。
「なにやったのあんた!?
ていうかなに?あんた能力とか使えたの?」
「そんな訳無いでしょ、これだよ、これ。」
昴は手に持っていたレーザーポインターを見せる。
「少し強力に改造したヤツだからね。まあ眩しいだろうさ。」
「あんたえっぐいことするわね……。」
「えへへ、無能力者なもので。」
「ま、ありがとう。あのままだったら追いつかれてたかもだし。」
私と昴は目と目を合わせてにやっと笑う。
私は飛行速度を上げて家までの道を急いだ。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第四章「苦労人と魔法少女」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 エピローグ「彼誰飯店」~】
「っつー訳で、俺はそのまま家に帰って、寝て、今日は塾に行って帰りにここに寄ったと。」
「ふふ~ん、魔法少女二人と赤い鎧の男ねえ。しかし、レーザーポインター喰らって自爆ってのは傑作だな。」
「それよりなんだよ愛人って、あいつどう見ても俺と同じくらいなんだけど。」
「細かいことは気にするなよ少年、愛には様々な形があるんだ。そしてパンツは白だ。かの有名な映画監督もおっしゃっている。
……はい、できた。今日は酢豚定食だったな?」
「うん、ありがとうおっちゃん。でもパンツは黒だ。酢豚も黒酢だ。」
僕の目の前においしそうな中華料理の皿をだす幽霊のような男。
僕の行きつけの中華料理店「彼誰(カハタレ)飯店」の店主のおっちゃんである。
まあ料理店と言っても午後七時から午後九時までの間だけ、学校町のとある雑居ビルの付近にのみ出現する幻の屋台なのだが。
僕は良くここで夕食を食べて家に帰る。
この店、普通に食べると少し高いのだが、主人に都市伝説と会ったことについて話すと値段を半額にしてもらえるサービスがある。
話については二つほどルールがある。
一つ目は固有名詞をださない。
二つ目は嘘をつかない、ただし本当のことを言う必要もない。例外的に主人がおもしろいと思えば嘘でも可。
誰かがどこかで怪異に出会った、でもそれが誰かは解らない。
だから彼誰飯店、だそうである。
まあそんなことはどうでもいい、僕はよく朔夜の戦いについて話してはここでうまい飯を食っている。
「しかしぶっちゃけ浮気ってどうなのよ?」
「良いじゃないか、男の甲斐性だ。おっちゃんも全盛期は五股くらいかけてたよ。」
「げげっ……。」
「子供もなんか会ったことないのから会ったことあるのまで沢山居てなあ……。
割と月々の養育費が馬鹿にならない。しかも今、お前と同じくらいの年の女の子に言い寄られているし。」
それにしてもこの親父は何者なのだろうか。
客に嘘をつかないルールを強いておいてこの人は嘘だらけのような気がする。
「マジかよそれ。通報して良い?」
「冗談だよ、冗談。」
「お、今日もやってるねえ。」
「いらっしゃい、お兄ちゃん。今日もこれからかい?」
「お兄ちゃんなんて恥ずかしいなあ。ええ、今日も出勤前の飯の時間ですよっと。
少年、隣失礼するぜ。おっちゃん、チンジャオロースちょうだい!」
「はいよ。」
僕の隣に派手な服を着た男の人が座る。
金色に染め上げた髪に、腕にはブランド物の時計、何回か話を聞いているので解るのだがこの人はホストなのだ。
「おっちゃん、今日もおもしろい話を持ってきたぜ。」
「ほう、聞かせてもらおう。」
「いやこの前も話したけど俺ってば実は正義の味方でさ。真っ昼間から悪と戦ってたりするんだけど……」
ホストっぽいお兄さんの話が始まる。
やれ捕まっていた女の子を助けただの、やれ襲われていた幼稚園バスを助けただの、
まるでどこぞの特撮ヒーローみたいな話の展開である。
「相も変わらず無茶するねえ、数少ないお得意さんの一人なんだから死ぬんじゃねえぞ?」
「解ってるよ、……ところで少年、君は小学生だったよな?」
お兄さんが急に僕に話しかけてくる。
「ああいや、答える必要は無いんだけどな、塾帰りってところか。
勉強はちゃんとするんだぜ、じゃないと俺みたく悪い奴かアルコールのせいで死ぬような大人になっちゃうから。」
「へ?はぁ……。」
その時、屋台にもう一人、若いのに髪が真っ白になった男性が入ってきた。
「相変わらず狭い屋台だなあ、おっちゃん。」
「ゲゲッ、刑事さんじゃないですか。」
お兄さんが驚いたような声を出す。
「んあ、お前これから仕事?」
「ええ、今日はパーティーなんで女の子達に沢山来てもらわないと。
ああそうそう、この前の麻薬捜査の時はありがとうございました。」
「俺は直接働いてないよ、他の課の人のおかげだし。」
「でも色々働きかけてくれたじゃないですか、やっぱああいうので子供が泣くのは見過ごせないっていうかね。」
「そう言われると照れるなあ……、おっちゃん、麻婆豆腐。辛さ控えめで。」
刑事さんと呼ばれた男の人は人なつっこさそうに笑った。
「少年、この人はすっげえいい人だから困ったら頼りな。
この町の正義の味方だよ。」
「お兄さんだって戦ってるじゃん。」
「俺はなあ……、そんな威張れる人間じゃないさ。今やってることも罪滅ぼしっていうか。」
「つまり、人間良くなれるってことじゃないか、なあおっちゃん。」
「良くも悪くもあれるってことだと訂正しておこうかな、刑事さん。」
色の薄い麻婆豆腐が出てきた。
「そういえば最近娘が反抗期で……。なんか小さい俺の姉に見えてきて困る。おっちゃん、どうにかしてくれ。」
「俺に頼むな、俺でもたぶん無理だ。」
「少年、同じ子供だろう?」
「無理ですよ、僕は子供と言っても小学六年生の男子な訳で。」
「刑事さん娘さんいたんですか?何歳なんです?」
「三歳。カミさんが言うにはもうそろそろ幼稚園か保育園に通わせたいそうだ。
あいつも仕事を育児休暇でだいぶ休んでるし。」
「お前も大変だな……、俺の処も長男がなあ……。」
「おっちゃんのことだから自業自得でしょうに。」
「まあそうなのかもね。」
「あ、そうだ。」
「どうした少年。」
「いや、女友達になんかプレゼントを贈ろうと思うんですけど……」
「花、そのこの好きな花かバラを少し持って行っておけ。沢山持って行くと引かれる時がある。」
「回答はやっ!」
「プロですから……」
お兄さんが即答してくれた。
一月に朔夜の誕生日があるのを今思いだしたのだ。
ちょうど飯も食べ終わったので僕は帰ることにした。
「ありがとうございます、それじゃあ僕もう行きますね。」
「あいよ、また来てね。」
屋台を出ると、大きなスポーツバッグを持った女の人とすれ違った。
何度かあの店で会った僕が進む予定の中学校の先生だ。
あの人めちゃくちゃ大食いなんだよなあ……。
バッグの中身は基本的に弓だが偶に狙撃銃が入っていたりして怖いのは秘密である。
なんで解るかは聞くな。
「あ、来年からうちの学校来るんだっけ?」
「はい。」
「君のお父さんの小説好きなんだよねえ。今度サイン頂戴よ。」
「僕のじゃダメですか?」
「……それも良いね。」
僕はその先生の持っていた本にサインをする。
「ありがとう!それじゃあまたね。」
「はい、さようなら。」
僕は振り返らずに歩き始める。
ここから家まではそう遠くはない。
家の前で女の子が待っていた。
見覚えがある。
「あ、あの、これ……受け取ってください!」
人生で初のラブレター!?
……な訳はない。
「何やってるんですか霙さん。攻撃しないでくださいね、俺は非戦闘員なんで。
人質にするとかなら無抵抗で捕まりますから。」
「いや、違うってば。」
一瞬で砕けた口調に戻る女の子。朔夜とこの前戦っていた霧雲霙である。
一体何故に俺の家に来ているのだろうか。
「なんで俺の処に来ているんですか?」
「いや、その……助けてもらったお礼を、と思って。」
「何故俺の処に……?」
「いやほら、朔夜さんとは一応バトルしている最中ですし……」
「朔夜の話によるとお前とあいつノリノリで連携決めてたんじゃねえかよ。
その上お前はお前の主人に命令されているんじゃないの?」
「いや、その……、あのあと報告をしたらそれが微妙に変更されちゃって。
だから戦う理由は無いっていうか……でもバトルは継続しちゃってるし。
なんだかんだで恩義もあるし……。だからこの手紙、貴方と朔夜さん宛です。」
「仲良くしましょう……、いや仲良くしましょうってなんですか霙ちゃん。」
「文字通り!貴方たちを倒すのは私だけよ!」
矛盾している。
まだ戦いは続いている、倒せと言う命令は無くなった、仲良くしましょう。
あれか、ライバルか。ライバル宣言なのか?
一度戦ったら強敵(とも)とか、お前らを倒すのは俺だぜ、とかお前ら少年ジャンプ世界の住人か?
「貴方は馬鹿なのですか?」
「よく言われる……、でも仲良くしたいのは事実っていうか……。
――――ええい、それと戦うのとを並立させるにはこれしかないんだもん!
文句言わないでよ!私だって正直困ってるんだから!もういや!これだから子供は嫌なのよ!
うわあああああああああああああああああああん!」
霙ちゃんは走り去っていった。やべえ、あのクレイジー具合、癖になるかもしれない。
今度会ったらパンツの色をチェックしよう。黒であることを信じたい。
そんなことを思って俺は家の中に入った。
【不思議少女シルバームーン~第二話 エピローグ「彼誰飯店」~fin】
僕と朔夜の初めての出会いから数週間後。
世間は冬休みを迎えていた、朔夜は僕の家に来てゲームに嵌っていた。
なんでも驚いたことに彼女の家にはパソコンやゲームが無いのだそうだ。
彼女は今、戦闘機を使って各国のエース部隊と戦うエースコンバット7というゲームがお気に入りである。
「このっ!くそっ!ああん、もうこの機体早すぎ!
何がカスタムモデルよ!装甲も限り無く薄いから機銃一発でゲームオーバーじゃない!
こんな妙な改造の機体しか使わせないミッションって何の嫌がらせなの!?
ああでもちょっと楽しくなって来ちゃったキャッホー!」
「お嬢様、トップガンの称号を狙うのはそこらへんにしておいてそろそろご自宅の方に帰って修行を……」
「うるさいわよバトン!今度こそ私が一位になるんだから!」
「おい人間!貴様からも何とか言ってくれ!このままだとまたヨツバ様にどやされる!」
「ところがどっこい、今回はその心配がないのですよバトンさん。」
「……どういうことだ?」
「ほら、そこを見ると良い。」
僕が指さす先はゲームの電源装置。
そこでは十匹ほどのハムスターが交代制で回し車を回していた。
この回し車が回ることでコンセントから電源が通る仕組みになっているのだ。
朔夜が使い魔であるハムスターへの指示を間違い、回し車が止まると電源が一発で切れる仕様になっている。
「…………。」
「ちなみに彼女は今朝早く起きていた筈だ。」
「ああ、そういえばな。」
「ハムスターの為の体力増強薬を作らせていたんだよ。
その薬の調合を失敗しても、ハムスターが倒れてゲームオーバー。」
「…………動物虐待。」
「朝から鶏を捌いていたお前のマスターに言ってくれ。
ちなみに生け贄に使った後の残り滓を使って朝飯を作ったそうだ。」
「屠殺は虐待に含まぬ。」
「人間みたいな事言ってくれるなよ。間違ってるんだからさ。」
「あっ、ちょっ、囲まれた!?やっ、あっ、駄目!駄目!駄目来ないで!其処弱いの!
いやあああああああああああああああ!墜ちちゃううううううう!」
機体の撃墜と同時にゲーム機の電源が落ちる。
どうやら彼女の集中力も限界が来たらしい。
ハムスターが死んだ魚のような目つきでこっちを見ている。
こっちみんな。
「…………もう良い、帰る。」
ふてくされている。
おまえもこっちみんな。
「はいはい、それじゃあお家に帰りなさい。
もう五時だしね、学校で決められた帰宅時間だ。」
「はーい。……といっても冬休みだしなあ。」
「冬休みと言えばお前宿題やったか?」
「あ……、しまった。」
「お嬢様は何時も最終日に長期休みの宿題をヨツバ様に手伝って頂いていたな。」
「解った、じゃあ明日は一緒に宿題やろうか、魔法少女ごっこについていってあげるから。」
「うわあ……」
「何日分かに分けてやっちゃえば大してきつくはないよ。」
朔夜は滅茶苦茶いやそうな顔をしている。
だが僕は彼女の生活を様々な面でサポートするように命令されているので言わざるを得ない。
「うぅん、仕方が…………!」
その時、突然彼女が立ち上がる。
「どうした?」
「いや、使い魔の烏からの映像で解ったんだけど、人が襲われているみたいなの。」
「そうか、じゃあ先に行っていてくれ。僕は後から行く。」
「うん!」
と言って箒に跨る朔夜。
こっちの方をチラチラと見て中々出発しようとしない。
「なんだ?」
「いや、ボイスレコーダーとか無いよね?」
「うん。」
「あと着替えるから部屋を出て行ってくれると助かるかな。」
「え、ああ……解った。」
魔法で変身するんじゃねえのかよ!
あのコスチューム手作りなのかよ!
僕は家を出てさっさと自転車に跨る。
窓を開けて朔夜が僕の頭上を飛び去っていった。
残念ながらスパッツを穿いていてパンツが見えない。
「さて……、俺も行くか。」
冬だが今年は雪が少ないので自転車を使える。
暖冬様々である。
「お待ちなさいそこの少年。」
家を出て最初の曲がり角を曲がった時、突然何者かに呼び止められる。
「貴方が天野昴ですか?」
「最近の子供は知らない人に質問されても答えてはいけないって学校で教わるんですよ。」
「成る程、それも道理か。」
俺は自転車をこぎ始める。
曲がり角を一回曲がる。
二回曲がる。
見慣れた風景。
何故か俺は家の前の通りに戻ってきていた。
「求めなさい。そうすれば与えられます。捜しなさい。そうすれば見つかります。たたきなさい。そうすれば開かれます。
だれであれ、求める者は受け、捜す者は見つけ出し、たたく者には開かれます。
さてさて貴方は何時になったら私に与えてくれるのでしょうかね?」
碧眼金髪の青年は笑う。
「ああ、そうだ。申し遅れました。私の名前はサンジェルマン、“魔女”の血統に連なる人々を保護しています。
用事があって此処を訪ねたんですけど……。貴方が天野君ですよね?」
ハッキリと言っておく、俺は今までこれほど怪しい男を見たことは無い。
もう全身から漂う得も言われぬ黒幕オーラ!無駄な気さくさも黒幕ポイントを稼いでいる。
そして聖書の引用とかしちゃう辺りもどう考えても黒幕だ!
さらに声!ロボットアニメなどでクールな天才科学者兼主人公のライバルとか勤めあげる最強のパイロットっぽい声!
ここまでやっておいて黒幕じゃないなら一体何だと言うんだ!
「僕は天野昴じゃない、宇喜多秀家だ!きっと人違いだ!」
「それはねーよ。」
「…………。」
「それはねーよ。八丈島に流しますよ?
ほらさーん、にー、いーち……」
「…………。」
「ぜろ。」
サンジェルマンが指を鳴らす。
俺はあっという間に何処かの海岸に飛ばされてしまった。
「素直じゃない子にはお仕置きだ。」
サンジェルマンとやらが一歩ずつ近づいてくる。
なんかきもい。
思わず一歩ずつ後ずさる。
「まさかここが本当に八丈島って訳じゃ……」
「八丈島です><」
冗談じゃないぞ。
「見なさいこの美しいサンセット!八丈島ですよ!」
「そんな一瞬で海を越えられる訳ないだろうがよ!」
「都市伝説知ってる癖に馬鹿な事言わないでくださいよバーカ!」
「馬鹿って言った奴が馬鹿なんだぞバーカ!」
「やれやれ……、まあ良い。
貴方が天野君だということは既に調べがついているのですよ。」
「じゃあ聞くなよ。」
「礼儀でしょうが!」
「そういうのを慇懃無礼って言うんだよ!」
「言いません!そんな自信満々で間違わないでください!騙されるでしょうが!」
「騙される奴が馬鹿なんだよ!」
「最近の子供怖い……」
「とりあえず俺になんの用なんだよ!」
「えっとですね、魔女である天野さんを捕まえなくてはいけないので貴方を人質にしようかと。」
「は?」
「まあ大人しく捕まっておいてください……よ!」
何も無い虚空からサンジェルマンは突然黄金の鎖を取り出し、俺に向けて投げつけてきた。
幸い動きは鈍かったので咄嗟に回避することが出来た。
「解った、お前は敵なんだな?」
「そうでもあると言えるし、そうでもないとも言える。」
「しかも結構強そうだ。」
となると朔夜に近づける訳にはいかない。
少なくとも日が完全に沈んで夜になるまで俺が持ちこたえなくてはならない。
そうすれば夜になって本調子の朔夜かヨツバさん辺りが助けに来てくれるだろう。
時間を稼ぐ、その為に俺は迷うことなく逃げ出した。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第一章「魔法少女と錬金術師」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 第二章「魔法少女と魔法少女」~】
「昴の気配が……消えた?」
空を飛んでいる最中にに気付く。
まるで自分の身体の一部が抜け落ちたかのような違和感。
「バトン、昴の身に何か有ったの!?」
「それが……解らぬのですお嬢様。突如としてあの人間が消失してしまい……。」
「困ったわね……」
「お嬢様、あの人間は私が探しておきますのでお嬢様はまず目の前の為すべきことを……。」
「解ったわ、あんたが人助けを勧めるなんて珍しいわね。」
「お嬢様が気もそぞろな状態で戦ってしまい、危機に陥られてしまってはこのバトン、悔やんでも悔やみきれません。」
「ああ、そゆことか。」
「さようでございます。」
「解ったわ、じゃあ私は先に行っているわよ!」
「ご武運を。」
「まっかせなさい!」
私は飛行速度を上げて、先ほど襲われている映像が見えた人の元に急いだ。
都市伝説の気配が強くなる。
どうやらこの近くらしい、助けを求める悲鳴の方向を振り向くと、女の人が下半身の無い男の人に追いかけ回されていた。
今回の敵はテケテケか……
「おおおおお嬢ちゃあアあアあぁァぁァぁあァぁぁあああッッッハンん!
その綺麗なおっぱいをふにふにさせてよおおおお!
そんな生体マシュマロに何もできないなんて拷問だよおおお!
挟んで!揉んで!埋まって!摘んで!舐って!舐めて!囓って!突っ込んで!」
「こ、来ないで!誰か助けて!止めてよこの化け物!」
「ハッハー!男は上半身と下半身が別の生き物なのさ!
といっても下半身無いんですけどおおおおおお!
見えざるモンスターとかマジホラーだよねええええええ!
ギャハハハハハハハハハハハ!」
うわぁ……。
予想外に関わり合いになりたくない相手だ……。
何よ、何なのよあれ卑猥いわ。
でも落ち着いてシルバームーン、ああいうのこそ戦わなければいけない敵だ。
「そこまでよ!」
意を決して私は声を上げた。
「月の光をこの身に受けて、只今推参美少女戦士シルバームーン!
うら若き女の子にセクハラするなんてゆるせない!
月にかわっておしおきよ!!」
「あン?」
「へ?」
え、なにこのリアクション。
魔法少女でしょうが、美少女戦士でしょうが。
もっと嬉しそうなリアクションしてくれたって良いじゃない。
気を取り直して私はお姉さんとテケテケの間に立ち、お姉さんに逃げるように促す。
「もう大丈夫よお姉さん!魔法少女シルバームーンが助けに来たからには!
こんな変態ちょちょいのちょいで片付けちゃうわ!」
「え、あ、ありがとうございます……?」
「ほら、行った行った!」
女性を避難させると私はテケテケと対峙する。
何故かテケテケは一気にテンションが落ちていた。
私がその不自然さに警戒していると、テケテケはぽつりと呟いた。
「……おっぱいは成長してこそなんぼダヨ
ロリコンは駄目絶対に駄目……」
五七五七七って……何このテケテケ、死ねば良い。
私はもはや詠唱すらせずに箒に竜巻を纏わせた。
「芥と消えろオオォォお!くぉんのド変態がああああああああああ!」
滅多矢鱈に箒を振り回してテケテケに襲いかかる。
「いっぱいおっぱいいっぱいおっぱいいっぱいおっぱい………」
「うわあああ!気持ち悪い!ボソボソ言うな!
どっかいけえええええ!いなくなっちゃええ!」
一瞬、目と目が合う。
テケテケの唇が動いている。
や・れ・よ、そう動いているような気がした。
次の瞬間、私の風がテケテケを捉える。
テケテケの姿が歪む、そして、彼は本当に塵芥と化した。
最後の瞬間、彼は微笑みながら呟く。
「なんで、ロリ巨乳が現実にならないだなんて思ってたんだろう……?」
テケテケは、一筋の涙をこぼしていた。
私は魔法の威力を倍増しにした。
「ロリ巨乳バンザアアアアアアアアアアアイ!」
それがテケテケの断末魔だった……。
「な、なによあいつ。なんでいきなりロリ巨乳とか言い出したのよ。」
訳が解らない。
念のために言っておくが私のバストサイズは至って普通である。
「……いやー、引くわー。アレはないわー。視姦されちゃってたわー。」
後ろから聞こえる声に反応して私が振り返ると、私と同い年の少女が居た。
テケテケが見ていたのはこいつか。
「あ、どーもこんにちわ。私の名前は……そうね、貴方に無理矢理対抗して炸裂少女レインバレル。」
「い、何時から見てたのよ!」
ここのところ私のバトルは覗かれっぱなしである。
なんていうかこう……ゾワっと来る。
「その質問に答えることにこの場合意味はあるのかしら?」
「へ?」
「いやだからね、私が何時から貴方の戦闘を見ていたかを言ったところで無意味なのよ。
違うわ、それどころか私にとっては有害。
だってほら……」
たゆん少女がどこから出したのか大量のビーズを私に向けて撃ち込む。
私は咄嗟に箒を使って風を起こしビーズをまとめて真横に逸らした。
閃光、熱風、轟音。
ビーズが近くの建物の壁に当たった瞬間、大爆発が起きた。
「な、何するのよ!」
「悪の魔法少女シルバームーン、
貴方は“ツングースカ大爆発”の契約者にして正義の炸裂少女レインバレルが退治するわ!」
「私が悪人ってどういうことよ!」
「解らないの?」
レインバレルは自らの足下で爆発を起こし、その反動で一気に近づいてくる。
私は箒で起こした風を射出するようにしてレインバレルに叩き付けようとした。
だが、その一撃は通らない。
レインバレルは掌から爆発を起こして突風を薙ぎ払ったのだ。
「見させてもらったんだけど、貴方のやり方はとても独善的。
あんなもの正義じゃない、只のリンチ、いじめっ子となんら変わりないわ。」
「悪い都市伝説を倒すなんて当たり前よ!」
「さて、それは当たり前なのかしら?」
爆発の煙に紛れて、突然私の目の前にレインバレルが現れる。
レインバレルは私に向けて下段回し蹴りを放ってくる。
私はジャンプしてそれを躱す。
地面を起点に爆発が起きるが、咄嗟に箒を使ってレインバレルと距離をとる。
「生きとし生けるもの全てには等しく生きるだけの価値が有るわ。
貴方に何の権限があってそれを奪うの?
誰にも許可されずに誰かを傷つけるなんて傲慢よ。」
「そういう貴方はどうなのよ!私を攻撃しているんじゃない!」
「ええ。」
レインバレルはまるで物わかりの悪い子供を相手にする時のようにため息を吐いた。
「確かに私は貴方を現在攻撃しているわ。」
レインバレルはあっという間に私との距離を詰める。
次々と繰り出される拳、そして脚。
その全てが一撃必殺の威力を持っていると判断して良い。
「でもそれは命令なのよ。諸事情の為やらねばいけない仕事なの。」
「人を傷つけるのがやらなきゃいけない仕事だっていうのね!」
「都市伝説の命を奪うのが貴方の愉快な趣味だっていうの?
都市伝説を生み出したのは他ならぬ人間なのに。
それともあれ?
生み出したんだから別に殺すのだって自由とでも言いたいの?」
レインバレルの頭に向けて箒を振り下ろす。
レインバレルは疾風を爆発で、箒本体を空手の上段受けで受け止めてそのまま箒ごと私を投げ飛ばす。
私は空中で受け身をとってそのまま全ての風を推進力に変えて突撃する。
「そんな事言ってないわよ!」
「それが、その態度が!無知だと、傲慢だと、悪だと、私は言っているんだ!」
レインバレルは何故か激昂する。
またも至近距離での殴り合いが始まる。
私は箒、相手は拳、一進一退の攻防が続く。
「じゃあ聞くけどあなたならあのテケテケはどうするのよ!」
「胸ぐらい揉ませてあげなさいよ、減るもんじゃなし。」
「…………。」
「うそうそ、でも殺すことはないでしょう。
適当に弱らせて組織にでも渡しておけば良かった……。
貴方にはそういう選択の自由が有ったはずよ……。
でも貴方はそんなこと考えずに悪い奴は殺す、人間じゃないし別に良い。
いえ、それどころか悪い奴だったら人間でも死んで良いと思っている。
私からしたら貴方みたいな思考の人間の方が化け物よ。」
「そんな……!」
そんな台詞はあんまりだ。
「己が罪を悔いて死ね!灼炎遙!」
「くっ……、カレイドスタードリーム!」
レインバレルの掌に光が集まる。
それに合わせて私はありったけの風を箒に集める。
箒による最高速度の突撃と、掌から放たれる最高温度の爆撃が正面からぶつかる。
何が起きたかは良く解らない。
私は立ち上がって辺りを見回した。
頭がグラグラする。
「く……、その力を安っぽい正義感で自分が悪と判断しただけの弱者を虐げるために使っていたのね。
才能が有る人間なら何をやっても許されるってところかしら……?」
どうやら爆発の中で私の突撃は彼女に掠っていたらしい。
レインバレルは右腕を押さえたまま立ち上がる。
「その様子だとどうやら戦闘はままならないみたいね。」
「それは貴方もそうでしょう?私は大丈夫よ、鍛えてますから。」
私も上手く歩けない。
爆発の衝撃で三半規管がやられているらしい
「さあ、決着を付けましょうか。」
レインバレルがどうやら無事らしい左拳を構える。
「なんで貴方はそこまで勝負に拘るの?
貴方だってボロボロじゃない!どうして?」
「私は……、貴方を倒さなくちゃいけないのよ!
貴方みたいに誰かの事情も理解しようともしない奴に理解してもらおうなんて思わないわ!
爆撃奏・震天動地!」
レインバレルは空中高く飛び上がり、爆発を利用して私に向けて跳び蹴りを放った。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第二章「魔法少女と魔法少女」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 第三章「苦労人と亡霊少年」】
「さーて、この狭い島の中に逃げ道は無し、君には私に立ち向かう力も無し、さりとて誰かの助けの宛も無し。
天野昴、貴方はこの状況でどんな選択をしますかね?」
持っていたステッキをくるくると振り回して僕に向けるサンジェルマン。
絶対的な強者故の余裕、ゆっくりと歩み寄ってくる様は餌をもてあそぶシャチのようだ。
これはなんという恐怖だろう。
僕はこの男の前では黙って餌となるしかない小動物に違いない。
しかしながら、獅子はネズミを狩るのに全力を尽くすという。
僕の勘が正しければこの男は直接的な戦闘経験がその持っている膨大な力に比して圧倒的に少ない。
ならばこの戦力差、当然油断していると考えて良いだろう。
…………全力を出さずして獅子如きにネズミが狩れるものか。
「なあサンジェルマン、あんたさ、僕や朔夜に危害を加えに来たわけじゃないんだろ?
……これは推測だが、あんたは僕の実力を計っているんじゃないか?」
「ウェ!?ナナナナナナ、ナニヲゥイッテェイルンディスカ!?」
「一つ、この状況が幻術だか空間転移だか知らないけど、これだけすごいことできるようなヤツが来たら流石にもうヨツバさんが助けに来る。
二つ、これだけすごいことできるヤツが敵だったらだったら俺なんか無視してすぐに朔夜の処に行く。
三つ、念には念を入れた陽動だったとしても、朔夜からの救難信号が来ていない。ヨツバさんの魔術が破られない限り彼女の救難信号は僕に届く。
この三点から僕は貴方を「僕が朔夜のパートナーに相応しいか試しに来ただけの何者か」である可能性を推理します。」
「…………オーワタシニホンゴワカリマセーン」
「――――――誤魔化しやがった!?」
「ワターシハミライカラヤッテキタコロシヤデース、スカイネットノタメニアナタヲコロシニキマシター」
しかもマトリックスかよ……。
こんなエージェントスミス居てたまるかよ……。
「それを言うなら」
「?」
「それを言うならターミネーターです。スカイネットって言ったじゃないですか。」
「似たようなもんじゃねえか。」
「ターミネーターのガチムチ肉体美とエージェントスミスの細マッチョボディを一緒にして良いとでも!?」
「各方面に謝れ!」
「ワタシニホンゴワカリマセーン」
「何この腹立つ外人。」
ていうかさらっと心の中を読むなよ……。
「私の知り合いに読心術の達人が居ましてね、彼に教えてもらったんですよ。」
「なにそれ今度紹介して。」
「良いでしょう、ただし朔夜ルートのイベント進行度MAX手前まで進めてからね。」
「遠いなあ……。」
「ククク、そう遠くもないんですよ?
あの子が人間に心から懐いたのなんて久しぶりですし。」
「なにその気むずかしい馬みたいな言い方。ていうかあれで懐いてたのかよ。」
「まあある意味彼女はサラブレッドですからねえ……。」
「ああ、なんかあいつが名乗りのパターンに使っていたな。
『始祖は大魔法使いマーリン、その母の血統に夜会の魔女朝月ヨツバを持ち、
父は聖書に現れし三百もの惑乱の悪魔の担い手、地獄の客将、鮮血の徒と呼ばれしもの、
属性(エレメント)は風、形象(モーメント)は操作、魔具(シンボル)は箒と短剣!
我こそ魔法少女【銀之弾丸(シルバームーン)】!』
とかいう長くて恥ずかしいヤツ。録音したわ。」
「なんと恐ろしいことを……!それを脅しのネタに使っているのですね!」
何故分かったし。
こいつ朔夜から話を聞いているのか?
「まあ座ってくださいよ、もうこうなったら面倒くさいですし。」
「いや、いつでも逃げられるように立たせてもらう。ナンカガチホモッポイシ。」
「私の膝の上に座っても良いんですよ?シツレイナ、バイデスヨ」
その怪しげな視線を人の股間に集中させないで欲しい。
あとその嫌らしい手つきも止めて欲しい。
「正直に言うとですね、彼女の家は日本でも古い魔女の家柄でして、
彼女のおばあさまが私の友人と同じ師匠について競った姉妹弟子の間柄だったところから縁が始まるのですよ。
明治期に日本に渡った西洋の魔女たちは独自の発展を遂げてこの国に居着いていますからね。
魔女狩りも行われていないし、研究材料としてはちょうど良かったんです。」
「研究?」
「勿論、合意の上で相当の報酬を払った上でDNAの採取や魔術理論の解析などをさせていただいています。
都市伝説の中でも魔術というのは特殊な立ち位置にあるものですから、研究対象として興味深いのです。
たとえば人間と『赤い部屋』や『花子さん』なんかは結ばれても子供は生まれません。
しかし人間と魔女は当たり前の如く子供が生まれる。
遺伝子も調べてみると完全に人間のそれなんですよ。
でも魔女の血統の子供は年を重ねるにつれてどんどん都市伝説の能力に目覚めて、魔女になっていくんです。
特に女性にその傾向が顕著だ。
おもしろいと思いませんか?
人間でも都市伝説でも契約者でもなく、その力を発揮する存在。
研究者としてはとてもそそられる。」
「ふむ、なるほど……。
それはまあそれとして……」
突然手の甲に鋭い痛みが走る。
これは朔夜が危険に陥った時のサインだった。
手の甲に埋め込まれている彼女の髪の毛が本体の危険を教えるために発火するのだ。
「――――まずい、サンジェルマン、いますぐ僕を朔夜の処に連れて行ってくれ。彼女が危ないんだ。」
「何かあったのですか?」
「彼女の身に危険が迫っている。」
「え?そんな馬鹿な……」
「良いから早く!」
「分かりましたよ!」
サンジェルマンが指を鳴らす。
するとどこからか大量のキョンが走ってきたではないか。
「乗ってください!これで一気に時空を越えます!」
「はぁ?」
「スバル!スリップストリームでついてこい!」
しかたない、とりあえず乗っておくとするか。
僕は手近なキョンに跨るとサンジェルマンのあとを追った。
小さなキョンにのる長身の白人男性。
なんともシュールである。
目の前の風景がゆがむ、立ち眩みにも似た感覚が収まると僕はサンジェルマンと共に学校町に戻ってきていた。
そこで僕が見たのは朔夜と謎の美少女の服の後ろ側をつまんで持ち上げる角のついた赤い鎧と白いマフラーを身にまとった男だった。
「……カブト?」
朝八時台とかになじみの深そうな姿を見て思わずつぶやく。
「な、貴方はそこの二人に何をしているのですか!?」
サンジェルマンが男に向けて叫ぶ。
どうやら知り合いのようだ。
「傷つけては居ません、ただこんな時間から町中で暴れられると隠蔽が大変になりますから二人には気絶してもらっただけです。
人払いはしてありますので、あとは貴方に壊れた建物等直していただければ隠蔽も終了ですよ。
馬鹿な妹を持つと苦労しますね、まったく。」
妹?
こいつに家族なんて居たのか?
「良いでしょう、若く美しいお母様、可愛い妹、優しい姉、頼れる兄。貴方は恵まれている。」
サンジェルマンが僕をかばうようにして前に立つ。
「優しい姉には同意しておきましょうか、姉や兄や妹については保留、追記させてもらうと冷たい父親と怖い祖父もセットです。
妹にばかり愛情を注いで、まったくもってやれやれだ。
とりあえずこの子らは二人とも家に運んでおきます。それで良いでしょう?」
「待ってください!朔夜は僕が家まで連れて帰ります。」
「……そうか、じゃあこの子を頼む。」
赤い鎧の男は僕に朔夜を渡す。
箒もあるので意外と重い。
「それでは昴君、私はこれからこの方とお話があるので……」
「はい、今日の処は撤退させてもらいます、またそのうちゆっくりお話ししましょう。
貴方の研究に興味が出てきました。」
そう言うとサンジェルマンは機嫌良さそうにほほえむ。
僕はこれ以上のトラブルに巻き込まれる前に急いで朔夜を抱えて逃げ出した。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第三章「苦労人と亡霊少年」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 第四章「苦労人と魔法少女」~】
少女の拳が私に迫る。
今までの短い人生の様々なシーンが目に浮かぶ。
幼稚園の頃の友達。
転校する前にできた友達。
苦手だった勉強。
おばあちゃんに手伝ってもらった。
自由研究の時なんてわざわざ知り合いの学者さんに電話したり、
その人の研究旅行に連れて行ってもらったり。
あの旅行は楽しかったな……、日本の小さな島には沢山綺麗な鳥が居て……。
でもなんでだろう。
こんな時でも何故かあいつの顔がちらつく。
あいつは大丈夫なんだろうか。
私が居ない間に何か面倒なことに巻き込まれていなければ良いけど……。
私を守るくせに、なに私に心配されてるんだか。
本当にむかつくヤツだな昴は……。
ダメだ、あいつ一発蹴ってやる。
そうしないと気が収まらない。
となると、こいつに負けるわけにはいかないかな?
そう思った瞬間、一陣の風が吹いた。
「そこまでだ、これ以上やられると隠蔽が面倒だ。」
「……兄さん」
「霧雲霙、おまえに兄と言われる覚えは無い。俺には二人しか妹は居ないんだ。」
目を開ける。
私とレインバレルの間に一人の紅の装甲を身にまとった男が立っていた。
「組織に所属している人間として、おまえらの戦いを止めに来た。
おまえらの間にどんな事情があるのかどんな因縁があるのかどんな命令がどんな理由がどんな敬意があるのかは知らないが……
高貴なる俺の命令だ、とりあえず戦いを止めろ。」
何故だろう、この上から目線、腹が立つ。
「そうはいきません、あの人から命令を受けています。
それに忠実に行動するのが私の役目です。」
「またあいつか、おまえはあいつの人形か?
………………まあ、体の良い玩具代わりだよな。」
「…………ッ!それは誤解で……」
「ちょっと待ちなさいよ!あんた達知り合いなの?」
「知り合いではあるが仲が良いわけではない、むしろ嫌っているくらいだ。」
「なんでいきなり私が襲われるか事情を説明してもらわないと困るわ!」
赤い鎧に身を包んだ男は少し考え込むそぶりをする。
鎧の隙間から冷たく鋭い瞳が覗いた。
「……その質問には答えられない、こいつの主人にでも聞け。」
「さっきから高貴なる高貴なるうるさい癖に質問一つにも答えられないの!?
偉そうなだけで使えないヤツね。」
「ふん、そんな安い挑発に俺のような男が乗るとでも思ったか。」
「兄さん、とにかくどいてください、その人を倒せません。」
「だから兄と呼ぶな。お前は家族なんかじゃない。」
「うーん、降りかかる火の粉なら払うしか無いけど……。」
それにしてもこの男がむかつく。
なにか事情があって私を襲うみぞれとかいうこの子はまだ許せる。
だが自分を兄と呼ぶ人間に対してあのような態度を取る人間は正義の魔法少女として許せない。
……とまあ話している間に平衡感覚が戻ってきた。
これならいつ相手が襲ってきても戦える。
「もうすぐ黒服が来るはずなんだが……」
鎧の男はのんきに腕時計を見ている。
どうやら油断しているらしい。
実力には相当自信があるのだろうがこれでは隙だらけだ。
突風をあててその隙に箒で逃げることにしよう。
「「吹き飛べ!」」
どうやらまったく同じタイミングでまったく同じことを考えたらしい。
私と霙はほぼ同じタイミングでまったく変わらない威力の爆発と突風を起こした。
本当にわずかだけ私の技の発動が遅れたために彼女の爆発が鎧の男に直撃。
そのあとに私の風が空気を送り込んで爆炎が更に威力を増した熱風になって男を襲う。
霙と一瞬目が合う、お互い肯いてしまった。
真っ黒に煤けたアスファルトの真ん中で男は膝をついていた。
「シルバームーン、いいえ“朔夜さん”。決着をつけましょう!」
「いいわよ“みぞれちゃん”、相手してあげるわ!」
鎧の男の真上を飛び越えて空中戦が始まる。
箒と拳が激しくぶつかり、辺りに激しい熱が舞う。
空中においてみぞれは足を使った攻撃を使えない。
足から起こす爆発は空中における姿勢制御に使い続けているからだ。
「くっ!」
みぞれが距離を取ろうとする。
そうなれば当然私に足を向けて爆発を起こすのは解っている。
攻撃の軌道さえ読めていれば空中で相手の攻撃をかわすのは簡単だ。
「外した!?」
「読めてるのよ!」
空ならば私のテリトリーだ。
踏み入ってきた以上、確実に仕留める!
倒してつかまえてこいつに命令している奴も突き止めてやる!
「せいやあ!」
箒がみぞれを確かに捉えた。
「吹き飛べええええええええ!」
そのままみぞれを地面にたたきつける。
「やった、勝った!よし、このままあんたを締め上げてどこの誰から命令を受けてここに来たのか吐かせてやる!」
我ながら正義の魔法少女にあらざる台詞である。
だがまあこれが正しい選択のはずだ。
「く……、負けた。」
私は服の下からおばあちゃんの作った魔法の縄を取り出してみぞれを縛り付けようとする。
「なんていうとでも思った?」
私がぎりぎりまで近づいた瞬間に大爆発が起きる。
近くの壁に叩きつけられてそのまま崩れ落ちる。
とっさに風で身を守ったり衝撃を殺したりはしたがせっかく夜なべして作った衣装が黒こげになってしまった……。
「あ、あんたね……、これ衣装代馬鹿にならないのよ!?
小学生の乏しいお小遣いを必死でやりくりして作っているのにどうしてくれるのさ!」
「ふふふ、ざまあみなさ……」
みぞれが私の後ろを見て口をぽかーんと開けている。
「お前ら、戦うのをやめろと言ったよな?」
「あれ?」
「この俺の寛容な停戦勧告を無視するとは愚かな奴らだ……!」
先ほどまで倒れていたはずの赤い鎧の男が後ろに立っていた。
首筋に衝撃が走った、と思った次の瞬間には意識が遠くなっていた。
「サンジェルマン、俺はお前の命令を受ける義務はないんだ。俺が何をしようが勝手だろう。
とにかくさっさと隠蔽工作を始めさせてくれ。
親父の愛人をわざわざ親父のもとまで送り届けなきゃいけない子供の気分くらい察してくれ。」
「貴方はまだ言うのですか、それは誤解だと何度言えば解るんです?貴方が彼女を父の元に運ぶ必要はありません、良いからみぞれさんを渡しなさい!」
「お前らこそ俺を丸め込もうとしているんだろうが。今日という今日はこいつから話を聞いてやる。」
ぼんやりとしていて何を話しているかは聞こえないがどこかから大声が聞こえてくる。
それを聞いて目が覚めた。
「……ん?ここはどこ?」
誰かの背中におぶられている。
ああ、昴か。
どこかに消えたから心配してたけど無事だったんだ、良かった良かった。
変態だし性格が悪いけど死なれたら寝覚めが悪いもんね。
「やっべ……」
昴が小声でつぶやく。
聞こえてないつもりかもしれないが、というか心の中で言ったつもりかもしれないがしっかり聞こえて居るぞ。
何事かと思って私が振り返るとみぞれちゃんを負ぶった赤い鎧の男とおばあちゃんのお友達であるサンジェルマンが何かを言い合っていた。
サンジェルマンは私を助けに来てくれたのだろうか。
赤い鎧の男とにらみ合っている。
……もしかして、みぞれちゃんが危ないのではないだろうか。
まあ敵同士なのだがなんていうかこう……、心配だ。
というかあんな男に連れて行かれればみぞれちゃんはもしかしてじゃなく嫌な目に遭うんじゃないだろうか。
敵対しているとはいえあんなノリノリで魔法少女ごっこにつきあってくれる人はいない。
ていうか一度拳を合わせた以上、単なる敵ではない。
もはや強敵(とも)だ。それならば私は彼女を助ける義務がある、幸いサンジェルマンに渡せばあとは何とかしてくれそうだしね。
「おい、ちょ、やめろ朔夜!」
「うるさい!あんたは今回遅れてきたんだから私のわがままに付き合いなさい!」
「うわ馬鹿お前やめ……」
昴から箒をひったくって鎧の男に突撃を仕掛ける。
箒の柄が良い感じに鎧の隙間の脇腹に直撃して男は派手に吹っ飛ぶ。
あいつが思わず取り落としたみぞれちゃんは私が拾ってサンジェルマンに投げ渡した。
「その子頼んだわよ!」
「任されました!」
サンジェルマンはみぞれちゃんを抱えてそのままワープをする。
彼は不老長寿の特性を持った都市伝説で、時間を無視するその特性からある程度限定的ながらワープが使えるのだ。
彼にはよく八丈島やハワイのオアフ島などに連れて行ってもらって自由研究を手伝ってもらったものである。
「逃げるわよ昴!手をつかみなさい!」
「なんてひどい話だ……。」
そう言いながらも昴は私の手をつかんで素早く箒に乗り込む。
「ここまで俺をコケにするとは……!」
その時だった、遠くにいたはずの鎧の男が、鎧の一部を脱ぎ捨てた状態でいつの間にか真後ろまで迫って来ていた。
「許さんぞお前ら!」
どういう理屈か、この赤い鎧の男も何かの理屈で高速移動が使えるらしい。
男の指先が箒に掠り、その部分だけが砕け散る。
「仕方ないなあ。喰らえ……、スバルレーザー……。」
うわ、テンション低ッ!
「うぉっ、眩しっ!」
鎧の男は何故か曲がり角の電柱に正面衝突してしまう。
「なにやったのあんた!?
ていうかなに?あんた能力とか使えたの?」
「そんな訳無いでしょ、これだよ、これ。」
昴は手に持っていたレーザーポインターを見せる。
「少し強力に改造したヤツだからね。まあ眩しいだろうさ。」
「あんたえっぐいことするわね……。」
「えへへ、無能力者なもので。」
「ま、ありがとう。あのままだったら追いつかれてたかもだし。」
私と昴は目と目を合わせてにやっと笑う。
私は飛行速度を上げて家までの道を急いだ。
【不思議少女シルバームーン~第二話 第四章「苦労人と魔法少女」~fin】
【不思議少女シルバームーン~第二話 エピローグ「彼誰飯店」~】
「っつー訳で、俺はそのまま家に帰って、寝て、今日は塾に行って帰りにここに寄ったと。」
「ふふ~ん、魔法少女二人と赤い鎧の男ねえ。しかし、レーザーポインター喰らって自爆ってのは傑作だな。」
「それよりなんだよ愛人って、あいつどう見ても俺と同じくらいなんだけど。」
「細かいことは気にするなよ少年、愛には様々な形があるんだ。そしてパンツは白だ。かの有名な映画監督もおっしゃっている。
……はい、できた。今日は酢豚定食だったな?」
「うん、ありがとうおっちゃん。でもパンツは黒だ。酢豚も黒酢だ。」
僕の目の前においしそうな中華料理の皿をだす幽霊のような男。
僕の行きつけの中華料理店「彼誰(カハタレ)飯店」の店主のおっちゃんである。
まあ料理店と言っても午後七時から午後九時までの間だけ、学校町のとある雑居ビルの付近にのみ出現する幻の屋台なのだが。
僕は良くここで夕食を食べて家に帰る。
この店、普通に食べると少し高いのだが、主人に都市伝説と会ったことについて話すと値段を半額にしてもらえるサービスがある。
話については二つほどルールがある。
一つ目は固有名詞をださない。
二つ目は嘘をつかない、ただし本当のことを言う必要もない。例外的に主人がおもしろいと思えば嘘でも可。
誰かがどこかで怪異に出会った、でもそれが誰かは解らない。
だから彼誰飯店、だそうである。
まあそんなことはどうでもいい、僕はよく朔夜の戦いについて話してはここでうまい飯を食っている。
「しかしぶっちゃけ浮気ってどうなのよ?」
「良いじゃないか、男の甲斐性だ。おっちゃんも全盛期は五股くらいかけてたよ。」
「げげっ……。」
「子供もなんか会ったことないのから会ったことあるのまで沢山居てなあ……。
割と月々の養育費が馬鹿にならない。しかも今、お前と同じくらいの年の女の子に言い寄られているし。」
それにしてもこの親父は何者なのだろうか。
客に嘘をつかないルールを強いておいてこの人は嘘だらけのような気がする。
「マジかよそれ。通報して良い?」
「冗談だよ、冗談。」
「お、今日もやってるねえ。」
「いらっしゃい、お兄ちゃん。今日もこれからかい?」
「お兄ちゃんなんて恥ずかしいなあ。ええ、今日も出勤前の飯の時間ですよっと。
少年、隣失礼するぜ。おっちゃん、チンジャオロースちょうだい!」
「はいよ。」
僕の隣に派手な服を着た男の人が座る。
金色に染め上げた髪に、腕にはブランド物の時計、何回か話を聞いているので解るのだがこの人はホストなのだ。
「おっちゃん、今日もおもしろい話を持ってきたぜ。」
「ほう、聞かせてもらおう。」
「いやこの前も話したけど俺ってば実は正義の味方でさ。真っ昼間から悪と戦ってたりするんだけど……」
ホストっぽいお兄さんの話が始まる。
やれ捕まっていた女の子を助けただの、やれ襲われていた幼稚園バスを助けただの、
まるでどこぞの特撮ヒーローみたいな話の展開である。
「相も変わらず無茶するねえ、数少ないお得意さんの一人なんだから死ぬんじゃねえぞ?」
「解ってるよ、……ところで少年、君は小学生だったよな?」
お兄さんが急に僕に話しかけてくる。
「ああいや、答える必要は無いんだけどな、塾帰りってところか。
勉強はちゃんとするんだぜ、じゃないと俺みたく悪い奴かアルコールのせいで死ぬような大人になっちゃうから。」
「へ?はぁ……。」
その時、屋台にもう一人、若いのに髪が真っ白になった男性が入ってきた。
「相変わらず狭い屋台だなあ、おっちゃん。」
「ゲゲッ、刑事さんじゃないですか。」
お兄さんが驚いたような声を出す。
「んあ、お前これから仕事?」
「ええ、今日はパーティーなんで女の子達に沢山来てもらわないと。
ああそうそう、この前の麻薬捜査の時はありがとうございました。」
「俺は直接働いてないよ、他の課の人のおかげだし。」
「でも色々働きかけてくれたじゃないですか、やっぱああいうので子供が泣くのは見過ごせないっていうかね。」
「そう言われると照れるなあ……、おっちゃん、麻婆豆腐。辛さ控えめで。」
刑事さんと呼ばれた男の人は人なつっこさそうに笑った。
「少年、この人はすっげえいい人だから困ったら頼りな。
この町の正義の味方だよ。」
「お兄さんだって戦ってるじゃん。」
「俺はなあ……、そんな威張れる人間じゃないさ。今やってることも罪滅ぼしっていうか。」
「つまり、人間良くなれるってことじゃないか、なあおっちゃん。」
「良くも悪くもあれるってことだと訂正しておこうかな、刑事さん。」
色の薄い麻婆豆腐が出てきた。
「そういえば最近娘が反抗期で……。なんか小さい俺の姉に見えてきて困る。おっちゃん、どうにかしてくれ。」
「俺に頼むな、俺でもたぶん無理だ。」
「少年、同じ子供だろう?」
「無理ですよ、僕は子供と言っても小学六年生の男子な訳で。」
「刑事さん娘さんいたんですか?何歳なんです?」
「三歳。カミさんが言うにはもうそろそろ幼稚園か保育園に通わせたいそうだ。
あいつも仕事を育児休暇でだいぶ休んでるし。」
「お前も大変だな……、俺の処も長男がなあ……。」
「おっちゃんのことだから自業自得でしょうに。」
「まあそうなのかもね。」
「あ、そうだ。」
「どうした少年。」
「いや、女友達になんかプレゼントを贈ろうと思うんですけど……」
「花、そのこの好きな花かバラを少し持って行っておけ。沢山持って行くと引かれる時がある。」
「回答はやっ!」
「プロですから……」
お兄さんが即答してくれた。
一月に朔夜の誕生日があるのを今思いだしたのだ。
ちょうど飯も食べ終わったので僕は帰ることにした。
「ありがとうございます、それじゃあ僕もう行きますね。」
「あいよ、また来てね。」
屋台を出ると、大きなスポーツバッグを持った女の人とすれ違った。
何度かあの店で会った僕が進む予定の中学校の先生だ。
あの人めちゃくちゃ大食いなんだよなあ……。
バッグの中身は基本的に弓だが偶に狙撃銃が入っていたりして怖いのは秘密である。
なんで解るかは聞くな。
「あ、来年からうちの学校来るんだっけ?」
「はい。」
「君のお父さんの小説好きなんだよねえ。今度サイン頂戴よ。」
「僕のじゃダメですか?」
「……それも良いね。」
僕はその先生の持っていた本にサインをする。
「ありがとう!それじゃあまたね。」
「はい、さようなら。」
僕は振り返らずに歩き始める。
ここから家まではそう遠くはない。
家の前で女の子が待っていた。
見覚えがある。
「あ、あの、これ……受け取ってください!」
人生で初のラブレター!?
……な訳はない。
「何やってるんですか霙さん。攻撃しないでくださいね、俺は非戦闘員なんで。
人質にするとかなら無抵抗で捕まりますから。」
「いや、違うってば。」
一瞬で砕けた口調に戻る女の子。朔夜とこの前戦っていた霧雲霙である。
一体何故に俺の家に来ているのだろうか。
「なんで俺の処に来ているんですか?」
「いや、その……助けてもらったお礼を、と思って。」
「何故俺の処に……?」
「いやほら、朔夜さんとは一応バトルしている最中ですし……」
「朔夜の話によるとお前とあいつノリノリで連携決めてたんじゃねえかよ。
その上お前はお前の主人に命令されているんじゃないの?」
「いや、その……、あのあと報告をしたらそれが微妙に変更されちゃって。
だから戦う理由は無いっていうか……でもバトルは継続しちゃってるし。
なんだかんだで恩義もあるし……。だからこの手紙、貴方と朔夜さん宛です。」
「仲良くしましょう……、いや仲良くしましょうってなんですか霙ちゃん。」
「文字通り!貴方たちを倒すのは私だけよ!」
矛盾している。
まだ戦いは続いている、倒せと言う命令は無くなった、仲良くしましょう。
あれか、ライバルか。ライバル宣言なのか?
一度戦ったら強敵(とも)とか、お前らを倒すのは俺だぜ、とかお前ら少年ジャンプ世界の住人か?
「貴方は馬鹿なのですか?」
「よく言われる……、でも仲良くしたいのは事実っていうか……。
――――ええい、それと戦うのとを並立させるにはこれしかないんだもん!
文句言わないでよ!私だって正直困ってるんだから!もういや!これだから子供は嫌なのよ!
うわあああああああああああああああああああん!」
霙ちゃんは走り去っていった。やべえ、あのクレイジー具合、癖になるかもしれない。
今度会ったらパンツの色をチェックしよう。黒であることを信じたい。
そんなことを思って俺は家の中に入った。
【不思議少女シルバームーン~第二話 エピローグ「彼誰飯店」~fin】