三面鏡の少女 81
濃い茶色の毛並と立派な巻き角
二足歩行の山羊といった風体を手乗りサイズの二頭身にまで押し縮めたその悪魔は、空き地に積まれた土管の中で溜息を吐いた
「いやまあそりゃあ俺は悪魔だがね? 過去の所業や同族のネームバリューだけでその身が危険に晒されるのってマジどうよ?」
学校町のあちこちに点在する都市伝説『漫画みたいな空き地』にて
過去に手塚星に憑いていた『悪魔の囁き』はカリカリと固形のペットフードを齧りながら語る
「お前も大変だったんだな……まあ食え、そして飲め」
試供品サイズのペットフードの袋を開けて皿にざらざらと盛り足し、栄養ドリンクの瓶に入ったマタタビ酒をペットボトルの蓋に注ぐ猫
エメラルドグリーンの瞳をした銀色の長い毛並をしたペルシャ猫の一種で、毛色からチンチラと呼ばれる種である
「価値観の相違ってのは恐ぇもんだなオイ……やっぱり人間にロクな奴は居ねぇ」
南アメリカ原産の齧歯類、やはりこちらもチンチラが、知った顔でうんうんと頷く
「待てやコラ、人間で一括りにすんじゃねぇよ。うちのご主人は見てて行く末が心配になるぐらい人が良いんだぞコラ」
「うちのご主人が居なけりゃ、どうなってるかわかったもんじゃねぇ危なっかしさだからな、確かに」
小馬鹿にしたように笑う齧歯類に、ペルシャ猫が毛並の下にビキリと血管を浮かせる
「おいコラ、ご主人を馬鹿にするって事ぁ俺を馬鹿にするのも同然だって判ってんのか、あぁ?」
「ペットは飼い主に似るって言うからなぁ?」
「あぁん? じゃあ手前ぇは乳好きか? うちのご主人の乳ばっかり見てる飼い主に似て」
「待てやコラ!? いつうちのご主人が手前ぇのご主人の貧相な乳なんぞ見てたっつーんだよ!」
「言うに事欠いて貧相だぁ!? いっぺん抱かれてみやがれってんだ! そもそも具体的なサイズはだな」
「はいそこまで」
土管を覗き込んでいた女性、猫の飼い主が服が汚れる事など気にせずにずりずりと土管の中を這い進んできた
「げ、ご主人!?」
「あんまり表で変な話しちゃダメでしょ?」
「まあなんつーか、売り言葉に買い言葉っつーかな?」
ばつが悪そうに誤魔化すペルシャ猫を、両腕でわしわしと撫で回す飼い主の女性
「ネズミさんはいつもの子だけど、そっちの子は……ヤギさん?」
「家に恐ぇ奴が居て帰れないんだとよ」
「そうなんだ、それじゃあうちに来るといいよ。まだまだ寒いもん」
言うが早いか三匹纏めて両手で抱え、土管の外へとずりずりと這い出していく
土管の外に置いてあったバッグを拾い、両手で猫、ネズミ、山羊の三匹を胸元を開けたコートの中に抱え込む
「んー、もふもふ。やわらかーい、あったかーい」
「……貧相ってぇのは訂正だ。どんだけ着痩せしてんだこれ」
「おう、恐れ入ったか。お前のご主人が見惚れるのも納得だろうよ」
「うちのご主人が見てんのは顔だ、顔。目ぇ見て話す主義なんだよコラ」
相変わらず険悪な二匹と、ついでに温かく柔らかい感触に挟まれて、『悪魔の囁き』は安堵の溜息を漏らす
「ああ、話す相手が居るって良いなぁ……囁く相手が居ないのマジ辛かった」
かくしてニーナと顔を合わせるとまずいという理由で星の元から逃げ隠れた『悪魔の囁き』は、仮住まいを確保したのであったとさ
二足歩行の山羊といった風体を手乗りサイズの二頭身にまで押し縮めたその悪魔は、空き地に積まれた土管の中で溜息を吐いた
「いやまあそりゃあ俺は悪魔だがね? 過去の所業や同族のネームバリューだけでその身が危険に晒されるのってマジどうよ?」
学校町のあちこちに点在する都市伝説『漫画みたいな空き地』にて
過去に手塚星に憑いていた『悪魔の囁き』はカリカリと固形のペットフードを齧りながら語る
「お前も大変だったんだな……まあ食え、そして飲め」
試供品サイズのペットフードの袋を開けて皿にざらざらと盛り足し、栄養ドリンクの瓶に入ったマタタビ酒をペットボトルの蓋に注ぐ猫
エメラルドグリーンの瞳をした銀色の長い毛並をしたペルシャ猫の一種で、毛色からチンチラと呼ばれる種である
「価値観の相違ってのは恐ぇもんだなオイ……やっぱり人間にロクな奴は居ねぇ」
南アメリカ原産の齧歯類、やはりこちらもチンチラが、知った顔でうんうんと頷く
「待てやコラ、人間で一括りにすんじゃねぇよ。うちのご主人は見てて行く末が心配になるぐらい人が良いんだぞコラ」
「うちのご主人が居なけりゃ、どうなってるかわかったもんじゃねぇ危なっかしさだからな、確かに」
小馬鹿にしたように笑う齧歯類に、ペルシャ猫が毛並の下にビキリと血管を浮かせる
「おいコラ、ご主人を馬鹿にするって事ぁ俺を馬鹿にするのも同然だって判ってんのか、あぁ?」
「ペットは飼い主に似るって言うからなぁ?」
「あぁん? じゃあ手前ぇは乳好きか? うちのご主人の乳ばっかり見てる飼い主に似て」
「待てやコラ!? いつうちのご主人が手前ぇのご主人の貧相な乳なんぞ見てたっつーんだよ!」
「言うに事欠いて貧相だぁ!? いっぺん抱かれてみやがれってんだ! そもそも具体的なサイズはだな」
「はいそこまで」
土管を覗き込んでいた女性、猫の飼い主が服が汚れる事など気にせずにずりずりと土管の中を這い進んできた
「げ、ご主人!?」
「あんまり表で変な話しちゃダメでしょ?」
「まあなんつーか、売り言葉に買い言葉っつーかな?」
ばつが悪そうに誤魔化すペルシャ猫を、両腕でわしわしと撫で回す飼い主の女性
「ネズミさんはいつもの子だけど、そっちの子は……ヤギさん?」
「家に恐ぇ奴が居て帰れないんだとよ」
「そうなんだ、それじゃあうちに来るといいよ。まだまだ寒いもん」
言うが早いか三匹纏めて両手で抱え、土管の外へとずりずりと這い出していく
土管の外に置いてあったバッグを拾い、両手で猫、ネズミ、山羊の三匹を胸元を開けたコートの中に抱え込む
「んー、もふもふ。やわらかーい、あったかーい」
「……貧相ってぇのは訂正だ。どんだけ着痩せしてんだこれ」
「おう、恐れ入ったか。お前のご主人が見惚れるのも納得だろうよ」
「うちのご主人が見てんのは顔だ、顔。目ぇ見て話す主義なんだよコラ」
相変わらず険悪な二匹と、ついでに温かく柔らかい感触に挟まれて、『悪魔の囁き』は安堵の溜息を漏らす
「ああ、話す相手が居るって良いなぁ……囁く相手が居ないのマジ辛かった」
かくしてニーナと顔を合わせるとまずいという理由で星の元から逃げ隠れた『悪魔の囁き』は、仮住まいを確保したのであったとさ