三面鏡の少女 82
ようちえんでおえかきをした
おとうさんとおかあさんのえをかいた
あんまりかおをおぼえてないけどいっしょうけんめいおもいだしてかいた
じょうずにかけたねってせんせいはほめてくれた
おとうさんとおかあさんはほめてくれるかな
はやくみせてあげたいな
いつかえってくるのかな
おとうさんとおかあさんのえをかいた
あんまりかおをおぼえてないけどいっしょうけんめいおもいだしてかいた
じょうずにかけたねってせんせいはほめてくれた
おとうさんとおかあさんはほめてくれるかな
はやくみせてあげたいな
いつかえってくるのかな
しょうがっこうではじめてのうんどうかい
かけっこでいちばんになったよ
おとうさんとおかあさんはいそがしくてこれなかったけど
いっとうしょうのしょうじょうをもらったよ
おとうさんとおかあさんがかえってきたらみせてあげるんだ
よろこんでくれるかな
かけっこでいちばんになったよ
おとうさんとおかあさんはいそがしくてこれなかったけど
いっとうしょうのしょうじょうをもらったよ
おとうさんとおかあさんがかえってきたらみせてあげるんだ
よろこんでくれるかな
三年生の作文コンクールで賞を取った
お母さんはこういう事に興味はないみたいだけど、お父さんはどうだろう
大学の先生をやってるんだし、勉強とかできた方がいいのかな
私は頭が悪いから自信は無いけど頑張ってみよう
賞状は飾っておいても気付いてくれないし、今度帰ってきたら直接見せてみよう
せめて、無視されないといいな
お母さんはこういう事に興味はないみたいだけど、お父さんはどうだろう
大学の先生をやってるんだし、勉強とかできた方がいいのかな
私は頭が悪いから自信は無いけど頑張ってみよう
賞状は飾っておいても気付いてくれないし、今度帰ってきたら直接見せてみよう
せめて、無視されないといいな
学力テストで学年一位を取った
六年生だし、進学を考えたらこれぐらいの勉強はしてた方が良かったのかも
馬鹿でも馬鹿なりに頑張れば、意外となんとかなるものだと思う
でもこれで父さんも母さんも興味を示さなかったら、私は何をすればいいのだろう
掃除とか、洗濯とか、料理とか、家事の方が目に付く分だけ良いのかもしれない
そう思うと必死で勉強した事が途端に馬鹿らしくなってきた
テストの結果を見せて反応が無かったら、もう面倒だし勉強なんかやめてしまおう
なんかどっと疲れた気がする
六年生だし、進学を考えたらこれぐらいの勉強はしてた方が良かったのかも
馬鹿でも馬鹿なりに頑張れば、意外となんとかなるものだと思う
でもこれで父さんも母さんも興味を示さなかったら、私は何をすればいいのだろう
掃除とか、洗濯とか、料理とか、家事の方が目に付く分だけ良いのかもしれない
そう思うと必死で勉強した事が途端に馬鹿らしくなってきた
テストの結果を見せて反応が無かったら、もう面倒だし勉強なんかやめてしまおう
なんかどっと疲れた気がする
わざと見付かるように万引きをした
こうでもすれば店や警察の呼び出しぐらいには応じるかと思ったから
だけどそうはならなかった
父さんの大学と母さんの芸能事務所、どんな権力持ってるんだか
事情を察したのか、店長さんの対応は優しかったが、ちゃんと叱ってくれた
こういう事は親の仕事のはずなのに
この店長さんの方がよっぽど親らしい
だったら
あいつらは
何なんだ
こうでもすれば店や警察の呼び出しぐらいには応じるかと思ったから
だけどそうはならなかった
父さんの大学と母さんの芸能事務所、どんな権力持ってるんだか
事情を察したのか、店長さんの対応は優しかったが、ちゃんと叱ってくれた
こういう事は親の仕事のはずなのに
この店長さんの方がよっぽど親らしい
だったら
あいつらは
何なんだ
隣の席の奴が煩い
さも楽しそうに家族の話なんかするな
私に対するあてつけか
ムカつく
気が付いたらそいつの鞄を窓から放り投げていた
一瞬びっくりした顔をしてたけど、すぐに愛想笑いを浮かべている
気に入らない
雨の中、へらへらしながら鞄を拾いに行った
気に入らない
家族がいて幸せならそれぐらいどうって事無いのか
そんな彼女に以前からちょっかいを掛けていた女子二人が、私に声を掛けてきた
あいつが気に入らない
そんな理由だけでも、誰かと話せるのは少し安心できたが
物心がついた頃からずっと胸の内に打ち込まれた楔は、僅かにも揺るぐ事は無かった
さも楽しそうに家族の話なんかするな
私に対するあてつけか
ムカつく
気が付いたらそいつの鞄を窓から放り投げていた
一瞬びっくりした顔をしてたけど、すぐに愛想笑いを浮かべている
気に入らない
雨の中、へらへらしながら鞄を拾いに行った
気に入らない
家族がいて幸せならそれぐらいどうって事無いのか
そんな彼女に以前からちょっかいを掛けていた女子二人が、私に声を掛けてきた
あいつが気に入らない
そんな理由だけでも、誰かと話せるのは少し安心できたが
物心がついた頃からずっと胸の内に打ち込まれた楔は、僅かにも揺るぐ事は無かった
自分は
何で
生まれてしまったのだろう
何で
生まれてしまったのだろう
―――
「ん……」
まだまどろみの中にいるような意識と、頬に感じる柔らかい布団の感触
いつの間にか寝ていた事を自覚し、状況を一つ一つ思い出しながらゆっくりと身を起こす
ふと、ここがディランの部屋だという事を思い出し
両手の温かく柔らかい感触に気付いてその身を跳ね起こす
「繰ちゃん、おはよう」
どこか自信のなさげな、遠慮がちな笑顔
その手が自分の両手を握っているのを見て、振り解きそうになった手を思い留まらせる
自分から握っていたのなら気恥ずかしい事この上ないのだが、彼からなら仕方ない
実際のところはディランは握り返しただけで、先に縋り付いていたのは繰なのだが
「先生、痛いとことか苦しいとことかは無い? 大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」
「ま、まったくよ。もうちょっと抵抗とか反撃とか、しっかりやんなさいよ」
握った手はそのままに、耳まで真っ赤になりながらベッドの縁に座り直す繰
見上げていた視線が同じ高さまで上がり、距離もまた微妙に近くなる
きしりとベッドが揺れ、互いの体重から否応無しに存在感を意識させられる
「菊花に感謝しなさいよね? あの子がいなかったら、私だって戦える能力なんて無かったんだから……って、あれ?」
ふと気が付いて部屋を見回すが、菊花の姿が見えない
ついでに、ディランを助けた男の姿もだ
という事は
「ふっ、ふた、ふたっ!?」
「ど、どうしたの繰ちゃん!?」
突然慌てふためく繰を落ち着かせようと、握った手をぶんぶんと振るディラン
「だ、だだだ、大丈夫! 別に、べ、別に何でもないから!」
慌てて手を振り解き立ち上がろうとした繰だが、足を滑らせてベッドから転げ落ちそうになる
「ふわっ!?」
一瞬だけの落下感と、それを押さえ込む腕の感触
とっさに伸ばされたディランの腕が、繰の身体を抱き締めるようにベッドの上に引き留めていた
やや仰向けに、ディランの胸に身体を預けるような体勢で
二人の思考は、そこで一瞬停止していた
まだまどろみの中にいるような意識と、頬に感じる柔らかい布団の感触
いつの間にか寝ていた事を自覚し、状況を一つ一つ思い出しながらゆっくりと身を起こす
ふと、ここがディランの部屋だという事を思い出し
両手の温かく柔らかい感触に気付いてその身を跳ね起こす
「繰ちゃん、おはよう」
どこか自信のなさげな、遠慮がちな笑顔
その手が自分の両手を握っているのを見て、振り解きそうになった手を思い留まらせる
自分から握っていたのなら気恥ずかしい事この上ないのだが、彼からなら仕方ない
実際のところはディランは握り返しただけで、先に縋り付いていたのは繰なのだが
「先生、痛いとことか苦しいとことかは無い? 大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」
「ま、まったくよ。もうちょっと抵抗とか反撃とか、しっかりやんなさいよ」
握った手はそのままに、耳まで真っ赤になりながらベッドの縁に座り直す繰
見上げていた視線が同じ高さまで上がり、距離もまた微妙に近くなる
きしりとベッドが揺れ、互いの体重から否応無しに存在感を意識させられる
「菊花に感謝しなさいよね? あの子がいなかったら、私だって戦える能力なんて無かったんだから……って、あれ?」
ふと気が付いて部屋を見回すが、菊花の姿が見えない
ついでに、ディランを助けた男の姿もだ
という事は
「ふっ、ふた、ふたっ!?」
「ど、どうしたの繰ちゃん!?」
突然慌てふためく繰を落ち着かせようと、握った手をぶんぶんと振るディラン
「だ、だだだ、大丈夫! 別に、べ、別に何でもないから!」
慌てて手を振り解き立ち上がろうとした繰だが、足を滑らせてベッドから転げ落ちそうになる
「ふわっ!?」
一瞬だけの落下感と、それを押さえ込む腕の感触
とっさに伸ばされたディランの腕が、繰の身体を抱き締めるようにベッドの上に引き留めていた
やや仰向けに、ディランの胸に身体を預けるような体勢で
二人の思考は、そこで一瞬停止していた
―――
一方、僅かに隙間の開いた隣室のドアの向こう
両手を口元に当てて、ドアの隙間から二人の様子を見守る菊花と、その後ろでつまらなさそうに欠伸をしているダミア
なんだかんだで二人きり状態になったディランと繰の様子を見て、ダミアを連れて隣室に引っ込んでいたのだが
そろそろ大人しくしているのに飽きたのか、ダミアが菊花を押し退けて二人の元へ出ていこうとし始めた
慌ててダミアの顔をぺちぺち叩いて押し留めようとするものの、体格と力の差は余りにも圧倒的である
必死でどうにかしようと、首に抱き付くようにして必死に縋り付く菊花
ダミアはぴたりと足を止めると、すんすんと菊花のにおいを嗅ぎ
菊花の着物の帯にかぷりと噛み付いて、ぷらぷらとぶら下げたまま
押し留めようとした時とは違う勢いで大慌てになる菊花を、ダミアは部屋の奥の暗がりへと運んでいったのだった
両手を口元に当てて、ドアの隙間から二人の様子を見守る菊花と、その後ろでつまらなさそうに欠伸をしているダミア
なんだかんだで二人きり状態になったディランと繰の様子を見て、ダミアを連れて隣室に引っ込んでいたのだが
そろそろ大人しくしているのに飽きたのか、ダミアが菊花を押し退けて二人の元へ出ていこうとし始めた
慌ててダミアの顔をぺちぺち叩いて押し留めようとするものの、体格と力の差は余りにも圧倒的である
必死でどうにかしようと、首に抱き付くようにして必死に縋り付く菊花
ダミアはぴたりと足を止めると、すんすんと菊花のにおいを嗅ぎ
菊花の着物の帯にかぷりと噛み付いて、ぷらぷらとぶら下げたまま
押し留めようとした時とは違う勢いで大慌てになる菊花を、ダミアは部屋の奥の暗がりへと運んでいったのだった