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単発 - こんなに月が綺麗な夜は

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kemono

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こんなに月が綺麗な夜は


 満天の星空の下、ビルの屋上に一人の少女がたたずんでいた。
 冷たい夜風が少女の髪を撫で、胸元のペンダントを揺らす。
 少女はその首から提げたペンダントを握り締めた。
 ずんぐりとした蜂を模したそれが、少女の手の中でほんのり熱を帯びる。
 少女は深呼吸して気を落ち着かせ、少女の体は宙を舞った。

 ビルの壁面に沿って自由落下する少女。
 少女の胸元ではペンダントが風に煽られてくるくると踊っている。
 見下ろす夜空は遠ざかり、見上げる地面が急速に迫る。

「私は――――飛べる。」

 小さく呟いて膝を抱え、空中でしゃがむような体勢を取る。
 そして宙を蹴るように伸脚すると、少女の体はすべるように弧を描いて上昇へと転じた。
 重力に逆らい、夜空へ向けて加速する少女の体。
 元いたビルの屋上を通り越し、少女は全身の力を抜いた。
 数秒の惰性の後、少女の体が一瞬の無重力に晒され、少女は町の全てを見下ろした。
 直後再び宙を蹴り、落下しようとする体を夜空へ導く。
 少女が見上げる雲ひとつない夜空には、町の全てを照らさんばかりの満月がかかっていた。

「――――あなたがこんなに近くにいるのに……私の手は届かない。」

 少女は月に向けて手を伸ばし、誰にともなく呟いた。
 願いは叶わなくても、せめて、できるだけ近くに。
 少女はそう祈り、見事な月面宙返りを披露した。





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