「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - とある警察幹部の憂鬱-21

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だれでも歓迎! 編集
 鳥のように飛びたいと願った事があった
 あの鳥のように、自由に飛びたいと
 鳥籠のようなあの場所から、自分は自由になりたかった

 そして、今、自分は願いを叶える事が出来る
 どこまでも、自分は自由

 だからこそ、この幸福を誰かに味合わせてやりたい
 自分のように自由にしてやりたいと願うのは、きっと、当然の事で
 しかし、その想いが誰かに理解される事は稀でしかなく
 大半の者達は、この思いを理解しようとすら、してくれないのだ



                        Calamity・Runic






 仕事を終え、帰宅した美緒
 小さくため息をつき、スーツを纏ったまま、ソファーに座り込んだ

 都市伝説関連の事件が、減る事はない
 そして、自分の部下は、相変わらず都市伝説関連の事件に、勝手に首を突っ込む
 彼女の仕事が減る事はない

 じっと、携帯電話を見つめる美緒
 影守とは、まだ、連絡が取れない
 連絡を取る事すら、許されない
 彼の謹慎処分がいつ解けるのか、まったくわからない
 もしかしたら、彼が死ぬまで、永遠に続くのかもしれない


 そうなったら
 永遠に
 影守と会う事は、許されない


 もし
 もし、その最悪の想像が、現実であったならば

「……影守、さん……」

 会いたい
 傍にいたい
 彼が今、どうなっているのか、知りたい
 傍にいたい
 支えてやりたい

 会う資格などない
 傍にいる資格などない
 知る権利すらない
 支える資格など、自分にはない

 そう感じながらも、だが、それでも
 想いは募り、降り積もり、彼女の心を圧迫する

 それは、喩えるならば、恋の病
 医者には治せぬ不治の病
 放っておけば死に至る、この世で最も厄介な、そんな病

「会いたければ、会えばいいじゃん」

 …と
 そんな、美緒の耳に届いた、声
 ひらり、漆黒の蝶が、何時の間にか部屋の中に入り込んでいた

 ただの蝶ではない
 そもそも、今は蝶が飛ぶ季節では、ない

「……また、あなたですか。勝手に部屋に入り込んで………訴えますよ?そして勝ちますよ?」
「訴える?どこに?魔女狩りの連中でも呼ぶかぁ?まぁ、俺様にとっちゃあ、そんな連中、怖くもなんともないがなぁ?」

 ひらり、ひらり
 漆黒の蝶は群れをなし
 …そして、一人の男が、姿を現す

 ぶかぶかのローブを纏った、長身の西洋人男性
 杖を持った、魔法使いそのものの姿の男

 カラミティ・ルーン
 北欧とヨーロッパの都市伝説的存在達にとって、関わる事すら不幸であると認識させる、最悪の存在
 「災厄の魔法」という名前が現す通りの、災厄そのものの存在
 それが、当たり前のように、美緒の前に姿を現した

 以前、美緒はこのカラミティに命を救われている
 カラミティの、どこまでも身勝手な考えに巻き込まれただけ、とも言うのだが
 それ以来、この自分勝手で我侭で俺様な魔法使いに、美緒はなぜか気に入られてしまったのだ

 カラミティが、どのような存在であるのか……美緒は、詳しくは、知らない
 だからこそ、ただ一人の都市伝説相手と同じような対応をしていた
 名前を聞いただけで恐怖され、敵意を、殺意を抱かれる事が多いカラミティにとってそのような美緒の対応が、逆に「度胸がある」と見れたのかもしれない

「とにかく、会いたいんだろ?その影守、って男に。じゃあ、会いに行けばいいだろ」
「……できるはずがないでしょう。影守さんに迷惑がかかりますし……そもそも、彼の周囲には、「組織」のKNoの黒服達が見張りについています。不可能です」
「じゃあ、俺様が素敵な魔法で、その黒服達全員、ぶっ殺してやるよ。それなら、会えるだろ?」

 あっさりと
 扱く残酷な事を、カラミティは言い切った
 己の魔法の力を持ってすれば、それくらい簡単であると
 カラミティはそう信じきっているし、実際、それを可能にするだろう
 影守の見張りについているのはKNoの黒服だけではなく、兄貴達もいるのだが……カラミティは、それらすら、皆殺しにしてしまう事ができる
 残忍に弄んで殺す事も、苦痛すら感じる暇もなく、一瞬で殺す事も
 どちらも、カラミティは可能なのだ

「っそれこそ、影守さんに迷惑がかかります。そんな事、できるはずがありません」
「なんでだ?」

 美緒の言葉に、カラミティは不思議そうに首をかしげる
 外見は、20代半ばか後半のように見えるカラミティだが、時折、こうして酷く子供っぽい仕種や表情をする事がある
 とても、本人が言うような、千年の時を生きた存在には、見えない

「…だから。影守さんに、迷惑がかかるから…」
「それだよ。だからって、どうしてお前が我慢しなきゃいけないんだ?」

 心の底から不思議そうに、カラミティは続ける

「お前は、その影守って男に会いたいんだろ?どうして、それを我慢しなきゃいけないんだ?会いたければ会えばいいだろ。我慢する必要なんて、どこにもない」
「…あの人に、迷惑をかけるわけには、いきません」
「迷惑かけたって、いいだろ。お前がそいつに会いたいんだから。会って、傍にいてればいいじゃん。我慢する必要なんてない。好きな奴に会いたいのを、傍にいたいのを、我慢する必要なんてねぇだろ?」

 あっさりと、そう言い切ったカラミティ
 その言葉に……主に、後半の言葉に
 美緒は、頬を真っ赤に染め上げる

「な、なななな、何を……」
「隠せてるとでも思ってたのかよ?お前の、その影守って男への恋心に気付かない奴がいたとしたら、そいつ、馬鹿だろ。つーか、どうして、隠す必要があるんだ?好きなら好きで、それでいいだろ。愛しているなら、愛してるって、そう伝えればいいだろ?隠す必要なんて、どこにもない。誰にだって恋する権限があるし、誰かを愛する権限がある。相手は誰だっていい、誰であろうと、愛したならば、それを隠す必要なんざねぇ。伝える事を躊躇する必要性なんて、世界のどこにも存在しねぇよ」

 長ったらしく、そう言い切ってみせるカラミティ
 …子供の理屈だ
 現実を知らない、夢に夢見る子供の幻想
 現実に囚われぬ、その現実を無残に残酷に破壊し、踏みにじって嘲笑える男ならではの、理屈

 けれど
 そこまで、割り切る事が、できれば
 自分の想いを隠す事なく、伝える事が、できるならば
 それは、どれだけ幸福な事だろうか

 だが

「…それは、あなただからこそ、できる事でしょう。私には………できません。影守さんに、迷惑をかけたくない。困らせたくない……だから、できません」

 俯き、そう、答える美緒

 生まれてはじめての恋に、どうしたら良いのかわからず
 その上、このような状況におかれて
 彼女は、どこまでも臆病だった
 一歩を踏み出す勇気を、持つ事が出来ない

 氷の女
 永久凍土(ツンドラ)
 そう、職場で呼ばれる彼女の素顔は、どこまでも臆病な一人の女にしかすぎなかった

 俯く美緒を、カラミティはじっと見つめる
 相変わらず、不思議そうな表情をしたままだ
 何故、美緒がここまで恋に臆病なのか、わからないし、理解できないのだ
 己の魔法に絶対的な自信を持ち、自分に不可能はないと胸をはって豪語するこの男に、どこまでも無力で、その無力を隠すように努力を重ね、氷の女の仮面をかぶり続ける女の考えを理解するなど、不可能に近かった

 だから、こそ
 理解できないなりに、カラミティは美緒の背中を押そうとする
 美緒がどう思っていようと、カラミティは美緒を「友人」と認識していた
 生まれてはじめての人間の友人であるカインと同じように、遠慮なく自分に物をいい、恐怖することなく接してくる存在
 それを、カラミティはカラミティなりに、大切に思っているのだ
 ただ、何分カラミティは常識と言うものをほぼ身につけていない為、美緒から自分がどう認識されているのかもよくわかっていないのだが

「それじゃあ。俺様が、お前に力を貸してやるよ」
「……見張りの人たちを皆殺し、はなしですよ?」
「それが一番楽なんだけどな。ちらっと見てきたけど、何かあの連中、気に食わねぇし。鼠の姿にでも変えて、猫の群れの中に放り込んで、その猫たちの腹の中に収まる様子を観察するのとか、面白そうだし」

 けれど
 美緒が、それを望まないのならば
 カラミティは、別の手段を用意する

 つい、と
 その長身以上に長い杖をふるカラミティ
 すると、美緒の目の前に……漆黒の蝶が二頭、姿を現した
 それは、重なり合うように飛んでいて………その動きが、急に、止まった
 落下し始めたそれを、美緒は思わず、キャッチする

 キャッチしたそれに、生き物の感触は、なかった
 無機質な、物の感触

「……ブローチ……?」

 そう
 二頭の漆黒の蝶は、ブローチへと姿を変えていた
 二つのブローチ
 しかし、それは重ね合わせることで一つのブローチにする事が可能なようだった

 重なり合う蝶
 まるで、それは、恋人同士のようにも見える

「それに、俺様が魔法をかけた。魔法というよりか、おまじない、かね」
「…おまじない……ですか?」
「そう。それを、互いに一つずつ持っていれば、必ず心が通い合う。たとえ離れていても、会う事ができなくとも、想いは通じ合う」

 それは、まるで少女達が夢見るような、おまじない
 どこまでも都合がいい、現実になるはずもない、ただの願掛け
 カラミティのような存在が使うには、あまりにも陳腐な魔法

 恐らく、そんな魔法は、かかっていない
 きっと、これはただのブローチ
 カラミティが魔法で作っただけの、ただのブローチなのだろう

 けれど
 カラミティが、それに魔法をかけたと言った
 おまじないをかけたと言った

 ただそれだけで、このブローチは、魔法的な意味を持つ
 ただのブローチではなく、恋の魔法がかかったマジックアイテムへと変わるのだ

「それを、片方はお前が、もう一方は影守って男が持っていれば。お前の恋は、必ず叶う。大魔法使いのカラミティ・ルーン様が、それを保障してやる、なぜならば、そのブローチを生み出して素敵な魔法をかけたのは、この大魔法使いの俺様なんだからな」

 堂々と、そう言い切ってみせるカラミティ
 己の存在に、己の力に、絶対の自信を持って、そう告げる
 そして、そんな自分が保障するのだから、何も悩む必要も躊躇する必要もないのだ、と
 そう、美緒に告げているようにも見えた

「後は、お前がそれを影守に渡すだけさ。そうすりゃあ、影守はお前のものだ」
「……で、も……会う事ができないのに、渡す事なんて……」
「方法なら、探せばいい。もし、影守と会う為には奇跡が必要だってんなら、俺様が奇跡を起こしてやる。なぜならば、俺様の素敵な魔法は万能で、どんな事だってできるんだからな」

 じっと、ブローチを見つめる美緒
 これを、影守に渡したならば…恋は、叶う?
 いや、現実は、そんなに都合のいいものではない

 けれど
 もし
 もし、このブローチを、影守に渡すことが、できたならば


 自分は
 もう少し、素直になれるだろうか?
 自分は
 もう少し、自分に自信を持って、行動できるだろうか?
 自分は
 あと、一歩を……踏み出せるだろうか?


 じっとじっとブローチを見つめ、美緒は考え込む
 そして…そっと、そのブローチを、両手で包み込む

「…ありがとうございます…私が、これを使っても、良いのですね?」
「当たり前だろ。俺様が、お前の為に作ってやったんだからな。こんな事、カイン相手以外にしたのは、初めてなんだからな」
「……ありがとうございます。受け取らせてもらいます」

 ブローチを、手に
 美緒は、携帯を取り出した

 カラミティは、奇跡を起こしてやる、と言った
 が、カラミティの起こす奇跡は、どうにも血生臭い方向へと向かい勝ちだ
 それは、避けたい

 だから
 美緒は、もう一つの奇跡にすがる
 影守の周囲に、信用できる存在は、いない
 KNoは全員敵と見るべきだ、と兄からは言われている

 けれど
 一人
 たった、一人だけ
 美緒が、信じたいと思う存在が、いる
 彼女だけは、信じても良いのではないか
 影守の味方だと判断しても良いのではないか
 ……もしかしたら、自分に力を貸してくれるのではないか

 そんな、甘い幻想に、らしくもなくすがってしまう
 どうか、自分の願いが叶って欲しい
 その奇跡を願い、賭けにでる

「……コンさん、ですか?広瀬です…………その、影守さんの、事で……………少々、お話が……」

 --今、まさに
 美緒は、一歩踏み出した

 カラミティの、ブローチを与えると言う、背中を押す行為によって
 美緒は、己の想いを叶える為の、第一歩を
 影守の力になりたいと言う想いの第一歩を、勇気を持って踏み出した

 そんな、美緒の姿に満足したように
 カラミティは、漆黒の蝶の群れに姿を変えて、美緒の部屋から姿を消したのだった









to be … ?






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