“獣の王様 第八話「本当の絶望」”
「はぁ……、はぁ……。」
「どうしよう、私のせいで……私のせいで……。」
「どうしよう、私のせいで……私のせいで……。」
肩で息をする上田明也。
その拳は真っ赤に染まっている。
冬木華恋は虚ろな瞳で宙を眺めて、ずっと同じ事を呟いていた。
その拳は真っ赤に染まっている。
冬木華恋は虚ろな瞳で宙を眺めて、ずっと同じ事を呟いていた。
「さっさと行くぞ。」
「私のせいで…………。」
「……やれやれ、困ったな。」
「私のせいで…………。」
「……やれやれ、困ったな。」
自らが経験した死の恐怖から、誰かが傷つくことを何よりのストレスとする冬木華恋。
特に意味も理由もなく他人などどうでも良い唯我独尊の上田明也。
子供達が只野凱空が遺した虫に襲われていると解った後の反応は真逆だった。
そして、二人の思考もまた真逆だった。
冬木華恋はショックにかられながらも起ち上がろうとしている。
一人でも犠牲者を減らさねばと考えている。
だがしかし上田明也は正直な所子供達のことをどうでも良い存在としか思っていない。
帰って良いならば今すぐにでも帰りたいとさえ思っている。
この状況は、現実問題としては自分勝手な上田の方が立ちなおりが早い、
というよりは傷ついてさえいない。
特に意味も理由もなく他人などどうでも良い唯我独尊の上田明也。
子供達が只野凱空が遺した虫に襲われていると解った後の反応は真逆だった。
そして、二人の思考もまた真逆だった。
冬木華恋はショックにかられながらも起ち上がろうとしている。
一人でも犠牲者を減らさねばと考えている。
だがしかし上田明也は正直な所子供達のことをどうでも良い存在としか思っていない。
帰って良いならば今すぐにでも帰りたいとさえ思っている。
この状況は、現実問題としては自分勝手な上田の方が立ちなおりが早い、
というよりは傷ついてさえいない。
「おいおい、ボロボロじゃないか二人とも!」
「……何時かの黒服。」
「……何時かの黒服。」
疲労困憊の二人の前にF-No.333――三原沙耶――が現れる。
「愛を込めてサヤちゃんって呼んで良いぞ。」
「遠慮する。」
「良いニュースと良いニュース、どちらから聞きたい?」
「良いニュース。」
「喜べ少年少女、奴の死に際に放ったワームは私達が前もって回収していたから被害は出なかったぞ。」
「はぁ?」
「やたら学校回って何かしているなあって思ったらそんなことやってたとはあたしも知りませんでしたよ。
実は先輩って有能なんですね。」
「失礼だな駿河後輩、私は何時だって有能だ。」
「遠慮する。」
「良いニュースと良いニュース、どちらから聞きたい?」
「良いニュース。」
「喜べ少年少女、奴の死に際に放ったワームは私達が前もって回収していたから被害は出なかったぞ。」
「はぁ?」
「やたら学校回って何かしているなあって思ったらそんなことやってたとはあたしも知りませんでしたよ。
実は先輩って有能なんですね。」
「失礼だな駿河後輩、私は何時だって有能だ。」
沙耶の後ろからショートカットが印象的な女性の黒服が現れる。
彼女の後輩であるF-No.の黒服だ。
彼女の後輩であるF-No.の黒服だ。
「その話、本当ですか?」
「なんだ不死鳥の少女、随分弱ってるじゃないか。
本当だよ、ほれ見ろこの瓶。
色々なところで幼体を採集した中で一番強力な個体を瓶詰めしたのさ。
こいつは私のラボで改造されてF-No.が愛と平和の為に役立つ存在になっちゃいます。」
「ところでもう一つの良いニュースは?」
「なんだ不死鳥の少女、随分弱ってるじゃないか。
本当だよ、ほれ見ろこの瓶。
色々なところで幼体を採集した中で一番強力な個体を瓶詰めしたのさ。
こいつは私のラボで改造されてF-No.が愛と平和の為に役立つ存在になっちゃいます。」
「ところでもう一つの良いニュースは?」
上田明也は三原を睨み付ける。
「解ってるみたいだね。」
「さっさと言えよ、逃げるから。」
「うん、君のお父さんに頼まれちゃってさ、君を連れ戻せって。
F-No.っていうか、騎士団の一員としては君のお母さんにストレスを与えるのも愉快なんだが……。
私の師匠の頼みだ、こればかりは仕方ない。」
「弟子何人いるんだよ……。俺にはちっとも教えない癖に。」
「嫉妬かい?可愛いね。」
「いえいえ、」
「さっさと言えよ、逃げるから。」
「うん、君のお父さんに頼まれちゃってさ、君を連れ戻せって。
F-No.っていうか、騎士団の一員としては君のお母さんにストレスを与えるのも愉快なんだが……。
私の師匠の頼みだ、こればかりは仕方ない。」
「弟子何人いるんだよ……。俺にはちっとも教えない癖に。」
「嫉妬かい?可愛いね。」
「いえいえ、」
上田明也は懐から花火を改造して作った煙玉を放り投げる。
辺りに白煙が立ちこめると同時にとてつもない刺激臭が近くに居た人間の嗅覚を破壊する。
辺りに白煙が立ちこめると同時にとてつもない刺激臭が近くに居た人間の嗅覚を破壊する。
「妙な物事に巻き込まれなくて良かったなーって。
レンさん、助けて、俺の脚だと逃げ切れない。」
「……ん、解った。それにしても鼻が……。」
「はい、防毒マスク。」
「毒って!?」
「うん、ちょっと科学の実験で……」
「軽くテロだよね!?」
「良いから飛んで。」
レンさん、助けて、俺の脚だと逃げ切れない。」
「……ん、解った。それにしても鼻が……。」
「はい、防毒マスク。」
「毒って!?」
「うん、ちょっと科学の実験で……」
「軽くテロだよね!?」
「良いから飛んで。」
レンは上田から渡されたマスクを装着すると上田を抱えて空を飛ぶ。
流石に不死“鳥”というだけあって速い。
三原の契約するリンドブルムならば追いつけなくもないのだろうが
残念ながら上田がまいた煙玉に含まれた毒ガスのせいで三原が死にかけているので指示が伝わっていない。
流石に不死“鳥”というだけあって速い。
三原の契約するリンドブルムならば追いつけなくもないのだろうが
残念ながら上田がまいた煙玉に含まれた毒ガスのせいで三原が死にかけているので指示が伝わっていない。
「ねーねーエリ、何処まで飛べば良いの?」
「エリってなんですか。」
「上田明也でしょ、エリじゃない。」
「俺男なんですけど……。」
「構わないわよ。」
「あっ、丁度良い、またあの水族館に隠れましょう。」
「エリってなんですか。」
「上田明也でしょ、エリじゃない。」
「俺男なんですけど……。」
「構わないわよ。」
「あっ、丁度良い、またあの水族館に隠れましょう。」
二人はこの前も隠れた廃墟と化した元水族館に入り込む。
そこそこ入り組んでいるためか逃げやすく、探されづらい良い場所なのである。
二人はペンギンの昔居た水槽の隣に腰を下ろした。
そこそこ入り組んでいるためか逃げやすく、探されづらい良い場所なのである。
二人はペンギンの昔居た水槽の隣に腰を下ろした。
「ふー……、ごめんなさい。」
「なんでエリが謝るの?」
「エリ固定ですか。」
「固定です。」
「いやだってレンさんの友達やら妹の仇だったのに……。
俺がトドメ刺しちゃ意味無いじゃないですか。」
「あー、そういやそうだね。でも良いよ、あれが居なくなったなら。」
「うぅん……。」
「なんでエリが謝るの?」
「エリ固定ですか。」
「固定です。」
「いやだってレンさんの友達やら妹の仇だったのに……。
俺がトドメ刺しちゃ意味無いじゃないですか。」
「あー、そういやそうだね。でも良いよ、あれが居なくなったなら。」
「うぅん……。」
上田明也の心に生じる奇妙な感覚。
感性の違いから生じる違和感。
感性の違いから生じる違和感。
「それよりも、私のせいで人を殺させてしまった事がね……。」
「え?」
「いや、え?って何さ。だって私のせいだよ?
責任くらいはきっちり取らせて貰うつもりだよ。
何が出来るか解らないけれど。」
「え?」
「いや、え?って何さ。だって私のせいだよ?
責任くらいはきっちり取らせて貰うつもりだよ。
何が出来るか解らないけれど。」
今度は冬木華恋の心に生じる違和感。
「別に人を殺すくらい、どうということもなかったです。
殺せば死ぬだけですから。
そんなことを気に病まないでください。
それよりも仇をきっちり取れなかったことがレンさん気になってるんじゃないか心配で……。」
「それは別に良いよ。
危ない奴が一人消えたって結果だけがあれば……。
でも今はそれだって……。」
殺せば死ぬだけですから。
そんなことを気に病まないでください。
それよりも仇をきっちり取れなかったことがレンさん気になってるんじゃないか心配で……。」
「それは別に良いよ。
危ない奴が一人消えたって結果だけがあれば……。
でも今はそれだって……。」
二人の間の微妙なすれ違い。
上田の感覚の異常さが彼女を戸惑わせている。
華恋は自分より年下の少年を自分の仇討ちに巻き込んで人を殺させてしまった事実に罪悪感を覚えている。
そう思うのは普通だ。
一方上田は仇討ちをぶちこわしてしまったことだけを気にしている。
死人のことも他人のことも自分のしたことさえどうでも良いのだ。
ただ華恋の悲しげな表情に戸惑っているだけだ。
どちらが異常なのかは火を見るより明らかだ。
しかし今此処にいるのは彼等二人だけ。
どちらが異常かどちらが正常かなんて決められない。
意見はすれ違うだけの平行線だ。
上田の感覚の異常さが彼女を戸惑わせている。
華恋は自分より年下の少年を自分の仇討ちに巻き込んで人を殺させてしまった事実に罪悪感を覚えている。
そう思うのは普通だ。
一方上田は仇討ちをぶちこわしてしまったことだけを気にしている。
死人のことも他人のことも自分のしたことさえどうでも良いのだ。
ただ華恋の悲しげな表情に戸惑っているだけだ。
どちらが異常なのかは火を見るより明らかだ。
しかし今此処にいるのは彼等二人だけ。
どちらが異常かどちらが正常かなんて決められない。
意見はすれ違うだけの平行線だ。
「ねえ、レンさんはこれからどうするんですか?」
「これからって?」
「いや、悪い奴は死んだわけだし。この先どうするのかなって。」
「私は……。」
「これからって?」
「いや、悪い奴は死んだわけだし。この先どうするのかなって。」
「私は……。」
彼女は復讐の後に何をするかなんて考えてもいなかった。
もう親元には戻れないな、とか漠然と考えているだけだった。
もう親元には戻れないな、とか漠然と考えているだけだった。
「私よく考えたら行くところ無いんだよね。」
「じゃあ僕と一緒に逃げてくれませんか?
正直親父の追跡撒くのって徒歩とかだと無理だし。
あの人ってば車より走るの速いんだもん。」
「なんか……規格外なお父様だね。」
「はい、もういやなんですよ家族とか。夢も希望ももう要らない。」
「でも……」
「じゃあ僕と一緒に逃げてくれませんか?
正直親父の追跡撒くのって徒歩とかだと無理だし。
あの人ってば車より走るの速いんだもん。」
「なんか……規格外なお父様だね。」
「はい、もういやなんですよ家族とか。夢も希望ももう要らない。」
「でも……」
夢や希望が無くてもこの少年には家庭や未来がある。
それを奪い取って良いのだろうか。
華恋は迷う。
それを奪い取って良いのだろうか。
華恋は迷う。
「でも、も何も無いですよ。
もう世の中嫌になってましたし、このまま行けるところまで行きましょう。
昔から北極点を制覇するのが夢だったんですよ。
ああ、言葉なら一応五ヶ国語くらいはいけるんで大丈夫です。
レンさんの能力なら寒いところも大丈夫だし。
……レンさん?」
もう世の中嫌になってましたし、このまま行けるところまで行きましょう。
昔から北極点を制覇するのが夢だったんですよ。
ああ、言葉なら一応五ヶ国語くらいはいけるんで大丈夫です。
レンさんの能力なら寒いところも大丈夫だし。
……レンさん?」
ああ、なんてマイペースな少年なのだろう。
少し怖い。
凄く怖い。
自分の妹や友達を襲った男よりも怖い。
この少年は私のこと以外、いいや、私のことすらどうでも良いのだ。
何時か彼は今よりもっととんでもないことをしでかす。
私はこの少年の薄皮一枚で保たれていた何かを破らせてしまった。
レンは思考の渦に溺れ、深みへと嵌っていく。
そして、レンは一つの結論に達した。
少し怖い。
凄く怖い。
自分の妹や友達を襲った男よりも怖い。
この少年は私のこと以外、いいや、私のことすらどうでも良いのだ。
何時か彼は今よりもっととんでもないことをしでかす。
私はこの少年の薄皮一枚で保たれていた何かを破らせてしまった。
レンは思考の渦に溺れ、深みへと嵌っていく。
そして、レンは一つの結論に達した。
「うん、じゃあ仕方ない。
私がどこまでも君について行って上げる。」
私がどこまでも君について行って上げる。」
上田の表情が輝く。
少年らしい曇り一つ無い笑み。
それが彼女には怖い。
悪人とはいえ人を殺しておいて何故こんな顔ができるのだろう。
彼に人を殺させてしまったにも関わらず彼女はその思いがぬぐえなかった。
少年らしい曇り一つ無い笑み。
それが彼女には怖い。
悪人とはいえ人を殺しておいて何故こんな顔ができるのだろう。
彼に人を殺させてしまったにも関わらず彼女はその思いがぬぐえなかった。
「でもね。一つだけお願いがあるの。」
「なんですか?」
「私が思うにエリはね、子供みたいに善悪の区別があまり出来てないと思うの。」
「……うぅ。」
「お父さんやお母さんに教えられなかった?」
「教えられたけど解らなかった。」
「そっか、じゃあ私と一緒にゆっくり勉強して、私と一緒に、私のせいでしてしまったことを後悔しよう。」
「過ぎたことを後悔してもしょうがないと思うんだけどなあ。」
「なんですか?」
「私が思うにエリはね、子供みたいに善悪の区別があまり出来てないと思うの。」
「……うぅ。」
「お父さんやお母さんに教えられなかった?」
「教えられたけど解らなかった。」
「そっか、じゃあ私と一緒にゆっくり勉強して、私と一緒に、私のせいでしてしまったことを後悔しよう。」
「過ぎたことを後悔してもしょうがないと思うんだけどなあ。」
怖いし、気持ち悪い。
でも、それでも、自分のしてしまったことについて自分なりに責任を取らなくてはいけない。
それに、それにやっぱり華恋は上田明也という少年の側に居たかった。
篝火に近づいて燃える蝶のように、華恋は上田の手に自らの手を重ね、
篝火に近づいて燃える蝶のように、華恋は自らの手を自らの手を燃やした。
上田の両手を焼き払うために。
でも、それでも、自分のしてしまったことについて自分なりに責任を取らなくてはいけない。
それに、それにやっぱり華恋は上田明也という少年の側に居たかった。
篝火に近づいて燃える蝶のように、華恋は上田の手に自らの手を重ね、
篝火に近づいて燃える蝶のように、華恋は自らの手を自らの手を燃やした。
上田の両手を焼き払うために。
「うわあああああああああああ!?」
やはり彼が後に見せる生存本能はこの時点で既に健在であった。
上田明也は咄嗟に飛び退いて自らの手を守った。
上田明也は咄嗟に飛び退いて自らの手を守った。
「な、何するの!?」
「大丈夫だよ、痛くないように一瞬で済ませて上げるから。」
「そ、そうじゃなくて!何かの冗談だよね!?そうだよね!?」
「ううん、本気だよ。でも大丈夫。
あなたがしっかり善と悪、そして人並みの倫理観を身につけたら元に戻して上げるから。
それまでは私が何から何までしっかり貴方の手の代わりに世話して上げるよ。
それくらい私がお姉さんだからしっかりなんとかしてあげられるさ、本当に何も心配しないで。
そりゃあ私だって女の子だから守って欲しいとか思う時も有るけどね。
それこそ、ここ一年はずっとずっと一人で戦ってきて寂しかったし怖かったけれども大丈夫。
そういうのはエリが大きくなってからで良いんだよ。
エリの為に私がずっとずっと側に居て、
私のせいでエリにさせてしまったことの罪をエリの分まで償っていくから。
だからほら、側に来てよ。痛かったら言ってくれて良いからね。
すぐに治してもういちど痛くないようにやり直すから。
私の力ならばそれくらい本当に簡単なのは知っているでしょう?
貴方が嫌いとか怖いとかそういうんじゃなくて……
いやごめん、そういう気持ちもあったかも知れない。
でも今は違うの、純粋に、貴方のお母さんやお姉さんの代わりに貴方を愛して、
貴方を真人間にするために貴方の手を一時的に使えなくするだけだよ。
ほら、速く手を伸ばしてよ。伸ばしなさいって。
年上の言うことが聞けないの?本当に我が儘なんだから、でもそこも含めて貴方だもんね。
受け入れて、その上でしっかりと愛して上げるから。
ほら、ほら、ほら、ほら、ほら!」
「大丈夫だよ、痛くないように一瞬で済ませて上げるから。」
「そ、そうじゃなくて!何かの冗談だよね!?そうだよね!?」
「ううん、本気だよ。でも大丈夫。
あなたがしっかり善と悪、そして人並みの倫理観を身につけたら元に戻して上げるから。
それまでは私が何から何までしっかり貴方の手の代わりに世話して上げるよ。
それくらい私がお姉さんだからしっかりなんとかしてあげられるさ、本当に何も心配しないで。
そりゃあ私だって女の子だから守って欲しいとか思う時も有るけどね。
それこそ、ここ一年はずっとずっと一人で戦ってきて寂しかったし怖かったけれども大丈夫。
そういうのはエリが大きくなってからで良いんだよ。
エリの為に私がずっとずっと側に居て、
私のせいでエリにさせてしまったことの罪をエリの分まで償っていくから。
だからほら、側に来てよ。痛かったら言ってくれて良いからね。
すぐに治してもういちど痛くないようにやり直すから。
私の力ならばそれくらい本当に簡単なのは知っているでしょう?
貴方が嫌いとか怖いとかそういうんじゃなくて……
いやごめん、そういう気持ちもあったかも知れない。
でも今は違うの、純粋に、貴方のお母さんやお姉さんの代わりに貴方を愛して、
貴方を真人間にするために貴方の手を一時的に使えなくするだけだよ。
ほら、速く手を伸ばしてよ。伸ばしなさいって。
年上の言うことが聞けないの?本当に我が儘なんだから、でもそこも含めて貴方だもんね。
受け入れて、その上でしっかりと愛して上げるから。
ほら、ほら、ほら、ほら、ほら!」
上記の台詞の大体半ばくらいで上田は迷わず逃げ出した。
「あ、待ってよ、なんで逃げるの?」
「――――怖い!」
「私なりに一生懸命考えてみたの、貴方が旅を続けたいって言うならそうしないと。
貴方がお父さんやお母さんからまだ教わりきってないことを私が教えないと……。」
「――――怖い!」
「私なりに一生懸命考えてみたの、貴方が旅を続けたいって言うならそうしないと。
貴方がお父さんやお母さんからまだ教わりきってないことを私が教えないと……。」
只の人間と不死鳥の契約者、移動速度は当然違う。
上田はあっという間に回り込まれてしまった。
上田はあっという間に回り込まれてしまった。
「大丈夫よ、誰よりも暖かく私が愛して上げる。」
「う、嘘だ!」
「前に夢の話をしてくれたよね。
無くした夢の代わりを私があげるから。」
「う、嘘だ!」
「前に夢の話をしてくれたよね。
無くした夢の代わりを私があげるから。」
上田の脳裏に凱空の言葉が蘇る。
人間は最低な生き物であるという言葉。
その最低最悪ぶりを言葉のオブラートに包んでいるだけだという言葉。
口でなんと言っても行動にそれが表れるのだと。
人は人を利用して生きるしかないのだと。
上田が否定しようとしても、凱空の悪意は彼を蝕む。
人間は最低な生き物であるという言葉。
その最低最悪ぶりを言葉のオブラートに包んでいるだけだという言葉。
口でなんと言っても行動にそれが表れるのだと。
人は人を利用して生きるしかないのだと。
上田が否定しようとしても、凱空の悪意は彼を蝕む。
「結局貴方も僕を便利な道具としか思ってないんだ!
晶も!クラスの奴らも!親父も!どうせ僕なんて道具でしかないんだ!
なら僕だって……、“俺”だって全部道具だと思ってやる!
全部便利に“使って”やる、“操って”やる!
俺が思い通りにだけなると思うなよ!
お前らだって道具なんだよ!」
晶も!クラスの奴らも!親父も!どうせ僕なんて道具でしかないんだ!
なら僕だって……、“俺”だって全部道具だと思ってやる!
全部便利に“使って”やる、“操って”やる!
俺が思い通りにだけなると思うなよ!
お前らだって道具なんだよ!」
その悪意から身を守るために、彼は彼の短い人生の中で溜まっていた怒りを爆発させる。
怒って怒って暴れ狂えば一時的にでも恐怖を忘れられる。
怒って怒って暴れ狂えば一時的にでも恐怖を忘れられる。
「人は……人は道具じゃないよ。」
その言葉を聞いて、その態度を見て、華恋は涙を流す。
「人は……希望だよ、貴方だって……。」
「人は道具だよ!結局力がある人間が誰かを犠牲にして、道具にして、自分だけで幸せになるんだ!
今の俺だって結局貴方の道具で!玩具で!愛玩物程度でしかなかった!」
「人は道具だよ!結局力がある人間が誰かを犠牲にして、道具にして、自分だけで幸せになるんだ!
今の俺だって結局貴方の道具で!玩具で!愛玩物程度でしかなかった!」
上田は能力で部屋から溢れるほどの大量の贋作の村正を召喚し、華恋に向けて飛ばす。
ショックを受けていた状態での全方位からの攻撃に、彼女は反応できないまま倒れる。
ショックを受けていた状態での全方位からの攻撃に、彼女は反応できないまま倒れる。
「夢なんて要らないから、何も言わずに側に居てくれれば良かったのに……!」
そう言って上田は後ずさりながらその場を離れようとする。
なんて我が儘な台詞なんだろうか、と彼は自省することもない。
なんて我が儘な台詞なんだろうか、と彼は自省することもない。
「私には、無理なの……?」
ボソリと虫の息の彼女が呟く。
身体に斬られていない場所は無い筈なのに、それでも彼女は上田のことを考えている。
罪の意識もある、こんな人間を野放しにすれば大変なことになると言う意識もある。
でも何より彼女には……
身体に斬られていない場所は無い筈なのに、それでも彼女は上田のことを考えている。
罪の意識もある、こんな人間を野放しにすれば大変なことになると言う意識もある。
でも何より彼女には……
「うわああああああああああああああああああああ!」
彼女の咆哮と共に火柱が上がる。
上田の作り出す偽物の剣を飲み込んで蒸気へと変えていく。
上田の作り出す偽物の剣を飲み込んで蒸気へと変えていく。
「何っ!?」
まだ油断が残る辺り、所詮子供で、所詮素人である。
彼女を倒したと確信していた上田はこの事態に動揺していた。
炎が上田明也の鼻先を掠める。
彼女を倒したと確信していた上田はこの事態に動揺していた。
炎が上田明也の鼻先を掠める。
「誰かを傷つけるだけの力に、意味など無い……!」
華恋の背中から緋色の翼が生えてくる。
「私にはッ――――!」
それを使って彼女は上田の元までいっきに距離を詰める。
「命を賭ける夢がある!」
一緒に逃げてくれと言ったこの少年をまともな人間にする。
その為になら自分はどうなっても、もう構いやしない。
華恋の心の炎は狂ったように、否、本当に狂ったままに燃えていた。
その為になら自分はどうなっても、もう構いやしない。
華恋の心の炎は狂ったように、否、本当に狂ったままに燃えていた。
「貴方が俺に何をできるんだ?」
「貴方を信じ、私を貫く、それだけだよ。」
「貴方を信じ、私を貫く、それだけだよ。」
炎と剣が正面からぶつかった。
「うわあああああああああああああ!」
「そんなに脅えないで……?」
「そんなに脅えないで……?」
偽物の村正が次々溶かされていく。
鋼と炎、ならば鋼が耐えそうな物だがそれは都市伝説の戦いには当てはまらないらしい。
彼と村正は契約しているわけではないのだ。
早い話、現時点での上田明也は力不足ということである。
鋼と炎、ならば鋼が耐えそうな物だがそれは都市伝説の戦いには当てはまらないらしい。
彼と村正は契約しているわけではないのだ。
早い話、現時点での上田明也は力不足ということである。
だがしかし
生存の為に戦う意志がある人間と
そもそも戦うという意識がない人間と
実際に刃を交えたのならばどちらが勝つだろう?
そもそも戦うという意識がない人間と
実際に刃を交えたのならばどちらが勝つだろう?
上田明也の戦闘への比類無きモチベーションはこの年にして既に戦士のそれと同じだった。
力の差など簡単に覆る。
力の差など簡単に覆る。
「え?」
「貰った!」
「貰った!」
華恋の右目に深々と村正が突き立てられる。
そしてそのまま目にも止まらぬスピードで上田は彼女の右腕を切り落とす。
そしてそのまま目にも止まらぬスピードで上田は彼女の右腕を切り落とす。
「だから、なん……で、な、の?」
それだけ呟くと華恋はその場に倒れ伏した。
「もう、誰も信じない……。」
上田明也はそれだけ呟くと部屋を出て行く。
部屋を出るとすぐに階段があって、上田明也はそれをゆっくりと降りていく。
彼の心の中では絶望と怒りだけが渦巻いていた。
だからこそ、悲しみを感じないで済んでいたとも言うのだが。
部屋を出るとすぐに階段があって、上田明也はそれをゆっくりと降りていく。
彼の心の中では絶望と怒りだけが渦巻いていた。
だからこそ、悲しみを感じないで済んでいたとも言うのだが。
「もう、誰も信じられないや……。」
彼は水族館の出入り口の前までたどり着く。
あとはこの扉を潜ればお終い、全てお終いだ。
彼がそう思った時だった。
あとはこの扉を潜ればお終い、全てお終いだ。
彼がそう思った時だった。
『やあ少年。』
突然、水族館の扉を開けて一人の女性が現れる。
漆器のような黒い髪、光を反射しない黒い瞳、不思議と高貴な雰囲気を漂わせた女性だった。
漆器のような黒い髪、光を反射しない黒い瞳、不思議と高貴な雰囲気を漂わせた女性だった。
「―――――――!」
『警戒するなよ、僕は遙かな未来から“君”を助けに来た。』
「だ、誰だよあんた!」
『僕は何度も言ったんだよ?こんなことしてもパラレルワールドが増えるだけだって。』
『でも彼はそれでも良い、自分は今のままで満足していると言ったんだ。』
『だから可能性を一つだけ増やして欲しいとね。』
「組織の黒服か!?悪いが捕まる気は……!」
『さて、それじゃあ見せて上げようか。』
『僕の才能、名付けて“不覚訂正幻理(エブリシング)”』
『警戒するなよ、僕は遙かな未来から“君”を助けに来た。』
「だ、誰だよあんた!」
『僕は何度も言ったんだよ?こんなことしてもパラレルワールドが増えるだけだって。』
『でも彼はそれでも良い、自分は今のままで満足していると言ったんだ。』
『だから可能性を一つだけ増やして欲しいとね。』
「組織の黒服か!?悪いが捕まる気は……!」
『さて、それじゃあ見せて上げようか。』
『僕の才能、名付けて“不覚訂正幻理(エブリシング)”』
そう言って女性が上田の額に手をかざすと、上田明也は気を失った。
“獣の王様 第八話「本当の絶望」 続”
“獣の王様 第八話「本当の絶望」 続”