小ネタその19 暇だしダメ出し仕方なし
中央高校二年生、黒楽守(こくら・まもる)
なにやら色々あって学校でぶっ倒れてしまい、ふと目が覚めるとそこは知らない部屋だった
しかも、汚い
右を見ればコンビニ弁当のパックや即席麺のカップが詰まったゴミ袋の山
左を見ればペットボトルが詰まったゴミの袋の山
前の見れば洗濯物が堆く積み上げられており、一言で表せばそこはゴミ屋敷としか言いようが無かった
辛うじて見える窓の外は薄暗く、部屋の中の様子は至極判り難い
「……何処だ、ここ」
寝かされていたところは布団の上らしい
敷きっ放しの煎餅布団ではあるが、床の上よりは柔らかな感触がある
「あ、起きた?」
ゴミ袋の山の向こうから聞こえた声は、その日で一番インパクトのある存在
数学教師、後樹撫莉のものだった
「先生、ここは?」
「んー? あたしんち」
もさもさとゴミ袋を乗り越えて、布団の上へと転がり込んでくる撫莉
小さな布団の上だけという狭い空間なせいで、必然的に寄り添うような体勢になる
「閉門の時間になっても起きないから、家まで送ってけって先輩に言われたんだけど。住所わかんないから、起きるまでとりあえずって事で」
「よく運べましたね。誰か手伝ってくれたんですか?」
「ん、火間虫さん」
ゴミ袋の隙間から、どう見ても隠れようのない体躯をした髭面禿頭の、入道という名がぴったりな『火間虫入道』が現れる
その非現実的な挙動から、否が応にも思い出される学校での体験
「その火間虫さんとか、首の取れた女の子とか、踊ってる人体模型とか、歩いてる骨格標本とか、色々あったけど一体何なんですか?」
「話せば長くなるんだけど……めんどくさいなぁ、これは」
うむーと唸り布団にぼすりと倒れ込む撫莉
「ぶっちゃけると、あたしもよくわかんない。先輩の方が詳しいだろうから、興味があるなら今度聞きに行ってみたら?」
「それじゃあもう一つ、別に質問良いですか?」
「なにー?」
「このゴミの山はどういった有様ですか」
「朝ギリギリまで寝てるから、ゴミ出し間に合わなくて。夜のうちに出すと近所迷惑だし、そもそも夜は寝てるし」
「原因が判ってるなら少し早起きしたらどうですか?」
「無理ー」
即答である
「まーそのうちなんとかなるわよー」
「なりませんよ……あとこっちの服の山。洗濯物ですよね? 洗濯機とか無いんですか」
「あるけど干すのと取り込むのがねー」
「そのうち、部屋が埋まりますよ」
「んー、そうなる前になんとかしなきゃねー」
もそもそと布団に潜り込もうとしている撫莉の身体が、布団の上に座り込んでいた守の腕にふにょりと押し付けられる
「ともあれ、学校であったような事でなんかあったら、せんせーか先輩のとこにいらっしゃい。今日は帰れる? 身体の調子悪かったら泊まってく?」
「泊まっていったら逆に調子が悪くなりそうです。俺、散らかってるの苦手なんですよ」
やや赤くなった顔を逸らして夜闇に隠し、逃げるように立ち上がり
がさがさと積み上げられたものをかき分けて、ぱちりと蛍光灯のスイッチを入れる
無機質な蒼白い光に照らされて部屋の惨状がはっきりと見て取れると、守は眩暈がしてきた
「……そういえば先生、ここって住所は」
帰り道の事を思い立ち、ふと後ろを振り返ると
そこには既に布団を抱いて眠りこけている撫莉の姿があった
「帰り道判らないし、寝てるところを出て行ったら鍵開けっぱなしになるし……マジで泊まりかこれ」
無防備かつ幸せそうな顔で眠る撫莉を見ながら、守は制服の上着を脱いでゴミの分別に取り掛かる
「せめて一つの布団で寝なくて済むよう、スペースぐらいは確保するか」
布団の周りを囲んでいるゴミ袋を、ゴミ出しがしやすいように種類別に分けながら邪魔にならないよう端へと退けていく
よく見ればパック類もペットボトルもきっちりと洗ってはあり、生ゴミの類が残っている袋は一つも無い
「生ゴミだけは処理をちゃんとしてるのか……まあ残ってたら臭いとか虫とか凄い事になってるだろうけど」
ゴミの仕分けをしながら部屋の間取りを確認し、洗濯機があるであろう浴室の前へと向かう
そこには使っている気配がまるで無い、擦りガラスの扉が開けっ放しになった浴室と、カゴから溢れて浴室の中までなだれ込んだ洗濯物の山
そして、薄っすらと埃を被った、封を切っていない洗濯洗剤や柔軟材、そして洗濯機と乾燥機
「溜めなきゃ問題ないだろ、乾燥機あるなら」
正直、女性の洗濯物に手を出すのはどうかと思った守だが、喉元過ぎればなんとやら
「……やっちゃおう」
そう決心した心は、数分後に下着の山を前にして速攻で折れそうになるのであった
なにやら色々あって学校でぶっ倒れてしまい、ふと目が覚めるとそこは知らない部屋だった
しかも、汚い
右を見ればコンビニ弁当のパックや即席麺のカップが詰まったゴミ袋の山
左を見ればペットボトルが詰まったゴミの袋の山
前の見れば洗濯物が堆く積み上げられており、一言で表せばそこはゴミ屋敷としか言いようが無かった
辛うじて見える窓の外は薄暗く、部屋の中の様子は至極判り難い
「……何処だ、ここ」
寝かされていたところは布団の上らしい
敷きっ放しの煎餅布団ではあるが、床の上よりは柔らかな感触がある
「あ、起きた?」
ゴミ袋の山の向こうから聞こえた声は、その日で一番インパクトのある存在
数学教師、後樹撫莉のものだった
「先生、ここは?」
「んー? あたしんち」
もさもさとゴミ袋を乗り越えて、布団の上へと転がり込んでくる撫莉
小さな布団の上だけという狭い空間なせいで、必然的に寄り添うような体勢になる
「閉門の時間になっても起きないから、家まで送ってけって先輩に言われたんだけど。住所わかんないから、起きるまでとりあえずって事で」
「よく運べましたね。誰か手伝ってくれたんですか?」
「ん、火間虫さん」
ゴミ袋の隙間から、どう見ても隠れようのない体躯をした髭面禿頭の、入道という名がぴったりな『火間虫入道』が現れる
その非現実的な挙動から、否が応にも思い出される学校での体験
「その火間虫さんとか、首の取れた女の子とか、踊ってる人体模型とか、歩いてる骨格標本とか、色々あったけど一体何なんですか?」
「話せば長くなるんだけど……めんどくさいなぁ、これは」
うむーと唸り布団にぼすりと倒れ込む撫莉
「ぶっちゃけると、あたしもよくわかんない。先輩の方が詳しいだろうから、興味があるなら今度聞きに行ってみたら?」
「それじゃあもう一つ、別に質問良いですか?」
「なにー?」
「このゴミの山はどういった有様ですか」
「朝ギリギリまで寝てるから、ゴミ出し間に合わなくて。夜のうちに出すと近所迷惑だし、そもそも夜は寝てるし」
「原因が判ってるなら少し早起きしたらどうですか?」
「無理ー」
即答である
「まーそのうちなんとかなるわよー」
「なりませんよ……あとこっちの服の山。洗濯物ですよね? 洗濯機とか無いんですか」
「あるけど干すのと取り込むのがねー」
「そのうち、部屋が埋まりますよ」
「んー、そうなる前になんとかしなきゃねー」
もそもそと布団に潜り込もうとしている撫莉の身体が、布団の上に座り込んでいた守の腕にふにょりと押し付けられる
「ともあれ、学校であったような事でなんかあったら、せんせーか先輩のとこにいらっしゃい。今日は帰れる? 身体の調子悪かったら泊まってく?」
「泊まっていったら逆に調子が悪くなりそうです。俺、散らかってるの苦手なんですよ」
やや赤くなった顔を逸らして夜闇に隠し、逃げるように立ち上がり
がさがさと積み上げられたものをかき分けて、ぱちりと蛍光灯のスイッチを入れる
無機質な蒼白い光に照らされて部屋の惨状がはっきりと見て取れると、守は眩暈がしてきた
「……そういえば先生、ここって住所は」
帰り道の事を思い立ち、ふと後ろを振り返ると
そこには既に布団を抱いて眠りこけている撫莉の姿があった
「帰り道判らないし、寝てるところを出て行ったら鍵開けっぱなしになるし……マジで泊まりかこれ」
無防備かつ幸せそうな顔で眠る撫莉を見ながら、守は制服の上着を脱いでゴミの分別に取り掛かる
「せめて一つの布団で寝なくて済むよう、スペースぐらいは確保するか」
布団の周りを囲んでいるゴミ袋を、ゴミ出しがしやすいように種類別に分けながら邪魔にならないよう端へと退けていく
よく見ればパック類もペットボトルもきっちりと洗ってはあり、生ゴミの類が残っている袋は一つも無い
「生ゴミだけは処理をちゃんとしてるのか……まあ残ってたら臭いとか虫とか凄い事になってるだろうけど」
ゴミの仕分けをしながら部屋の間取りを確認し、洗濯機があるであろう浴室の前へと向かう
そこには使っている気配がまるで無い、擦りガラスの扉が開けっ放しになった浴室と、カゴから溢れて浴室の中までなだれ込んだ洗濯物の山
そして、薄っすらと埃を被った、封を切っていない洗濯洗剤や柔軟材、そして洗濯機と乾燥機
「溜めなきゃ問題ないだろ、乾燥機あるなら」
正直、女性の洗濯物に手を出すのはどうかと思った守だが、喉元過ぎればなんとやら
「……やっちゃおう」
そう決心した心は、数分後に下着の山を前にして速攻で折れそうになるのであった
―――
「んー、おなかすいたー」
もそもそと布団の中から這い出した撫莉は、いつもと違う部屋の様子に首を傾げる
ゴミはきちんと選別されて部屋の端に追いやられており、洗濯物の山は浴室前へと移動されている
耳慣れない機械音は、洗濯機と乾燥機の稼動音
「誰がやってるの?」
「先生が連れ込んだのは俺だけでしょう」
ひょいと浴室の方を覗き込むと、畳み上げられた洗濯物の向こうで風呂掃除をしている守の姿があった
「何でお掃除してるの?」
「散らかっているのが苦手なんです。勝手にやるのはどうかと思ったんですが、住所とか聞いてないので帰るに帰れなくて時間潰しに」
「どうせまた散らかるのにー」
「一度片付けちゃえば、後は大丈夫ですよ。自炊すればゴミも減りますし」
「あたし、料理できないよ?」
「覚えましょうよ」
「めんどいにゃー」
「ゴミ溜め過ぎると部屋追い出されますよ?」
「ぐぬー」
「そんなにレパートリーは無いですけど、簡単なのなら俺が教えれますから。あとゴミの回収日は早起きして下さい、無理そうならモーニングコールなり直接ゴミ出しなり俺がやります」
「むう……きみはおかーさんみたいだなぁ」
「よく言われます」
洗剤をシャワーで流し、使った様子の無いバスマットの上にぺたりと降りる
「あとジャージやスウェットの類は洗ってますけど下着は自分でやって下さいね」
「えー、そこまでやったならやってくれてもー。かさ的には下着の方が少ないでしょ?」
「先生は年頃の女性という自覚を持って下さい」
「む? なんで?」
「生まれ持った性別に何でも何もないでしょう。勉強教えるだけが先生ってわけじゃないんですから、大人としてしっかりして下さい」
しばらく腕を組んで唸っていた撫莉だが、何か良い事でも思いついたかのように顔を上げてぽんと手を叩く
「きみ、うちにお嫁に来ない?」
「生物学上、社会形成上の性別の概念をまるで無視ですね……世話を焼いてくれるからってだけで好意を持ってたら、そのうち悪い男に騙されますよ?」
「でもさ、きみは悪い子じゃないでしょ?」
「どうしてそう思うんですか」
「なんとなく」
「よく無事で今まで過ごせてましたね」
「よく言われるー」
にへ、とはにかむように微笑み
「大丈夫、人を見る目はあるつもりだよ?」
その微笑に、守の頬が朱に染まる
「……とにかく、今後はちゃんとして下さいね。慣れるまでは手伝いに来ますから」
「ん、やれる範囲で頑張ってみよう」
「そのやれる範囲というのがどれぐらいかが不安ですが、頑張って下さい。さしあたって下着の洗濯からよろしくお願いします」
「ぐぬー」
そんなこんなで洗濯を済ませ
炊飯器が無いので当面は麺料理をという理由から、近所のスーパーで仕入れたパスタで夕食を済ませつつ
「そういえば先生、ここの住所教えて下さい」
「通うのに?」
「当面は家に帰るためです。帰り道が判りませんから」
「道も何も」
撫莉は窓の方をちらりと見て
「暗くて見え難いけど……屋根二つ向こうぐらいに大きい建物見える?」
「ええ」
「あれ、うちの学校」
ぶふ、と守が口に運んだパスタを思い切り吹き出した
「近いですね」
「遠いと途中で寝ちゃうからねー」
つまりは、とりあえず外に出れば帰り道の心配はいらなかったという事で
「……まあいいか」
諦めたようにそう呟いた守の顔は、苦笑混じりながらもどこか少し楽しそうではあったのだった
もそもそと布団の中から這い出した撫莉は、いつもと違う部屋の様子に首を傾げる
ゴミはきちんと選別されて部屋の端に追いやられており、洗濯物の山は浴室前へと移動されている
耳慣れない機械音は、洗濯機と乾燥機の稼動音
「誰がやってるの?」
「先生が連れ込んだのは俺だけでしょう」
ひょいと浴室の方を覗き込むと、畳み上げられた洗濯物の向こうで風呂掃除をしている守の姿があった
「何でお掃除してるの?」
「散らかっているのが苦手なんです。勝手にやるのはどうかと思ったんですが、住所とか聞いてないので帰るに帰れなくて時間潰しに」
「どうせまた散らかるのにー」
「一度片付けちゃえば、後は大丈夫ですよ。自炊すればゴミも減りますし」
「あたし、料理できないよ?」
「覚えましょうよ」
「めんどいにゃー」
「ゴミ溜め過ぎると部屋追い出されますよ?」
「ぐぬー」
「そんなにレパートリーは無いですけど、簡単なのなら俺が教えれますから。あとゴミの回収日は早起きして下さい、無理そうならモーニングコールなり直接ゴミ出しなり俺がやります」
「むう……きみはおかーさんみたいだなぁ」
「よく言われます」
洗剤をシャワーで流し、使った様子の無いバスマットの上にぺたりと降りる
「あとジャージやスウェットの類は洗ってますけど下着は自分でやって下さいね」
「えー、そこまでやったならやってくれてもー。かさ的には下着の方が少ないでしょ?」
「先生は年頃の女性という自覚を持って下さい」
「む? なんで?」
「生まれ持った性別に何でも何もないでしょう。勉強教えるだけが先生ってわけじゃないんですから、大人としてしっかりして下さい」
しばらく腕を組んで唸っていた撫莉だが、何か良い事でも思いついたかのように顔を上げてぽんと手を叩く
「きみ、うちにお嫁に来ない?」
「生物学上、社会形成上の性別の概念をまるで無視ですね……世話を焼いてくれるからってだけで好意を持ってたら、そのうち悪い男に騙されますよ?」
「でもさ、きみは悪い子じゃないでしょ?」
「どうしてそう思うんですか」
「なんとなく」
「よく無事で今まで過ごせてましたね」
「よく言われるー」
にへ、とはにかむように微笑み
「大丈夫、人を見る目はあるつもりだよ?」
その微笑に、守の頬が朱に染まる
「……とにかく、今後はちゃんとして下さいね。慣れるまでは手伝いに来ますから」
「ん、やれる範囲で頑張ってみよう」
「そのやれる範囲というのがどれぐらいかが不安ですが、頑張って下さい。さしあたって下着の洗濯からよろしくお願いします」
「ぐぬー」
そんなこんなで洗濯を済ませ
炊飯器が無いので当面は麺料理をという理由から、近所のスーパーで仕入れたパスタで夕食を済ませつつ
「そういえば先生、ここの住所教えて下さい」
「通うのに?」
「当面は家に帰るためです。帰り道が判りませんから」
「道も何も」
撫莉は窓の方をちらりと見て
「暗くて見え難いけど……屋根二つ向こうぐらいに大きい建物見える?」
「ええ」
「あれ、うちの学校」
ぶふ、と守が口に運んだパスタを思い切り吹き出した
「近いですね」
「遠いと途中で寝ちゃうからねー」
つまりは、とりあえず外に出れば帰り道の心配はいらなかったという事で
「……まあいいか」
諦めたようにそう呟いた守の顔は、苦笑混じりながらもどこか少し楽しそうではあったのだった
―――
ちなみに夕食後、食器を片付けた守が掃除を再開しようとした途端、部屋の電気がふつりと消えた
撫莉の話によると、22時になると『火間虫入道』が消灯してしまうというのだ
「色々困りませんか、仕事や勉強残ってたりした時とか」
「別にー? 火間虫さんが電気消しちゃう頃にはとっくに寝ちゃってるもん」
暗闇の中で、撫莉が首を傾げているのが辛うじて影で判る
「やんなきゃいけない事は早めに済ませて、夜更かしはしないようにっていう教訓のための妖怪だよ、火間虫さんは」
「夜はそれでいいですが、やる事済ませたからって昼間っから寝るのはどうかと思います」
「ぐぬー」
「何度も言いますが、勉強教えるだけが先生の仕事じゃないんですから。大人としてしっかりして下さいね」
「むー、きみの方が先生とか向いてるんじゃないかな」
「会って一日でそう評価されても困りますが。進路の方向性の一つとして参考にはさせていただきます」
「素直でよろしい。それじゃもうそろそろ寝とこうか」
「ちょっと待って下さい。何で先生は俺の腕を掴んでるんですか」
「布団一組しか無いんだもん。大事な生徒を床でごろ寝とかさせたくないし、あたしも寒いのは嫌」
「そういう問題じゃありません。道も判ったし帰れますから」
「こんな時間に学生が一人歩きとかダメです」
「こんな時だけ先生っぽい言い回ししないで下さい」
「先生だもんー」
撫莉は守を布団の上に引っ張りこむと、子供をあやすように頭を撫でる
「良い子はもう寝る時間ですよー」
「……逃げませんから、とりあえず抱き締めないで下さい」
「すぴー」
抱き枕か何かのような扱いをして早々に寝入った撫莉の手は、既に力は緩んでおり逃げるのは簡単そうだったが
なんとなく一人で置いていくのも躊躇われたので、とりあえずは手を解いて身体を離し布団の端っこで横になる
明日の朝はゴミ収集はあるのだろうか
とりあえずそんな事を考えて、すぐ隣で無防備に寝ている女教師の存在を誤魔化すのであったとさ
撫莉の話によると、22時になると『火間虫入道』が消灯してしまうというのだ
「色々困りませんか、仕事や勉強残ってたりした時とか」
「別にー? 火間虫さんが電気消しちゃう頃にはとっくに寝ちゃってるもん」
暗闇の中で、撫莉が首を傾げているのが辛うじて影で判る
「やんなきゃいけない事は早めに済ませて、夜更かしはしないようにっていう教訓のための妖怪だよ、火間虫さんは」
「夜はそれでいいですが、やる事済ませたからって昼間っから寝るのはどうかと思います」
「ぐぬー」
「何度も言いますが、勉強教えるだけが先生の仕事じゃないんですから。大人としてしっかりして下さいね」
「むー、きみの方が先生とか向いてるんじゃないかな」
「会って一日でそう評価されても困りますが。進路の方向性の一つとして参考にはさせていただきます」
「素直でよろしい。それじゃもうそろそろ寝とこうか」
「ちょっと待って下さい。何で先生は俺の腕を掴んでるんですか」
「布団一組しか無いんだもん。大事な生徒を床でごろ寝とかさせたくないし、あたしも寒いのは嫌」
「そういう問題じゃありません。道も判ったし帰れますから」
「こんな時間に学生が一人歩きとかダメです」
「こんな時だけ先生っぽい言い回ししないで下さい」
「先生だもんー」
撫莉は守を布団の上に引っ張りこむと、子供をあやすように頭を撫でる
「良い子はもう寝る時間ですよー」
「……逃げませんから、とりあえず抱き締めないで下さい」
「すぴー」
抱き枕か何かのような扱いをして早々に寝入った撫莉の手は、既に力は緩んでおり逃げるのは簡単そうだったが
なんとなく一人で置いていくのも躊躇われたので、とりあえずは手を解いて身体を離し布団の端っこで横になる
明日の朝はゴミ収集はあるのだろうか
とりあえずそんな事を考えて、すぐ隣で無防備に寝ている女教師の存在を誤魔化すのであったとさ